第195話「奴隷少女(と親友)の冒険者救出作戦+ラブコメ参考計画(前編)」

 ──冒険者ギルドにて──





「無人島に現れた魔物の討伐とうばつクエストは、別のパーティが受注されていますね」


 そう言ってギルドの受付嬢うけつけじょうは、羊皮紙ようひしをめくった。


 ここは『保養地ミシュリラ』の冒険者ギルド。


 アイネとレティシアは無人島に出た魔物の情報を得るため、急いでここに来たのだった。


「数日前に船で島に向かった記録が残ってます。間違いありません」


「じゃあ、冒険者さんはもう討伐を始めてるということなの?」


「はい。おそらくは、戦闘を開始しているはずです」


 アイネの問いに、ギルドの受付嬢がうなずく。


 その言葉に、ほぅ、と、アイネは胸をなでおろした。


「……よかったの」


「これでアイネも安心ですわよね?」


「ありがとうレティシア。これで、なぁくんが戻ってくる頃には魔物もいなくなって、安心してバカンスに行ける状態に──」




「でも……パーティの帰りが遅いですね」




 ギルドの受付嬢が、ぽつり、とつぶやいた。


「討伐に出かけたのが3日前ですから、もうそろそろ戻ってきてもいい頃なんですが……」




「大変だ! 無人島に向かったパーティが行方不明になった!」




 不意に、ギルドの入り口で叫び声が上がった。


 入ってきたのは、上半身裸で筋肉質の男性。


 頭にははちまきをして、腕には『大漁上等』という入れ墨をしている。保養地ミシュリラの漁師だ。


「オレの船で無人島に冒険者たちを送ったんだが……予定の時間になっても約束の場所に来ねぇんだ。砂浜に置いた補給用の食料にも手をつけてねぇ。それどころか、砂浜にまで魔物が来てる状態だ。あいつらに……なにかあったとしか……」


救援要請きゅうえんようせいは!? 『灯り』の魔法は上がっていないのですか!?」


「一度だけ見た。森の上に、時間をおいて5つ」


「……パーティの仲間に向けた信号ですね。意味は『いのちをだいじに』」


「ちょっと待ってくださいな」


 レティシアが手を挙げた。


 受付嬢と漁師がうなずくのを待って、話し始める。


「仲間に向けた信号を空に放つということは……その冒険者たちのパーティはお互い、直接は連絡を取れない状態にいる。つまり……ちりぢりになっているということでは?」


「しかも『いのちをだいじに』って……生き延びることだけを考えなきゃいけない状態ってことなの」


 レティシアの言葉を、アイネが引き継いだ。


 受付嬢と漁師が目を見開いた。


 冒険者ギルドに、沈黙が落ちた。


 ギルドにいる冒険者たちにも、言葉の意味がわかったのだろう。


 島に向かったパーティが、命の危機にさらされているということ。すぐに救援に向かわなければ、全滅の可能性がある、ということも。


「……こうしてはいられないの」


 アイネの額に、冷や汗が伝った。


 緊急事態だ。今すぐ、そのパーティを助けに行かないといけない。


 救い出し、無事に保養地まで連れ帰るのだ。でないと彼らの命が危ない。放っておくことなんかできない。


 もしも彼らが命を落とすことになったら……すべてが終わってしまう。




(だって…………冒険者さんたちの遺体がある島で、なぁくんといちゃいちゃなんかできるわけないの!)




