第103話
頭がポーッとしてくるのがわかる。
自分が何を考えているのかもわからなくなる。いや、何も考える気がおきなくなってくる。
「ライラさん?」
マコト様の声が聞こえる。
「なぁに?」
それに答えるが、どうもうまく思考がまわらない。
「レイチェル様?」
「いいえ。ちがうわ。」
私はレイチェルじゃない。
「おかしいじゃない。なんでレイチェルが出てこないの!?」
ユキ様の金切り声が聞こえてくる。
なんで、そんなに怒ってるのかしら?
わからない。
頭の中に霞がかかっているみたいで。
「もう1杯ですかねぇ。ライラさん。紅茶をもう1杯飲んでみてください。」
そう言ってマコト様は、私の前に紅茶が入ったカップを置いた。
私はその紅茶が入ったカップを、言われるがままに持ち上げ口に運ぶ。
口の中に甘い香りが広がる。
「………ライラさん?」
マコト様の声が聞こえる。
少しだけ心配しているようにこちらを伺う声がする。
聞こえているのだけれども、なぜか声が出ない。
「レイチェルには覚悟がないわ。皇太子に愛されているとわかっても、皇太子妃となる覚悟がないのよねぇ。だから、レイチェルは自分の身体に戻れないのよねぇ。」
私が言ったわけじゃないのに、私の口が勝手に動いて言葉を紡ぐ。
でも、レイチェルでもないような気がする。
誰が私の身体でしゃべっているの?
「あなたは誰ですか?」
マコト様の声が聞こえてくる。
それに反応するように私の口の端がにやりと上がった。
「レイチェルを守護するものよ。私はレイチェルのためなら何でもするわぁ。そう、レイチェルが嫌がるのなら皇太子妃になんてさせないわ。そのために貴方たちを異世界から呼んだのにねぇ。全く想定外の動きをしてくれたわね。」
感情のこもらない声が私の口から飛び出る。私はいったい何を言っているの?
どういうこと?
「貴方たち二人を呼んだ反動で顕現する力がないのよねぇ。だから、こうしてライラの身体を借りているわ。でもぉ、力の一部が使えなくても、レイチェルが嫌がるなら皇太子妃にさせないことくらいはできるわよ。うふふ。」
私の身体が私のものではないような不思議な感じ。
「………あなたが私を呼んだの?ライラが?」
ユキ様が私をギッと睨み付ける。
マコト様もユキ様も異世界から急に呼ばれたと言っていた。
きっと、元の世界に帰りたかったのだろう。
「私はライラではないわ。ただの人の娘が異世界から人を呼べるわけないじゃないの。」
「………レイチェル様は元に戻るんですか?」
マコト様が声を押し殺して確認する。
「戻れるわよ。レイチェルが戻りたいと願えば、ね。」
私の口は何を言っているのだろうか。
どうして、レイチェルが元に戻れると知っているのだろうか。どうして、そんなに自信満々に言えるのだろうか。
「少ししゃべりすぎたわねぇ。私はもう帰るわ。可愛いレイチェルを頼んだわよ。」
すうっと意識が遠のくような気がした。
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