第104話


「今のは、何!?なんなの!?」


ユキ様が私に掴みかかり、大声をあげる。


私も知りたい。今のがいったいなんだったのか。誰だったのか。


「わ、わからないわ。」


「わからないってあなたが言ったんじゃないの!?」


「ち、ちがっ。私じゃない。」


「まあまあ、ユキ。落ち着いて。」


マコト様が激昂するユキ様を宥めようとユキ様の肩に手をあてて声をかける。


「ライラさんではない誰かがライラさんの身体を借りてしゃべっているみたいでしたよ。私たちを呼んだ誰かのようです。」


「誰なのよ!?」


「私たちを呼び寄せることが出来て、レイチェル様を守護している存在。しかも人ではないと言っていました。話し方からするに、女神様とでもいうような存在でしょうか?」


「「女神様!?」」


マコト様の推測に私とユキ様の声が重なる。


でも、女神様だとしたら、今のレイチェル様の身体が食事をとらないのにもかかわらず衰弱していかないのが説明できるかもしれない。


だって普通に考えたらあり得ないことだから。


「私たちは女神様によってこの世界に転移させられた。レイチェル様を皇太子妃にさせないために。」


「女神様だかなんだか知らないけれど、駒にされるのは嫌だわ。まあ、私だってレイチェルが幸せなら、皇太子妃にはならなくてもいいとは思っているけどね。でも!レイチェルが目を覚まさないのはやりすぎよ!!」


ユキ様は、そうはっきりと告げた。


ユキ様にとってもレイチェルは大切な存在なのだろう。だから、皇太子妃になることを強いるよりも、レイチェルの意思を尊重したいようだ。


しかしながら、レイチェルが目を覚まさない現状には怒りを覚えているらしい。


「こうなったら女神様とやらの言いなりにはならないわ!レイチェルに目を覚ましてもらって、皇太子妃になりたいって言わせてみせるわ!」


ユキ様が意気込んで決意を表明すると、マコト様がユキ様の肩にポンッと手をあてた。


「気持ちはわかるけど、レイチェル様に無理強いはしないでくださいね。」


「わかってるわよ!」


マコト様もレイチェルの意思を重んじているようだ。


レイチェルは周りの人にとても恵まれているんだと感じた。


きっとレイチェルが皇太子妃になることを憂いていても、きっと彼らが力になって支えてくれる。


レイチェルは独りじゃない。


そのことにレイチェルがいち早く気づいてくれればいいのに。


レイチェルの魂は私の身体の中でまだ眠っているままだ。


早く目覚めて欲しいという思いをレイチェルに送る。この気持ちが、彼らのレイチェルを大切にしたいという気持ちがレイチェルに少しでも届くようにと。








「さて、そろそろエドワード様が我慢の限界かもしれませんね。」


「そうね。ライラの中にレイチェルがいると知ったらすぐにでもレイチェルと話がしたいでしょうね。」


どれくらい経っただろうか。不意にマコト様が告げた。それにユキ様が賛同する。


マコト様は椅子から立ち上がると、


「では、エドワード様を迎えに行ってきますね。」


と、言ってクロとシロと一緒に姿を消した。


残された私はユキ様と向き合うことになった。


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