第170話「聖女さまおすすめの、家庭用遠隔支援ゴーレム『りとごん』」

『賢者ゴブリン』の事件が終わった、翌日。


 僕たちはネルハム村を出て、保養地に向かった。


 森のゴブリンやオークとは、とりあえずの不戦協定は結んだし、あとは村の人たちのお仕事だ。


 ノノトリさんと長老さんは、『勇者クエスト』についての情報が入ったら教えてくれる、って言ってくれた。トトリとルトリには「また遊びに来る」って約束した。リタの、獣人の部族へのトラウマもなくなったし、本当にそのうちまた、遊びに来よう。


 ただ、今は帰った方がいいかな、って思ったんだ。


 英雄扱いされるのは好きじゃないし、そろそろイリスとラフィリアが来る頃だからね。ちゃんと迎える準備をしとかないと。




 そうして僕たちはゆっくりと保養地に戻り──




「じゃあちょっと、聖女さまに会ってくるね」




 僕は聖女デリリラさんの洞窟どうくつに出かけることにした。


 留守の間、聖女さまとクエストに行ってたカトラスが、




『聖女さまは「そろそろドラゴンゴーレムを受け取りに来て」って言ってたであります』




 って、報告してくれたからだ。


 前に聖女さまのクエストを受けたときに、報酬として『小型ドラゴンゴーレム』と『転生先仮想鏡リーインカーネーション・ミラー』をもらうことになってた。そのうちのひとつ『小型ドラゴンゴーレム』が完成したらしい。


 あの聖女デリリラさんが作ったゴーレムなら、戦闘にも使えるかもしれない。そしたら、僕たちのクエストもかなり楽になる。もしかしたら、自分たちは働かないで生活できるようになるかも。


 ……楽しみだな。


 戦闘にはならないはずだから、大人数で行く必要はない。だからメンバーは僕とアイネ、それとレギィの3人。


 他のみんなは、お休みってことにした。










 そして、聖女さまの洞窟に着くと、





『来たねー! 待ちくたびれたよ。いんちきご主人様のナギくん!』





 聖女さまの幽霊ゴーストが、洞窟の入り口で待ち構えていた。


 僕たちを見て、聖女さまはめいっぱいの笑顔を浮かべて、




『ふふふ、驚くがいい。これがデリリラさんの技術の結晶! 「リトルドラゴンゴーレム」だよ!』




 地面に置かれた、純白のゴーレムを指さした。





「「『おおー』」」




 僕とアイネ、レギィは、思わず感動の声をもらした。


 聖女さまが作ってくれたのは、翼を持つ、ちょっと──いや、かなり可愛いドラゴンだった。


 大きさは、僕の肩にちょうど乗るくらい。


 色は白。頭には角があり、短い両手の先には、とがった爪が生えてる。


 背中には折りたたみできる二枚の翼。


 聖女さま特製の『リトルドラゴンゴーレム』は真っ黒な目を開いて、僕とアイネとレギィを見つめてた。


「……前のとデザインが変わってませんか?」


『君が「自分の奴隷たちより可愛い存在なんかいない」なんて言うからだよ』


 ……そういえば、そんなこと言ったような。


 言ったんだろうな。後ろでレギィが、うんうん、ってうなずいてるから。アイネは初耳なのか、顔を真っ赤にしてるけど。


『だから、デリリラさんが大急ぎで改造したんだよ。君の奴隷どれいに負けないくらいラブリーになるように。そして、君たちの役に立つようにね!』


 びしっ、と、聖女さまは僕を指さした。


 さすが、伝説の聖女さまだ。


「なんか……申し訳ないです。そこまでしてもらうと」


 本当は、余り物をもらうだけのはずだったのに。


『気にすることはないさ。さて、と、使い方だけどね。これは君たちが魔力を注ぐことで、自由に操れるようにしてあるんだ』


 幽体の聖女さまは言った。


『それと、単純だけど自我も持ってるよ。でないと「翼を動かせ」とか「爪を振れ」とか、細かいところまで命令しなきゃいけないからね。自我があるからこそ、簡単な命令で動くのさ。これがあればクエストも楽になるだろう。まさにデリリラさんの最高傑作だよ!』


