第60話
夜、皆が寝静まった頃にこっそりとベッドから起き上がる。
この客室はマコト様が作ったと思われる魔道具で24時間監視をされているということに、昼間気がついた。
部屋の隅にいくつか置かれているウサギのぬいぐるみ。
最初は可愛いと思って愛でていたが、暗殺者としてのライラの感でそのウサギが監視をしているということに気がついた。なんとなくだが、魔力の流れがわかるのだ。
これも、ライラとしての記憶が蘇ったからだと思う。
ただ、ライラの記憶を思い出した今でも自分がライラだという実感がない。
まだ、自分のことはレイチェルだと認識したままだ。
ライラの記憶に関しては知らない誰かの記憶が頭の中にあるだけという認識しかない。
ただ、意識としてはライラと同化してしまっているのか、以前の私であれば考えられないような思考の仕方をしていることに今更ながらに気がついた。
ただのレイチェルだった私はきっとエドワード様が怪我をしている場面を見たら止血をするでもなく、顔を真っ青にして倒れていただろう。また、エドワード様の側近の死も受け入れることができなかっただろう。それに、こうして夜抜け出そうだなんて思いもしなかったはずだ。
そう思うと同化というよりは思考はレイチェルよりライラが優先権を持っているようにも思える。記憶の優先権はレイチェルのようだ。
ライラの思考を持ちレイチェルの記憶を持つ私は、ライラなのだろうか。それともレイチェルなのだろうか。
考えてもまだはっきりとはしない。
ただ、この身体はライラのものだということだけがハッキリとしている。
唯一監視のウサギが置かれていない場所。
そこは、客室の中にあるトイレのみだ。
私はトイレに起きたふりをして、トイレに向かう。
そして、強く念じる。
レイチェルの本体がある場所への転移を。
次の瞬間、トイレの中に眩い光が立ち込めて私を飲み込んで消えた。
次に目を開けたときには、私はレコンティーニ王国にあるキャティーニャ村のユキ様と一緒に住んでいる家の一室にいた。
夜中とあってユキ様は寝ているようだ。
部屋の中には簡素なベッドがあり、そこにレイチェルの本体が眠っていた。
その姿は生きているように頬に赤みが差しており、今にも起きて動き出しそうなほどだ。
規則正しく動いている胸からはただ単に寝ているようにも思える。
触れたらレイチェルは意識を取り戻すだろうか。
そう考えて寝ているレイチェルに手を伸ばすが、触れる寸前で止める。
否、邪魔が入ったため、止めざるを得なかった。
「誰だっ!!」
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