第176話「『貴族向け市場』で買った失敗作を、掘り出し物に変えてみた」

「イルガファにいるうちに、装備を強化しようと思うんだ」


 僕は言った。


 領主さんからもらった『次期領主ロイエルド救出クエスト』の報酬ほうしゅうと、イリスの『ゴールデンラビット捕獲クエスト』の報酬を合わせたら、かなりの金額になったからね。


 アイテムの品揃えは、交易地である港町イルガファの方が品揃えがいいから、今のうちに買い物を済ませておこう。


「装備を強化ということは……もしかして『勇者クエスト』対策ですか? ナギさま」


「するどいな、セシル」


 セシルの言葉に、僕はうなずいた。


 獣人たちの村で出会った『賢者ゴブリン』は『勇者クエスト』として魔竜のダンジョンを探してた。村を襲ったのも、それに必要なアイテムを手に入れるためだった。


 結局、そのアイテムはリタがもらっちゃったわけだけど。


 だけど、『変化能力』と『加速能力』を持つあいつは、間違いなく強敵だった。


 だから、そのレベルの敵がうろついてるって前提で、こっちも対策をする必要があるんだ。


「関わる気はないけどね。でも、できることはしておきたい。いつも『チートスキル』が通じるとは限らないから」


「アイネも賛成なの。弱点をアイテムでおぎなうのは、いいと思うの」


「イリスも同意見です。特にイリスは戦闘力が弱いですので、皆さまの足手まといにならないようにしたいです」


「あたしも、もっとズバーッっと飛んでズキューンッって貫いて、ゴゴゴドガガガアアン……ズドドドドドドドォォォォン…………(静寂)という感じの武器が欲しいのですよぅ」


 アイネもイリスも、賛成みたいだ。


 あと、ラフィリアのそれはどう考えても近代破壊兵器だからね。この世界にはないからね?


「そういえば、今の話をうかがって、思い出したことがあります」


 イリスが、ぽん、と手を叩いた。


「ちょうど今、町の方で商人さんが特別な市場を開いているそうですよ? お兄ちゃん」


「特別な市場?」


「はい。次期領主おひろめパーティにやってくる貴族や商人をあてこんで、珍しいものを仕入れてきた商人たちが、招待制の市場を開いたと聞いております。そろそろ貴族たちも帰っている頃でしょう。もしかしたら、掘り出し物が残っているかもしれません」


「面白そうだけど、それって僕たちも入れるの?」


「イリスの方で手を打っておきましょう。イルガファ領主家の紹介する、ごく当たり前の冒険者として」


「わかった。お願いするよ。イリス」


 そんなわけで。


 僕たちは港町で開いている『特別な市場』に、装備の買い出しに行くことにしたのだった。










「マスターは本当に『勇者クエスト』には興味がないのですか?」


 隣を歩きながら、ラフィリアが聞いてくる。


「装備を調えるのは、あくまでも『念のため』なんだよね、なぁくん?」


 僕を挟んで反対側にはアイネ。


 いつものメイド服姿で、僕の顔をのぞき込んでる。


 今回は武器に詳しいアイネと、直接戦闘と魔法戦闘になれてるラフィリアに来てもらった。


 セシルはちょっと前に大魔法を使ったから休ませたいし、イリスは、顔を知ってる商人さんがいるかもしれないからね。


 それにアイネがいれば、リタとカトラス、レティシア向けの装備も買うことができるんだ。


 アイネは、パーティメンバーの服のサイズを完全に把握してる。既製品の服を買って、アイネに寸法調整をお願いすれば、すぐにジャストフィットサイズにしてくれるくらい。武器や鎧を買ったはいいけど、サイズが合わないってことにならないように、ここはアイネに見立てをお願いしよう。


「もちろん、アイネに装備を見立ててもらうのは念のためだよ。『勇者クエスト』に関わるつもりはない」


 僕はアイネとラフィリアに答えた。


「でも……なんとなく『魔竜まりゅう』っていう単語が頭に引っかかってるんだ。僕たちは『海竜ケルカトル』『天竜ブランシャルカ』と関わってる。この世界にもうひとつの竜がいるなら、知識くらいは持っておきたい」


