第126話

 


「レイチェル様。どうして、お一人で敵地に行ったんですか?」


マコト様が目を吊り上げて確認してくる。


「後で説明いたします。それよりも早くライラの元に転移しなければっ・・・。ライラが・・・ライラが死んでしまいますっ!!」


ライラの命が失われるのが怖くて身体が震えてきてしまう。


思わず声を荒げればマコト様が吊り上がっていた目をまん丸に見開いた。


「・・・ライラさんは、死ぬほどの怪我を負っているのですか?」


マコトさんがポツリと呟いた。


「ええ・・・。ナーオット殿下にナイフで心臓を刺されたわ。そのうえ、ナイフを思いっきり引き抜かれたのよ・・・。」


「ひっ!!」


「なっ!!」


ライラの身体がナイフで刺された時の状況をマコト様とユキ様に伝えると、二人とも絶句して固まってしまった。


「致命傷じゃないのっ!!?」


「即死かもしれない・・・。だけど・・・。」


いち早く立ち直ったのはユキ様だった。


そのあとすぐマコト様が立ち直った。


けれども状況は変わらないわけで、ライラが危ないというのは覆すことのできない事実だ。


「行くわよ!」


「しかし・・・。でも、ライラさんが・・・。」


「マコト!!しっかりしなさいっ!!」


ユキ様はライラを助けに行くと立ち上がってくれた。


でも、マコト様はどこか煮え切らないようだ。


たぶん、葛藤しているのだろう。


ライラさんのことを助けたいとも思っているが、きっと私を危険な目に合わせられないと思っているのだろう。


「私でしたら大丈夫です。お願いです。どうか、ライラを助けるために力を貸してください。」


「でも・・・エドワード様に知れたら・・・。」


「マコト様はエドワード様に生きていてほしいんですよね?」


「はい。もちろんです。」


「では、私を連れて行ってください。」


「どうしてそうなるのですか?」


「後で説明いたします。このままここにいてはエドワード様のお命が、それにこの帝国も危なくなります。」


ナーオット殿下は私を手元に置くために、ハズラットーン大帝国に、いやエドワード様に喧嘩を売られたのだ。


足で纏いなのは私。


それに、ライラも助けに行かなければならない。


それ即ち行動あるのみ。


「・・・。ですが、レイチェル様が危なくなったらレイチェル様だけでもお守りいたします。」


エドワード様に忠実なマコト様は私のことが切り捨てられないらしい。


いっそのこと切り捨ててくれればいいのに。


マコト様の想い人のライラを瀕死の状態に追いやってしまった私を切り捨ててくれればいいのに。


マコト様・・・とても優しい人。


ライラがマコト様に惹かれた理由がわかる。


「早く行きましょう。場所は私もわかっているわ。レイチェルと最後に別れた場所でしょう?」


「はい。」


「わかりました。シロ、クロ、ユキの指示に従って転移してください。」


「にゃぁああん。」


「にゃあ。」


シロとクロが返事をして、淡い光を放ちだす。


私たちもその光と一体化し、気づけばナーオット殿下に刺された家の中にいた。


人の気配はないので、どうやらナーオット殿下はいないようだ。


あれからどのくらい時が経ってしまっているのだろうか。


ライラは無事なのだろうか。


焦る気持ちを抑えて、ナーオット殿下に刺された部屋のドアをマコト様が慎重に開けた。


「ライラさんっ!!」


マコト様が開きかけたドアの隙間からライラが見えたのか、勢いよくドアを開け放ちライラの元に駆け寄る。


「ライラっ!」


「ライラ・・・。」


それに続く私とユキ様。


ライラは、刺された時と同じ場所で倒れていた。


ライラから流れ出た大量の血の海の中で。


 


 


 


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