第149話
「恙なく終わりましたね。」
ナーオット殿下が強制退場されてからは特に問題もなく予定されていた式は完了した。
それは、とてもあっけないほどだった。
ほんとうにこれで終わりなのだろうか。
大したことが起こらなくてよかったが、本当にこれで終わりなのだろうかと不安に感じた。
「私は結局何もできなかったな。」
エドワード様が私の手を握りながらそう呟いた。
その声は少しだけ寂し気だった。
「いいえ。エドワード様がいたからこそ上手くいったのです。」
「違うよ。レイチェルが頑張ってくれたから全て上手くいったんだよ。」
そう言ってエドワード様は私の頭を優しく撫でる。
その暖かな体温がとても気持ちが良くて、私は思わず目を細める。
「いいえ。エドワード様がいたからです。エドワード様の隣に並んで立っていたいから、だから、私は頑張れたのです。本当は私、緊張でいっぱいだったんですよ。それにとっても怖かった。でも、怖くても頑張れたのは、勇気が出せたのはエドワード様がいらっしゃったからなんです。」
私が頑張れたのはエドワード様がいてくれたから。
エドワード様の隣に並び立ちたいと思えたから。
エドワード様に相応しい女性になりたいと思ったから。
全てはエドワード様がいたから勇気が出せたのだ。
だから、そう言ってエドワード様にお礼を言えばエドワード様は右手で自分の顔を覆ってしまった。
「・・・まったく君という子は・・・。」
「・・・?なにか私は失態をおかしましたか?それとも、やはり私は、皇太子妃として相応しくありませんか?」
不安になってエドワード様を見上げる。
すると、エドワード様が「はぁ~。」と大きなため息をついた。
「・・・君がとても魅力的で仕方がないってことだよ。もう、レイチェルを手放すことなんてできない。何があっても君と一緒にいるから。」
「・・・エドワード様。」
エドワード様は私の肩を優しく抱きしめると、額にチュッと小さく口づけをした。
そっと、エドワード様の身体にもたれかける私を、優しくエドワード様は抱き寄せる。
愛しい人の体温に包まれた私はとてもとても幸せだった。
「お二人ともとても世話になったね。感謝しているよ。」
次の日、私たちはヤックモーン王国からハズラットーン大帝国に帰国することになった。
ハズラットーン大帝国の国王陛下と一緒に帰国してもよかったのだけれども、本来であれば今ここにエドワード様は来ていないことになっているのだ。
そのため、エドワード様と私たちは一足先に帰国することになった。
もちろん転移の魔法を使ってだけど。
皇帝陛下も転移の魔法を使えばすぐに帰国することができるのだけれども、皇帝陛下にホイホイ転移の魔法を人に知らせるものではないとお叱りを受けてしまったので、皇帝陛下は馬車で帰ることになっている。
「こちらこそ、お世話になりました。元はと言えばナーオット殿下が私に執着をしたから起きたことなので私の責任といっても過言ではないのに、そこには目を瞑っていただいて・・・。」
「いやいや。そんなことはないさ。君がいなくたって、ナーオットは血の力に気づいたらそれを利用して国を・・・世界を操ろうとしただろうね。」
ヤークッモ殿下はそう言ってにこやかに笑った。
そこには、もう以前とは違い作ったような笑みではなく自然な笑みが浮かんでいた。
「でも、まさかヤークッモ殿下がマルガリータさん・・・ええとマルガリータ侯爵令嬢と婚約したのを聞いてとっても驚きました。」
「はははっ。そうだね、ナーオットの様子がおかしいと気づいてからは人目があるところで私たちは会わないようにしていたからね。」
「そうだったんですね。お幸せに。」
「君たちこそ。」
そうして、私たちはヤークッモ殿下と別れて帰国したのだった。
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