第186話「がんばりレギィとふわふわラフィリアの、オーバーチートな新スキル」
今回『再構築』するのは、ラフィリアとレギィのスキル。
それとこないだ『隠し市場』で買った『保護色マント』だ。
『お着替え補助LV1』(レギィ所有)
『似合い』の『服』を『選ぶ』スキル
『聞き流しLV2』(ラフィリア所有)
『話』の『内容』を『無視する』スキル
『保護色マント』(ラフィリアが装備中)
『近くにいる魔物』に『合わせて』『色が変わる』マント
ついでに、うまく『
これは聖女さまからもらったスキルだそうだ。
汎用性は高そうだから、『概念』をひとつだけ抽出すれば使えると思う。
「……でも、少し複雑な作業になるな」
うまく『再構築』できれば、レギィとラフィリアを大幅にパワーアップできるはずだけど──
「不安ですぅ……」
寝室にやってきたラフィリアは、自分の肩を抱いて小さくなってた。
「久しぶりの『再構築』ですからねぇ。あたしで、マスターに満足していただけるか……自信がないのですよぅ」
「ふっ、なんじゃい。情けないのぅ」
ベッドの上で、ぽんぽーん、と跳びはねながら、レギィが笑ってる。
ちなみに2人とも寝間着姿だ。
水分補給はしたし、ごはんも食べた。
お風呂はアイネとカトラスが沸かしてくれてる。終わったあと、汗を流す準備も完璧だ。
最近、スキルの『再構築』が、パーティぐるみのイベントになってるような気がするけど。
……しょうがないよね。奴隷のみんな『仲良しチート』のパーティだから。
「心配することないよ。ラフィリア」
僕はラフィリアの隣に腰掛けた。
「今回は時間をかけて、2人の状態をモニターしながらするから、大丈夫」
「もにたぁ、ですか?」
「うん。ラフィリアとレギィと体調とか、魔力の状態を、ちゃんと見ながら再構築を……って、あれ?」
「はぅっ……はぅはぅ」
「おやおや? 息が荒くなっておるぞ? ピンク髪エルフ娘よ」
レギィがラフィリアの顔をのぞき込む。
「どうしたのじゃろうかなぁー。主さまに『見られる』のが、そんなにうれしいのかのぅ」
「そ、そんなことないですよぅ! あたしは、正義のエルフなんですから! マスターに見られながらする……からって……うれしくなったり……しない……ですぅ」
「ふふふ。これは楽しみじゃな」
こらこら。
なんですごくいい笑顔になってるんだよ、レギィ。
お前も『再構築』するんだよ? 当事者なんだよ? わかってるよね?
「いやいや、我はこう見えても、数百年を生きた魔剣じゃからの!」
そう言ってレギィは、まったいらな胸を張った。
「長い年月を生きとる分だけ、適応力もあるからの! 『再構築』など、なんなくこなしてみせよう。我はただ、ピンク髪エルフ娘の
──そして、『再構築』開始から20分後──
「ま、待って主さま……あっ。や……待って。やめるのじゃやめるのじゃ……我のなか、かきまわすのはだめ……『概念』……ゆするの……やめ…………」
レギィの小さな身体が、びくん、と跳ねた。
「……う、うそじゃろ……新しくインストールしたスキル……の……再構築とは…………こんなにすご……のか……ほかのどれいむすめどもも…………みんなこんな……………を」
「……レギィさま……かわいい、ですぅ」
「こ、こらぁ。エルフ娘……われのこんなかお……みる……なぁ」
「とってもきれいなあですがたですねぇ……んっ……あんっ!」
レギィは僕の
彼女は『再構築』に慣れてないから、密着してもらった。
ラフィリアは僕の背中にくっついてる。
2人とも『魔力の糸』で繋がってるから、状態は完全にモニター中だ。
「──ラフィリアの状態は……」
「や、やぁ……マスターに見られてる…………あたしのぜんぶ……見られてるです……や、あ、あ、ああああああっ!」
「──(声に出さないように)『概念』はほぼ安定してる。さすが古代エルフの能力を受け継いでるだけあって、適応性が高いな」
「あ、マスターが……だまってるです。きっとあたし、すごい状態になってるです。そう考えただけで…………あたし、あたしぃ……」
「──(目線をレギィに戻して。さらに言葉に出さずに)ラフィリアと一緒にマントもなじんできてる。ラフィリアの方はすぐに終わ──」
「マスターがレギィさんの方を見てるです……あたし、もう、視線を向けられないくらいの状態なのですねぇ…………ああ、そう考えただけで……」
「ちょっとラフィリア落ち着いて」
背中がむちゃくちゃ熱い。
