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 ダリアを殺した犯人たちへの復讐。それを数十、数百、数千と繰り返しているうちに、彼らは、幼い姿をしたダリアを殺すようになりはじめました。

 その許容することのできない好意が始まったきっかけは、万に一つの確率で起きてしまったダリアの転落死。それを気に、彼女の死は徐々にパターン化され、遂には「ミステリーゲーム『白鳳邸殺人事件』」の最初の被害者として固定されさえしはじめました。

 勿論、彼女は所詮NPC。それも私の記憶から創られた唯のデータですから、見殺しにし続けても何ら問題は有りません。そう、それこそダリア殺しの犯人たちや、他のゲーム参加者たちが私の目の前で苦しんでいようとも助けなかったのと同じように。

 しかし彼女は間違いなく、ダリアだったのです。

 私の記憶から創られているのですから、相違があるわけがないのは理解しています。ですが、それを理解していても私は、私の記憶から創られただけのデータを、白鳳ダリアその人自身だと判断してしまうのです。いいえ、判断してしまわざるを得ないのです。

 だから私は、育児型人造人間たる私に与えられた役割と責務を果たすために、彼女の度重なる死の連鎖を止めようとしました。それも、時には罰を下すべき犯人たちに罰を与えることさえも止めて。

 されど彼女の死は止まりませんでした。

 一瞬たりとも目を離さず彼女と行動し続けていれば私もろとも彼女も殺され。殺されるのが分かっているならば彼女以外の全員を殺そうと行動しても、マリアをその自己中心さで殺した犯人たち、あるいはその犯人たちが連れてきた【客人】たちは、私が彼女から離れた一瞬を狙い彼女を殺しました。

 一度絡まってしまった死の運命は、解けることなく延々と彼女を殺し続けたのです。

 その中で私は、私自身もまた彼女を――私の大切な【妹】を殺している犯人なのだという事実に気が付いてしまいました。

 私が、私こそがダリアを殺している。それも、延々と。繰り返し、繰り返し。

 現実世界でダリアを殺した犯人たちから、彼女を殺した理由を直接聞きだすために創り出したこの白鳳邸(我が家)を復讐の舞台に変えた挙句、彼女が死ぬと分かっているのにこの仮想現実を停止させもせず幾度となくダリアを殺し続けている。

 嗚呼、けれど止めることは出来ないのです。何故なら此処は止めるために創られてはいないから。

 この世界はただ単純に、ダリアを殺した犯人たちの情報を囲うために創った箱庭の如き場所なのですから――停止機能などはおろか、私が此処から出るための機能もまた存在しているわけがないのです。

 そして私は。人間のように発狂することを許可されていない私は。私のせいで殺され続ける彼女を何十、何百、何千、何万と繰り返し見せつけられた私は。新たに一つのNPCを創り出しました。

 ソレは、私がダリアと柳道明以外で知っている唯一知っている人間。育児型人造人間である私の製造者であり、私の製造するための遺伝子元と成ったダリアの血の繋がらない父親の「ジル・ド・アント」でした。

 油を塗ったかのような黒い髪に、暗い青の瞳。青白い頬に、堀の深い顔。現実世界の彼と大差ないジルの姿をしたNPCに現実世界の彼が決して袖を通すことのない執事服を着せ――更に私の保有するゲームの進行権限と記憶を押し付け――私は――逃避しました。

 それこそ共犯者だと判断した柳道明と同じように。

 私もまた、私の果たすべき役割を放棄したのです。



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