「ありがとうございます、聖女さま」


 さすが『聖女デリリラ』の名前はだてじゃない。


 このダンジョンを作っただけのことはあるよね。なんか、感動する。


「すごいの、この『リトルドラゴンゴーレム』さん」


『うむ。魔法の武器である我から見ても、かなりのできばえじゃな』


「『リトルドラゴン』さんがあれば、なぁくんのクエストも楽になるの」


『そうじゃな。この「リトゴン」ならば、主さまの役にも立てるじゃろう。我ほどではないがな』


「アイネも『りとごん』くんに負けないようにしないと」


『なぁに、メイド娘よ。アイテムとはしょせん道具よ。が、気を引き締めるのは悪くないな。我も『りとごん』には一目置くとしようよ』


 ──いつの間にか略称が決まってた。


『では「りとごんくん」に触ってみなよ、いんちきご主人様のナギくん』


 ──しかも聖女さま公認オフィシャルになってた。


『そうすれば君がご主人様として認証されるよ。さぁ!』


「こうですか?」


 僕は『りとごんくん』に手を伸ばした。


 長く、するどい爪が生えた前足に触れると──




 ふにっ。




「……あれ?」




 ふにふに、ふに。




「やわらかいですね……」


『そうだろう!?』


 聖女さまはどや顔で胸を張ってた。


『改造のついでに、素材をやわらかくてふにふになものに変更したのさ! 苦労したんだよ。ほめてよ』


「なんでやわらかいんですか?」


『君の奴隷どれいたちがさわっても、怪我をしないようにだよ!』


「怪我しないように……」


『ほら、みんなかわいい少女たちじゃないか』


「言うまでもないですね」


『その柔肌やわはだを固い爪で傷つけたら大変だろう?』


「大変ですね」


『だろう?』


 僕と聖女さまは同時にうなずいた。


「でもこれ、戦闘に使えますか?」


『君は戦闘と奴隷のどっちが大事なんだい?』


「奴隷のみんなです」


『だろう!?』


「ですね」


 じゃあ問題ないか。


 この『りとごん』、ゴーレムというよりもぬいぐるみみたいな感触だけど。


 目も大きいし、口も大きい。聖女さまがデフォルメしたようだ。


「表面、ふわふわですね」


『うん。丸洗いできるようにしてある』


「画期的ですね」


『丸洗いできるゴーレムは世界初だと思うよ』


「ってことは、水を吸うんですか?」


『もちろん、吸水性と保温性にもすぐれている。身体を拭くのにも使えるよ!』


「世界初ですね」


『だろう!?』


 ……どうしてだろう。


 なぜだか、ゴーレムの定義が崩壊ほうかいしていってるような気が。


『本当はね、固く強くて、戦闘力にすぐれているゴーレムを作る予定だったんだよ』


「まぁ、普通のゴーレムってそうですよね」


『……でもね、デリリラさん、想像しちゃったんだよ』


 聖女さまは額を押さえて、ふるふると震えながら。


『その「りとごん」に戦わせて、君たちがいちゃいちゃとお茶してる光景が……。

「はい、ナギさま、あーん」「あ、こら、セシル、自分で飲めるってば」「すいませんナギさま! お茶がこぼれちゃいました」「そこは自分で拭くって」「じゃあ、次はこのパンを」「それより食べたいものがあるなぁ」「え、まさか」「そう、この場で奴隷の君を──」──って。ふふ、ふふふふふ』


「聖女さまの中で僕はどんなキャラに!?」


『──それは考え過ぎとして、これ以上君たちをいちゃいちゃさせる機会を増やすこともないかな、と』


 急に真顔に戻らないでください。


 それに──


「戦闘用にしなかったのって、本当は僕たちの魔力のことを考えてくれたからですよね?」


『──んー、なんのことかな』


「前に、このダンジョンで『ドラゴンゴーレム』と戦ったとき、相手は魔力不足で動かなくなりましたよね? つまり、ゴーレムを戦わせるにはそれなりの魔力が必要なわけで、戦闘用のゴーレムを扱うには、それなりの魔力を消費する」