「前にイリスさまと読んだ物語に、魔竜退治のお話がありましたよぅ」


「どんなのだった?」


「選ばれた英雄が、恋人を振り切って魔竜退治に向かうお話でした。ただ、作者が亡くなってしまったので、魔竜についての詳しい描写はなかったですねぇ」


「聖女デリリラさまの伝説にも『魔竜』はあるけど、ご本人はなんて言ってたの?」


「確かにそういうのはいて、デリリラさんたちのパーティが倒したけど、それはただの珍しい魔物だったそうだ。天竜や海竜みたいな神話存在とは違ってたって」


 少なくとも『魔竜のダンジョン』なんて者に関わるほど、すごい存在じゃなかったそうだ。


 だとすると『勇者クエスト』に出てくる『魔竜』って、どんなものなんだろうな。


「とにかく、基本スタンスは変わらない。必要があれば調査はするけど、依頼もないのに手を出したりはしない。僕たちの目的はできるだけのんびり、穏やかに、働かないで生きること。以上だよ」


「「りょーかいです!」」


 アイネとラフィリアは声をそろえた。


「リタさん、カトラスちゃん、レティシア向けの装備も任せて。みんなの体型は、アイネがばっちり把握してるの」


「頼りにしてるよ。アイネ」


「スリーサイズも言えるの」


「……それはいいから」


「もちろん、他のみんなのスリーサイズも暗記してるよ?」


「…………そうなんだ」


「聞きたい? なぁくん」


「聞いたら教えてくれる?」


「なぁくんがそれを聞いたことを、みんなにも教えちゃうけどね?」


 そう言ってアイネはいたずらっぽく笑った。


「……その知識は装備選びに使うだけでいいよ」


「そうね。数字だけなんて味気ないものね」


 ……ん?


 アイネは横を向いて、ふっふーん、って鼻を鳴らしてる。


 ……なにも企んでないよね? お姉ちゃん。


「見えてきました。あれが、イリスさまの言っていた。『かく市場いちば』ですぅ!」


 ラフィリアの指さす先には、大きな倉庫があった。


 港の側で、倉庫街のかげになってるところだ。あそこで、こっそりと、一部の人向けの市場が開かれてるらしい。


 イリス経由で『招待状』はもらってある。


 貴族でも商人でもない僕たちが入っても、門前払いはされないはず。


「失礼します。僕たちは、イルガファ領主家の紹介で来ました……」


 僕たちはノックをしてから、倉庫の中に入った。


 そこには──






 がらん、とした空間が広がっていた。






「……あれ?」


「あーはいはい。話は聞いていますよ。イルガファ領主家紹介の冒険者さんですね」


 入り口にいた女性が、僕たちを出迎えてくれた。


 だけど、倉庫の中は、ほとんどがからっぽだ。


 数人の商人さんが、小さな露店を開いているだけ。商品もほとんど残ってない。


「申し訳ないねー。うちは貴族さま向けの市場だからね。庶民の冒険者向けの商品はほとんどなくてねー」


 入り口にいた女性は言った。


 僕たちを見て、薄笑いを浮かべてる。


 ……なんか、感じ悪いな。


「それに、貴族の方々が早々に国元に帰っちゃったからねー。『新領主おひろめパーティ』のあと、ガーゴイルの騒ぎがあったでしょう? それで皆さまが帰ったのに合わせて、使えそうな装備はみんな引き上げちゃったんですよ」


「そうですか」


「で、どうしますか? お帰りはご自由ですが」


 女性は腕組みをして、僕たちを見てる。


「売れ残りでいいなら、見せてあげますけどねー。どうしますか?」


「売れ残りというと、たとえば?」


「これなんかいかがでしょうか? お安くしますよー」


 女性は僕の手に、小さなスキルクリスタルを乗せた。


「『不眠症LV1』ですよ。この仕事してると心配事が多くて……つい覚醒かくせいしちゃうスキルなんですよ。良ければ安くしておきますが? 在庫として抱えててもしょうがないですからね」


「本当に売れ残りなんですね……」


「お気に召さないようでしたらお帰りください。奴隷どれいを2人もお連れということは、そこそこのレベルの方なんでしょうけど……うちは貴族さま向けの市場なので、冒険者さん相手に余り時間は取れなくてね」


