第112話

 


 


「レイチェル。シロもクロもいないのにどうやって家に帰るつもりなの?」


「ライラは転移の魔法を使えるわ。と言っても覚醒したばかりだからライラは上手く使いこなせていないわ。でも、私なら魔力の扱いになれているからすぐに使いこなせると思うの。」


ユキ様が心配をしてくれる。


それがとても心地いい。


今までも心配してくれる人はいたけれども、皇太子妃としての私として心配しているような人ばかりだった。


だから、私自身を心配してくれるユキ様がいることがとても心強く、私に勇気をくれるようだ。


「そっか。ライラは転移魔法が使用できるのね。私もついていきたいけれど、私がここから離れてしまうとレイチェルの身体を見ていられる人がいなくなってしまうんだよねぇ。マコトだってエドワードの命に従ってるからこっちにはずっといられないだろうし・・・。」


「ユキ様、大丈夫ですわ。私にはライラ様がいますもの。」


「そう・・・?でもやっぱり心配だわ。」


一人では確かに心細い。


今までにしたことが無いような行動だし。


誰かについていてもらえればその方が安心できる。


でも、私にはライラがついている。


それに、この身体はライラのもの。


傷をつけないように気をつけなくっちゃ。


「そうだわ。エドワードに護衛に誰かつけてもらえないか直談判してみるわ!」


「えっ!だ、ダメですっ!!エドワード様には隣国に行くことを知られたくないのです。」


「私が一緒に行ければいいんだけど・・・。マコトに相談すればすぐにエドワードにも情報が筒抜けそうだし・・・。クロとシロはマコトが連れていっちゃったしなぁ・・・。」


ユキ様は思案顔で告げる。


下手な人と一緒に行動すれば、私がレイチェルだということもバレてしまうだろうし、ライラが元暗殺者だということもネックに成りえるかもしれない。


「あっ!そうだ!胡散臭いけど、レイチェルには女神様がついているわ。女神様はレイチェルを皇太子妃にはしたくないと言っていたけど、レイチェルの身体は彼女が守ってくれるという保証があるわね。女神様はレイチェルの味方だって言っていたし。女神様を信頼するのであればレイチェルの身体はこのままここに置いておいても大丈夫ね。それなら私がレイチェルに一緒について行っても問題ないわ。レイチェルは転移の魔法も使えるし。毎日ここに帰ってくればいいのよ。そうよ!それがいいわ!そうしましょう!!」


ポムッとユキ様は手を合わせて頬を上気させる。


まるで名案でしょ?と言っているようにも見えた。


ユキ様がここを離れられないのは私の身体があるから。


でも、私の身体は女神様の加護によって守られている。


それならば一緒に行っても問題ないということかしら。


「でも、ユキ様。私と一緒に来るということは危険が付きまといます。」


「大丈夫よ!これでも私は異世界からの迷い人だもの!強い加護があるのよ!」


胸を張ってユキ様が言った。


にっこりと笑いながら告げるユキ様はとても頼もしく見える。


「では、一緒に行きましょう。」


「ええ!一緒に行きましょう!まずは、レイチェルの家ね!!ふふっ。ワクワクするわね!」


頬を上気させながらキラキラとした目で告げるユキ様に少しだけ不安を覚える。


危険だって本当にわかっているのかしら、と。


それでも一緒に来てくれるのであれば心強い。もし、ユキ様が危険な状態にさらされたのならば、ユキ様だけでも転移の魔法で安全な場所に飛ばせばいいか、という軽い気持ちで私も頷いた。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


ユキ様と一緒に転移してきた私の部屋は私が出て行った時のままではなかった。


私が皇太子宮に行った後に私の部屋にあったものは全て変えられていた。


今まではシンプルな家具と落ち着いたクリーム色で整えられていた部屋がその面影もないくらい変わっていた。


絨毯は真っ赤になっているし、部屋の中も赤や金色の装飾が施されている。


家具も金を使った豪華な物に変えられている。


「まあ。レイチェルの部屋って随分悪趣味なのね・・・。レイチェルの趣味?」


「いいえ。私がいたころとは随分趣が変わっています。」


「そうよね。レイチェルがこんな部屋にいるだなんて想像できないわ。成金趣味の部屋ね。」


ユキ様はずけずけと思ったとおりのことを言うのでとても気持ちがいいです。


でも、こんな部屋になっているということはこの部屋は誰かに割り当てられたのでしょう。


考えられるのは私と同い年の義妹でしょうか。


父は義母や義妹の方を可愛がっていましたが、私が皇太子の婚約者に選ばれたということで体裁を整えるために義妹より私に日当たりの良い部屋を割り当てていました。


それが、私が皇太子宮に引っ越したことですぐにでも義妹用に模様替えをしたのでしょう。


「それよりも早く家宝の化粧水を探してしまいましょう。私がここにいることが見つかるのはあまりよくありませんので。見つからないうちに帰りましょう。」


「それもそうね。それで、どこにあるのかしら?」


「以前、父に聞いたときは地下の一番奥にある部屋にあると言っていました。家宝と言っても一回使ってしまえばなくなってしまうものですので、利用することもできず父は化粧水を持て余しておりました。ゆえに厳重な警備もしていないはずです。」


 


 


 


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