第42話

 


突然ほおりだされたのは見渡す限り木々が生い茂っている森の中だった。


木々の間から微かに漏れてくる太陽の光であたりは思ったよりも明るくなっている。


辺りに人の気配はしない。


ただ、耳を済ませると鳥の囀りや、小動物が動く際に発する微かな物音が聞こえてくる。


静かな空間だった。


先ほどの声はいったい誰だったのだろうか。


どうして、このような森の中に飛ばされたのだろうか。


いくつも疑問点はある。


しかも、子供を産んだばかりの実体がない私をなぜ、このような場所に飛ばすのだろうか。


いくら考えてもわからない。


また、実体がないからだろうか暑さや寒さなどは感じられなかった。


森の中を歩く。


森の中にいる動物も私に気づかないのか、すぐ側を通っても動物たちは思い思いに動いており、逃げ出すそぶりがない。


それが面白くて、木の実を齧っているリスの目の前にしゃがみこみ、もぐもぐと動く頬を観察する。


リスは観察されていることに気づかず、美味しそうに木の実を食べていた。


『ふふ。可愛い。』


撫でればきっともふもふとした感触がするのだろうが、今は撫でようとしても手がリスの身体をすり抜けてしまう。


少し残念に感じた。


しばらく森を散策していると、木々が開けた場所に辿り着いた。


そこには小さいながらも湖があった。


『綺麗・・・。』


太陽の光が湖に降り注ぎ、湖面がキラキラと太陽の光を反射している。


なんとも神秘的な場所だった。


湖に誘われるように近づくと、湖面を覗き込む。


水の中を泳いでいる魚の姿がはっきりと見えるほどに、水は透き通っていた。


水の中に手を入れてみるが、やはり感触はなかった。


『残念だわ。気持ちよさそうなのに。』


はしたなくも、両足を湖の中にいれ、湖のほとりに腰掛ける。


水の感触はしないが気分だけを味わう。


木の上に止まっていた鳥が、湖の中を泳いでいる魚目掛けて、華麗に飛ぶ。水面をぎりぎりに飛んでいるかと思えば、ふいに顔を水の中に突っ込み、すぐさま浮上する。その嘴にはぴちぴちと跳ねる活きの良い魚が咥えられていた。


『すごい・・・。』


鳥が狩りをおこなう瞬間を初めてみた。無駄のないその動きに感動し打ち震える。


『あら?』


湖の先になにやらキラキラ輝くものがある。


湖面とは違うなにか。


なんだろうと、湖の上を歩き最短距離で向かう。まあ、歩くというよりは浮いているようだけど。


『まあ!大丈夫ですかっ!?』


そこにはキラキラとした光に包まれた10代後半くらいの女性が倒れていた。


 


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