 女性はいらだったようにかかとを鳴らしてる。


 顔色も悪いし、目の下にはくまができてる。


 もしかして『不眠症』って、この人が使ってたスキルじゃないのかな……。徹夜で仕事するために……。


「……なぁくん。こんなとこ、早く出た方がいいの」


「……あたしも、マスターをみくびる人は、好きじゃないですよぅ」


 アイネとラフィリアが僕の耳元でささやく。


 んー。でも、せっかくイリスが紹介してくれたんだし。


 それに、この『売れ残り』スキル。意外と使い道がありそうなんだよな。





不眠症ふみんしょうLV1』


『心配ごと』で『勢いよく』『目覚める』スキル






「やっぱり使えそうなスキルですね。買います」


「はぁ!?」


 女性は目を見開いた。


「これが売れ残りなら、ここにはかなりの掘り出し物がありそうだ。せっかくだから見て回ろうよ。アイネも、ラフィリアも」


「なぁくんがそう言うなら」


「どっちでもいいのです。あたしは、マスターにお供しますよぅ」


 ラフィリアが背後から、むにゅ、と僕の腕を抱いた。


「それに、店員さんの冷たい応対でマスターの心が痛んだら、あたしが身をもっておなぐさめするのですぅ。あたしの生命はそのためにあるのですよぅ」


「あ、ずるいの。ラフィリアさん」


 むぎゅ、と、反対側の手を、アイネが抱いた。


「そうね。なぁくんがここでアイテムを買うって決めたんだから、アイネは全力でサポートするべきなの。なぁくんがこの買い物で疲れたのなら、全力でなぐさめるの。それがなぁくんの奴隷としての心得なの」


「そうですよぅ。この買い物を、マスターへの忠誠を示す場とするがいいのです!」


「「ねー!」」


「私をだしに……いちゃいちゃするの止めてもらえませんか……」


 店員さんは何故か肩を落としてつぶやいた。


「……なんでしょう。この敗北感。庶民の冒険者相手にこんな気分になるのは初めてです……また不眠症に覚醒しそう……」


「商品、見せてもらえますか?」


「時間の無駄になるかもしれませんよ? 庶民の冒険者に売れる物などほとんどないんですからね。ろくなものがないからって、文句だけは言わないでくださいよ?」


「使えるか使えないかは、こっちで考えますよ」


「わかりました。ご案内しましょう」


 そう言って女性は、僕たちを倉庫の奥に招き入れた。






「こちらは『神聖力しんせいりょく』を宿した『神聖剣メテルギルス』!」


「「「おおー」」」


「──の、見本ですよ。本物はもう売却済みです」


 うん。わかってたけどね。


 僕たちの目の前には、剣のかたちに切り取った板があった。表面には色や模様が描かれてる。『神聖剣メテルギルス』は赤いラインが入っていて、牙っぽいものが描かれてる、ってことなんだろうな。勉強になる。