ラフィリアはぴったりくっついてる。触れ合った部分に、汗がにじんでる。
レギィの方は──「ラフィリアの
彼女は、ぎゅ、と目を閉じて、僕の膝の上で身体を小刻みにゆさぶってる。白い肌は上気して、汗ばんだ小さな手は、僕の寝間着を握りしめてる。
「レギィは、今、自分がどんな状態かわかる?」
「言わせるつもりか……主さまぁ……」
レギィが目を開いて、僕を見た。
いつもはいたずらっ子みたいな大きな目が、涙に濡れて、ふるふると揺れてる。
「
「そうじゃなくて、スキルの状態。魔剣として、新しいスキルが定着してるかどうかだよ」
「…………なじんでは、おるかもしれぬ。まだちょっと異物感はあるが……な」
レギィは恥ずかしそうに、目を伏せた。
彼女の中にあるスキルは今、こんな状態になってる。
『お着替え補助(再構築中)』
『似合い』の『服』を『選ぶ』スキル
『体調』
↑↑
レティシアがくれたのは、「『病人』の『体調』を『感じ取る』スキル」だった。
「レティシアくんが王さまになった時に使いなよ! 臣下の体調を把握できたら、人望も上がるよ」と言って、聖女デリリラさまがくれたものらしい。
でも、レティシアには、人の上に立つ気なんかさらさらない。
だから今回、彼女の許可をもらって、『再構築』に使うことにしたんだ。
「あせらなくていいからな。レギィ」
僕はレギィの背中をなでた。
レギィは魔剣だけど、ちゃんと呼吸もしてる。小さな胸がふくらんで、縮んで、時々、びくん、って震えてる。ウィンドウに映るレギィのステータスに異常はないけど、荒い息をついてる。
「落ち着くまでじっくり、時間をかけよう。急ぐことないんだから」
「…………すぅ……はぁ……すぅ……いや……いいぞ、主さま」
不意にレギィが、きっ、と顔を上げた。
「……その指で……我に、あたらしい……がいねん……いれておくれ」
「だから、急がなくていいってば」
「ふふっ。奴隷の身で願いを願いを聞いていただいておるのじゃ。我は主さまを満足させなければなるまいよ」
レギィは真っ赤な顔で僕を見て、笑った。
「それにエルフ娘が隣にいるのじゃ、いつまでも我だけが……おそれているわけにはいくまい……。せっかく……『再構築』という
「寵愛って……」
「違うか?」
「……違わないかもな」
「じゃろう? 我らは主さまに触れられるのが大好きなのじゃ……じゃから……きて……ぬしさま……われの……なか」
「わかった。いくよ、レギィ」
僕は『能力再構築』ウィンドウに表示された『体調』に指で触れた。
そのまま一気にレギィの中に、押し込む。
「────────っ!!」
レギィの小さな身体が反り返る。
「あ、あ、あ……ちかちかする…………うう……」
「大丈夫か、レギィ?」
「つかまえてて、われを、つかまえてて……ぬし……さまぁ」
レギィの手が、僕の寝間着から離れて、宙をさまよう。
その指を僕はしっかりと捕まえて、握りしめた。
「…………だい、じょぶ………………なれない……だけじゃ。われも……ぬしさまのものじゃから……へいき……はぅ」
「……ごちそうさまですぅ」
気づくとラフィリアが僕の隣で、レギィの顔をじっと見てた。
「……いつも強気の女の子が────すなおになってくのを見るのは……いいものですよぅ」
「……く、屈辱じゃ」
レギィは両手で顔をおおってしまった。
「……まさかこやつに……我の恥ずかしい顔を見られるとは……」
「おくち、ぱくぱくしてますねぇ。つま先も、ぴくぴくしてます。かわいいですねぇ」
「…………お主も『再構築』の途中じゃろうが」
「あたしは慣れてますからだいじょぶ……ですよぅ…………マスターに何度もしてもらって……恥ずかしいとこ……見られて……んっ。やだ。思い出したら…………はぅ」
ラフィリアは、ぎゅ、と僕の腕にしがみついてる。
『魔力の糸』で繋がってるから、これくらの接触面でも『再構築』はできるからね。
レギィのスキルはこのまま落ち着くのを待つことにして、ラフィリアの方を終わらせよう。
「……ますたー……ますたぁー」
ラフィリアは両目をうるうるさせて、僕を見てる。
着てるのは薄い寝間着と、『保護色マント』。
かなりシュールな格好だけど、『再構築』するにはしょうがないからね。
それに、このマントの『概念』が、今回の『再構築』には重要だから。
『保護色マント』
『近くにいる魔物』に『合わせて』『色が変わる』マント
僕はマントから『近くにいる魔物』の『概念』を取り外した。
