第63話
島についたのはお昼過ぎだった。太陽の照りつけは眩しくて暑いが海がすぐそばにあるので気分が違う。しかし、それよりも先にご飯である。私達は港付近に並ぶ海鮮料理屋に入ると海の幸を味わった。海が近いだけあって豪華な海鮮料理は美味しくて皆大満足だった。
紗耶香なんか海鮮を食べながら酒を飲んでいたし、いつも旅行に行くと我先に酒を飲んで浮かれているから変わらないが紗耶香が一番上機嫌だ。
私達はその後少し島を歩いて景色を楽しんでから今日泊まる場所に向かった。紗耶香が予約してくれた場所はとても綺麗で芝生の上にBBQができるように外に日除けと共にセットされている。そしてその近くには今日泊まるトレーラー型のコテージがあった。
キャンプのようだと行く前に紗耶香が言っていたがキャンプよりも贅沢で綺麗で使い勝手もいいと思う。
「なんかこじゃれてて可愛いわねぇ」
荷物を置いて外に置いてある椅子に座るとヒロミは辺りを見渡しながら言った。外にテーブルもソファもあるから解放感があるし何てったってここからも海が見えて景色がいい。
「でしょでしょ?オーシャンビュー最高だよね?景子も気に入った?」
「うん。綺麗でいいじゃん」
私も椅子に座りながら言った。暑さはあるが風が気持ち良くてたまにはこんな旅行も普段と違って良さがある。
「よかった~。莉緒ちゃんはどう?夜になるとこれまた洒落た感じになるんだけど」
紗耶香に訊かれた莉緒も喜んでいた。
「すごく良いです。紗耶香ちゃんありがとうございます」
「そっかぁ、よかった~。莉緒ちゃん喜んでくれて安心だよ。温泉もあるから後で行こうね?海見ながら入れるらしいから」
「本当ですか?楽しみです」
「そうそう、それとあとね…」
莉緒はそのあとも酒を飲むと話すのが止まらなくなる紗耶香とまぁよく話していたが紗耶香はちゃん付けで莉緒に呼ばせるようにしたみたいだ。こいつは本当に莉緒を気に入っているようだが歳の離れた莉緒にちゃん付けで呼ばせるなんて……。皆まで言わないが歳を感じて嫌なんだろう。紗耶香は私より若く感じるのに地味に気にしていたのかと思うと少し笑える。私はとりあえず荷物を今日泊まるコテージの中にしまいに行く。中はこれまた綺麗で洒落ている。天井にガラスがついていて空が見えるようになっていた。豪華な装飾もされているし海が見えるように小さな窓も設置されている。
これは夜も楽しそうだ。部屋を少し見て回っていたら莉緒が入ってきた。今日の部屋割りは莉緒と私は一緒だ。
「わぁ、お部屋の中も凄いですね景子さん」
莉緒は部屋を見渡して嬉しそうに私に抱きついてきた。
「そうだね」
「海も空も見えるなんてロマンティックです。今日の夜が楽しみですね」
嬉しそうな莉緒の背中を撫でながら確かにと言おうとしたが紗耶香がいるから夜は長くなりそうだったのを思い出した。
「夜は紗耶香が飲むと思うから付き合わされると思うよ。紗耶香は酒癖悪いから無理して飲まなくていいからね?」
莉緒と酒を飲んだ事がないから弱いのか分からないけど予め言っておいて損はない。ていうか、あれと一緒に飲むのは危険だ。莉緒は少し笑った。
「紗耶香ちゃんに飲もうねって言われましたからちょっとだけ飲みますけどそんなには飲みませんよ。景子さんも飲み過ぎたら二日酔いになっちゃうから気を付けてくださいね?」
「私は車の運転があるからそんなに飲まないよ」
「そうですか。それより紗耶香ちゃんともヒロミさんとも随分仲良しなんですね景子さん。紗耶香ちゃんから色々聞きました」
笑っていた莉緒はちょっとムッとしだした。紗耶香はろくな話をしていないと思う。いったい何を聞いたのやら。
「二人とは付き合いが長いからね」
「昔は朝まで遊び歩いたって言ってましたよ?」
「莉緒の年くらいの話だよ。何年前だと思ってんの」
「でも、意外でした。…それに、紗耶香ちゃんすごく美人だし。紗耶香ちゃんとは昔から本当に何もないんですよね?」
莉緒は行く前から紗耶香をやたら気にしていたがあんな酒乱と何かあったらあったで驚く話である。私は疑う莉緒に呆れながら顔を近づけた。
「紗耶香とは何もないって言わなかった?信用できないの?」
「それは、……そうじゃないですけど。…紗耶香ちゃんは美人だし、いい人で優しいじゃないですか……」
莉緒はしゅんとして視線を逸らす。紗耶香に会って自信がなくなったのかもしれない。全くいらない不安でますます呆れてしまうが莉緒が不安ならその不安は拭ってやらないといけない。私は小さくため息をついて莉緒を呼び掛けて目線を合わせた。
「莉緒」
「…なんですか?」
「ちょっと座って」
「はい…」
ベッドに莉緒を座らせて私も隣に座る。私は莉緒の手を握りながら言った。
「言っとくけど私は莉緒が一番良いと思ってるからね?紗耶香には悪いけど紗耶香よりも綺麗とか可愛いとかも思ってるし、中身も好きだよ。それに、誰かよりダメとか思った事もないから。分かった?」
「でも、でも私……ガキじゃないですか……」
莉緒はここまで言ってもいじけている。莉緒も何だかんだ年齢を気にしているようだけど年上でもガキみたいなやつは腐るほどいた。年齢を気にするのは分からなくもないが、いろいろ体験すると年齢よりも性格や価値観が重要になってくると分かるはずなんだけど……。私はまたため息をついてから話した。
