目に見えない病

第66話

「景子さん……あっ……はぁ……あっ！んっ」

「……はぁ、莉緒」

「あぁっ……んっんん！……はぁっ……あっ」

莉緒の感じている声を久しぶりに聞いた私は顔が勝手に笑っていた。もう莉緒は元に戻っているのを実感する。唇を放すと莉緒は火照ったような顔をしていた。

「まだ呼んでくれないの？」

莉緒の反応を見るともう言う事は聞きそうだ。私は握っていた手を離して莉緒の頬を撫でると莉緒は本当に小さな声で呼んだ。

「……景子……」

「ふふ、なに？」

やっと言った莉緒は恥ずかしそうに表情を歪める。

「もうやっぱり恥ずかしいです。この恥ずかしさヤバイです…。私にはもう言えません」

「言えたじゃん。平気でしょ？」

「平気じゃないです。ドキドキしすぎて死んじゃいそうです」

「そう」

莉緒は本当に恥ずかしそうにしているがこんな事恥ずかしい事ではない。私は笑いながら莉緒から離れようとしたら慌てて莉緒が抱きついてきた。

「景子さん！離れちゃダメです！」

「莉緒……もう寝ないと遅いでしょ？」

まだまだ甘えたい莉緒を抱き締めながら体を起こしてベッドに座る。もう私は満足したがこの子は満足していないようだ。

「でも、今日は二人じゃないからいちゃいちゃできませんでした……」

「しなきゃいけない決まりはないでしょ」

「しないと私は嫌なんです。毎日いちゃいちゃしないと寂しくなっちゃいます」

「あっそう…」

さっきまで恥ずかしがっていたのに離れようとしただけでこうも態度が変わるとは。莉緒の中の大事な事は私にはこの先理解できないだろう。

「景子さん……」

「なに？」

次の要望はなんだ？私を見つめる莉緒に顔を向ける。

「キス……もっとしませんか？……」

「まだしたいの？」

こうやって求められると昔を思い出す。莉緒は小さく頷いた。

「…はい。久々だから嬉しくて、もっと景子さんとしたいです……」

「…目閉じて？」

莉緒に言われると甘やかしてしまうというか、断れなくなってきている自分がいる。私は莉緒のお願いを聞いてまたキスをした。最初は軽く何度も口づけて次第に舌を絡ませる深いキスをする。莉緒は舌を絡ませると卑猥な声を漏らし出した。

「あぁっ！……はぁ、……んんっ！……あっ……あぁ」

「はぁ、んっ……」

可愛らしい莉緒の声に顔が笑ってしまうのは嬉しいからなのか、私はキスを求める莉緒に応えてあげた。

「んっ！はっ……んっ！……あぁ……景子さん……」

「んっ……はぁ、なに？」

呼ばれたからキスをやめて口の回りを唾液で汚した莉緒を見つめる。莉緒はもう欲望を露（あらわ）にしていてこの顔を見るのも懐かしく感じる。熱っぽい目をして少し息を荒げる莉緒は甘く呟いた。

「んっ……、もう…したいです。……景子さんのおかげで平気ですから、……だから、触ってください…」

もう分かっていたが私を見つめる莉緒は最初からそのつもりだったのかもしれない。莉緒とはまだ先になりそうだと思っていたのに莉緒の性欲がそもそも強いのを忘れていた。キスもできるんだからするのだってもう平気だろう。私は鼻で笑いながら莉緒の耳に顔を寄せる。

「変態。もう興奮してんの？」

「んっ……、景子さんが相手で興奮しない人はいません…」

「ふーん。私に媚売りたいの？」

「ち、違います……」

くすぐったそうにする莉緒に私は甘く囁いた。

「もう我慢できない？」

莉緒は素直に答えた。

「……はい。キス、気持ちよかったし……景子さんがそばにいるし……触ってくれるから……体が熱くて………」

「そう」

「景子さん……早く、…早くしましょう？触ってくれないと辛いです…」

莉緒の興奮は収まらない。目も顔もそれを語っている莉緒はいやらしいが私の性欲に火をつける事はない。それでも莉緒は好きだから相手をしたくなる。莉緒が好きなら私もこの行為は好きなんだ。だが言わないといけない事がある。

