第148話

 


 


ヤークッモ殿下がスッと前に出る。


そうして、国王陛下に一礼をした。


「顔をあげよ。ナーオット殿下がいろいろしでかしてくれたが、ヤークッモ殿下を次期王太子とすることは変わりない。今後も国のためにその命を捧げよ。」


「御意。」


深々とヤークッモ殿下は国王陛下に向かって頭を下げた。


よかった。


王太子はヤークッモ殿下のままのようだ。


各国の代表たちも、その様子にホッとしたため息をついているようだ。


それもそうだろう。


自分たちを操ろうとしたナーオット殿下が王太子になってしまったら、とんでもないことが起きる。


それは全員の認識が一致しているところだと思う。


「また、ヤークッモ王太子の婚約者をここで発表する。」


国王陛下がここにいる全員に向かって言い放つ。


ゴクリッと私の喉が鳴る。


私ではないということはわかっているつもりだ。


ナーオット殿下の婚約者にとは言われたが、まさかヤークッモ王太子殿下の婚約者に私がなるはずもないだろう。


だって、国王陛下も私がエドワード様の婚約者だっていうことは知っている。


婚約破棄されてしまったけれども。


それも、エドワード様とのすれ違いの結果だったということもわかったし、再度プロポーズらしきものもされた。


それにナーオット殿下の婚約者にされた件で思い至ったのだ。


やっぱりエドワード様じゃないとダメだって。


だから、私は・・・。私には足りないところが多々あると思うけれどもそれでもエドワード様の隣に並んでいたい。


そう、強く思った。


「ヤークッモ王太子の婚約者はマルガリータ・ビーコッシュ侯爵令嬢だ。マルガリータ嬢、前へ。」


「はい。」


国王陛下の命令に従ってマルガリータさんが前に進み出る。


いつの間にマルガリータさんは着替えをおこなったのだろうか。


それにしても、まさかマルガリータさんがヤークッモ殿下の婚約者だっただなんて。


まったく想像もしなかった。


マルガリータさんはヤークッモ殿下の隣に立つと、ヤークッモ殿下に優しく微笑みかけた。ヤークッモ殿下もその笑みを受け取り優しく微笑み返した。


そこには、今までのような嘘くさい微笑みは浮かんでおらず、ただただ自然な微笑みだけがヤークッモ殿下の顔を彩っていた。


どうやらこの婚約は政略ではなさそうだ。


しかし、マルガリータさんはとってもしっかりした女性で、どこか良いところの出だとは思っていたが、まさかヤークッモ殿下と婚約できるような身分の持ち主だとは思ってもいなかった。


侯爵令嬢だったなんて。私、マルガリータさんにいろいろお願いとかしてしまった。


失礼に値しなければいいけれども。


ヤークッモ殿下とマルガリータさんは並び立つと、国王陛下に向かって最敬礼をおこなった。


それから、二人は手を取り合ってバルコニーに出る。


バルコニーの外にはお城である重大イベントを見ようとやってきた国民でいっぱいだった。


最初はナーオット殿下の言動に不安を浮かべていた国民たちだったが、ヤークッモ殿下とマルガリータさんが婚約したというとてもおめでたい話を聞いて、彼らの顔からは不安気な表情が吹き飛んだようだ。


また、国民をも操ろうとしていたナーオット殿下が捕まったということも大きいだろう。


先ほどまで不安いっぱいだった国民たちの笑顔を見て、私もホッとした気分で二人を見つめた。


「また、今回の功労者であるレイチェル嬢を紹介しよう。今回、ハズラットーン大帝国のエドワード皇太子とその婚約者であるレイチェル公爵令嬢にはたくさんの協力を得た。特にレイチェル嬢においては、彼女がいなかったら我が国はナーオットに乗っ取られていただろう。彼女はそれを防いでくれたのだ。」


「えっ・・・。」


突然、国王陛下が私の名を呼んだので驚いて思わず声が出てしまった。


まさか、ここで国王陛下に感謝の意を表明されるとは思っていなかったのだ。


「エドワード皇太子殿下、ならびにレイチェル嬢。どうかこちらへ。」


「はい。」


「はい。」


エドワード様がいつの間にか私の隣に来ていた。


さっきまでこの広間にいなかったのにいつの間に来たのだろうか。


私はエドワード様と足並みを揃えると国王陛下の元に向かう。


「この度は我が国を救ってくださりありがとうございます。我が国はこの御恩を忘れずこれから先もハズラットーン大帝国の属国として良く務めてまいります。困ったことがあれば、いつでも助けになりますゆえ、いつでも相談してください。」


「ありがとうございます。」


国王陛下からの感謝の言葉に私とエドワード様は深々とお辞儀をする。


まさか、こんなに大勢の方が見ているところでお礼を言われるだなんて思ってもみなかった。


思わず緊張で身体が震えてしまう。


震えているのがエドワード様に伝わったのか、エドワード様が私を安心させるかのように私の腰を抱いた。


「私からも礼を言う。私もいつの間にかナーオット殿下に操られておった。エドワード皇太子、レイチェル嬢。誠に感謝している。エドワード皇太子、とても良い婚約者を持ったな。レイチェル嬢、どうかこれからも我が愚息を導いてくれたまえ。エドワード皇太子、どうかレイチェル嬢に愛想をつかされることがないようにな。これほどの女性は他にはおらぬ。大切にしなさい。」


それまで黙っていたハズラットーン大帝国の皇帝陛下が立ち上がり私たちに言葉をかけてきた。


やはり今までエドワード様を追いやっていたのはナーオット殿下に操られていたからのようだ。


まさか、皇帝陛下から直々に感謝の意を示されるだなんて思っても見なくて、思わず目から熱い涙が零れ落ちた。


「ありがとうございます。生涯レイチェル嬢を大切にすると誓います。」


「・・・ありがとうございます。私は生涯エドワード様に仕えることを誓います。」


「うむ。」


私たちがそう答えた瞬間に「わぁあああああああああーーーー!!!」という歓声が辺りに響き渡った。


 


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