夢みせるユメ。

佐々木実桜

ユメをみた。

ほんっとうについてない!

朝寝坊はするし鳥のフンは降ってくるし忘れ物はするしで学校で一番怖い先生に怒られるし、体育の授業で転んでみんなに笑われるし、本当にもう、嫌になるな。


おまけに気分を晴らそうと買ったシュークリームをこぼしちゃって裾はクリームまみれ。



「「今日は本当についてへんな」」


え?


「なーんて声が聞こえてきてもたらもうユメの出番しかないですね!」


「え、誰ですか?」


同じ制服を着た見たことの無い美人さんがどこから来たのか突然現れてついたままのクリームも放ったらかしに後ろへ一歩下がった。


「あ、そんなにご警戒なさらんと!どうも、ユメです!」


「あ、はい、佐倉さくらです。さようなら。」


「待って待って行かないで!!」


進む足は止まらない。待つわけがない。誰が突然現れた似非エセ関西弁の不審者をご丁寧に待つってんだ誰だその馬鹿は。


「似非ちゃうわ!!」


似非以外の何ものでもなかろうが、大体最近の子はすーぐ関西弁言うたらちゃうちゃう言いよって、って、え?


「え?」


今、口に出してへんかったよな?


「せやな」


いや、せやなやのうて。


「やから、そうやねんって。口には出してへんよ」


ほぉ。じゃあ、うちの心の声が聞こえとるとでも言うんか。


「まあ、そうなるわな。うち、やし!」


へぇ〜。


「うん」


・・・・・


「いや、うんちゃうねん!」


危うく納得する所だったがしていいはずがない。

ただの似非関西弁の不審者かと思ったら実は電波系の不審者だったのだ。余計に危ない。


「だってうんとしか言いようがないんやもん、ただの事実やし。」


「誰が信じるんですかそんなもん!夢の妖精なんてそんなん信じる人ピュアピュアのピュアじゃないですか!」


「いやそっちこそピュアピュアのピュアってなんやねん、そんな日本語私知らんで。」


つい慌てて変な造語を生み出してしまった。

でも自称夢の妖精よりはマシだろう。まだまともだ。


「ええから、はよ話進めるで!」


自称夢の妖精ユメは呆れたような態度で吐き捨てるように言った。


「えー、改めまして夢の妖精ユメです!夢の妖精でユメって安直すぎやしないかー言うてね、そんな意見は受け付けておりません!どうぞよしなに!」


突っ込む前に予防線張られた。関西人失格である。


「えっと、こんにちは、しがない高校生の佐倉です、とりあえず今はクリームを拭いたいです。ユメさんウェットティッシュ持ってません?」


そうなのだ。佐倉はユメが現れる前からずっと裾がクリームまみれのままだったのである。クリームベッタベタの女子高生じぇーけーなんて不審だ。夢の妖精並かもしれない。



自称夢の妖精ユメは佐倉の裾を拭って、そして最後まで大人しく聞くようにと前置きをして話し始めた。


「もう遮らせへんで!夢の妖精ってなんや思ったかもしれんけど、正直な話ただの願いを叶える妖精や。ええ夢のような事を起こしてくれるから夢の妖精やったかな、知らんけど」


知らんけどは関西人がよく言う言葉で1番嫌われる言葉らしい。知らんけど。


「んで、妖精界からなんやえらい疲れたやつおるな思たらびっくりするほど不運に付きまとわれとるから、じゃあもう出張るしかないって、な?」


「なるほど…」


うちがあまりにも不運に見舞われまくるもんだから妖精界からはるばる飛んできてくれたと。


「せやでぇ、遠かったわ〜」


へぇ。


「よし、帰ります!」


「いやほんまに待って!?」


どう考えても信じられるわけが無いのだ。まず妖精界ってなんだ何処にあるんだ何がいるんだ!!


