第177話「勇者対策に『再構築』したアイテムは、領主家の少女たちを安心させるものだった」
『隠し市場』から戻ったあと、僕はさっそく、手に入れたアイテムを『
まずは家のリビングで、残りふたつの商品の『概念』を確認して、っと。
「……うん。使えそうだな」
僕は2つのアイテムをテーブルに置いた。
どっちもみならい
案内役のメリーゼさんに感謝しないとな。
「特にこの『
僕は銅色の短刀を手に取った。
長さは、僕の肘から指先くらい。柄には、この国の言葉で『安全第一』と彫ってある。
片刃の短刀で、刃の方に魔法がかかっているらしい。でも見た目はペーパーナイフみたいで、切れ味も悪そうだ。
そもそもこれは戦うための武器じゃないって、案内役メリーゼさんは言ってたけど。
『
『振るたび』に『
振るたびに刀身が縮んでいく短刀。
刃先も潰してあるので、突いても刺さらない。
手足のツボ押しくらいにしか使えない、安全第一の短刀である。
この『安全刀 無名』は下級貴族が上級貴族に決闘を申し込まれた時、相手に勝利を譲るために作られた。
しかし製作者の
「てい」
僕は試しに、『安全刀』を振ってみた。
しゅこん。
すごいな。引っ込むんじゃなくて、魔法的に縮むのか。
どういう仕組みなんだろう……。
「それが『隠し市場』で買われたものですか? お兄ちゃん」
声がした。
振り返ると、椅子の後ろに立ったイリスが、僕の手元をのぞき込んでた。
「お帰り、イリス」
「はい。イリス=ハフェウメア、ただいま戻りました!」
イリスは緑色の髪を揺らして、にっこりと笑った。
「領主家の方はもういいの?」
「たいだい落ち着きました。ただいま『新領主新人研修』について調査中です。補佐役の方は、研修を勧めた『こんさるたんと』について、色々話してくださっております」
「正体は今のところ不明か」
「そうですね。知り合いの商人さんの、そのまた知り合いから紹介された、と申しております。仲介してくださったのが、補佐役の昔からつきあいのある方で、断れなかったそうでして」
「『来訪者』がらみじゃなきゃいいんだけどね……」
『来訪者』や、勇者になりたい人たちは、チートスキルじゃないと対処できないからね。
この世界にも『ブラックな研修』を好きな人もいるから、そっちの関係者であることを祈ろう。
できればこっちの世界のことは、こっちの世界の人たちだけで解決して欲しいから。
「そういえば、次期領主のロイエルドさんは無事だったんだよな。その後の様子はどうかな?」
「……はい。ロイエルドの方は問題ないのですが……」
あれ?
どうしてイリス、口ごもってるんだ?
「ロイエルドについているメイドが、かなり落ち込んでしまっているのです」
「メイドさんが?」
「はい。『自分は次期領主のメイドにふさわしいのだろうか』と。どうも、『新人研修』の時にロイエルドを守れなかったことを悔やんでいるようです」
「次期領主さんにも、そういう人がいたんだ……」
「ロイエルドが実家から連れてきたメイドで、小さいころから一緒にいる、幼なじみのようなものだそうです」
……幼なじみか。
いいよな。その響き。なんだか、応援したくなる。
「ロイエルドより少し年上で、本当に優秀なメイドなのです。少し心配性が過ぎるところはあるのですが、ロイエルドからも信頼されています。彼の助けになるようにと、分家から領主家に送られてきたのですからね」
イリスは真面目な顔で、うなずいた。
「ただ彼女──ドロシーは、ロイエルドが『海竜の町イルガファ』の次期領主になるなんて思っていなかったようで……彼が遠くにいってしまったと、不安になっているのですね。それに今回の事件のこともあって、仕事を辞めて、実家に帰ることも考えているそうです」
「今回の件は、メイドさんのせいじゃないだろ?」
「それでも、です。ドロシーにとって、ロイエルドはそれほど大切な人なのでしょう。ロイエルドは以前にドロシーのことを『心配性の家族のようなもの』と言っていましたから」
「その家族が『心配性』をこじらせちゃったってことか。難しいよな。そういうのは」
「イリスも、大切な人が遠くに行ってしまうのは嫌ですので……わかります」
しばらく僕とイリスは、うんうん、とうなずき合った。
