第33話


「……本当に嬉しい?あれをやって好きだって言ったら、……莉緒は本当に前よりも嬉しい?」


したいけどしっかり確認しないと動けない。莉緒は私の問いかけに私の手を優しく掴むとキスをした。


「はい。嬉しいですよ?嫌な事が忘れられるくらい嬉しいです」


「そう」


そうか、莉緒がこう言うならやった方がいい。あんな辛そうな莉緒を私は見ていたくない。莉緒には嫌な思いをしてほしくないんだ。だから、だからもう抵抗は捨てよう。



あの行為は必ず幸せを呼ぶ。

死も呼び寄せるけど必ず幸せになる。

幸せにできるなら私は喜んでやるくらいじゃないとダメだ。胸の中の拭いきれなかったあの行為への偏見を私は莉緒のために捨てた。確実な幸せを与えてやるために。



「景子さん?…今日は…首を絞めながらセックスしませんか?今日はもっと、私の我が儘を聞いてくれませんか?……景子さんで頭をいっぱいにしたいんです……」


莉緒は私を抱き締めながら耳元で甘く囁いた。

それだけで私の心は動いた。この誘いは乗らない訳にはいかない。乗らないと莉緒を苦しめてしまう。


私は莉緒に囁いた。


「……いいよ。付き合ってあげる。今日は我が儘聞いてあげるよ莉緒」


今日だけじゃなくても莉緒が苦しまないなら我が儘は聞く。体を離した私に莉緒は嬉しそうにしていた。


「嬉しいです。じゃあ、じゃあ……乱暴にしてくれませんか?叩いたり、強く掴んだりもしてほしいです」


莉緒は私に虐げられるのを好む。セックスの時は顕著にそれを表してくる。私は以前暴力を振るってしまったのを思い出してしまって胸が痛むが、こうやって莉緒が望むならそれも思わない方がいい。セックスの時だけはこの戒めの気持ちは隠してしまおう。


「うん。じゃあ、服脱いで?ベッドでしてあげるから」


「はい」


私はソファから立ち上がるとベッドに座って莉緒を見つめる。莉緒は興奮したような顔をしながらソファから立ち上がるとその場で服を脱いだ。


「景子さん……胸も下も早く弄ってください。早く、……早くイきたいです…」


私の上に膝立ちしながら乗ってきた莉緒は私の頭に腕を回す。綺麗な体は見ていても何も思わないが莉緒の興奮しきった顔を見ているとまたあの気持ちが込み上げてくる。


今すぐにでも首を絞めたい欲求に駆られるが自分を抑えながら私は莉緒の体に触る。

莉緒が教えてくれた愛し方で、そして莉緒が望む愛し方をしてあげないと……。私は片手で胸を強く揉みながら空いている片方の手で尻を叩いた。


「あっ!……はぁっ……気持ち……いい。景子さん…もっと…、もっとしてください……」


「やめないから平気だよ」


こうしていると勝手に顔が笑ってしまう。笑いながら尻を強く叩いて乳首を弄ってやると、莉緒は喘ぎながら敏感に反応をして膝を折る。そして私の上に完全に乗っかってきた。


求めるくせに敏感でイきやすい莉緒はもう限界らしい。私はほくそ笑みながら尻の方から中に指を入れる。ぐちゃぐちゃのそこは莉緒が蕩けた表情をするのが頷ける。


「もうイきそうなの?」


赤くなった尻を触りながら莉緒を追い詰める私に莉緒は切なげに小さく頷く。



「…はい。……気持ちよくて……叩いてくれるのが、熱くて……んっ!……はぁっ、奥が疼きます……」


「そう。じゃあ早くしようか。痛くしながら早くしたらいけるでしょ?何回でも…」


興奮をさらに焚き付けるように、まるで煽るように私は言ってやった。この子は一回で満足するような子じゃない。感じている莉緒はそれでも笑った。



「あっ……はぁ、……はい。何回も……イかせてください。……何回も…んっ……はぁっ、んんっ…、イきたいです…」


私を高まらせる莉緒に私は笑いながら莉緒をさらに追い詰めてやった。







莉緒の体を乱暴に扱いながら強く揉んだり掴んだりして何回もいかしてやると莉緒は歓喜に満ちた表情をしていた。それが私を煽り続けていて、私は止まれなかった。


幸せにし続けていれば莉緒の闇は薄れると思ったから。

そして切なげな顔をして腰を震わせながら体をのけ反らせてイく姿には目が離せなくて、気づいたら私は笑いながら莉緒の首を絞めていた。



好きだと囁いて力を込めて息を止めてやる。それは私にとって喜びに似た何かに思えた。私は莉緒を愛して幸せにしている。莉緒の闇を払って守ってあげられているんだ。

そう思うと満たされた事がない私が少し満たされたような気分になる。


莉緒を助けてあげられる唯一の方法は私にはもうプラスの気持ちしか与えなかった。



これで大丈夫だ。これをしてあげれば莉緒は壊れない。莉緒は苦しまないのだ。

私は快楽に飲まれて笑う綺麗な莉緒を美しく感じながら笑っていた。





「莉緒、疲れたでしょ?寝たら?」


しかし終わったあとも莉緒はずっとにこにこしながら私を見つめてきた。何度もイって疲れているはずなのに疲れを見せない莉緒は落ち着いてから私からずっと視線を逸らさない。


