第43話

 


『大丈夫ですかっ!?』


倒れている少女に声をかけるが、少女は反応しなかった。


そう言えば、私の声、ユキ様にも聞こえていなかったと思い出す。


手で揺すってみようかと思ったが、素通りしてしまったことを思い出した。


それでも、他にできることがないので、一か八か手を伸ばす。


『えっ!?』


すると、手が少女の身体に吸い込まれた。


驚いていると、手の先から少女に融合するかのように私の身体全体が少女に吸い込まれていく。


必死に離れようと抵抗をするが、無駄に終わった。


 


 


「ここは・・・どこかしら。」


森の中をさ迷う。


湖の畔で倒れていた少女の身体に吸い込まれてから数時間。私は、森の中をさ迷っていた。


少女の身体はすぐに動かせた。


よって、足にあたる草の感触も、森のすがすがしいまでに澄んだ空気も暖かい日差しも感じられる。


小動物たちも近寄ると逃げていってしまう。


なぜ、少女が倒れていて、なぜ私がその少女の中に吸い込まれてしまい少女を乗っ取る形になってしまったのかはわからない。


ただ、何もないあの場にいても仕方がないので歩き出したのだ。


しばらく歩いていると、前面に突如大きな壁が現れた。


触ってみると、ごつごつとした石の感触がする。どうやら石を組み合わせて作られた壁のようだ。


かなり広い範囲を壁が覆っているように見える。


壁を伝いながら歩いてみる。


しばらく歩くと、一部だけ壁が壊されているのか人が一人通れるくらいの穴が開いていた。


こそっと、穴から壁の中を覗き込むと、人の足が見えた。


どうやら横になっているようだ。


人がいたことに安心して声をかける。


「こんにちは。あの・・・道に迷ってしまいましてここはどこでしょうか?」


しかし、いくら待てども返事はない。


不思議に思って、穴から壁の中に這い出る。


そこは、どこかのお屋敷の庭なのか整った庭園があった。


そこに横になっている人物に近づく。


「ひっ!エドワード様っ!」


横になっている人物は、私のよく知るエドワード様だった。


しかも、寝て休んでいるわけではなく、傷を負っているので意識を失って倒れていると言った方がいいだろう。


仰向けに倒れているが、微かに胸が上下しているので呼吸はしているようだ。


ただ、腕や足から血がドクドクと流れていていたいたしい。


どういうことだろうか。


エドワード様はたとえ他国に行く際も必ずお付の者を2人はつけていたのに。その人たちも見当たらない。


マコト様がおっしゃっていたエドワード様の消息がわからないということは、このことだったのだろうか。


エドワード様の消息がわからなくなったのは敵対関係まではいかなくとも同盟もしていない隣国。しかも、ハズラットーン大帝国の傘下に入れようとしているヤックモーン王国。


ここがもし、ヤックモーン王国だとしたらやっかいだ。


何ゆえ、エドワード様がこのような傷を負っているのかわからないが、あまり人に知られてはいけない可能性がある。


私は恐る恐るエドワード様に近づき、傷の様子を確認する。


なにやら鋭利な刃物で切りつけられたように、パックリと皮膚が割れてしまっている。傷は深いのか、中に白っぽいものが見える。骨・・・だろうか。


「・・・いやっ。」


傷を見ているとクラリと眩暈と吐き気が襲ってくる。


耐え切れずに、その場を離れると庭の端で嘔吐を繰り返した。


「吐いていてもエドワード様は回復しないわ・・・。」


もう一度エドワード様の元に戻る。


本当は、傷を水で洗い流したいところだが見える範囲に水はなさそうだ。


そうなれば、仕方がないが応急処置として止血をしなければ・・・。


私はスカートの裾を口で噛むと犬歯を使い、ビリッと破く。一箇所破ければ後は手で布を裂くことができた。


裂いた布をエドワード様の一番酷い手の傷に当て、ギュッと硬く縛り上げる。


「うっ・・・。」


エドワード様の声があがるが、気にせずその他の傷も止血していく。


どれくらい血が流れたのか分からないが、エドワード様の顔色は青く、あまり良い状態とは言えなかった。


「神様・・・どうか、どうかお願いいたします。エドワード様を助けてください。」


私一人の力ではエドワード様を安全な場所まで運ぶことはできない。


誰かを呼びに行くにも知らない地で誰が敵か見方なのかもわからない。


一番いいのはエドワード様が意識を取り戻して、状況を確認することなのだけれども。


辺りを警戒しながら、エドワード様が意識を取り戻してくれることを祈る。


すると、エドワード様の身体がキラキラと光だした。


 


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