第18話
「……ま…だ……です……」
莉緒の表情は変わらない。息ができなくなっている状況でこの子はなぜここまで笑えるんだ。それが綺麗に見えて、本当に魅力的に見える私はいったいどうしてしまったんだ。私は苦しめているのに胸の高鳴りを感じた。
「景子さん……す…き……です」
愛を口にする莉緒は私から目を逸らさなかった。ただ私を見つめて、苦しめている私に愛情を示す。そんな莉緒を見ているとさらに強く首を締めてしまう。私は気づいたら両手で首を絞めていた。
喜ぶのなら……。
愛を感じてくれるのなら……。
私は、私は……。
私は少し苦しそうにしだした莉緒にただ思った事を伝えた。
「莉緒、綺麗だよ。……本当に、綺麗だよ」
私には今の莉緒が魅力的に見える。興味がなくていつもウザくて鬱陶しかった莉緒が死を間近に感じながらも愛を囁くその姿が私を引き付ける。
この子はこんなに綺麗だったのか。
笑う莉緒が幸せそうで、儚くて、ずっと見ていたくなる。
なんて綺麗なんだろう……。
なんて幸せそうなんだろう……。
もっと……もっとその表情が見たい。
そして私が息を止めてやりたい……。
「…せん……せい………わ、わた…し……」
強い欲求を感じていた私は莉緒の苦しそうな声に我に帰って首を締める手の力を抜いた。
私は今、何を考えていたんだ。
今まで感じた事のない気持ちは私を今さら動揺させる。
莉緒は荒く呼吸をしながら私に抱きついてきた。
「はぁ、はぁ、はぁ、……景子さん……すっごく気持ちよかったです。気持ちよすぎて……頭、おかしくなりそうでした……」
私は莉緒の重みを改めて感じながら軽く腰に腕を回した。
「……幸せになった?」
莉緒を殺しかけた。その重大な事実を感じながらも尋ねてみたら莉緒は嬉しそうに言った。
「はい。幸せすぎて……先生の事もっと好きになりました」
「……そう。落ち着いたらもう上がろう」
「はい……。でも、もう少し待ってください」
莉緒は殺されかけたのに本当に嬉しそうに笑った。
あぁ、分からない。私はどうしたんだ?あんな感情が沸き出るなんてどうなっているんだ。元々おかしかった頭がさらにおかしくなってしまっているのか?私は葛藤しながらも莉緒が落ち着くのを待ってから風呂から上がった。
莉緒は風呂から出ると上機嫌だった。ベッドに入るまでそれほど会話はしていないのに余程風呂での事が嬉しかったのか私の隣に密着しながらにこにこしている。
「……なに笑ってんの?」
ベッドに入った私は隣にいる莉緒に話しかけた。あんな事をしたのにあんまり嬉しそうにするから莉緒は死を感じなかったのか。
「だって先生が叩いてくれたからお尻がじんじんして先生の痕が残ってるみたいで嬉しいんです。それに先生があんなに私を見てくれるから…嬉しくて頭から離れなくて……」
「…見てただけだよ?」
嬉しそうに話す莉緒は私の頭をいつもみたいに撫でてきた。
「もう、……先生は全然分かってません。先生の目って切れ長で鋭くて優しいですけど、見つめられると熱くなるんです……。でも、……あの」
訊いても分からないから訊こうとしたら突然もじもじしだした莉緒。莉緒らしくない反応だ。いったいどうしたんだ。
「なに?早く言ってくれる」
「あの、……あの……私の事、綺麗って、……あれ、本当ですか?」
莉緒はあんな事をしておいてなぜか綺麗という言葉に恥ずかしがっていた。
「……そんな事気にしてたの?」
あんな自慰行為をして醜態を晒した方が恥ずかしいと思うのに。莉緒は恥ずかしがりながら反論してきた。
「そんなの気にします!先生いつも私の事誉めてくれないし、興味なさそうだしあんまりこっちも見てくれないじゃないですか!……それなのにいきなり……いきなり綺麗とか、……その、言われて、……私の事からかったんですか?」
「どっちだと思う?」