「もっとも、本物は表には出しませんけどね」


「商談に入る時に持って来る、ってシステムですか」


「よくおわかりですね」


 そりゃ、こっちの世界にはガラスケースも防犯ブザーもないからね。


 安物の剣や槍ならともかく、ワンオフの魔法剣を展示したりはしないだろ。


「これも、貴族の方が買われたんですか?」


「……購入者の情報は秘密ですので」


 案内の女性──名前はメリーゼさんと言うらしい──の目が泳いでた。


 図星かな。


「……『神聖力の剣』を貴族が買ったってことは……目的はなんだろうな?」


「……神聖力を必要としてるってことは、普通ならアンデッド対策なんだけど」


「……魔竜……『魔に落ちた竜』なんかにも、神聖力は有効ですねぇ」


 僕とアイネとラフィリアは顔を見合わせてつぶやく。


 判断は保留かな。


 この前、街道でアンデッド大発生なんてのもあったから、それ用かもしれない。


 他にも、攻撃力を増加させる魔法剣や、魔法の槍なんかも売れたらしい。『神聖剣』と同じように、原寸大の見本が残ってる。すべて『売り切れ』だけど。残ってる商品は……。


「このやりは『売り切れ』になってませんね?」


「あぁ……それをご所望しょもうですか」


 案内役のメリーゼさんは、なぜか笑いをこらえるような顔で言った。


 僕たちの目の前にあるのは、長い、槍の形をした板だった。


 売り切れてないのがわかるのは、見本の前に説明文が置いてあるからだ。


「『魔法の伸縮槍しんしゅくそうフェトラ』、か」


 見本の板を見ると、どんなものか大体わかる。


 長さは僕の腕より少し長いくらい。短めの槍──ゲームで言うならショートスピアだ。


「『伸縮槍』ということは、伸びたり縮んだりするんですか?」


「……シマスヨー。魔力デ伸ビ縮ミシマスヨー」


 なんでカタコトなんだよ。


 ……そういう言い方されると、欲しくなっちゃうじゃないか。


「まぁ、確かにこれなら、普通の冒険者にも手が届くものですけどね」


「訳あり品ですか?」


「言っておきますが、苦情は受け付けませんよ? 時間を無駄にしたとか、万が一購入したあとに返品、とかできないですからね? それでも良いならお持ちしますよ」


「ぜひ見せてください」


 いいよね。訳ありの武具。


 製作者がギミックに凝りすぎて、複雑になっちゃった奴とか。久しぶりに僕が元の世界で作ってたゲームとかを思い出す。


 ……作ったなぁ。ギミックを理解して使えば強力なのに、その発動条件が複雑すぎて、誰も使ってくれなかった武器とか。名前がすべてのキャラ名のアナグラムになってて、その順番で装備すると真の力を発動させる聖剣とか……あったあった。


 もしかしたらこの伸縮槍も、使いようによっては強力なのかもしれない。


「アイネ」


「はい。なぁくん」


「このサイズの槍なら、カトラスが持つのにちょうどいいと思うんだけど、どうかな」


「いいと思うの。剣よりも軽いし、間合いも長くなるの。カトラスちゃんなら、馬上で戦うこともできるようになるの」


「ラフィリアにも質問。魔法の槍なら頑丈だし、ゴーストなんかとも戦えるようになるよな」


「なると思うですぅ。それに、カトラスさまは鎧でご自分の分身を作り出せるのですよね? だったら、それなりの魔力もあるので、この槍も使いこなせると思うのですぅ」


 そんなことを話してるうちに、案内役のメリーゼさんが戻ってきた。


 手に、布に包まれたショートスピアを持っている。


「こちらです。どうぞ、お試しください」


 口調は丁寧だけど、唇の端がぴくぴくと動いてる。


「冒険者には、こんな物しかないですからね。うちは貴族向けの市場なんですから……」


 そう言って案内役メリーゼさんは、槍を包む布を開いた。


「「「おおー」」」


 僕たちは声をあげた。


 これが『伸縮槍フェトラ』か。


 太さは、通常の槍と同じくらい。


 手にとってみると……軽いな。軽めの金属でできてるようだ。


「魔力を注げばいいんですか?」


「そうすると伸びますね。やってみたらいかがですか?」


 やってみよう。


 手から槍へ、魔力を注いでいくと──




 ずるっ。




 槍が伸びた。1センチくらい。


 魔力が足りないのか? もう少し多めの魔力を注いでみるか。




 ずりっ、ずりりりっ。




「なぁくん……」


「マスター……」


「うん。伸びてるね」


「……だから『失敗作』って言ったじゃないですか。ふふふっ」


 案内役のメリーゼさんは薄笑いを浮かべてる。


 槍はゆっくりと伸びていく。イモムシがうような速度で。


 ……すごく、じれったい。




「がんばって! 槍さん。あと少しなの!」


「あなたはやればできる槍なのですぅ!」




 アイネとラフィリアが応援する中、槍は徐々にその長さを伸ばしていき──




 かちっ。





「「「おおおおーっ!!」」」




 10分後。


『伸縮槍フェトラ』は、無事に、2倍の長さまで伸びた。


 普通のスピアなみの長さだ。重さは少し軽いけど。


 たぶん、柄が二重になってるんだろうな。普通の柄の中に、一回り細い柄が入ってて、それが魔力で伸びるようになってる。機械式じゃない分だけ頑丈がんじょうだけど──


「いくらなんでも遅すぎじゃないかな……」


「だから『失敗作』と申し上げたでしょう!? 文句がおありですか!?」


「いえ、別に文句はないですよ?」


「…………っ。貴族の方々にはお見せできない商品ですのでね。見せると、みなさん怒られますので。こんな使い物にならないものに時間を取らせて、って」


「使い物にはなると思いますけど。伸ばした状態を維持すれば、軽めのロングスピアとして使えますし」


「10分立つと通常状態に戻りますけどね」


「魔法の槍なんだから、ゴーストや魔法生物なんかを相手に……」


「穂先は着脱式で、普通の槍と変わりませんけどね」


「だったら、ショートスピアとして使えば……」


「普通のショートスピアを買った方がはるかに安いんですけどね」


「……」


「……」


 の部分にだけ魔法がかかった槍か。


 一応、魔法の武器ではあるんだよな……だったら『概念』もあるはずだ。


 可能性としては『魔力で伸びる槍』とか、かな?


