第136話

 


「その開発中の乙女ゲームで、隣国の王子が人を操っているというような設定ってでてきませんか?」


もし、この世界がマコト様が開発していたというゲームのシナリオと酷似しているのであれば、そこに解決の糸口があるはず。


現状、国王陛下も操られている本来のヤークッモ王太子殿下を元に戻したいはず。


きっと、ヤークッモ王太子殿下をナーオット殿下に人質に取られている状態なのだろう。


「うぅ~ん。・・・ああ。操っているのが王子だったというのはわかりませんが。隣国の王太子が病で臥せっているという描写はありましたね。確か、彼は攻略対象の一人だったはずです。」


「そうすると、その病というのがナーオット殿下に操られていることかもしれませんね。具体的な描写はあったんですか?」


「開発段階なのでそこまではシナリオも詰め切れていませんでした。ただ、主人公は隣国の王太子の病を治すことで隣国の王太子ルートに入ったはずです。」


マコト様はそう断言する。


マコト様から聞いたシナリオ通りだとするならば、乙女ゲームの主人公はライラになるはず。


そうして、ライラが私と同化してしまった今は、きっと私が主人公になるはずだ。


「そっか!王太子が操られている状態を解除するためには、レイチェルの力が必要ってことね。」


ユキ様がポンと手を打つ。


私はそれに頷いた。


「きっとそうだわ。・・・でも、ライラの力である転移の力は多分効果がないと思うわ。そうなると治癒の力が関係してくると思うの。だから、私はナーオット殿下の血を飲んでも操られなかった。そう考えると辻褄が合うわ。」


「シーズン2のヒロインは確かに治癒の力を持っていましたね。もしかすると、そうかもしれません。」


マコト様も私の考えに同意してくれた。


「さっそくヤークッモ王太子殿下にお会いして試してみます。」


「レイチェル!待ってくれないか。君は、ヤークッモ王太子殿下に心変わりしないよね?私はそれが心配だよ。」


エドワード様はそう言って私を引き留めた。


私はエドワード様の顔を覗き込む。


エドワード様はいたずらが成功した子供のようにニコッと笑った。


「大丈夫ですわ。エドワード様。私は、一途なんですの。」


だから、私もエドワード様と同じようににっこりと作った笑顔を浮かべた。


「ぷっ・・・。」


「ふふっ・・・。」


そうして、同時に笑い出すエドワード様と私。


大丈夫。


私たちはまだ冗談を言えるだけの余裕がある。


「じゃあ、行くわね。状況が好転すればここから出られるのでしょう?それとも、今すぐ出たい?」


「いや。ここで待っているよ。無理やりでたとて、国王陛下の邪魔になってしまう可能性もあるからね。健闘を祈っているよ。レイチェル、くれぐれも気をつけてね。」


そう言ってエドワード様は私を送り出してくれた。


マコト様とユキ様も心配そうに私を送り出してくれる。


私は、マルガリータさんと一緒に地下室を後にする。


長居をしてしまえば、ナーオット殿下に見つかる可能性が高くなるからだ。


「ここに連れてきてくれてありがとう。」


「いいえ。国王陛下のご指示ですから。」


マルガリータさんにお礼を言うと、そう返事が返ってきた。


「ヤークッモ王太子殿下にお会いすることはできるかしら?」


「・・・それは、難しいかと。ヤークッモ王太子殿下と国王陛下の側には数人ナーオット殿下の手の者がおります。彼らを出し抜くのは難しいかと思います。」


「そう。でも、ヤークッモ王太子殿下に会って、ナーオット殿下の呪縛から解き放たなければ・・・。国王陛下のお心も心配だわ。」


「・・・国王陛下の側にいるものは元々は国王陛下に忠誠を誓っている者たちばかりです。ただ、飲み物にナーオット殿下の血が混ざっているだなんて誰もわからなかった。いえ、ナーオット殿下の血にそんな力があるだなんて、誰も知らなかったのです。だから、一番最初に国王陛下の側近がナーオット殿下の血を飲んでしまいました。」


「・・・。」


マルガリータさんは唐突に国王陛下の側近について話し始めた。


誰だって飲み物にまさか血が混ざっているとは思わないだろう。


しかも、その血のお陰で操られてしまうだなんて思ってもみないだろう。


「彼らは国王陛下に忠誠を誓っていて忠実に仕事をされている方々ばかりです。」


「国王陛下は部下に恵まれていたんですね。」


「ええ。ですから、まずは国王陛下の側にいる者たちをナーオット殿下の血から救ってはいただけないでしょうか。」


マルガリータさんは回りくどい説明をしながら、やっと本題を告げた。


そうか。


そういうことね。


「わかったわ。マルガリータさんの言いたいことはわかりました。まずは味方を増やしましょうということですね。それには、無理やりナーオット殿下に従わされている国王陛下の側にいる者たちからが良いということですね。」


「ええ。そういうことです。」


マルガリータさんはそう言ってにっこりと笑った。


確かにその案には賛成できる。


それに、ナーオット殿下に安心していてもらうためにも、その側近の方々にはナーオット殿下から解放されたとしても、ナーオット殿下の指示で動いているように演技をしてもらおう。


少しずつ協力してくれる人を増やさなければ。


「では、私をその方々のところに案内してくださいますか?」


 


 


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