指先でラフィリアの中の──スキルを押し広げて、それをゆっくりと差し入れていく。
『聞き流し LV2 (再構築中)』
『話』 の『内容』を『無視する』『スキル』
『近くにいる魔物』
↑ ↑ ↑
「────はぅぅ」
ラフィリアは僕の腕に抱きついたまま、小さく身体をゆさぶってる。
「もう少し……強くしていいですよぅ……マスター」
「うん。わかった」
『話』 の『内容』を『無視する』『スキル』
『近くにいる魔物』
↑↑ ↑ ↑↑
↑ ↑ ↑
「ん──────っ!!」
「ラフィリア!? やっぱり強すぎたか?」
ぶんぶんぶんぶんっ。
ラフィリアは必死に首を横に振ってる。
大丈夫……なのかな。
じゃあ、このままいこう。
『話』
る魔物』の『内容』を『無視する』『スキル』
『近くにい ↑↑
↑↑ ↑ ↑
↑ ↑
「────あ……。なんか、引っかかってる感じが……するです。これはこれで…………」
びくん。ふるふる……ふる。
「あと少しだから、がんばって。ラフィリア」
「…………はい……あ」
『聞き流し LV2 (再構築中)』
『近くにいる魔物』の『内容』を『無視する』『スキル』
──入った。
「……はぁ。あ、ああああああ」
「あとは仕上げだ。ラフィリアの中にあった概念『話』と、レギィの中にあった概念『服』を、保護色マントに入れて、と」
「──んくっ」
このマントはラフィリア専用にパーソナライズだ。
僕経由でラフィリアの魔力を注いで、なじませて……っと。
「仕上げだよ、レギィ、ラフィリア」
「…………はぅ。ぬしさま……ぬしさま」
「……きてください、マスター」
僕はスキルとアイテムの内容を再確認する。
これでいいかな……いいな。よし。
「『お着替え補助』と『聞き流し』そして『保護色マント』を再構築する! 実行! 『
「──────あ、あああああっ!!」
「ますたぁ! ますたぁ────っ!!」
レギィとラフィリアが僕の身体を抱きしめる。
何度も、こわれそうなくらい身体を震わせて──
そして──スキルの『再構築』は完了した。
新しくできあがったスキルは──
『
『似合い』の『体調』を『選ぶ』スキル
魔剣レギィの攻撃に『体調変化』効果を付加する。
このスキル発動してるレギィ(鞘の有無にかかわらず)に斬られた相手は『睡眠』『発熱』『麻痺』などを
使用には魔力を消費する。回復に使いたい場合は『神聖力』が必要。
これだけレベルが高いるのは、聖女さまがくれたスキルのおかげだ。
元々LV4スキルだったから、概念を抽出してはめこんだら、再構築スキルのレベルも4になった。
『
『近くにいる魔物』の『内容』を『無視する』スキル
視界に入った魔物に対して放った武器に、特殊な貫通力を与える。
貫通力を与えられた武器は、魔物の『皮膚』『肉』『骨』などを、空気のように貫くことができる。
たとえば『皮膚』『肉』『骨』に『貫通属性』を与えられた武器は、魔物の内臓と血管のみを傷つける。
ある意味、クリティカル確定スキル。
・『
『話』に『合わせて』『服』の『色が変わる』マント
近くにあるものに合わせて、マントそのものと、服の色まで変化させることができる謎アイテム。
頭と手足さえマントで隠せば、視覚的にはまず発見できない。
ただし、光学迷彩を使うには、溶け込みたいものについて詳しく話す必要がある。
具体的には「いやー、この木は素晴らしいね。じつにいい枝振りだ」などなど。
……僕はとんでもないスキルを生み出してしまったかもしれない。
とにかく、ラフィリアの『
このスキルを併用したら、矢を受けた相手は、全員ぱたぱたと倒れていくかもしれない。対象は魔物のみだから、使える場所は限られるけど。
レギィの『
というか、斬った瞬間、相手が睡眠状態に入るってやばすぎだろ。しかも、リタがなら回復にだって使えるし。
この『光学迷彩マント』は……これは紹介してくれた隠し市場の人に感謝だな。
やっぱりあの市場、もう一回利用させてくれないかな。だめかなー。
そして予定通り、ラフィリアとレギィを『再構築』したことで、『能力再構築』のレベルも上がった。
増えた能力は……あとで確認しておこう。
「先にラフィリアとレギィを休ませないと」
「……ふみゅ。あたし、しあわせ……」
「……我は……快楽に身をゆだねた少女を愛でる者なのじゃぞ……なのに自分が……うぅ」
ラフィリアとレギィは、くっついて眠ってる。