 手段を選んでいる場合じゃない。


 バカンス用の無人島で死者が出たら、アイネの予定が狂ってしまう。水着も、『ホーンドサーペントの干し肉』も用意したのにだいなしだ。


 そんなこと、許せるわけがなかった。


「……す、すぐにギルドの出資で『救援きゅうえんクエスト』を出します! 想像以上に魔物が強かったのかもしれません。で、でも……すぐに動けるパーティなんて……」


「「はい (ですわ)(なの)っ!!」」


 レティシアとアイネは、同時に手をげた。


「ん?」「あれれ?」


 息の合った反応に、思わず視線を交わすレティシアとアイネ。


「正義の貴族として、危機におちいっているパーティを見殺しにはできませんわ」


「アイネは、その人たちの命を守りたいの」


「わたくしの力はたいしたことはありませんが、パーティを島から逃がすことくらいはできるでしょう」


「アイネの力のすべてを使って、その人たちを島の外に出してあげるの」


「すべての人を救おうなんて考えてはいません。ただ、わたくしのまわりにある危機の被害を、少しでも減らしたいだけですわ!」


「そうなの。アイネがご主人様のすべてを知ってしまう場所の被害は、減らすべきなの!」


「アイネ!」


「レティシア!」


 がしっ。


 アイネとレティシアは固く手を握り合う。


「協力してくれますの? アイネ」


「もちろんなのれてぃしあせいぎのためなのー」


「……なんだか口調がおかしいですわね」


「きのせいなのー」


「…………なんだか上の空ですわね? アイネ」


「ほんとにきのせいなのー。そうそう、受付嬢さん。島にいるパーティさんの情報を教えて欲しいの。とにかく急ぐの。助ける人のことがわかってないと困るの」


「は、はいっ」


 アイネの鋭い視線に、受付嬢はびしりっ、と背筋を伸ばす。


 彼女は肩を震わせながら、手元の羊皮紙をのぞき込む。


「無人島に行っている冒険者さんは6人です。男性3人の女性3人。それぞれ事情のある方のようですね」


「事情?」


「はい。商人の娘さんと、その子と恋に落ちて駆け落ち中の冒険者さん。貴族の三男坊さんと、彼との仲を認めてもらえないハーフエルフさん。俺に勝ったら娘をやろうと言われて修行中の新米騎士さんと、彼を助けるために家を飛び出してきた騎士の娘さん。以上、3組の仲良しさんによるパーティです。

 みなさん、似た事情だから、意気投合いきとうごうしてパーティを組んだようです」


「「……なるほど」」


「それから、島にいる魔物は──」


 受付嬢の話を聞きながら、アイネは考え込んでいた。


 無人島にいるのは3組の恋人たち。しかも、魔物に囲まれて島から出られない状態だ。


 おそらくは……危機を前に、彼らの心は強く結びついているはず。となると──




(……参考になるかもしれないの)




 アイネには、ロマンチックなシチュエーションはよくわからない。ずっと『庶民ギルド』の仕事ばっかりしていたからだ。同年代の少女たちがするような恋話なんかとは無縁だった。だから……ご主人様と……どうやったら『いい雰囲気ふんいき』になれるのか、自分ではわからない。


 だが今、無人島には3組の恋人たちがいる。


 駆け落ち。種族違い。身分違い。ヴァリエーションも豊富だ。


 もしかしたら……危機に陥っている彼らのやり方が、参考になるかもしれない……。


「……アイネ?」


「あ、はい。うん。わかったの」


「わかりましたの? 魔物は海の物が主で、サイズも結構大きいですのよ?」


「そうなの。うん。大丈夫、ちゃんと参考にするの」


 アイネは、こくこくこくっ、とうなずいた。


「知識も経験も、なにひとつ無駄にしないの。アイネとご主人様の、これからのために」








 ──数時間後。無人島にて──




「この! 来るな! 来るなあああっ!!」


 剣士の青年は、両手剣を真横に振った。


 かきん、と、かたい音がした。剣はあっさり、魔物の皮膚にはじかれた。


 それでも、敵をひるませる効果はあった。その間に仲間の手を引いて、高台に向かって走り出す。


「だ、大丈夫。君は俺が守るから」


「……う、うん。信じてる」


 荷物持ちの少女は目を輝かせて、青年を見つめていた。


 駆け出し冒険者の彼と、大商人の娘である彼女が初めて出会ったのは、今から半年前、商業都市メテカルでのことだった。


 最初に視線を交わしたとき、全身に電流が走ったように感じた。


 お互いの気持ちを確認したのは2週間後。2人は交際を認めてくれるように商人に頼んだが拒否された。それどころか、商人の娘である彼女に急な縁談の話まで来たのだ。


 手に手を取って逃げ出したのは、その数日後。


 剣士の彼の荷物持ちポーターとして働く毎日だが、苦労だなんて思ったことはない。


 こうして一緒にいられるだけでも、十分彼女にとっては幸せだった。


「来たぞ! 急いで。この森の向こうに!!」


「う、うんっ!」


 少女は荷物を抱えながら、坂道をよじ登っていく。


『ピィイイイイイイ! キイイイイイ────ッ!!』


 2人の背後から、巨大ななにかが近づいてくる。


 それは深紅の皮膚ひふを持つ、ひらべったい魔物だった。


 身体の下部には無数のトゲが生えている。捕まったが最後、あのトゲに身体を指されて、体液を抜き取られるのだ。敵のサイズは小屋くらいもある。剣士ひとりで太刀打ちできる相手ではなかった。