 僕は『りとごん』の角をふにふにしながら聞いた。


「で、僕たちがどれだけの魔力を扱えるか、聖女さまはわからない。だから周辺探索とか、防御オンリーで使えるゴーレムを作ってくれたんだと考えてますけど」


『ふ、ふーんだ。そんなことないもんねー。デリリラさん、君たちの仲良しチートを見るのが嫌なだけだもんねー』


 だったらどうして背中向けてるんですか聖女さま。


 霊体なのに首筋、真っ赤になってますし。


『それより、さっさとその「りとごんくん」を「ぎゅー」っとするといいよ。そうすると君の体内魔力を吸収して、自由に扱えるようになるからさ』


「こうですか?」




 ぎゅー。


 ぴくん。




『りとごん』が僕を見た。




 ぴくん、ぴくん、ぴくん。




 尻尾が跳ねて、小さな翼がはばたきはじめる。


『あとは、指示したり考えたりするだけで動くよ。やってみて』


「それじゃ……『りとごん』くん。アイネを守って」


『ふみふみ、ふみっ!』


 小さなドラゴンゴーレムは、ぱたぱたとはばたきながら、アイネの前に移動した。


 おー。


 なんか感動するな。まるで元の世界の『小型ドローン』を扱ってるみたいだ。


「これ、撮影能力とかないんですか?」


『そういうのはないなぁ』


 そりゃそうか。これはあくまでゴーレムであって、ドローンじゃないんだから。


『だけど、誰かの意識を一時的に宿らせることはできるよ』


「意識を?」


『そう。その間は本人は眠った状態になっちゃうけどね。使いどころが難しいから、気をつけるようにね』


 ……確かに、聖女さまの言うとおりかもしれない。


 アイネもレギィも『りとごん』を抱っこして目を輝かせてるし。小声で「おふろ」「ねがお」とかつぶやいてる。うかつに使うと大変なことになりそうだ。


「あの、聖女さま」


『なんだね。ナギくん』


「その機能にロックをかけることはできますか?」


『なんで!?』


 びっくりされた。


 でも、ご主人様権限でロックをかけることはできるらしいので、かけといた。


 アイネとレギィには「『えー』」って顔されたけど。










 帰り道。


 僕たちは『リトルドラゴンゴーレム』で実験をしてみることにした。


 ちょうど夕飯の材料を狩って帰ろうと思ってたから。そのついでだ。


「このあたりには『ダークイボイノシシ』が出るそうなの」


 って、アイネが教えてくれる。


 明日か明後日くらいにイリスとラフィリアが来る予定だから、歓迎会の食材にはちょうどいよね。




『ダークイボイノシシ』


 漆黒しっこくの毛並みのイボイノシシ。ナワバリ意識が強い。


 力はあるが、移動速度が遅いため、狩りの初心者向きでもある。


 ただし、するどい角と、噛みつき攻撃には注意が必要。






「……見つけたの」


「あれが『ダークイボイノシシ』か」


『まだこっちには気づいておらぬようじゃの』


 森の中。


 僕たちは木々の向こうにいる、黒いイノシシを見つけた。


 距離は20メートル弱。獲物の大きさは1メートル前後。狩りの獲物としては十分だ。


「まずは『りとごん』で挑発する。敵がこっちに向かってきたところで、僕とアイネが横から攻撃。外したら川沿いに誘い込んで、アイネの『汚水増加おすいぞうか』でとどめを刺す。それでいいかな?」