「だって明らかにおかしいでしょ!どこのラノベですか!!」


「ここのラノベってことでええからちゃんと聞きって!!」


双方息を切らしながら口論と言ってもいいのか分からない会話を交わす。

平日の夕方の公園で制服姿の高校生2人が口論なんて高校の評判だだ下がり間違いなしだがうちの高校は元から評判が悪いので気にする必要は無い。



「はぁ、それで、ユメさんは結局何をしに来たんですか?」


イジるのにもツッコむのにも飽きた佐倉が問うた。


「やっと聞く気になってくれたか。ようは願いを叶えたろって話や!興味湧いたやろ?」


「いいえ、全く。」


似非関西弁はやめないらしい。


「なんや欲のない高校生やなぁ」


井戸端会議をする近所のおばさんのように手をヒラヒラさせながらユメは言う。


「欲はありますよ。警戒心が強いだけです。」


「ぐぬっ、ま、まあ警戒心は大事やからな。とにかく夢叶えたるからひとつ言うてみ!」


ほれほれ、と本当に美人がもったいなくなるような顔で今度はおじさんくさい動きをするユメ。


「え〜じゃあシュークリームください、クリームたっぷりの。」


「却下。」


ニヤニヤしていたくせに途端に真顔になってしまった。


「なんでですか、立派な願いじゃないですか」


「なんでですかやあらへんわ!それにあげてもどうせまたこぼすやろ!」


「否めない。」


「否め!」


どうやらご要望には添えなかったらしい。


「じゃあ他のお菓子ください!」


「却下!」


「服!」


「却下!」


「コスメ!」


「却下!」


「SNSのフォロワー!」


「却下!」


「え〜、もうないですよ〜」


「なんやもっとまともな願いはないんか!」


美人の呆れ顔はなかなかくるものがあるようだ。

佐倉は困り顔で、思いついたように、そして照れくさそうに小声で言う。


「あの、じゃあ、こ、恋人とかって」


「きゃっ、かちゃうで、なんや詳しく話してみい」


ユメは今度は友人と恋バナでもするようなニヤケ顔で佐倉に近寄った。


「好きな人が、いるんです。同じクラスの人で、あまりお話は得意じゃないみたいなんですけど。」


佐倉は恋心を隠しきれぬ乙女の顔で話し始める。


「随分前にも、今日みたいにえらいついてない日があって、その日も派手に転んで、ここに座って落ち込んでたんです。」


「その時に山野くんが、あ、山野颯太やまのそうたくんって言うんです。山野くんが現れて『どうしたの?』って言ってくれて、話を聞いてくれて、頭を撫でてくれて、そして、絆創膏と、シュークリームをくれたんです。『元気が出る魔法をかけておいたよ』なんて言って、」


「それがほんまに美味しくて、どこのシュークリームかはずっと分からないままなんですけど、私その日のことが忘れられなくて、何度か学校でも話してみようとは思ったんですけど如何せん人見知りなもので、」


少し泣きそうに、でもユメよりも美しく見える乙女の顔で、そして一息ついて


「それで、落ち込むことがあったらここでシュークリームを食べるようにしてるんです。コンビニのだから味はだいぶ違うけれど、あの日を思い出して、『元気が出る魔法』の効力が少しでも復活しないかなって。」


恋する乙女の笑顔は素晴らしいもので、そしてユメも夢の妖精ではあるものの同じ乙女として刺さった部分でもあったのか、少し顔を赤くして、今から膨らむだろうフグのような顔で佐倉の肩を掴んだ。


