第62話

 


「ユキ様・・・。」


声のした方を見ると、そこにはユキ様が仁王立ちで立っていた。


どうやら、エドワード様と私が会話をする声で起きてしまったらしい。


ユキ様は大きな目を吊り上げてこちらを睨んでいる。


それもそうだろう。


見ず知らずの人間がいつの間にか家に上がりこんでいるのだから。怒らないはずがない。


「・・・一緒に皇太子宮に帰るってどういうことなの!?レイチェルの意識がないからって他の女性を囲い込むなんて!!」


「誤解だ・・・。」


ユキ様は私ではなく、エドワード様に詰め寄っている。


思わずポカーンとしてその様子を眺めてしまった。


てっきり、私の方に詰め寄ってくるかと思ったんだけれども。


それにしても、エドワード様はユキ様には弱いようで、タジタジとしている。


そうだよね。


エドワード様に啖呵を切れる女性なんて今までいなかったものね。


「誤解ってどういうことなの!!大方、レイチェルが意識不明で消沈しているところで優しくされてコロッといってしまったんじゃないの!!」


「違うと言っているだろう・・・。」


エドワード様はため息を一つついた。


だが、ユキ様の怒りは収まらないようだ。


「そんなのって酷いわ!レイチェルが可哀想!!」


「だから、違うと・・・。」


話を聞かないユキ様なので、いくらエドワード様が説明しようとしても会話になっていない。


これは堂々巡りだなぁ。と見ていて思ってしまったので、元凶となっている私がユキ様に話しかけることにした。


「ユキ様・・・。誤解ですわ。私はただ、エドワード様のことが心配で仕方なかったのです。」


「だーかーらー!!それってつまりエドワードに気があるってことでしょ!?エドワードを狙ってるってことよね!」


どうやら火に油を注いでしまったようです。


「・・・狙ってないと言えば嘘になりますわね。」


エドワード様のことをライラとしての私は狙っていた。そう、暗殺の対象者の一人なのだ。


ただ、レイチェルの記憶と融合してしまったことで、エドワード様を暗殺したいとは微塵も思わないのだが、このまま暗殺せずにおけば、きっと私が始末されるだろう。


そういう組織に私は属してしまっている。


「ほら!狙ってるんじゃない!ダメよ!エドワードにはレイチェルがいるんだから!諦めなさい!!」


「そうですね・・・。」


「って素直に諦めるの!?」


「え?諦めてほしくないんですの?」


「諦めてほしいに決まってるじゃない!」


それから朝までユキ様の怒鳴り声が家中に響いていた。


 


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