「……せめて他の仲間と合流できれば……」


 剣士の少年はまわりを見回した。


 ここは無人島の中央にある丘。まわりは背の高い木々に囲まれている。


 上陸してすぐに魔物に襲われ、仲間のパーティはちりぢりになった。数日前に『いのちをだいじに』の信号を見たが、その後はなんの情報も入ってこない。


 探そうにも、剣士と商人娘は巨大な魔物に目をつけられている。合流すれば、仲間を危険にさらすことになる。


 そうなったら冒険者としての将来に汚点を残すことになってしまう。


「しつこい奴だな! 『ジャイアントスターフィッシュ』!!」


 剣士の青年は両手剣を手に、叫んだ。


『キイイイイイィ!!』


 声に応えるように、木々の間をいながら、巨大なヒトデが這い寄ってくる。







『ジャイアントスターフィッシュ』


 全長5メートルを超える巨大ヒトデ。


 身体の下にある無数のトゲを動かして、高速で移動する。


 獲物におおいかぶさり、トゲを刺して体液を吸い取るという戦い方をする。トゲにはマヒ毒があるため、捕まったが最後逃げられなくなる。


 めちゃくちゃ執念深い性格。






「外皮は剣が通らない。腹の側にもぐりこんで、トゲごと内臓を切り裂くしかない」


 青年は両手剣を握りしめた。


 追いついてきた商人娘を、その背中にかばい、巨大ヒトデに向かい合う。


 巨大ヒトデは身体をくねらせながら、まっすぐこちらに向かって来る。木々も、地面のでこぼこも、軟体生物にとっては障害物にならない。やつらが恐れるのは、マヒ毒が効かない天敵の『ホーンドサーペント』だけだ。


「聞いてくれ。もうすぐ、相手の間合いに入る」


 剣士の青年は、商人娘の方を見て、言った。


「『ジャイアントスターフィッシュ』は敵を喰らうときに隙ができる。トゲのある腹側なら、剣が通るはずだ。やつがのしかかってきたのを利用して、俺は腹を刺す。合図したら君は砂浜まで走れ。運が良ければ、迎えの漁師に見つけてもらえるはずだ!」


