第125話

 


「いやぁああああああああーーーーーーっ!!!」


「・・・っ!レイチェルっ!!」


身体をナイフで切り裂かれる恐怖と痛みで悲鳴を上げた私を驚きながらもユキ様がしっかりと支えてくれた。


・・・え?


「・・・ユキ様?あれ・・・ナーオット殿下は?」


どうして、ユキ様がここに?


ユキ様を転移の魔法を使ってユキ様の家に転移させたはずなのに、どうしてユキ様がいるの?


それに、私はナーオット殿下に心臓を一突きされたはずなのに、なぜ私は生きているの?


まさか、ユキ様の治癒の魔法?


「・・・何があったの?レイチェル?ライラは元の身体に戻ったの?」


「元の・・・身体?」


「鏡を見てちょうだい。」


ユキ様が言っていることがなんだかよくわからない。


私は言われるがまま、ユキ様が差し出してきた手鏡を受け取る。


そうして、鏡を覗き込む。


そこには数日ぶりに見た私の顔があった。


そう、ライラの顔ではなく私・・・レイチェルの顔だ。


どういうことだろうか。


ついさっきまでライラの身体の中に入っていたのに。


「・・・っ!!ライラっ!!ライラはっ!?」


「ここには、いないわ。レイチェルの意識が急に戻っただけよ。何があったの?」


心臓まで到達したナイフによる刺し傷。


視界を真っ赤に染め上げていった大量の血。


きっとライラは生きていたとしても自力では動けないだろう。


転移の魔法ですら使えるか怪しい状態だ。


すぐにライラの元に転移して、ライラを治療しなければっ!!


そう思うが、転移しようとして転移できないことに気づく。


「・・・転移できない。ライラの身体じゃないから・・・?早く戻らなきゃ。ライラが死んじゃう・・・。」


「なにがあったの!レイチェルっ!!」


動揺から取り乱している私の肩をユキ様がグッと力を込めて掴んだ。


のっそりと視線を上げユキ様を見上げる。


ユキ様の眼には薄っすらと涙が溜まっていた。


「・・・刺されたの。ナーオット殿下に。バレたのよ。ライラがナーオット殿下の雇った暗殺者だってことに。そうして、裏切り者だということがバレてしまったのよ・・・。」


「なっ・・・!?」


行かなければよかった、ヤックモーン王国になんて。


そうすればライラの命を散らすこともなかったのに。


ただ、エドワード様の力になりたいからと言ってライラの身体のままヤックモーン王国に行くのではなかった。


ちゃんとに、自分の身体に戻ってから行動すべきだった。


後悔先に立たずとは良く言うが、取り返しのつかないことをライラにしてしまった。


「ライラのところに行かなくっちゃ・・・。ライラの傷を治さなくっちゃ・・・。」


「レイチェル落ち着いて。どうやってライラの元まで行くというのよ?転移の魔法はライラじゃないと使えないんでしょ?歩いていったら何日もかかるわ。」


ユキ様の冷静な声に次第に焦る気持ちが凪いでくる。


ここで焦って動いても何もよくならない。


でも、いち早く動かなければライラの命が危ない。


「マコト様・・・。マコト様にお願いできないかしら。クロとシロを貸してもらいたいの。」


「わかっているわ。それが一番よね。でも、マコトがレイチェルを連れて行ってくれるかはわからないわ。それに、私たちが勝手に動いたことに対してうるさいお小言が待っているわよ。」


「お小言なんてどうでもいいの。それより、ライラを助けなければ・・・。」


クロとシロの力が借りれればライラの元まで転移できる。


ライラの元まで転移できれば治癒の魔法が使える。


ただ、ナーオット殿下のナイフは確実にライラの心臓に突き刺さっていた。


もしかしたら、助からないかもしれない。


でも、私が動かなければ確実にライラは生きられないだろう。


それほどの致命傷だったのだ。


「すぐにマコトに連絡するわ。ちょっと待っていて。」


そう言ってユキ様はマコト様に念話をし始めたようだ。


時折緊迫したようなユキ様の声が聞こえてくる。


祈るような気持ちでユキ様を見つめる。


ライラの身体から離れる前にナーオット殿下が言っていた言葉が引っ掛かるが、それを気にしていたらライラは助けられない。


ギュッと目を瞑ってライラに念を送る。


だけれども、返答はなかった。


「マコトが来てくれるって!」


「そう。よかった。」


ユキ様とマコト様の間でのやり取りが終わったようだ。


ユキ様が緊張した顔で、私にマコト様がこちらに来てくれるということを教えてくれた。


よかった。


これで、ライラを助けられる。


ホッと胸を撫で下ろした瞬間に、目の前にマコト様が現れた。


「・・・ライラが怪我をしたって?しかも、敵であるナーオット殿下の元にいると・・・?」


現れたマコト様はいつものにこやかな雰囲気とは違って、刺々しい雰囲気を纏っていた。


 


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る