「決定!ええやんええやん最高やん!なーんやあんたも立派な願いあるやないの!ちょっと人選び失敗したかな思ったけど、全然ありや、あり!ありよりのあり!」


興奮を抑えきれない様子でふんふんと言いながら佐倉の肩を揺する。


「よっしゃ!恋する乙女を応援せーへん妖精は妖精やないからな!アッコならぬユッコにおまかせや!」


某番組の名前をパクりながらユメは意気揚々と立ち上がり、何を思ったのかネクタイを外し始めた。


「ちょっ、何するんですか!」


それは焦るだろう、同じ制服を着た女が廃れた公園とは言えども公共の場でストリップでも始めるのかという動作をしたら。


「あ、こりゃ失敬。ユメの魔法は使うのにネクタイが必要なんや。杖みたいなもんやな。さてとっ、いっくで〜!」


そう言うとユメはネクタイをバレリーナのリボンのように振り回り始めた。それが似合うのだから美人はずるい。


ユメが回るとすぐに周りの様子が変わったのかといえばそんなことはなく、そしてユメは最後のトドメのように呪文のようなものを唱える。


「ユメユメユメユメユ〜メユメ、ユメの花よ、サクラのユメを叶えちゃえっ!」


なんだこの小学校低学年が考えそうな呪文は。

佐倉はそう思っても口には出さなかった。どうせユメには聞こえているけれど。


「低学年いうな!もうええもん!ユメちゃんおうち帰る!じゃあね佐倉!あ、言い忘れてたけど口の周りにクリームついてんで!!」


そしてユメはどういう原理か消えてしまった。


願いは叶わなかったのだろうか、やっぱりただの電波系不審者だったのだろうかとは考えながら佐倉はユメが来る前よりも気分が晴れていることに気づいた。


「まあ、気は晴れたしいいかな。しかし変だったなあ、似非関西弁。」


「誰の?」


「え?」


ユメが消えた場所を見つめていていつの間にか後ろにいた気配に佐倉は気づいていなかった。


「佐倉さん、またここで落ち込んでたの?」


山野颯太だ。ユメの仕業なのか、そうとしか考えられない。と頭では混乱しながらも外面は冷静な佐倉。


「まあ、そんなところです。山野くんは、どうしてここに?」


「探しに来てみたの、佐倉さんのこと。」


「、え?」


「今日も派手に転んでたから、またここに来てないかなって」


確かに今日も転んだ。みんなが見ている前で、凄く恥ずかしかった。


「そしたら居たから、来てよかったよ。でも、もうシュークリーム食べちゃったかな?」


その言葉で佐倉はユメの最後の台詞を思い出した。


『口の周りにクリームついてんで!!』


ハッとして口の周りを拭う佐倉を見て山野は笑う。


「今僕があげても、貰ってくれる?」


「い、いただきます!!」


そう返した後にこれではただの食い意地の張った女じゃないかとは思いながらも佐倉はいただくことにした。



「あの、これ、どこのシュークリームかきいてもええ?どこ探しても見当たらんくて」


「あー、僕の手作りだよ。」


「え?!」


「ごめん、引いたかな。」


山野が言うには彼の家はパティシエの父と母が小さなカフェを営んでいるらしく、その手伝いの延長でお菓子を作ることが趣味になったそうだ。


「あ、それで魔法…」


「うん、シュークリームを作ってた時に佐倉さんのことを思い出して、うちここから近いから犬の散歩の時とかに佐倉さんが来てたの見かけたことあったから、もし居たらあげたいなって、ごめん」


「なにがですか?」


「いや、言ってみたらストーカーみたいだなって思って、」


「それでも私はそれで元気になれたからいいんです」


佐倉にしては珍しく自信を持った話し方だ。

これも、ユメの魔法なのだろうか。


「そっか、よかった。」


「でも、1つきいてもいいですか?」


「うん、なに?」


「なんで私に渡したいと思ったんですか?それに、今日居るかもしれないって思って、会いに来てくれたのは、なぜ?」


「それは、佐倉さんのことが…」


聞きながらも佐倉は確信したような目をしていた。

なぜなら、秋なのに一輪だけ咲き誇る見たことの無い花を見つけたから_____________。





「もうそろそろ佐倉の夢が叶ったところかな〜!しかし、酷い子やわぁ、せっかく合わせやすいように関西弁頑張ったってゆーのに。さてと、次は誰の夢にしようかなぁ〜。」

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