「嫌!!」


 けれど、商人娘は首を横に振った。


「言ったじゃない! お父さまのところから逃げるとき、私を一生離さない。死ぬのも生きるのも一緒だって!」


「君を幸せにするとも言った!」


「あなたが死んで、私は幸せになれると思う!?」


「君をこの道に巻き込んだのは俺だ。その責任を──」


「どうしてあきらめちゃうの!? あなたの想いはそんなものなの? 一緒にいようよ。勝てるかどうかわからないけど、最後まで一緒に──」


「……だ、だが……俺は!」


「……私、ずっと言えなかったことがあるの。聞いて。私、私ね……」





 ぱっしゃんっ。





「「……ほぇ?」」『ギイイィ?』


 剣士と商人娘、『ジャイアントスターフィッシュ』が、声をあげた。


 突然、森に水音がひびいたからだ。


 2人も、魔物も気づかなかった。


 木々の間から大きな水の塊が飛んできて、『ジャイアントスターフィッシュ』の真上ではじけたことに。




「成功です。『属性変更エレメンタル・チェンジャー』の『水球ウォーターボール』は、予定の位置で炸裂さくれつしました!」


「じゃあ行くの。セシルちゃんは、あと2発、通常版を撃って欲しいの」


「はいっ!」




 ぱしゃん。ぱしゃぱしゃん。




『ギイイイィィィィアアアアアアアッ!』




 飛来する水の玉が、『ジャイアントスターフィッシュ』を濡らしていく。


「──失礼するの」


 水音にまぎれて、森の中からメイドさんが駆けだしてくる。


 よく見ると『ジャイアントスターフィッシュ』の足下には、巨大な水たまりが出来ている。地面の土と入り交じった、茶色い泥水だ。


 それを見つめている剣士の青年と商人娘の肩を、別の冒険者が引っ張る。獣耳が生えた少女と、青い髪の戦士だ。「危ないからこっちへ」と引っ張られるままに2人は離れる。


 それを確認したメイドさんが泥水にモップを突っ込んで、小声でつぶやく。




「発動なの。『汚水増加おすいぞうかLV2』」




 次の瞬間『ジャイアントスターフィッシュ』の外皮に──亀裂きれつが走った。




『ピギィアアアアアアアアアアアア────ッ!!』




『ジャイアントスターフィッシュ』が絶叫する。


 奴の腹にびっしり生えていたトゲが、ひからびて落ちていく。その下の肉はあっという間にやせ細り、外皮からはがれていく。


干物ひもの──?」


 商人娘が思わずつぶやく。


 そう、あれは干物だ。商業都市にいたとき、商人娘の父親が仕入れたのを見たことがある。普通のヒトデの干物は酒のつまみとして珍重されている。


 でも『ジャイアントスターフィッシュ』の干物はどうだろう。外皮は高く売れるはずだけど──そんなことを考えながら、商人娘は恋人の手を握りしめる。


『アアアアアア──────』


 やがて『ジャイアントスターフィッシュ』の悲鳴が途切れ、ぴくりとも動かなくなる。


 あとに残るのは半分くらいに縮んだ肉と、ひびわれた外皮だけ。


 メイドさんがモップで『ジャイアントスターフィッシュ』を、つんつん、ってつついてるけど反応なし。


 干物化した魔物は、完全に息絶えていた。





『ジャイアントスターフィッシュ』をたおした!






「あ、ありがとうございました!」


 剣士の青年が、助けてくれた冒険者たちに頭を下げる。商人娘も同じようにする。


 救援きゅうえんに来てくれたのは4人。


 青い髪の剣士と、獣人の格闘家、木の陰にダークエルフっぽい少女もいる。そして『ジャイアントスターフィッシュ』の隣に立っている、謎のメイドさん。普通の冒険者のようにも見えるが、どう考えても謎だ。特にメイドさんが謎だ。彼女はどうやって、一瞬で『ジャイアントスターフィッシュ』を干物にしたんだろうか……?


「ほ、ほんとうに助かりました。このご恩は──」


「それは後でいいもん。ごめんね、ちょっと2人とも、さっきと同じようにしてくれない?」


 獣人の少女が、照れくさそうに言った。


 青年と商人娘は、きょとん、としたものの、言われた通りにする。


 恩人の頼みだ。断るわけにはいかない。


 さっきと同じように商人娘と向かい合い、同じような距離を取る。


 青い髪の少女は苦笑い。ダークエルフの少女は顔を真っ赤にしたまま、木の陰から出てこない。獣人の少女とメイドさんは熱心に、青年と商人娘の位置を調整する。視線の高さ、距離、手の位置までもさっきの状態に合わせて、それから──