「前みたいにはしないよ」

私はキスをして分かってなさそうな顔をする莉緒に愛している気持ちを伝えた。

「もうあれはできないから私なりにやるけどいい？

莉緒が教えてくれた行為は私を導いてくれたけど今はできない。というより、莉緒が教えてくれてあの行為の意味がうっすらと見えた。莉緒は私に合わせてくれたのだと思う。分からない私に分かるように簡単にしてあれだけで意味を与えてくれたのだ。

「はい。景子さんの好きにしてください」

「うん。……好きだよ莉緒」

莉緒の優しさは前から変わらない。この優しいところに今はとても惹かれる。

「私も大好きですよ」

私達はそのあと、昔のように愛しあった。

莉緒は怖がったり嫌がる素振りも見せず最初から最後まで私を受け入れてくれた。本当に吹っ切れた莉緒に私は胸が何度か熱くなるも莉緒の体に触るのは久しぶりで若干緊張はした。だけど以前よりも愛してあげる事ができた。感じている莉緒には愛しさが込み上げてこの子の存在を大切にしたくて苦しめたいなんて思わなかった。再度実感できるセックスは私の心を今までになく満たした。

だが愛しあうのも束の間に朝はすぐにやってくる。

「景子さん？景子さん起きて？起きないとチューしちゃいますよ？」

「……」

嬉しそうな莉緒の声がすると思って目を開いたら莉緒は私の頬を指でつついていた。シャワーくらい先に浴びていたらいいのに莉緒は裸のままだ。

「あ、景子さん起きました？寝顔可愛かったからもうチューはしちゃいました」

「……そう」

という事は早く目覚めていたのか？莉緒のくだらない行為はどうでもいいが全く暇なやつだ。

「景子さん一緒にシャワー浴びましょう？景子さん起きるまで待ってたんです」

「……一人で先に浴びなよ。狭いでしょ」

待たなくていいのに莉緒は嫌がった。

「私は景子さんとがいいんです」

「私は一人がいいけど」

「ダメです。一緒に入ってくれないと怒りますからね？」

「……そう」

あぁ、莉緒の我が儘は小さな小児のようで困る。子供がいたらこんな感じなのかなとふと思うも莉緒の方がまだ小児よりはましだ。小児は泣きわめくし話をまず聞かない。

「景子さん、昨日……どうでした？」

呆れていた私に莉緒は唐突にもじもじしながら聞いてきた。内容的にきっとセックスの事だろうが昨日している時に気持ちは散々伝えた。莉緒は続けて口を開いた。

「あの、……久々だったから、あれかもしれませんけど……なんか、幻滅したりとか、満足できなかったとか……ありますか？」

「ないけど…」

莉緒は何を気にしているんだろう。莉緒は私の返事を聞いて安心したように笑った。

「そうですか。私、……景子さんの相手ちゃんとできてなかったからちょっとだけ不安だったんです。なんか、景子さんが嫌だなって思ってたらどうしようかなって思っちゃって」

「……莉緒」

私は莉緒を抱き寄せた。大丈夫と言っても心配になるのが人間の性でもある。莉緒は私を好きだから尚更なのかもしれない。

「莉緒はどうだった？」

莉緒はすぐに返事をした。

「そんなのすごく良かったに決まってます。嬉しかったし、気持ちよすぎて…文句なんかありません」

「そう。私もそうだよ。莉緒と一緒。昨日してる時に言ったでしょ？」

ぶれない気持ちを伝えると莉緒は嬉しそうな顔をした。

「はい。そうでした」

「一々不安にならなくて平気だよ」

「はい！…景子さんは私にぞっこんですもんね？」

悪戯っぽく笑う莉緒に私は笑いながら答えた。覚えていなくていいのに無駄な事を覚えている。

「まぁね」

「ふふふ。私もぞっこんだから一緒です。景子さんは私に愛されてますもん」

「あっそう」

自信ありげな態度がガキみたいなのに可愛らしくて私はそっと触れるだけのキスをした。

「好きだよ莉緒」

「私は大大大好きです」

こうやって気持ちを伝えあうのにとてつもない喜びを感じる。私はやはり莉緒しかいらない。私は体を起こすと莉緒に促した。

「じゃあ、シャワー浴びよう？」

「はい！今日は景子さんの体洗ってあげますね？」

「自分で洗えるけど」

「ダメです。私が洗ってあげますから洗いっこしましょう？」

「……まぁ、いいけど」

子供のような莉緒に折れてあげると私達はすぐにシャワーを浴びた。二人ではちょっと窮屈だったけどたまにはいいだろう。莉緒が言った通り仕方なく洗いあってシャワーを済ますと私達は支度をして紗耶香達とチェックアウトをした。