「それはお互い様でしょ。確かに莉緒はガキみたいなところはあるけど私にだってあるでしょ。見かけは年齢が関係するけど中身は違うの分かってるでしょ?」
「……そうですけど。……紗耶香ちゃん完璧すぎて、なんか……自信無くなっちゃいました…」
私の読みは当たっていたが厄介な話だ。私は愛情を注いでいたのだが私のやり方がよくなかったのか?これは私も反省する点だがそれは後だ。私は莉緒の腰に腕を回すと体を密着させながら至近距離まで顔を近づけた。
「莉緒。私は莉緒にしかこうやって触りたくないし、莉緒としかセックスもできないししたくないんだけど…まだ不安?」
莉緒とはあれからキスもセックスもしていない。莉緒がしたくなったらすればいいと思っているし、まだ莉緒は不安かもしれないから私からは何もする気はなかった。それに私は別に今のままでも満足している。莉緒は至近距離で少し照れたように私を見つめた。
「……今も……私としたいとか、触りたいって……まだ思ってくれてますか?」
「思ってるけど。このまましなくてもいいけど莉緒とするキスもセックスも私は好きだよ」
今もというか私はずっと莉緒にしか思わないのに何を言うんだか。性欲は変わらずに湧かないけど莉緒の体に触るのは安心するから好きだ。莉緒は触れると喜んでくれるし、触るのは愛情を伝えるのに効果的だ。私は目を逸らさずに伝えた。
「私は本当に莉緒が好きだからね?性欲はないけど莉緒がしたいなら私はしたいし、何も嫌じゃない。莉緒は大切だからそばにいてくれれば何でもいいけど莉緒にしかこういう気持ちはないよ。莉緒にしか感じた事ないしこの先莉緒意外にこういう気持ちも持たないと思う」
「…景子さん」
今の気持ちを素直に話したが莉緒の不安は拭えただろうか?莉緒は急に私に抱きついて顔を隠してしまった。
「……そんな事言うの嬉しいけどやめてください」
「思ってたから言っただけなんだけど…」
私はまた何かまずったのか?私に抱きつく莉緒の顔色が伺えなくなってしまったから困ってしまう。莉緒はそんな私に分からない事を言ってきた。
「景子さんは私を殺す気ですか?」
「……意味分かんないけど」
「なんで自覚してないんですか?本当にバカです…」
「……ごめん」
腑に落ちないし理解できないがとりあえず謝っといた。莉緒がこう言うのは私が変な事を口走った可能性がある。しかし変な事を言ったつもりはなかったんだがどこがおかしかっんだろう?
「景子さん抱き締めてください」
「え、うん…」
分からないでいたら莉緒は唐突に言ってきたので言われた通り抱き締めた。華奢な体はいつ触っても暖かくて安心する。莉緒はそれから小さく呟いた。
「……私、景子さんの事昔から好き過ぎるのに、景子さんのせいでもっと好きになっちゃいました…」
「……まぁ、付き合ってるから好きになるのはいいんじゃないの?」
「でも、ずっと景子さんへの気持ちが強くなってて……景子さんと離れられません…。景子さん大好きです……」
「……そう」
莉緒はまた照れていたようだ。これには安心するが文字通り私と離れられないのは間違っていない。私のせいもあるのかもしれないが寂しがり屋な莉緒は依存気質でもあるからどうしたらいいのか。だが私も一緒にいないと少なからず莉緒が心配になるだろうし、離れるのはお互いによくない。私は莉緒の耳元で囁いた。
「離れるつもりはないんでしょ?」
「そんなの当たり前です」
「じゃあ、離れないで莉緒。そばにいないと怒るから」
「……はい」
鼻で笑いながら私もどうしようもないなと思った。ちょっとくらい改善の余地があるはずなのにそんなに考えもしないでこの選択肢を選んだ。莉緒が好きだからだ。莉緒の負担も軽くて私にも良い選択肢なんて甘すぎる。だけど好きだからこの気持ちを優先したい。莉緒は胸元から少し離れて私にやっと顔を見せてくれた。
「景子さんも…離れたら怒りますからね?」
恥ずかしそうな莉緒に私は意地悪く答えた。
「莉緒が離さなかったらね」
「私は絶対離しませんもん。景子さんが嫌って言っても離れません」
「そう。そんなに私がいいの?」
至近距離で莉緒を見つめながら逃げられないように頬に手を添える。もう恋愛において恥ずかしいという気持ちがなくなった私にしたら恥ずかしそうにする莉緒は不思議な存在である。それと同時に愛らしいのには変わりない。莉緒はさっきのように逃げないで私を見つめ続けた。
「…いいですよ」
「どこが?」
「……それは、全部です。特に優しいところは一番大好きです…」
「そう。……前に言ってたもんね。優しい私が好きだって」
「……はい」
こうやって迫られるのも触れられるのも莉緒は慣れてるはずなのに意識して恥ずかしがっている姿は可愛らしくて見ていたくなる。私は情けないくらいこの子に振り回されている。頬を撫でるだけで少し嬉しそうにするのも、恥ずかしい癖に目を逸らさないのも愛らしくて鼻で笑ってしまう。
「あの、…景子さん…」
「なに?」
莉緒は吐息が触れる距離にいるくせに私を呼びかける。そして恥ずかしそうな可愛らしい顔をする莉緒は小さな声で言った。
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