「できれば『汚水増加』は使いたくないの」


「どうして?」


「水分を抜いちゃうと、肉がぱさぱさになって、おいしくなくなるから」


 ……なるほど。


「レギィさんの『液状生物支配スライムブリンガー』は使えないの?」


『このあたりにスライムはおらぬようじゃよ』


 僕の肩で、フィギュアサイズのレギィがうなずく。


『今回はこの「りとごん」にがんばってもらうしかないようじゃ』


「期待してるの。『りとごん』くん!」


 ふにふに、ふに。


 アイネは『やわらか素材ゴーレム』を抱きしめて、レギィはその耳をふにふにしてる。


「そういえばレギィさん、気づいてる?」


『もしかして、こやつの隠れた機能のことか?』


「やっぱり気づいてたの?」


『なめるでないわ。同じアイテムの隠し機能に、我が気づかぬはずがあるまい』


 アイネとレギィが、顔を見合わせて笑った。


「……隠れた機能?」


「この『りとごんくん』は保温性が高いの」


『そして、主さまが抱きしめることによって、魔力を供給しておる。つまり』


 ふたりは『やわらか素材ゴーレム』を、ぎゅーっとして、


「『アイネ(我)は、いつでもなぁくん(主さま)のぬくもりを感じられるというこのなの(じゃ)!!』」


「そういう道具じゃないから!!」


 変な使い方するのやめなさい。


 アイネもレギィも、抱きしめてくっついてると『りとごん』は使えないからね。狩りをするって決めたんだからね。


「じゃあ、作戦開始だ」


 名残惜しそうにほおずりするアイネとレギィから『りとごん』を離して、僕は『ダークイボイノシシ捕獲作戦』を開始した。

 






「それじゃ『ダークイボイノシシ』をおびき寄せて。『りとごん』」





『ふみふにふみ、ふに』





 僕の指示で、『リトルドラゴンゴーレム』が歩きだす。


 意外と早い。さすが聖女さま作成の特注品だ。


 そのまま『ダークイボイノシシ』に近づいていった『リトルドラゴンゴーレム』は翼を広げ、一気にイボイノシシの前に飛び出した。






『ふみふみふにふに、ふにぃっ!!』


『ぶをー!』





 ぽふん。





『ふみみーっ』





 はじき飛ばされた。


『りとごん』はそのまま木にぶつかってバウンドして、帰ってきた。





「…………えっと」




 イノシシは『リトルドラゴンゴーレム』を無視して歩き出す。


 ……もしかして、脅威きょういにもならなかった、ってこと?


「考えてみればそうだよね」


『りとごん』は、やわらか素材だし、軽いし、まんま『空飛ぶぬいぐるみ』だし。しかもなぜか、目も牙も角も、デフォルメされてかわいいし。


「やっぱり戦闘は無理かな……」


『待つがよい主さま。そいつはまだやる気じゃ』


 僕の肩の上で、レギィが、びしっ、と『リトルドラゴンゴーレム』を指さした。


 それを見た『りとごん』は翼を大きく広げて、ふにふに、と牙を鳴らした。


『やはりじゃ。アイテムにも、プライドというものがあるからのぅ』


「あるのかなぁ」


『初戦闘がこれでは、このゴーレムに負けぐせがついてしまうのじゃ。やれるだけ、やらせてやってはくれまいか』


『ふみふみ、ふにっ』


 レギィの言葉にうなずくみたいにして、翼をばたつかせる『りとごん』。


 ……そういうことなら、やってみるか。


「今度は安全距離を取って、翼で相手を挑発するようにしてみて」


『ふにふに、ふににっ!』


 そして『りとごん』は飛び立った。







「……大丈夫かな。『りとごん』」


「……使い魔を信じるのも、ご主人様のつとめなの」


『……無理はするなよ。我らがついておるのじゃからな』


 僕たちは草むらに伏せて、『りとごん』を見守ってた。


 ……なんだか、子どものお使いを見守る親みたいになってるけど。





『りとごん』が『ダークイボイノシシ』の間合いに入った。


 戦闘開始だ!





『ふみふみ、ふにっ!!』


『ぶをー!!』




『りとごん』は翼をはばたかせた。


『ダークイボイノシシ』はあらぶっている。






『ぶをぶをぶをーっ!!』




『ダークイボイノシシ』の角こうげき!