私はあまりに照れる莉緒に笑いながら逆に尋ねた。あんな言葉だけでこんなに反応されると面白くなってしまう。莉緒はちょっとムッとした顔をする。
「分かってたら訊いてません。……先生やっぱりからかったんですね?……酷いです。私、すごく嬉しかったのに……」
「莉緒」
「なんですか?またからかうんですか?」
私は勘違いして悲しんでいる莉緒の頬を撫でた。あんな事で喜ぶなんてこの子は単純だ。
「綺麗だったよ本当に。莉緒の嬉しそうな顔綺麗だった」
「今度は本当ですか?」
「嘘言ってなんかなるの?」
莉緒が綺麗だから殺しかけた。莉緒に流されてしまいそうになったのに莉緒は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「…嬉しいです。やっと先生の気を引けたんですね私。私の感じてるところはどうでした?」
可愛く笑うくせにこういう話をしてくるあたりが莉緒らしい。私は鼻で笑った。
「まぁ、いいんじゃない?」
「そうですか。ふふふ、じゃあまた付き合ってください。先生が触ってくれないからムラムラしちゃうんです私。先生は私の首を締めて叩いてくれれば気持ちよくなるのでそれだけしてください」
「そう」
莉緒はあの行為に魅了されている。というよりもうあの行為は莉緒の中で単なる苦しい行為ではなくなっている。
「あれはそんなに気持ちいいの?」
あの行為は一歩間違えると死なせてしまう。今日は危うく殺してしまいそうになっていた。欲求に負けて私は首を締める事に頭がいっぱいになっていたのだ。あの行為が幸せを呼ぶ行為だから。
だが、私を狂わせてくる行為は莉緒の中では本当に気持ちがいいみたいだった。
「はい。なんか、頭が痺れるみたいに感じて……苦しいのがぞくぞくして、堪らないんです。私、SMとか……全然した事なかったし好きじゃなかったんですけど、先生がしてくれるなら別です」
「そう」
莉緒の気持ちは分からないけどセックスよりも莉緒は感じているのか?もう少し訊いてみようとしたら興味深い事を言われた。
「今までにないくらい愛を感じましたよ私。先生はその気はないかもしれませんけど」
一瞬見透かされた気がしたが莉緒は恍惚とした表情で語る。
「先生は好きとも言ってくれなければ可愛いとかそういう事もほとんど言ってくれません。だけど、ああやって首を締める時は私だけに集中して、私だけに力を使って息を止めようとしてくれますよね?私はあの瞬間先生に独占してもらってるんです。あの瞬間は二人だけのものなんですよ。先生はあの時だけは私を占領して、私だけを幸せにしてくれる。それってすごい大きな愛情だと思いませんか?短い時間だけど、すごく気持ちよくしてくれて私をあの時間だけ最大限に愛してくれる……。先生は何も思ってないかもしれないけど、私は嬉しくて気持ちよくて……すごく愛情を感じます」
あれはやはり愛する行為なんだ。莉緒の言葉に確信する。幸せになるのであれば愛に結びつけるのは容易い。
これで明確に証明された。
私は苦しめていないのだ。
私は、私は莉緒を確実に愛していた。
「……愛せてる?私は莉緒を」
しかし、あれだけが愛なのか?私はあれだけで愛せているのか?分からない私の中では理解が難しい。莉緒は私の頬を撫でた。
「先生の言動が私に向くなら、それは全部愛にしか感じませんよ。先生は私に構うだけで私は愛情を感じるんです。愛するのは簡単なんですよ先生。先生は無意識に私を愛してくれてます。先生?私も愛してますよ。何よりも……誰よりも……先生が愛しくて愛しくて……殺してほしいくらい」
「……莉緒は何をしても愛情に感じるの?」
愛する行為をしていたと言う莉緒に頭が追い付かない。私の言動が莉緒に向くだけでそれが愛になるなんて、愛がなんなのか分からなくなる。
莉緒はただ触れるだけのキスをすると頬を撫でながら囁いた。