 ……よし。


「これ、ください」


「はぁっ!?」


「『隠し市場』の名前は伊達だてじゃないですね。すごい掘り出し物だ」


「……あ、あ、あ」


 あれ?


 案内役のメリーゼさん、なんでそんな引きつった顔してるんだ?


「なんに使うんですか?」


「さー」「さー」「さてねー、ですぅ」


「……庶民しょみんを追い払うために……使えない装備を見せてるのに……なんで」


「なにかおっしゃいましたか?」


「いいえ! では、交渉に入りましょう!!」


「わかりました。それじゃ、アイネ、よろしく」


「了解なの!」 




 話は数分でまとまった。


『伸縮槍フェトラ』の値段は、普通のショートスピアの倍くらい。本当に売れ残りだったみたいで、アイネが交渉するまでもなく割引してくれた。


「それじゃ、ちょっと外で使い心地を試してもいいですか?」


「返品はできませんよ?」


「所有権はもう、僕たちにあるってことですよね?」


「ええ。想像通りの能力じゃなかったとしても、変な効果が出ても、もうそれはあなた方のものです。返品も返金も受け付けません、いいですね!」


 なぜか怒ってるメリーゼさんの声を背に、僕たちは倉庫を出た。


 そのまま、人気のないところに行って、と。





「発動! 『能力再構築スキル・ストラクチャー』!!」




 僕は『伸縮槍フェトラ』の概念を確認することにした。






『伸縮槍フェトラ』


『魔力』で『2段階』に『伸びる』槍





 やっぱりだ。ちゃんと概念が存在する。


 これなら、使えるアイテムに再構築できるな。対応するスキルは、さっきもらったこれを使おう。





『不眠症LV1』


『心配ごと』で『勢いよく』『目覚める』スキル






 とりあえず『4概念チートアイテム』にすればいいかな? これでどうだ。




「実行! 『高速再構築クイックストラクチャー』!!」




 そしてできあがったアイテムは──




『高速伸縮槍フェトラ2』


『魔力』で『勢いよく』『2段階』に『伸びる』槍




 残留概念:『心配ごと』『目覚める』




「……すごいな『隠し市場』」


 さすがはイリスおすすめの市場だ。


 まさか、こんな短時間でチートアイテムが手に入るなんて思わなかった。


 あとでイリスと領主さん、それに案内役のメリーゼさんにもお礼を言わないとな。


「アイネ、ラフィリア。まわりに人は?」


「いないの。『動体観察どうたいかんさつ』で確認済みなの」


「見えるところに人はいないですよぅ」


「じゃあ、実験するよ?」


「「はーい」」


 というわけで『再構築』した魔法の槍を構えて、と。


 軽く魔力を注ぐと──




 じゃきんっ!




 一瞬で2倍の長さに、伸びた。


「「おー」」


 もう一回魔力を注ぐと、




 しゅるんっ!




「「おっ。おおーっ!!」」


 これまた一瞬で元の長さに戻った。


「使えそうだな。これならカトラスの戦闘も楽になるかもしれない」


「いいと思うの。敵の間合いの外から攻撃ができるの」


「掘り出し物を見つけましたねぇ」


 うんうん。うん。


 僕とアイネ、ラフィリアは顔を見合わせてうなずきあう。


 これはアイネの収納スキル『お姉ちゃんの宝箱』にしまっておいて、カトラスと合流したらパーソナライズすることにしよう。


「マスター、お空をごらんください」


 不意にラフィリアが、頭上を指さした。


 僕とアイネも、つられて真上を見る。


「あそこに、鳥さんがいますねぇ」


「いるね」


「あれは魚を常食とする『ホリハラ鳥』さんで、あぶらがのってておいしいんですよぅ」


「そっか。じゃあ、まわりに人気もないし、ラフィリアが射落としてくれる? 晩ご飯か……いや、いい商品を紹介してくれた案内役の女性に、お礼として渡した方がいいか」


「そうしたいのですけど、あたし、今は弓矢を持ってないのですよぅ」


「そっかー、残念だねぇ」


「他に使えるものがあるといいの」


 僕たちは『伸縮槍フェトラ2』を見て、にやりと笑った。


 確か、この槍の穂先ほさきは交換式だったよな。普通の槍と同じ規格になってるはず。


 だったら、留め金を外して、と。


 念のため腕を伸ばして、アイネとラフィリアも離れて、と。


「伸びろ! 伸縮槍しんしゅくそう!」



 しゅんっ!