「危ない!」


「待って! 紙一重でかわしたの!」


『まさか! この短時間で成長している……じゃと!?』





『りとごん』の翼こうげき!


 翼が『ダークイボイノシシ』の鼻先をかすめた!


『ダークイボイノシシ』を激怒させた!





「よし、もう十分だ。戻れ!」


「ううん。あの子は、まだやる気なの」


『だめじゃ。あまり深追いをするのは──』





『ぶをーっ!!』


『ふに────っ!!』


「「『あ』」」


『ダークイボイノシシ』の角が『リトルドラゴンゴーレム』に激突した。


 重いイノシシの体当たりが、ちっちゃなゴーレムをはね飛ばす──って。





「「『りとごん────っ!!』」」


 ぽっとん。




 飛ばされた『リトルドラゴンゴーレム』が、僕たちの足下に落ちてくる。


 怪我はない。聖女さまが作った『やわらか素材』が角をふんわり受け止めてる。だけどそのつぶらな瞳は痛みに震えてる(主観)。角は衝撃でしんなり(主観)して、唇は悲しみをたたえている(主観)。




『ぶを! ぶををを──!!』


『ダークイボイノシシ』は勝ち誇ってる。鼻息荒く、勝利の雄叫びをあげてる。


 興奮してる。勝利に酔ってる。




 僕たちがすぐそばまで近づいてるのも気づかないくらいに。





「「『ふふ…………ふふふふふ』」」


『ぶを!!』


『ダークイボイノシシ』がこっちを見た。


「……どうやら僕たちは、間違ってたようだ」


「……ええ、自分の食材は、自分の力で獲得するべきだったの」


『……もらったばかりのラブリー使い魔に任せるのは、我らのおごりだったのじゃ』





『ぶを……。ぶをっ!? ぶを────っ!!』




『ダークイボイノシシ』が悲鳴をあげる。


 でも──もう遅い。


 すでにこっちの『チートスキル』は準備できてる。


「アイネ、レギィ」


「はい。なぁくん」


『うむ。いつでもいいぞ』


 僕とアイネ、レギィは顔を合わせてうなずきあう。


 そして──





「「『やっちゃえ』」」


『ぶををおおおおおおおおおお!!』


『ダークイボイノシシ』の絶叫が上がった。






 アイネの『動体観察どうたいかんさつ』で動きを読んで回り込み、僕の『遅延闘技ディレイアーツ』2連発と、アイネの『魔力棒術』。とどめは僕の『超越感覚ちょうえつかんかく』でクリティカル。




『ぶを────っ!!』




『ダークイボイノシシ』をたおした!