「彼女の──ドロシーの心配はいわゆる『
「他人が『大丈夫だよ』って言っても、素直に納得できるものじゃないからね……」
「『心配』が頭の中をぐるぐる回ってしまっているのでしょうね。イリスにも経験があるので、わかります。イリスの場合は、お仕事のお話ですけど」
「仕事の心配なら僕にもあったな。元の世界の話だけどね」
今後の生活が心配で仕事を辞められない、とか。
問題を解決したいのに、心配が頭の中を占領してて、なにかを決める余裕がないことってあるからね。
一度、頭の中をからっぽにしてから考えた方が、上手くいったりするんだけど……なかなかそうもいかないよな。
「あ、すいませんお兄ちゃん」
不意に、イリスが口に手を当てた。
「イリスの悩みを話してしまいました。奴隷のイリスが、
「いいって、そんなの。逆に話してくれた方がいいよ」
「……そうなのですか?」
「領主家のことだろ? 港町が安定してないと、僕たちも安心して生活できないからね。できることがあったらするよ。それに、2人で話してるうちに、いい考え浮かぶこともあるから」
「……はい」
イリスはふんわりとした笑顔で、うなずいた。
「ところでお兄ちゃんは、『隠し市場』で買われたアイテムの
「正確には『再構築』中だよ。この短刀を、『来訪者』も相手にできるチートアイテムにしようと思ってる」
僕はテーブルに置いた『安全刀 無名』を手に取った。
それと、自分の中にある『
『
「せっかくだから、イリスも見てて。『再構築』したアイテムにどんな使い道があるか、意見を聞かせてくれないかな」
「わかりました。この命に代えても、アイテムの使い道を考えてみせます!」
「だから真面目すぎるんだってば、イリスは」
苦笑いしながら、僕はスキルを発動する。
「発動『
そして『再構築』したアイテムは──
『安心刀
『振るたび』に『心配ごと』が『小さくなる』短刀
振るたびに、心を占めている『心配ごと』を、小さくすることができる。
問題が消えるわけではないが、心の負担が軽くなるため、落ち着いて物事に対処できるようになる。
安心したい本人が振るか、振ってから安心させたい相手に触れることで能力が発動する。
注意:使いすぎ注意。
「やっぱり、心を休めるアイテムになったか」
今まで戦った敵は『勇者にならなければ』『成果を上げなければ』って、
だったら、その『心配ごと』を小さくすることができれば、まともに話ができるはず。
もしかしたら、戦わずに済むかもしれない。
「問題は、相手にこれを当てる
『来訪者』はみんな、強力なチートスキルを持ってる。
この短刀を当てるためには、そのスキルをかわして接近しなければいけない。
それにはやっぱり、イリスの『
となると、イリスとのコンビネーションで戦術を考えるのがベストか。
「ということで、イリス、このアイテムの効果と使い方について、意見を聞かせてくれないかな」
「愛しています。お兄ちゃん」
いきなりだった。
イリスは椅子のこっち側にまわりこんで、僕の足元にひざまづいた。
「領主家のメイドの悩みを解決する方法まで考えてくださっていたなんて。確かに、領主家の次期領主──ひいては領主家内の人間関係は、港町の治安にも関わること。お兄ちゃんのそこまでの思いに、『海竜の巫女』イリス=ハフェウメアは、不覚にも気づきませんでした……」
「あの……イリス。なんの話?」
「え? お兄ちゃんは『心配ごと』で頭を悩ませているロイエルドづきのメイドのために、マジックアイテムを『再構築』してくださったのではないのですか?」
「いやいや、『来訪者』対策だって言っただろ?」
「領主家と港町のために、できることはする、っておっしゃってました」
「そりゃ言ったけど」
「お兄ちゃんのことですから口には出さず、イリスが気づくように仕向けてくださったのでしょう?」
そこまでまわりくどいことはしません。
というか、イリス、僕をかいかぶりすぎだ。
「でも……確かに。この短刀『
考えすぎて、心配ごとが頭から抜けなくなるのは、誰にでもあるからね。
そういうときは、一度考えるのをやめた方がいいんだけど……それができれば苦労はしない。
だけど、この『安心刀 心安丸』を使えば、心を占める『心配ごと』は小さくできる。