「まだ起きてます。景子さんの目に写ってたいんです」


「いつも写ってるでしょ」


「でも写りたいんです。景子さんに見てもらえる時が幸せなんです私は…」


莉緒の言葉は私の胸を締め付ける。この子も私と同じで強烈に記憶に残されてしまったから無意識に望んでいる。それはあまりに哀れで切なくて私は莉緒の頭を撫でていた。


「じゃあ、私がちゃんと見てるからもう寝な?」


「…やです。目を合わせてたいし、まだ私は眠くありません」


「莉緒。そんな事言ってるとセックスしないよ?」


ただでさえ最近はストレスに悩まされていただろうから寝かせてやりたい。私の極端な脅しに莉緒は即座に嫌がるのをやめた。


「それ絶対やです!もう寝ますから景子さんも寝ましょう?」


「うん。分かったからおいで?」


「はい!景子さん大好きです!」


私は腕を広げてやるとすぐにきた莉緒を抱き締めてやった。寝ている時も嫌な事から守ってやりたい。私は腕の中にいる莉緒を軽く抱き締めながら頭を撫でてやった。あまりやった事がないからぎこちないかもしれないが莉緒は嬉しそうにしてくれた。


「ふふふ。景子さんに抱き締められちゃった。……ふふ、嬉しいなぁ…」


「……そんな喜ぶ事じゃないでしょ」


満面の笑みで笑っているがすごい事はしていない。率直な私の疑問に莉緒はすぐに答えてくれた。


「喜びますよ?今日は嬉しい事ばっかりなんですもん。景子さんいつも優しいのにいつも以上に優しくて本当に幸せです。景子さんありがとうございます。私の事気にかけてくれて、優しくしてくれて。私本当に嬉しいです」



「……そう」


お礼を言われても返答に困る。私はいつもと同じ返事をすると莉緒はむっとした。


「そうって、景子さんいつもドライ!……まぁ、そこも好きだからきゅんってきますけど…」


「そう」


私は別にお礼を言われたいからした訳じゃない。莉緒は何を求めているんだろう。莉緒はちょっと不満そうだったのまた嬉しそうに笑った。


「景子さん大好きですよ。私を愛そうとしてくれてありがとうございます」


「……」


しかし、思いもよらない言葉に私は言葉が出なかった。莉緒に見透かされていたのか?内心動揺してしまう。



「いっぱい景子さんの気持ち伝わりましたよ?景子さんが本気で私を想ってくれて……とっても嬉しいです。まだあんまり分からないですよね?」


莉緒の優しい声に少し後ろめたく思いながら答えた。


「……うん。……まだ、分からない。愛する行為はできるけど、気持ちは分からない。……でも、莉緒は愛したいよ」


今の私にはこれしか言えない。好きも愛もはっきりと分からないけど私の中で莉緒の存在は前とは違う。

これは確かだが、これしか確かと言えない自分が嫌だった。私は愛したいのに普通の人より劣っていてうまくできない。それなのに莉緒は優しかった。


「そうですか。そうやって思ってくれるだけで嬉しいです。景子さんにはもっと伝えていきますから悪く思わないでくださいね?景子さんは最初から分からなかったんだから仕方ないんですよ」


「うん…」


「でも、私がいますから大丈夫ですからね。……今日は好きって言えましたし、第一歩ですよ。これからも言ってみてくださいね?私の好きな言葉を言ってたらより分かりやすくなりますから」


あの言葉に莉緒のおかげで抵抗がなくなった。理解が深まるなら言わないはずがない。


「分かった」


「景子さんいい子です。偉いから誉めてあげますね?」


莉緒はなぜか突然頭を撫でてきたが誉められても何も言えない。私は呆れながら口を開いた。


「子供扱いしたいの?」


「違います。景子さんを誉めて伸ばしてるんです。勉強は誉めないとできません。それに甘やかさないと疲れちゃうのに景子さんは自分から甘えたりしないから私が甘やかすんです」


「……そう」


自信満々に言われてしまったが莉緒はなんか持論があるようだ。私は甘えるとか今までしてこなかったし苦手だから流したのにまた持論が展開した。


「景子さん?景子さんは甘えるのを覚えないとダメですよ?ちゃんと甘えないと心が疲れます。だから、景子さんは私にいっぱい甘えていいんです。分かりますか?」


「……うん」


「本当に景子さん分かってます?ちょっと試しに甘えてみてください私に」


「……今はいい」


「ダメです。今じゃないとダメなんです。早く甘えてください」


「……」


やはり面倒な事になった。もう深夜だし私も疲れがあるから寝たいのに莉緒はやらないと機嫌を悪くしそうだ。私は莉緒を見つめながら言った。


「キスして莉緒」


「はい!お安い御用です!」


元気に返事をした莉緒はすぐにキスをしてきたから私はもう終わりにしようと思った。


「もう寝よう」


「え?まだ終わってませんよ景子さん!」


「なんで?」


いつもしつこいけど今日は行動したのに粘るようだ。莉緒は納得していない。


「キスだけじゃ甘えたうちに全然入りませんもん!もう私が甘えさせてあげます」


莉緒はもぞもぞ動くと私の頭を胸に抱き締めてきた。そして優しく頭を撫でてくる。とても不本意だが莉緒の温もりは暖かくて気持ちいい感じがする。これは悪くない気分だった。


「こうやって甘えないとダメですよ?私はいつでも甘えさせてあげますからちゃんと甘えてください。甘えると気分が楽になりますから。分かりましたか?」


「……うん」


「今の聞きましたからね?景子さん大好きですよ」


莉緒は私を包み込みながら優しくキスをしてくれた。

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