 その間、わずか数分。


 短い戦闘だったけど──僕たちにとっては重要だった。


 ひとつ、気づいたことがあるから……。





「もしかして僕たちって、使い魔を操るのに向いてないんじゃないかな……」


「ラフィリアさんの『エルダースライム』さんは、再生するから気にならないんだけど……」


『あの純朴聖女のデザインが悪いのじゃ。ラブリーすぎて、ほっとけなくなってしまうのじゃ!』







 それから僕たちは『ダークイボイノシシ』をアイネの『お姉ちゃんの宝箱』に入れて──


 あらためて『りとごん』に傷がないか調べて、念のため川の水で洗って──


 それから洗濯紐につるして、僕とアイネで支えながら、別荘に戻ったのだった。






「おかえりなさい! ナギさま!」「お、おかり……ナギぃ」「おかえりなさいであります!」「意外と時間がかかりましたのね?」






 別荘に帰ったあと僕たちは、セシルとリタとカトラスとレティシアに『りとごん』のことを説明した。


 みんな『ふわふわ』なゴーレムに興味しんしんだった。


 でも……みんなで話し合った結果、『りとごん』は戦闘に向かないだろう、って結論になった。


 軽いし、柔らかいし、力もない。


 無理に戦わせるのは、僕たちの趣味じゃないからね。


 だから、みんなのぬいぐるみにしてもよかったんだけど、アイネは、


「ひとつ、みんなの幸せのために……思いついたことがあるの。いろいろ研究と分析をしたいんだけど、いいかな?」


 って言った。


 もちろん許可した。


「その前に、汗を流した方がいいかな? なぁくんからお風呂に入ってくれる?」


 アイネは言った。


 セシルとリタが、前もって沸かしてくれてたらしい。


 戦闘で汗をかいたからね。お言葉に甘えよう。






「……聖女さまのゴーレム、使い道が難しいよな」


 熱いお風呂につかりながら、僕は『りとごん』について考えてた。


 性能はいい。耐久性もある。頭だって悪くない。


 だけど聖女さまがいろいろ考えすぎたせいで、トリッキーなゴーレムになっちゃってる。


 なによりラブリーすぎて、あんまり戦闘には使いたくない。でもそれだと、ただのぬいぐるみになっちゃうんだよな。それでも構わないけど……やっぱりちょっともったいない。


 アイネが家での使い道を考えてくれたなら、それはそれでいいんだけど。


 ……そういえばさっきのアイネ、自信たっぷりだったな。


 きっと、みんなが喜ぶ使い方を考えてくれたんだろうな……。





 そんなことを考えながら、風呂場を出ると──





 脱衣所に置いてあった、タオルが消えてた





『ふにふに。ふみ』




 カゴの中には着替えと、『りとごん』が入ってた。


 やわらかくて肌触りと吸水性が良くて、丸洗いできるゴーレムが。


 ……そういえば聖女さま、このゴーレムは『身体を拭くのにも使える』って言ってたっけ。


「……なぁくんなぁくん」


 ドアの向こうから、アイネの声がした。


「ごめんなさいなの。タオルをさっき、一枚残らず井戸に落としちゃったの。『りとごん』くんで代用して欲しいの」


「あの……」


「大丈夫。『りとごん』くんは、吸水性にすぐれたゴーレムなの」


「いや、別に乾いた布であれば、なんでも」


「一枚残らず濡らしちゃったの」


 ……おいこら。


「でも、これからみんなで『リトルドラゴンゴーレム』の分析をするんだよね? 身体を拭くのに使っちゃったら……」


「大丈夫なの」


 不思議だった。


 ドア越しなのに、アイネが「ぐっ」って親指を立てるのが見えたような気がした。


「分析する順番は、さっきくじ引きで決めたから」


「こら」


「ちなみに、1番を引いたリタさんは真っ赤になって気絶しちゃったから、繰り上げでレティシアからになったんだけど、いいよね?」


「いいわけなんだろ? 人が身体拭いたやつでなにするつもり!?」


「聖女さまにレポートを提出するの」


 ドア越しに、アイネが笑う気配がした。


「協力してくれる? なぁくん」


「しません!!」


 しょうがないので『りとごん』で身体を拭いて、それをさらに水洗いしてから、僕は脱衣所を出た。


 アイネはしょんぼりしてたけど。


「……しょうがないの」


「しょうがないよね」


「あのくじ引きは、お風呂に入る順番にするの」


「でも『りとごん』はまだ乾いてないけど」


「問題ないの。アイネには必殺『汚水増加おすいぞうか』があるんだから」


 アイネは『りとごん』を物置に持って行って、天井に吊して、その下に泥水の入ったバケツを置いて『汚水増加』を起動。


『りとごん』の水分を抜いて、瞬間乾燥させた。


 そして──




「ちょっとアイネーっ! わたくしが、身体を拭くものがなくなってるのですけれど!?」


「ゴーレムの『りとごん』くんを使って欲しいの。実験なの。レティシア」


「無茶言わないでくださいな! ゴーレムで身体を拭くなんて…………って、なんですの? この吸水性とふわもこ感は!? まるで身体が羽根で包まれているような……って、拭いたあとのゴーレム、どこへ持って行きますの? 研究? あの、アイネ。ちょっと────っ!!」


 そんなこんなで──。


 聖女さまが作った『リトルドラゴンゴーレム』は、我が家の『遠隔操作式ふわもこタオル』として活躍することになったのだった。




 ……そのうちちゃんとした使い道も考えよう。

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