薄い寝間着が、汗で張り付いてる。がんばったからな、2人とも。
「……セシルたちからの連絡はなし、と」
代わりにアイネから『お風呂が沸いたの』ってメッセージが来た。
『ラフィリア、レギィともに寝てるよ。もうちょっと待って』って返すと、『起きたらメッセージを送ってなの。お疲れのふたりは、アイネたちがお風呂に入れてあげるから』って返事。
さすがお姉ちゃん、いたれりつくせりだ。
「……むにゃ。主さま」
「大丈夫か? レギィ」
「……まだ主さまの存在を感じておるのじゃが……まぁ、平気じゃ」
「おつかれさま。がんばったな」
頭をなでると、レギィは子猫みたいに目を細めた。
「ならば、ほうびをおくれ?」
「いいよ」
「主さまと一緒にお風呂に入って、洗いっこしたい」
「……そんなのでいいのか?」
今度は別の誰かを『再構築』するのに立ち会わせろとか、言うかと思ってたのに。
「……主さまと触れ合うことは幸せなことじゃと、心の底からわかってしまったからのう。他の奴隷よりも『再構築』しづらい我は、そういう機会が欲しいのじゃよ」
「そっか。わかった。いいよ」
レギィも変わったな。元々は、エロイベントを巻き起こすだけの魔剣だったのに。
今じゃすっかり僕の家族みたいだ。いいよね。こういうの。
「…………ふふふ。聞いたですよぅ」
むくり、と、ラフィリアが身体を起こした。
「レギィさんはマスターともっと触れ合いたいのですねぇ! ならば、おつきあいするですぅ!」
「ちょ!? エルフ娘よ!? 聞いとったのか!?」
「一緒にマスターに『再構築』していただいた仲ですぅ。お風呂もご一緒するのが当然なのですよぅ。それに、あたしもレギィさんともっと触れ合いたいですからねぇ」
「むむむ……いいじゃろう。お主には、恥ずかしい姿を見られてしまったからのぅ」
「ではさっそくお風呂場へ! てーい!」
「こ、こりゃ! 腕を引っ張るな──いや、おぶらなくてもいいのじゃ! もー!」
ラフィリアとレギィが先に立ち、部屋を出て行く。
僕も一緒に廊下に出ると、リビングからアイネとカトラスとレティシアが顔を出してた。
アイネとカトラスは、湯浴み着を身につけてた。その上から、タオル代わりの布を身体に巻き付けてる。
「ラフィリアさん、レギィさん!」
「あるじどのも『再構築』おつかれさまであります!」
「それはいいけど、2人とも、どしたのその格好」
僕が言うと、アイネとカトラスは手を挙げて、
「「ラフィリアさんとレギィさんはお疲れなので、背中を流してあげるため(なの)(であります)!」」
なんてことを、宣言した。
「いえいえ、お気持ちはうれしいのですけどー」
「我もエルフ娘も、主さまに背中を流してもらうことになっておるのじゃ」
「そうなの?」
「でも、ボクも用意してしまったでありますし」
ラフィリア、レギィ、アイネ、カトラスが僕を見た。
みんな揃って、少し考え込むように首をかしげて、それから「ぽん」と手を叩いて、
「「「「じゃあ、みんな一緒に入れば解決(ですねぇ)(なのじゃ)(なの)(で、あります)」」」」
「ちょっと狭いけど、それで行こうか」
別荘のお風呂場は、そこそこの広さがあるから。
5人で入るくらい大丈夫だろ。
「じゃあ、そういうことだから、レティシアはリビングで待ってて」
「お待ちなさい」
僕が言うと、レティシアは肩をふるわせて立ち上がった。
よく見ると、彼女も湯浴み着を着てた。寝間着の下に、だけど。
「…………わたくしが仲間外れを嫌っていることはご存じでしょう? みなさんが仲良くわちゃわちゃお風呂に入っている間、わたくしにひとりぼっちで待てと言うんですの!?」
「いや、僕がいるのに、レティシアが一緒にお風呂に入るのはまずいだろ」
「……ナギさんがわたくしの方を見なければ問題ないのですわ」
レティシアは目を伏せて、ぽつり、とつぶやいた。
「わ、わたくしはあくまでも、アイネたちと洗いっこするのですわ。偶然、ナギさんが同時に入っていただけです。それでいいんですわ!」
「いいのかそれで」
「いいんですわ!」
「……そういうことなら、いいかな」
確かに、この場にレティシアだけ放置していくのは気の毒かな……。
そんなわけで、僕たちはみんなでのんびり汗を流して──
翌朝、セシルたちと合流するため、みんなで『デリリラ迷宮』に向けて出発したのだった。
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