一旦、距離を置いて、落ち着くことができるんだ。
問題がなくなるわけじゃないけど、落ち着いて対処できるようになるはず。
「わかった。じゃあ、これはイリスに渡そう」
「ありがとうございます! やっぱり、イリスがお兄ちゃんにひざまづいたのは、間違いではございませんでしたね」
イリスは床にひざをついたまま、えっへん、と胸を張った。
それから、なにかを思い出したように──
「そういえば、イリスにも『心配ごと』はありまして」
イリズは、なぜか恥ずかしそうに、両手の指を、つん、と合わせて、言った。
「……イリスが……ちゃんと……お兄ちゃんを受け入れ…………」
「ただいまです。ナギさま!」「ただいまなのー!」
「ひゃぅぅぅっ!!?」
玄関からセシルとアイネの声がして、イリスは慌てて僕から離れた。
そういえばセシルとアイネは、晩ご飯の買い物に行ってたんだっけ。
「……イリス、今」
「な、なんでもございません! ひ、人前で申し上げることではありませんので!」
イリスは真っ赤な顔で、かくかくかくっ、って首を振ってる。
「で、では、この『
「わかった。でも、注意点があるよ」
僕は
「1人に使うのは、3回まで。その後は1日くらい、間を置いた方がいい」
これはアイテムを『再構築』した、僕自身の感覚だ。
人の心に触れるものだからね。慎重に使った方がいいよね。
「わかりました。お兄ちゃんの言いつけ、守ります」
「なにかあったら僕を呼ぶこと。僕のスキル『
「はい、お兄ちゃん!」
イリスはきっぱりとうなずいた。
そして『安心刀
──その夜、イルガファ領主家にて──
「ドロシーさぁん。お着替えをロイエルドさまに届けてくださいですぅ」
ここは、領主家の作業部屋。
アイロンをかけ終わった服を手に、メイド姿のラフィリアは同僚の少女に声をかけた。
「は、はい。かしこまりました」
栗色の髪の、小柄な少女がうなずき、ロイエルド用の寝間着を受け取る。
声に力がなかった。
ろくに眠れていないのだろう。目の下にはくまができていて、顔色も少し青い。
「大丈夫ですか? ドロシーさぁん」
「……私、これをロイエルドさまにお届けしてもいいのでしょうか」
「いいに決まってますー!」
気弱な
「ドロシーさまがこのお屋敷に来たとき、どれだけロイエルドさまが安心した顔をされていたか、お屋敷のみんなが知ってますぅ! 分家にいらっしゃった時から、ドロシーさんはロイエルドさまのお姉さん代わりだったのでしょう?」
「そうですけど……でも」
「あたし、見ましたよ? ドロシーさんがお部屋をノックしたとき、すぐにロイエルドさまが『ドロシーだね。お入り』って応えられていたのを。ほんとに心が通じ合ってるの、わかります。ロイエルドさまは、まだこのお屋敷に来て1ヶ月ですぅ。だからこそ、ドロシーさんのお力が必要なんじゃないですか!」
「でも……私、ロイエルドさまが危険な目に
「しっかりしてください! ドロシーさんの夢は、ロイエルドさまのお顔をそのお胸に、自主的にうずめていただくことなのでしょう!?」
「どうしてそれを!?」
「こないだ、イリスさま発案の『領主家お昼寝タイム』のとき、寝言でおっしゃってましたよぅ」
「……うぅ」
小柄なメイド、ドロシーは、胸を押さえた。
「……やっぱり、こんな私は、ロイエルドさまのメイドにはふさわしくありません。実家に帰った方が……ああ、でも、離れたらロイエルドさまが心配で」
「むむぅ……やはり、イリスさまのおっしゃった通りですね……」
「イリスさまの」
「いえいえこちらのお話ですので」
ラフィリアはごまかすように手を振った。
それから、こほん、とせきばらいをして、
「では、おまじないをしませんか?」
ラフィリアは人差し指を、ぴん、と立てて、言った。
「……おまじない、ですか」
メイド少女ドロシーは不思議そうに首をかしげた。
「ドロシーさま、前におっしゃってたじゃないですか。エルフの『気が楽になるおまじない』を教えて欲しいって。見つけてきたんで、試してみませんか?」
「は、はい! ぜひお願いします」
「ではでは、ちょっと廊下の角まで来てください。いえ、あとずさってください。後ろは見ないで……そうです、そこでしゃがんでください。曲がり角に背中を向けて。いいですか?