「じゃあ、さっきの続きをお願いね」


「「…………はい?」」


 獣人の少女の言葉に、2人は思わず首をかしげた。


 けれど、獣人の少女は照れくさそうに、


「あ、あの。さっき2人で見つめ合って、なにか言おうとしてたわよね。あの続きを……できれば見せてほしいなー、って」


「お願いなの。参考にさせてほしいの」


 メイドさんも、2人に向かって手を合わせてる。


「わ、わたしたちはいないと思ってください」


「……面倒かとは思いますが、お願いしますわ。終わったらすぐに他のみなさんの救援に向かいますので」


 ダークエルフの少女は頭を下げて、青髪少女は照れくさそうに頭をかいてる。


 なんだろう。この状況。


 青年と商人娘は顔を見合わせる。が、商人娘はすぐに表情を引き締める。


 商人娘は胸を押さえて、青年の顔を見つめた。


 どのみち、ここで彼に言うことがあったのだ。命が助かった今なら、ためらうことはない。


 ギャラリーが気になるようなら、彼をそそのかして駆け落ちなんてやってない。




「どうしてあきらめちゃうの!? あなたの想いはそんなものなの? 一緒にいようよ。勝てるかどうかわからないけど、最後まで一緒に──」


「ちょっと待てそこからか!?」


「違うでしょ!? あなたのセリフは『だ、だが俺は』でしょ!?」




 商人娘は叫んだ。


「は、早く。恩人さんが待ってるんだから」


「わ、わかった。『……だ、だが……俺は!』。はい次!」


「私の番ね。こほん。えっと……私、ずっと言えなかったことがあるの。聞いて。私、私ね……」




 商人娘は一呼吸置いてから──




「お腹に子どもがいるの! あなたはお父さんなのよ。だから『ジャイアントスターフィッシュ』なんかにあなたを殺させるわけにはいかないの!」


「そ、そうだったのかー!?」


「この戦いが終わったらメテカルにいる父のところに行きましょう。子どものことを話せば、きっと許してくれる」


「だ、だが……俺は冒険者として名を上げるまでは、君のお父さんには会わないと決めたんだ。あの方は大商人だ。あの人の目に叶う成果を上げないと、決して許してはくれないだろう……」


「ああ……」






「お話の途中ですが、ちょっと聞いていただけますか?」


「「あ、はい」」




 青い髪の冒険者に声をかけられて、2人は彼女の方を見た。


「この『ジャイアントスターフィッシュ』の外皮がいひは、装飾品の素材として貴重なものですわ。今回、わたくしたちがこれを倒せたのは、あなた方が注意を引いてくださっていたから。なので、はんぶんこいたしませんか?」


「「……え」」


「それを持っていけば、あなた方の結婚も許してもらえるのではなくて?」


 青い髪の少女はにやりと笑う。


「今回の救援クエストはわたくしが受けたものです。素材が欲しくて受けたわけではありません。この子たちも、参考資料が欲しかっただけですもの」


「い、いいんですか?」「お、お願いします」


「交渉成立ですわね。では、リタさん」


「はーい。ていっ!」




 ぱっきん。




 獣人の少女が『ジャイアントスターフィッシュ』の殻に手刀てがたなを落とす。


 亀裂きれつの入った外皮は、あっさりとまっぷたつになった。しかも、均等に。


「それでは失礼いたしますわ」


「ありがとうございました! 参考にさせてもらいます!」


「お幸せにー」


「ふむふむ。あのやりとりをご主人様向けにアレンジすると……」


 剣士の青年と商人娘が、ぽかん、と口を開けて見守る中、謎の4人は風のように立ち去ったのだった。






 ──森の奥で──




「……で、あの2人は『ご主人様と無人島いちゃいちゃ計画』の参考になりましたの?」


「難しいですね……。そもそも、ナギさまの命が危ないような魔物には、近づきたくないですから」


「そうね。セシルちゃん。ナギと……ああいうお話をするのは、まずは安全を確保してからよね?」


「でも、会話の中に思い出を混ぜるのは、いいと思うの」




 森の中で額をくっつけて話し合う、レティシアとセシル、リタとアイネ。




「……そうですね。わたしも、ナギさまといーっぱい、昔のことをお話したいです」


「……やっぱり『駆け落ちカップル』は参考になるわね」


「……『お腹に子どもがいるの』のセリフは、いつか使ってみたいの」


「……のんびりしている時間はありませんわ。他の人たちを助けに行きますわよ」




 レティシアの合図で、アイネとリタは走り出す。セシルは体力を温存おんぞんするため、リタの背中におぶさっている。


 冒険者ギルドの依頼で、無人島にパーティ救出に来たのは数十分前。


 リタの『気配察知』で、行方不明の冒険者を探して、救出に向かった。島にはあと4人の冒険者がいるはずだ。探して、すぐに助けなければ。そして『いい雰囲気』になるための参考にしなければ。


 そんなことを考えながら、セシル、リタ、アイネは森の奥に向かうのだった。




「……まったくもう。恋する乙女も大変ですわね」




 困ったように微笑む、レティシアも一緒に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る