番外編 レイチェルとエドワード
「ユキ様もマコト様もいなくなってしまいましたね・・・。」
マコト様を見送ってから早数か月。
私たちの周りはだいぶ静かになりました。
ユキ様も以前はちょこちょこと姿を見せてくれていたのですが、勇者たちと一緒に聖女としてレコンティーニ王国に出来たというダンジョンにこもりっきりなので最近はまったくユキ様の姿を見ていません。
ユキ様の元気な姿は励みにもなったのに。
「そうだね。でも、私はいつまでもレイチェルの側にいるからね。」
そう言って、エドワード様は私の肩を抱き、私を引き寄せました。
そうして、米神に優しくキスを落としてきました。
「エドワード様・・・。」
「んーーー!!だあ!!だあ!!」
エドワード様の愛に包まれてうっとりと目を閉じた私に抗議の声が降りかかりました。
何を言っているかわからないけれども、抗議されているということだけはわかります。
必死に手足をバタバタさせて訴えているのは私とエドワード様の子であるアレクサンドリアでした。
「あら、どうしたのアレク。お腹が空いたのかしら?」
私はベビーベッドに寝ていたアレクサンドリアの脇の下に手を入れると抱き上げました。
「きゃーーあ。きゃあ。」
そうすると、アレクサンドリアは泣き声の代わりに歓声をあげます。
どうやら抱き上げられたことがとても嬉しいようで、始終笑顔のままです。
「・・・また、アレクに邪魔をされた。」
そうガックリとエドワード様は肩を落としました。
確かに、最近エドワード様といい雰囲気になるとアレクサンドリアが泣きわめくような気がします。
これは私たちの気を引いているということなのでしょうか。
「アレクは私たちが恋しいんですね。ふふっ。」
アレクサンドリアに必要とされていることが嬉しくて思わず笑みが零れ落ちました。
「いや、たぶんこれは。嫉妬だと思うよ。」
「エドワード様を独占しようとしている私への嫉妬ですか?」
嫉妬という言葉によくわからなくて首を傾げる。
しかしながら、エドワード様は首を横に振って否定をした。
「いいや。レイチェルを独占しようとしている私に嫉妬しているようだよ。その証拠にレイチェルがアレクに意識を傾ければ泣き止むだろう。」
「・・・そうですか?」
「そうなんだよ。ほら、アレクを私に貸してみて。」
「え、ええ。」
私はエドワード様に言われるがままアレクサンドリアをエドワード様に手渡しました。
「・・・ふっ・・・えぇ。ふぇえええええええええ~~~~ん!!!」
すると、アレクサンドリアがエドワード様の腕の中で盛大に泣き出しました。
「ほら、ね。どうも私ではなくてレイチェルのことがいいようだ。」
そう言ってエドワード様は大泣きしているアレクサンドリアを私に渡してきました。
私はアレクサンドリアを大事に受け取り抱きしめてあやす。
「きゃーーーーあ。きゃーーーあ。」
すると、先ほどの大泣きはなんだったんだというくらいに笑顔が戻ってきました。
「・・・あながちエドワード様のおっしゃることも外れてはいないかもしれませんね。」
「外れていないんではなくて、その通りなんだよ。」
エドワード様は苦笑しながらも、やっぱり自分の子は可愛いのか私の腕に抱かれるアレクサンドリアのふわっふわな髪の毛を優しく撫でております。
アレクサンドリアもエドワード様に触れられるのは嫌ではないらしく、上機嫌で髪を撫でてもらっております。
「るぇ・・・い。」
上機嫌でアレクサンドリアが何か言いました。
今まで言葉という言葉を発したことがなかったのでこれが初めてアレクサンドリアが発した言葉です。
「エドワード様っ!アレクが何か話しましたっ!」
「本当だね。なんて言ったんだい?アレク。もう一度言ってみてくれないかい?」
何かを喋ったのはわかったのですが、思いがけない時にしゃべったのでなんて言っているのか理解することができませんでした。
「・・・るぅぇ・・・い。」
「るぅぇい?」
アレクサンドリアはもう一度言葉を発してくれました。
今度はちゃんとに聞き取れました。
ですが、はっきりと喋れるわけではないのでなんと言っているのかわかりません。
私は眉を八の字にしてエドワード様を見上げました。
「はははっ。多分、レイって言ったんだと思うよ。ね、アレク?」
「はぁあああいぃ。」
エドワード様がそう言うとアレクサンドリアが嬉しそうに手を叩きながら返事をしました。
どうやらエドワード様はちゃんとにアレクサンドリアがなんて言っていたか聞き取れたようです。
ちょっとうらやましいです。
母親の私がわからなかったのに、父親であるエドワード様が理解をしてしまうだなんて。
「アレクは君の名を呼んだんだよ。レイチェル。」
「私の名を呼んだの?アレク。」
「はぁあああいぃ。」
ちょっと間の伸びた返事をするアレクサンドリアがとっても可愛いです。
まさか喋れるようになって一番初めに私の名を呼んでくれるだなんて。母親冥利につきます。
ただ、エドワード様はちょっと寂しそうでしたけど。
アレクサンドリアがつかまり立ちを覚えた時は最初にエドワード様が発見しました。
必死に足をプルプルさせながら両手でベッドの柵を持ってそろそろと歩いていた姿はとっても可愛いものでした。
あの時はその可愛い姿を一足先に見たエドワード様に嫉妬したものです。
でも、今回はまず初めに私の名を呼んだので良しとしましょう。
終わり
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