第111話

「レイチェルも決めるとなると早いね。」


ユキ様が少し呆れたように呟いた。


私もそう思う。


ライラの意識と同化しているからだろうか、少しだけ私の意識が行動的になっているような気がする。


今までだったら何もせずに流されていただけの私なのに。


「今までずっと逃げてきてばかりだったから。少しでも何かに立ち向かっていけば、きっと皇太子妃になるための強い心を持てるのではないかと思って・・・。」


「そう。いい心構えよ。でも、私としては、レイチェルに皇太子妃になんてなってほしくないわ。」


折角決意をしたというのに、ユキ様に皇太子妃になってほしくないと言われてしまった。


「なぜ?そんなことを言うの?」


ユキ様に確認をする。


ユキ様って時々言葉を端折ることがある。


その所為で誤解を生むようなところがあるのだ。


ユキ様の本質はお人よしで、人一倍面倒見がいい。


だから、きっとユキ様が私に皇太子妃になってほしくないのには理由があるはず。


しっかりと確かめなければ。


「皇太子妃になったら滅多なことがない限り、レイチェルは皇后になることはほぼ約束されているわ。皇后は皇太子妃よりも責任が重く圧し掛かるわ。精神的にも辛いことが多いかもしれないわ。それでも、レイチェルは皇太子妃になって皇后になりたいの?私は、レイチェルに辛い道を歩ませたくはないの。」


ユキ様は真剣な目で私を見ながら告げた。


その身体からは私のことを心底心配しているというのが見て取れた。


 「………わかってるわ。だから、逃げたかったのよ。でも、今はそれよりもエドワード様の側にいてエドワード様を支えていきたいの。そうしないと後悔しそうだわ。」


やれることをやらないと後悔するってことを知ったから。


逃げてばかりいないで、向かい合わなきゃ。エドワード様もそうして、皇太子として私を守ろうと生きてきたのだから。


私はそれに報いたいと思う。


『レイチェルの言いたいことはわかったわ。でも、私は隣国で生きてきた。それに、隣国に行けば元の暗殺者仲間がいるわ。私が裏切ったことで追っ手がかかるかもしれない。危険なのよ。』


ライラの声が直接頭の中に響き渡ってくる。


ライラは私の時と違って意識がしっかりとしていて、私と会話することが出来るようだ。


「そうね。ライラの姿で隣国に渡るのは危険かもしれないわ。」


私はライラの言葉に頷く。


「誰と話しているの?ライラ?」


ライラと話していると不思議に思ったのかユキ様が問いかけてきた。


私はそれにゆっくりと頷く。


「ええ。ライラの意識と会話しているわ。ライラの姿で隣国に向かうのは危険みたい。ライラってば、裏切ってエドワード様についたから隣国に行けば暗殺者に狙われるかもしれないって。」


「それもそうね。この世界にも、ウィッグやカラコンがあればいいのに。」


ウィッグ?


カラコン?


ユキ様はよく分からない言葉を使うわ。ウィッグにカラコンというのはなんなのだろうか?


「ユキ様?カラコンとウィッグというのはなにかしら?」


「ウィッグっていうのは人工の髪の毛よ。自分と違う髪色だったり、スタイルだったりするの。髪型や髪の毛の色が違えば印象が違うでしょ?カラコンっていうのは、瞳の色を変えるアイテムよ。瞳と髪が変われば印象はだいぶ違うわね。肌の色も違えば人種も違うように見えるかしら?」


「………髪の色や目の色を変えて別人になる。そうね!それいいわね、ユキ様ってとても頭がいいのね。」


ユキ様の言うことには一理ある。この世界では容易に髪の毛の色を変えたり瞳の色を変えることなんて出来ない。


もしそれが出来るのならば、いい目眩ましになるわ。


………そう言えば、我が家の家宝に瞳の色や髪の色、肌の色を変える化粧水があったはず。


本当に変わるかはわからないけれども。


「あるわ!我が家に伝わる化粧水があるの!それを使えば髪の色も瞳の色も肌の色も変えられるわ!」


そうよ。


まずは、我が家の家宝を試してみましょう。


「け、化粧水?この世界の人たちは化粧水で髪や肌の色を変えるの?」


ユキ様が驚いたように目を瞬かせる。


「本当に変わるかは補償できないけれども、我が家にはあるのよ。他では聞いたことがないけれど。」


一か八か。私は家宝の化粧水を取りに実家に向かうことにした。

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