「先生を愛してるから当たり前ですよ。私は先生を愛していないくせに先生と付き合ってたやつとは違います」
「どういう事?」
この子の思考はどうしてここまで違うのだ。自信がありそうな莉緒をおかしく感じなくなってきている私はなんなんだ。莉緒はさらに続けた。
「先生を愛するために生まれた私は先生に証明し続けないといけないんです。私が誰よりも、何よりも先生を愛して、愛し続けてるって。愛しているならこれは当たり前の事ですけど、私が生きていく中で一番重要な使命のようなものです。それをしないと私の存在価値がないですし愛しているなんて言えません。先生?ずっと私がそばにいますよ。私の大切な先生を私の愛情で幸せにして嫌な事から守ってあげます」
莉緒は頬を撫でていた手を私の頭の横においたと思ったら私の上に移動して上から見つめてきた。
「先生……好きです。愛してます。先生の愛情にちゃんと返してませんでした。さっきあんなに私を愛してくれたのにダメですね私。ごめんなさい。……先生少しだけ食べてもいいですか?私も愛したいです」
「……いいよ」
莉緒の考えは狂気的でいきすぎている。でも今までのやつらのような落胆は感じない。莉緒の言葉は私には新鮮で希望を感じるみたいだった。まるですがりたくなるほどに。
私という病魔に侵されているような莉緒は嬉しそうに笑うと私の頬を舐めて首に噛みついた。
「先生……美味しい……はぁ、……んっ……好きですよ……食べたいくらい……愛してます……」
吸い付いたりキスをする莉緒は興奮したように話ながら性欲を掻き立てるような音を立てる。
残念ながら私は興奮はしないけれど莉緒を見ていると私の中の今まで知らなかった加虐的な心がまた頭を出してくる。私は莉緒を強引に押し倒すと莉緒の顔に指を近づけた。
「食べないの?」
「はぁ……食べます……」
性的な表情を浮かべる莉緒はにっこり笑うと私の指をしゃぶりだした。唾液でべとべとになりながら莉緒の熱い舌の感覚を感じる。
私はそんな莉緒を見つめながら苦しくなるように奥まで指を入れてやった。
「んっ!……あっ、……んんっ……はぁ……」
少し苦しそうにするが莉緒は私の指を離さない。きっとこれにすら感じているのだろう。私は指を苦しくなるように奥まで出し入れしながら笑った。
「ちゃんと舐めないともう食べさせないよ?」
「んっ!……はぁ、はぁ、……んっはぁ……ごめん……んんっ!……なさい……んっ……舐めます……から」
「じゃあちゃんとやって?」
私は間近にいる莉緒に囁くと、莉緒は小さく頷いてくぐもったいやらしい声と苦しそうな声を漏らしながら指をしゃぶり続けた。舌を絡める莉緒は必死にしているみたいだがぬちゃぬちゃと出し入れしている口の中では気持ち良さが勝っているのだろう、莉緒は次第に出し入れに合わせて動くようになった。
「気持ちいいの?」
「はぁ、……んっ!……はぁ……んんんっ!……はぁ……」
涙目になって奥に入れる度に苦しそうにする莉緒は頷いた。こんな事で快楽を感じるなんて、この子のこういうところはなぜか惹かれてしまう。
私は少しそれを眺めてから唐突に指を抜いた。
「泣くほど嫌だった?」
分かっていながらもほくそ笑む。莉緒はすぐに否定した。
「違います。気持ちよくて涙が出ただけです」
「へぇ……。気持ちよかったんだね?」
「はい。先生が攻めてくる感じがして、ぞくぞくして興奮しました」
「そう。それよりべとべとなんだけど」
こんな行為すらも愛なのか。私は考えながら莉緒に唾液が滴る指を見せつけた。莉緒は私の手を握るとすぐに私の指に吸い付いた。
「ごめんなさい先生。……綺麗にしますから、ちょっと待ってください……」
莉緒は謝るくせに恍惚とした表情で私の指の唾液を舐めとっていた。
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