第113話

 


案の定、地下室は警備がされていなかった。


地下自体初めてきたが、部屋数は3部屋しかなかった。


「一番奥の部屋ということだから・・・。」


「ああ、突き当りの部屋ね。行くわよ。」


ライラの転移魔法にはいくつか欠点があるようで、一緒にいる誰かが一度行ったことがある場所でないと転移できないようなのだ。なので、この場合、私かライラかユキ様が一度行った場所でないと転移することができない。


私とユキ様はこっそりと地下への階段をおりて部屋を確認する。


「人の気配はないわね。たぶん。」


ユキ様が先陣を切って先に歩いていく。


目的の部屋までは直線にして10mもなかった。


「ここね。」


ユキ様は部屋のドアノブに手をかけて力をこめる。


「あ、あれ?開かないわ。鍵がかかっているみたい。」


「えっ!」


まさか鍵がかかっていただなんて想像していなかった。


でも、よく考えれば家宝を鍵もかかっていないところにしまっておくはずもないということに気づく。


「鍵・・・お父様の書斎かしら?」


「困ったわね。」


『私、このくらいの鍵なら開けられるわ。』


ライラが直接頭の中に語り掛けてくる。


曰く、暗殺者として生きてきたから鍵開けなんて朝飯前とのことだった。


ライラの意識が一瞬現れて器用に部屋の鍵を開ける。


『開いたわよ。この鍵、とっても開けやすいわ。もっと頑丈な鍵にしないと誰でも開けられちゃうわよ?』


「あ、ありがとう。ライラ。」


「ライラってばすごいわね。」


ちゃちゃっと鍵を開けてしまったライラに苦笑を感じずにはいられない。


鍵って開けられる人にとってはあってもないものなのね。


「・・・どこかしら?」


「どんな容器に入っているかわかるの?」


「確か、15㎝四方の木の箱に化粧水が3本、入っていたような気がするの。一度だけお父様に見せていただいたのよ。」


「木の箱の色は覚えている?」


「たしか、綺麗な飴色の箱だったわ。華美な装飾はなくて箱の表面に薔薇の意匠が彫られていたわ。化粧水自体は透明な入れ物に入っていたの。」


初めて家宝の化粧水を見せていただいたのは、まだお母様が生きている時だった。


その時はお父様も私を可愛がってくださっていた。


今となっては私は皇太子の婚約者として大切にはしてくださっているが、お義母様がいらしてからは腫れ物に触るような扱いだった。


ふと、当時のことを思い出してしまい、思わず涙が出てきそうになるのをグッとこらえる。


ユキ様は化粧水を探すのに一生懸命で、こちらを見ていなかったので私が泣きそうになっていたことには気づいていないようだ。


『家族がいても良いことばかりじゃないのね・・・。』


ライラは意識を共有しているからか、私の思いが筒抜けらしい。過去の記憶も見れるのだろう。


ポツリと寂しそうに呟いていたのが聞こえてきた。


「あっ!これじゃないかしら!!」


「え?ありましたの?」


感傷に浸っていると、ユキ様が先ほど説明したような15㎝四方の箱を手に持っていた。


何年間も放置されていたからか薄っすらと箱に埃が積もっている。


「記憶にある箱だわ。」


「よしっ!早速開けてみましょう!」


ユキ様は木でできた箱をゆっくりと開いた。


箱には鍵がかかっていないため、すんなりと開く。


中には3本の化粧水が入っていた。


「そこにいるのは誰だっ!!」


化粧水を手にして安堵していたら部屋の外から男の人の声が聞こえてきた。


 


 


 


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