では……おまじない、しますよ? はい。同意されましたですね。
では、さんはい!」
ぱんっ。ぱぱんっ。
メイド少女ドロシーがうなずくのを確認してから、ラフィリアは手を叩いた。
それを合図に、廊下の角に隠れていたイリスが、すぅ、と進み出る。
そして彼女は手にしていた短刀を振り、その
「(小声で)発動。『安心刀
ばちっ。
ドロシーの首筋に、小さな火花が散った。
同時に、首の後ろから、もやもやしたものが浮かび上がり……消えていく。
「どうですかぁ。ドロシーさん」
「……行かないと」
寝間着を抱きしめ、メイド少女ドロシーは立ち上がった。
すっ、と背筋を伸ばし、唇を固く結んで、まるで、さっきまでとは別人のようだった。
「……なにを迷っていたんでしょう。私はロイエルドさまのお力になるために、このお屋敷に来たというのに!」
「おおおおおっ」
ラフィリアは思わず声をあげた。
彼女には、メイド少女ドロシーの目がきらきらと輝いているのが、確かに見えていた。
「悩んでいる暇なんかありません! 今回、ロイエルドさまをお守りできなかった分、私はご奉仕するんです。一秒だって止まってなんかいられません。今すぐ……ロイエルドさまの元に──っ」
メイド少女ドロシーは、小走りに駆け出す。
ラフィリアと(廊下に隠れていた)イリスはこっそり後を追いかける。
2人が見守る中、ドロシーは階段を駆け上がり、息を切らせながらロイエルドのドアをノックする。
「ドロシーかい? お入り。ずいぶんと息を切らして──」
「お許しください、ロイエルドさま!」
ドアを開けるなり、メイド少女ドロシーは叫んだ。
「あなた様が怖い思いをされているとき、側にいられずに申し訳ありませんでした! ドロシーは、ドロシーわぁぁぁぁ」
メイドの本能か、部屋に入ったドロシーは寝間着をそろえてベッドの上に。
それから、涙声でつぶやきながら、ロイエルドの足元にひざまづいた。
「次こそは、私はロイエルドさまの盾になります。ですから……お側に……いさせてください」
「なにを言ってるんだい、ドロシー。君を盾にするなんてできるわけないじゃない……って、ドロシー……こらっ」
ロイエルドが椅子から立ち上がり、ドロシーに向かって手を伸ばす。
そしてドアが閉じる直前──
ドロシーは手を伸ばし、ロイエルドの背中に手を回すのが見えた。
「……こ、こらっ。ここはぼくたちの故郷じゃないんだよ? 誰かに見られたらどうするの」
「……ロイエルドさまぁ」
「……もう、しょうがないなぁ。ドロシーは……」
さささっ。
ドアが閉じたのを確認して、イリスとラフィリアは忍び足で、その場を離れた。
廊下を曲がり、自室の前まで来てから──
ぱん、ぱぱーん。
「作戦成功でしょう!」
「マスターのアイテムと、イリスさまの作戦は完璧なのです!」
イリスとラフィリアは両手を挙げてハイタッチした。
イリスは雇い主の一人として、ラフィリアは同僚として、メイド少女ドロシーのことを心配していた。ドロシーは最近、ろくに食事も摂っていなかった上に、夜も眠れていなかった。彼女の『心配性』は言葉ではどうにもならなかったのだ。
だからナギから『安心刀』の話を聞いたとき、イリスは「ぴん」と来たのだった。
ナギの『チートスキル』で人の心を救うことができることは、イリス自身も体験している。
彼女だって『海竜の聖地』にいたとき『
そのナギが作った『心を救うアイテム』ならば、間違いなくドロシーを助けられると、イリスもラフィリアも信じていた。そして、その通りになったのだ。
「ドロシーは、ロイエルドに必要とされているか知りたい……でも負担をかけたくない、と、思考が同じところをぐるぐる回っていたのでしょうね」
「ロイエルドさまもいいお方で、よかったですねぇ」
イリスとラフィリアは顔を見合わせて、笑った。
ロイエルドとドロシー、身分違いの二人だけど、上手くいくといいなぁ……なんだったらイリスが手を回して、ドロシーを名家の養女にしてしまいましょう……なんてことを話しながら、イリスとラフィリアは部屋に戻った。