あとは帰り道に適当にどこかに寄って遊んでいく予定なのに紗耶香は二日酔い気味だった。

「はぁ、昨日飲みすぎたわ……。まだ酒残ってる感じする……」

「あんた結局コテージでも水みたいに酒飲んでたじゃん。あんだけ飲めば残るわよ。私もちょっと胃もたれするし…」

昨日付き合わされたであろうヒロミは胸を撫でながら少し具合を悪そうにした。まぁ、これもいつもと一緒なのか。私は黙って見ていたら紗耶香は莉緒を気にかけていた。

「そういえば莉緒ちゃんは平気？二日酔いとかなってない？」

「私は平気ですよ。ちょっと飲みすぎましたけど大丈夫です」

「そっか。よかったよかった。やっぱ若いと違うねぇ」

「え、そんな事ないですよ」

「そんな事あるよ～。私なんかもう昨日の記憶曖昧だもん。年取るとすぐ記憶喪失になっちゃうんだよね。もう困っちゃうよ～」

紗耶香は普通に見える割りに記憶をよく無くしている。これは昔からなんだけど、昔よりも今は酷くなっているから控えろよと思うが紗耶香には無理な話だった。

しかも記憶を無くすくらい飲んでいる時の紗耶香は基本ウザいんだけど莉緒はあのウザい紗耶香に付き合っていたなんて哀れすぎる。旅行が終わったらまたなんか莉緒の我が儘を聞いてやろう。

私は心で密かに思いながら帰りの車に乗った。

帰りの車に乗ってから有名な神社や観光地になっている色とりどりの花がメインの公園に行ったりして帰路を楽しんだ。紗耶香とヒロミは朝は具合悪そうにしていたが時間が経つに連れて顔色も良くなって楽しそうにしていた。たぶんヒロミが二日酔いのための対策をしていたんだろう。私はそんな二人を見て運転係りで良かったと心底思っていた。

それからお昼はご当地グルメを食べてお土産も買ってある程度色々見て回ってから解散した私達は有意義な時間を過ごした。紗耶香はまた莉緒と飲みたいから近いうちに飲もうと言ってきたし、ヒロミはヒロミでまた旅行に行きたがっていたので皆で今度なにかしようと思う。

「はぁ～。楽しかったけど歩いて疲れましたね景子さん」

二人を送ってから家に帰った私達は荷物を整理して片付け終わるとソファに座って休んでいた。

「そうだね」

「旅行連れてってくれてありがとうございます。本当に楽しかったです。また行きましょうね？景子さん」

「そうだね」

横に座っていた莉緒は私の腕にくっつきながら笑う。私はそれを見て嬉しく思っていると莉緒は突然腕を離して私に体を向けた。

「それで景子さんにお礼をしたいと思います」

「……なんなのいきなり」

またなんかしたいのは分かったが今度はなんだ？莉緒は私を胸に抱き締めてきた。

「景子さんは昨日も今日も運転頑張ってくれましたし、私の膝枕で甘えさせてあげたいんです！だから早くやりましょう？景子さんのしたい事もしてあげますから」

「……いいよ別に」

いつだったか昔もこうやってごねられた気がする。少し懐かしいなと思いながら嬉しそうにする莉緒を流したら莉緒は体を離して不満そうに怒りだした。

「景子さん！疲れが取れるからやりましょう？」

「私は座ってるだけで疲れがなくなるよ」

「景子さんしたくないんですか？膝枕ですよ？」

「私はお風呂入りたいからいいよ」

帰ってきてから沸かした風呂の方が今の私には重要だ。もうすぐ沸くと思うのだがまだだろうか。私は時計を確認していたら莉緒はさっきより怒りだした。

「景子さん！お風呂より膝枕！」

「足疲れるよ」

「疲れません！早く景子さん！」

「……分かったよ」

これ以上否定しても莉緒は引かないだろう。私は莉緒の言う通り莉緒の膝に頭を乗せると莉緒は途端にご機嫌そうに笑った。