第63話
「あの・・・赤ちゃんは・・・?」
レイチェルは意識がなくベッドに寝ているが、レイチェルが産んだ赤ちゃんの姿が見えない。
この家にもいる気配はない。
「なんでそんなこと知っているのよ?まさか・・・。」
赤ちゃんのことをユキ様に尋ねると、ユキ様はエドワード様の襟首を鷲づかみにした。
「違うっ!私は一言も言っていない!!」
エドワード様は慌てふためいている。
「直接は聞いておりませんが、間接的に聞いてしまいました。」
「・・・そう。」
「それで、どちらにおられるのでしょうか?」
まだ名前も付けられてはいないだろう赤ちゃん。
産まれてから幾日も経つだろうに、まだ母親に抱かれたこともない赤ちゃん。
「ここにはいないわ。」
「どうして?」
ユキ様が赤ちゃんを見ていないとすると一体誰が面倒を見ているのだろうか。
レイチェルの記憶にはこの村に来てお世話になれるのはユキ様くらいしかいなかったはずだ。
「私じゃお乳が出ないから。お乳が出る人のところに預けているの。」
そうだった。
赤ちゃんのご飯は私たちが食べるようなご飯ではない。
母親からの母乳が必要だった。
ユキ様じゃ母乳はでないだろうし、赤ちゃんの食事を用意することができなかったのだろう。
「はぁ~。私だって手放したくなかったわよ。でも、お乳がないんじゃどうしょうもないじゃない。この世界にも粉ミルクがあればよかったのに・・・。」
「・・・粉ミルク?」
見知らぬ単語に思わず疑問を返す。
そう言えば、ユキ様は異世界からの迷い人だった。
もしかして、異世界の知識だろうか。
でも、私は今はライラの姿だし、私がユキ様が異世界からの迷い人だと知っているということが知られてはまずい。
「なんでもないわ。」
「その人のところに案内していただけませんでしょうか?」
一目会いたいと思ってしまった。
レイチェルが産んだという赤ちゃんに。
「・・・ダメだ。」
「・・・ダメよ。」
だが、エドワード様もユキ様も反対する。
「どうしてですか?」
私が問いかけるとすぐにユキ様が答えた。
「だって、貴女はエドワードの愛人でしょ?赤ちゃんの居場所なんか教えたら何をされるかわかったもんじゃないわ。絶対教えないんだからっ!」
「「愛人っ!?」」
愛人という言葉に思わず私とエドワード様の声がハモる。
「あら?愛人でしょ?レイチェルが意識がないことをいいことに二人で愛し合っているんでしょ?そうよね?エドワードはレイチェルと婚約破棄したし何も障害がないわよね?あら?そちらの方に身分がないとか?」
「そんな関係ではないっ!」
ユキ様によってまた話が蒸し返されてしまった。
堂々巡りになる会話に終止符は打たれるのだろうか。
「ユキ、いるかい?」
そんな時、誰かが家のドアをノックする音が聞こえてきた。
その瞬間、ユキ様がまずいと顔を顰めた。
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