第8話 元・桃太郎

あれから数日経ったが鬼たちは、襲ってこなかった。


やはり、伝承に載っている真実の桃太郎を待っているのか?それだけ余裕だという事なのかは謎だ。

鬼の存在は、どこの世界でも共通で悪でしかない!自分には、直接何かをされた訳ではないが俺は桃太郎であり敵は鬼。

それであれば退治するのが正解で、この世界のことわりであるのは確かだ。


しかし、今までに鬼が襲ってくるような事がなかったがなぜ急に襲ってきたのか?

魔物すら聞いたことも見たこともなかった。

それにおじいさんが桃太郎なんて、一言も言われていないぞ。


『おじいさん、初代桃太郎って話は本当なの?』

おじいさんは、髪を掻きながら桃太郎に答えた。


『隠しても、しょうがないな。本当にわしが初代桃太郎じゃ』

鬼の幹部であるメフィストフェレスの言う通りに、初代桃太郎であり、であるらしい。

続けておじいさんは

『昔、鬼の本拠地に乗り込んではみたがダメじゃった。』

村人からの応援虚しく、乗り込んではみたものの鬼を退治する事はかなわなかった。

それはなぜかと言うと


初代の桃太郎と呼ばれていたおじいさんは、本当の意味では桃太郎ではなかった。

おじいさんは、村の人を安心させるために自分が桃太郎だと偽り、鬼ヶ島へ向かった。


伝承を信じて


◇◇◇

50年前……


『それでは行ってくる』

おじいさんこと初代桃太郎は、村人を苦しめている鬼達の本拠地を突き止めそこへ向かっていった。


当時は仲間というものがおじいさんには居なかった。

当時の異種族間は、ひと昔前の種族間戦争の傷跡が残っており協力なんてものは、皆無だった。


特にオーガ族には、人間ヒューマンが卑劣な行いによって憎まれていた。その時の憎悪は、世代が変わろうと引き継がれていくだろう。


『桃太郎頑張れよ!応援しているぞ』

『鬼に殺された夫の恨みを晴らしてくれよ!』

『もう鬼に怯える日々は嫌よ』


初代桃太郎の出発に合わせて、村人が声援を送っていった。

あるものは手を合わせ初代桃太郎を拝み、あるものは笑顔で見送った。


『みんな!期待して待っててくれ』

うおーーーーー!


初代桃太郎は、村人からの歓声をBGMのように聞きながら村を後にした。

『それでは、門を開けて貰っていいかい?』

『はい!桃太郎さん頑張ってください!』


『開門!』

大木で出来た門が、門番の号令と共に開いていった。

『わしが出たあとは、一切開門してはならない!わしが開けてくれと言っても開けてはならない!それは、わしが帰ってこない場合も含めてだ!』


『えっ!?それはどういう意味ですか?』

『鬼が村へ入ってくる可能性があるからだ。わかったな』


『あっ、はい……』


初代桃太郎が出たあとは、静かに門が閉まっていった。



『それじゃあ、まずは山を越え海を目指すか!』

『はい、わかりました!』

初代桃太郎は、おばあさんこと寧々ねねと一緒に鬼ヶ島への旅へ向かっていった。


その時はまだ、この旅が苦難の道になるとは思っていなかった。


次回『旅路 その壱』






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実は僕、桃から生まれていません。 にゃおん @TADAZO

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