そしてイリスは書類仕事に取りかかり、ラフィリアは食器の片付けに向かったのだった。
それから、しばらくして──
「……そういえば、イリスも心配ごとがあったのでした」
ひとりになったイリスは、ふと、『安心刀
実は、ドロシーに使う前に、イリスは自分自身に『安心刀』を使っていた。
イリスも領主家の人間だ。人の上に立つ者として、実験もせずにメイドに『チートアイテム』を使うことはできない。ナギも『人の心に触れるのだから慎重に』──と言っていたから。
それに、さっきナギに言いかけたせいで、イリスの心配ごとも大きくなっていた。『安心刀』の実験をするのは、ちょうどよかったのだ。
イリスがさっき、ナギに言えなかった心配ごと。それは──
「イリスはちゃんとお兄ちゃんを……自分の一番深いところに……受け入れることができるのでしょうか……?」
もちろんそれは、
ご主人様と
イリスは『海竜の巫女』だから、竜の血を引いている。
完全な人間ではなく、亜人でもない。
魂がどんな形をしているのか、わからない。本当に他のみんなと、同じなのかも。
それにイリスは身体だって小さい。自分ではしっかりしているつもりだけど……心だって……幼い。
みんなと同じやり方で『
「……もしも……イリスがお兄ちゃんと……できなかったら」
考えると、思わず心が寒くなる。
その不安が、イリスの心の底に──小さく、わだかまっていたのだった。
「発動──『
とん。
イリスは自分の肩に、『安心刀』の
……なんだか、少し楽になったような。
でも、わからない。実感がない。まだ足りないような気がする。
「……もう一度、だけ」
とん。
アイテムを発動して、目を閉じて、自分の心をのぞきこむ。
わからない。もしかしたら、使用者本人には効果が薄いのかもしれません。
もしかしたら、発動のタイミングを間違えたのかも……。
「どうでしょう……うまくいったのでしょうか」
イリスはぬいぐるみを抱きしめながら、つぶやいた。
「……わかりません。あまり変わったような気がいたしません」
それにこのアイテムは、何度使っても大丈夫なような気がしてきました。
大丈夫。きっと大丈夫……。なにも心配はいらないでしょう……きっと。
「これが最後……ですので」
そしてイリスは『
──数十分後、領主家の廊下で──
「あれ? イリスさま、お出かけですかぁ? こんな夜更けに……って、そのお姿はどうしたのですぅ!? え? これからマスターのところへ? わかりましたけど、あの、本当によろしいのですか? みんなびっくりしてます──って、イリスさまのお姿が変化を!? 『幻想空間』ですかぁ? あの姿から、普段着へ──あ、風景に溶け込んで……消えました。ちょっと、イリスさまぁ────っ!」
──さらに数分後、ナギの部屋──
「…………ちゃん」
ベッドで眠ってたら、耳元で声がした。
──ん。誰か、呼びに来たのか……?
それにしても身体が重いな。
そういえばさっき、ベッドがきしんだような……。
……まだ朝じゃないよな。眠いし。
「……お兄ちゃん……」
「……イリス?」
目を開けると、すぐ近くにイリスの顔があった。
緑色の髪を結んで、左右にまとめてる。頭のてっぺんには……海竜をかたどった飾り物。
って、これってティアラか? 結婚式とかに着けるやつ。
よく見ると、イリスが着てるのは純白のドレスだった。
細い肩紐と、胸を
スカートはギャザーのついた短めのもの。
腰には何重にもリボンが巻き付いてる。それも海竜をかたどっているのか、引きずるくらいに長く、伸びてる。
「イリス……もう不安も迷いもございません」
そう言ってイリスは、僕の頬に細い手を這わせた。
「お母さまが着ていたこのドレス姿のまま──イリスを、お兄ちゃんのものにしてください」
とろん、とした目をして、イリスは、そんなことを言ったのだった。
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