岡山で泊めてもらう
この年のGWには日本海から太平洋を目指すというキャンプに参加した。
バスに乗り、鉄道を使い、重い荷物を背負って毎日10km近く歩いて、金沢から名古屋まで日本縦断の旅をするという企画だ。世界遺産などの名所に寄りながら、地図を広げ、自分たちの歩く道は自分たちで決める。時には野宿もする。何ともロマン溢れる旅だった。
最後の夜にはみんなでご褒美の味噌煮込みうどんを食べ、その旅の終着点、名古屋駅で苦楽を共にした仲間と別れた。
が、誰もが一度は聞いたことがあるように、子どもたちは帰るまでが旅である。僕の最後の任務は子どもを岡山駅まで無事に送り届けることだった。
事前ミーティングでこの話を聞かされた時、僕の胸は高鳴った。岡山にはまだ行ったことがなかったからだ。
「岡山まで送り届けたら現地解散だから好きにしていいよ」
そんな僕の高鳴りを見透かしたのか、ボスからそう言われていた僕は、子どもを送り届けたその足でみどりの窓口へ行き、帰りの新幹線の切符を一週間遅らせた。
一人だけ旅の延長だ。
幸いなことにボランティア仲間の一人が岡山に転勤になっていて、そこに泊めさせてもらえることにもなっていた。
早速友人に岡山に着いた旨を伝えると、
「え、今日?今日はいないよ」
とまさかの回答が返ってくる。GWのため実家に帰省しているという。帰ってくるのは翌日。とにかく今日の行くアテがなくなった。
ひとまず適当に夕飯を済ませ、昔ながらの銭湯に入り、今晩の寝所を探す。繁華街を離れ、薄暗くなった路地を歩く。公園を探して。
キャンプ帰りで寝袋も持っていたし、日本での野宿の経験はかなりあった。無料で泊まれると思うと、漫画喫茶の2000円だって惜しいと感じてしまう程の貧乏旅を繰り返してきていたのだ。
しかしながら、初めてきた場所で土地勘もない。しかも県庁所在地ともなると、人目のつかない公園などなかなか見つからない。恐竜の吊された奇怪なアーケードを通ったりと、しばらくは初めての街を徘徊していた。
それにしても中々見つからない。公園は諦め、土手で寝ようと川に向かって開けた通りを歩いていた時、状況は一変した。
無意識のうちに困っている雰囲気を醸し出していたのかもしれない。声を掛けてくれる人がいた。
「イ、イエス。アイムジャパニーズ。」
「日本人ですか?」と英語で問われて、出た言葉だった。日本にいて、日本人から英語で日本人かと聞かれる。という不思議な状況に戸惑いながらもどうにか返事はできた。
「暗かったしアジア圏からきたバックパッカーかと思ったんだ。この辺も結構多くてね。ごめんね」
日本人とわかると、その人は照れたように言った。
確かに薄暗い中、大きなバックパックを背負って、立ち止まって地図を眺めていたら外国人にも見えるだろう。
加えて僕は顔が濃い。宮崎に移住した時も顔が濃い言われている九州の人達から「沖縄から来たのか?」と言われるほどに顔が濃いのだ。
「どこか探してるの?」
「野宿をしようと思ってて、寝所を探しててるんです」
「野宿?野宿…。うーん、あそこもダメだろうし…」
さすがに野宿できる場所を知っている訳はなく、確実に困らせてしまったが、それでも親身になって考えてくれた。
「いまって時間ある?近くの英会話Barで働いてるんだけど、もしよかったら寄っていかない?」
お互いのことについて話していると、話は思わぬ方向に話へと流れていった。それでも物腰の柔らかい、とても話しやすい人だ。もう少し話したいという気持ちが湧いてきていた。
名前はトモヤさんといい、以前バックパッカーをしていたらしい。旅先で色々な方に助けてもらった経験を少しでも返そうと、困っている旅人がいるといつも話しかけているという。とても素敵な人だった。
英会話Barに着くと外国人と日本人が半々くらいの割合で混ざり合って、二つの机を囲んでいた。トモヤさんに紹介してもらい、僕もその内の一つのグループに入れてもらう。
目まぐるしい展開に脳みそがついてこなかったが、会話についていくために全聴力を傾けた。
時間も遅くなり、みんなが帰ろうとするタイミングで僕も店を出ようとする。キャンプの疲れと英語疲れとでもうヘトヘトだった。
「あ、ちょっと待って。もう少し話そうよ。何もないけどここ泊まっていっていいからさ。外よりはいいでしょ」
トモヤさんは最初に話しかけてくれた時と同じ笑顔でそう言ってくれた。
お互いの旅の話、岡山県についての話、自分が今までやってきたこと、英語Barを開くに至った経緯。先程までの疲れはどこへ行ったのか、尽きない話題に盛り上がった。
気づけば日付も変わり、すっかり夜もふけていた。
明日の朝は、近くの河原で朝市があるらしい。
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