 槍が伸びた。



 さくっ。



 勢いよく飛び出した槍の穂先が、飛んでる鳥に刺さった。


 魔力を注ぐと『伸縮槍』は文字通り『勢いよく』伸びていく。その先端に、留め金を外した穂先をつけておけば、衝撃で飛んでいく。まっすぐ飛ぶかどうか心配だったけど、この槍、穂先が変えやすいように先端はきちんと金具でロックするようになってる。安定性もいい。


 たぶん、これを作った人は、穂先を撃ち出すことも考えてたんじゃないかな。


『…………くけー』


 羽の根元を貫かれた『ホリハラ鳥』が、僕たちの目の前におちてきた。


「はいっ、と」


 地面に落下する前に、アイネが革袋を広げてキャッチ。槍の穂先も回収する。


「うん。これは切り札になりそうだね」


穂先ほさきがもったいないから、最後の手段なの」


「敵から離れて戦えるのはいいことですねぇ。安全ですねぇ」





 そんなわけで、僕たちは『ホリハラ鳥』を持ったまま、市場に戻り──





「「「いい商品を紹介してくれてありがとうございました! お礼です! みなさんで食べてください!!」」」


「「「はああああああああああっ!?」」」




 なぜかびっくりしてる案内役メリーゼさんに、鳥を手渡した。




「え? なんで、鳥? お礼って? どうして……!?」


「調理してからの方がよかったですか?」


「いえ、私たちは倉庫街に泊まってますから、すぐに調理できますけど? え? どうして? お礼って? 意味がわからないんですけどぉっ!?」


 そんな、目を白黒させるほどのことじゃないんだけどな。


 あの『伸縮槍フェトラ』は、値段以上のものだったし。『不眠症LV1』の残った概念だって、使い道はありそうだし。


 いい商品を紹介してもらったんだから、お礼くらいはしないとね。


「それで、他にも掘り出し物がないか見てみたいんですけど……」


「へ、返品はきかないって言いましたよね!? さっきの槍、もう買い戻せませんからね!?」


「いまさら返品する気はありませんよ。たとえ、10倍の値段でもね」


「…………え……あ、あ、なんでぇ……」




 案内役の女性は、肩をふるわせて僕たちを見てた。


 そして──



「いいですとも! だったら、もっと別の商品をご紹介しましょう。あなたたちのような変わり者の冒険者にふさわしい! 貴族が目もくれないような珍品ちんぴんをね!」


「「「よろしくお願いします!!」」」




 それから、僕たちは案内役メリーゼさんの紹介で、いろいろな物を見てまわり──




「いい買い物だったね」「こんなの、他では手に入らないの」「やっぱり『隠し市場』は違うですぅ」


「…………なんでしょう、この敗北感……」


「お金が貯まったらまた来てもいいですか? 別の商品も見たいので」


「いいえ! 私たち、もう商業都市メテカルに帰りますから!」


 僕たちの言葉に、案内役のメリーゼさんは首を横に振った。むちゃくちゃ勢いよく。


 なぜか半分、涙目で。


「私たちは貴族向けの特別な商人ですので! プライドが高いので! 庶民に……ほんとの売れ残りの珍品を売って喜ばれたら! 敗北感がはんぱないので! お願いです……もう……かんべんしてください…………」


「それは残念ですね」 


 この市場なら、もっと面白い商品が買えると思ったのにな。


 でもまぁ……いいか。十分な収穫しゅうかくはあったからね。


「「「それじゃ、ありがとうございました!!」」」


「…………うぅ」


 そして、僕たちは市場おすすめの珍品ちんぴんを手に、『隠し市場』を後にしたのだった。


 さてと、帰ったらさっそく、いろいろ実験してみよう。

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