第138話

 


 


「レイチェル様・・・。」


マルガリータさんに紅茶を淹れてもらい一息ついていると、マルゲリータさんがスッとそばにやってきた。


「どうしたのかしら?」


私は、ティーカップをソーサーに戻し、テーブルの上に置くとマルゲリータさんに視線を移した。


マルゲリータさんは私に一礼すると、


「国王陛下がレイチェル様をヤークッモ殿下に紹介したいとおっしゃっております。」


「まあ。ヤークッモ殿下にお会いすることができるんですね。ナーオット殿下も同席されますか?」


「はい。ナーオット殿下の婚約者としてレイチェル様をヤークッモ殿下を紹介することになりますので、ナーオット殿下は同席させるとのことでした。」


マルゲリータさんはそう言って顔をしかめる。


本来であれば、ナーオット殿下がいない方が都合がいい。


だが、それでは不自然だということは確かだ。


今、私は不本意ながらナーオット殿下の婚約者ということになっているのだから。


「わかりました。ヤークッモ殿下へのご挨拶はいつ頃の予定かしら?」


「本日、15時からの予定でございます。」


「そう、わかったわ。あまり時間がないわね。すぐ用意をするわ。」


時間を確認するともう二時間もない。


このドレスのまま国王陛下とヤークッモ殿下に挨拶というのも失礼に当たるだろう。


「お手伝いいたします。国王陛下とヤークッモ殿下にお会いするのであれば正式なドレスがよろしいでしょう。」


マルゲリータさんもそう言って同意している。


ただ、ナーオット殿下によってここに婚約者として無理やり収められており、ドレスなど持ってきてはいない。


かと言って今からドレスを仕立てるわけにはいかないし。


「ドレスはすでに用意されております。急なことですので王妃様が若い頃来ていたドレスのおさがりとなりますが、寸法を少し直せばすぐにでも着られるでしょう。」


「そう。よろしくお願いね。」


「かしこまりました。」


そう言ってマルゲリータさんは一礼して下がっていった。


しばらくして、マルゲリータさんが一着のドレスを持ってやってきた。


どうやら、王妃様からドレスを借りてきたようだ。


「王妃様がもう着ることもないそうですので、こちらのドレスをレイチェル様にとのことでした。」


「そう。王妃様にはお礼をしなければなりませんね。」


「ヤークッモ殿下のご病気が治ることこそが王妃様の一番の願いでございます。」


「まあ、責任重大だわ。」


マルゲリータさんのこの口調からすると、王妃様もヤークッモ殿下がナーオット殿下に操られているということは知っているらしい。


そう言えば、王妃様は操られていないのだろうか。


「そう言えば王妃様にお会いしたことがないわ。ご健勝なのかしら?」


「・・・ヤークッモ殿下がご病気になられてから臥せっておいでです。」


「・・・そう。それはお気の毒に。ヤークッモ殿下のご病気が早くよくなるといいわね。」


王妃様は現状に嘆いているのだろう。


現在は表舞台にはあまり立っていないようだ。


もしかすると、ナーオット殿下に操られてしまうことを恐れて表舞台に立たないだけかもしれないが。でも、この様子からすると王妃様はまだナーオット殿下の血を飲んではいないようだ。


「すぐにご支度なさいますか?」


「ええ。お願い。約束の時間に遅れてしまってはいけないから。」


「かしこまりました。マルガリータ、手伝ってくれますか?」


マルゲリータさんはそう言って、マルガリータさんを呼び寄せた。


それから私はマルゲリータさんとマルガリータさんの手によって、国王陛下の前に出てもはずかしくないようにと服装と髪型を急ピッチで整えられたのだった。


「お綺麗でございます。レイチェル様。」


「とてもお似合いでございます。」


「まあ、ありがとう。貴方たちの腕がいいからよ。」


マルゲリータさんとマルガリータさんの手によって私の姿は綺麗に整えられた。


この姿ならば国王陛下に謁見したとしても問題はないだろう。


王妃様のおさがりのドレスもマルゲリータさんの手によっておさがりだとは思えないほど、私にピッタリのドレスになっていた。どんな着付けをしたらこうなるのだろうか。


「では、国王陛下の元にご案内いたします。」


「ええ。お願いね。」


まだ時間には少し早いが多少早めに伺うくらいが良いだろう。


目下の者が先に行って待つのがこの世界では当たり前とされているのだから。


案内された部屋には案の定まだ誰も来ていなかった。


「こちらにお座りください。」


マルガリータさんがそっと一番末席の椅子に座るように促してきた。


私はそれに頷いて椅子に腰かけた。


「おや。もう来てたんだね、レイチェル。」


すると、いくらも経たないうちにナーオット殿下が部屋に入ってきた。


「お久しぶりでございます。お加減はいかがですか?」


「君たちが傷つけてくれた私の身体は王宮の治癒術師のおかげで傷一つなく治ったよ。まったく、君たちに私がいいようにされるだなんて許せないよ。」


「そうですか。ご無事でなによりですわ。」


「ははは。レイも強くなったね。でも、その強がりもいつまで続くかな?もうすぐこの王宮は私のものになるんだ。この国も私のものになる。それに、ハズラットーン大帝国の皇太子であるエドワードも私の手の内にある。これを機にハズラットーン大帝国も私のものになるんだよ。」


そう言ってナーオット殿下は心底楽しそうに笑い出した。


もしかして、ハズラットーン大帝国の皇帝陛下もナーオット殿下の血を飲んでしまったのだろうか。


そうであれば、急にエドワード様がヤックモーン王国に皇帝陛下の命で来ていたことも頷ける。


「まさか、皇帝陛下にもあなたの血を飲ませたのですかっ!!?」


 


 


 


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