第164話「人の話を聞かない魔物の耳を、最大出力でふさいでみた」

『彼』は森を走っていた。


「作戦失敗。『ゴブリン使役計画』は破棄。逃走を優先」


 走りながらスキルを起動した『彼』は『黒い獣人』から、『ゴブリン』へと変化する。


『賢者ゴブリン』──そう名乗っていた通りの、長い白髭をたくわえた、筋骨隆々とした姿だ。


 力と知恵、その両方がなければ、魔物を従えることなどできはしない。


「我が使命を再確認。亜人を弱体化させること。獣人の秘宝を手に入れること。我がギルドの力は弱まった。今のうちに、魔王に接触できるだけの材料を──」


『賢者ゴブリン』は額に手を当てた。


 記憶が混乱している。そろそろ、元の姿に戻った方がいいかもしれない。


 彼のスキルは変身能力だ。いかなる姿を取ることができ、その姿の能力をある程度まで使うことができる。


 が、代償として記憶と自我が、姿かたちに引きずられてしまう。


 長い時間ゴブリンの姿を取っていた時もそうだった。一時期、ゴブリンの中にすばらしい美少女を見つけて思わず求婚しそうになった。獣人になったときは、ボールがころころ転がっているのにじゃれついて、そのまま我を忘れそうになったこともある。


「……ゴブリンも獣人も、我にとっては化け物だというのに」


 走りながら『賢者ゴブリン』は振り返る。


 敵が追ってきている。大丈夫。いざというときの作戦は考えてある。


 伊達に『賢者ゴブリン』を名乗っていたわけではない。作戦が失敗したときの保険はかけてあるのだ。大丈夫。自分のスキルは完璧だ。次の姿に変われば、奴らを殺して、逃げのびることができる。


「我は大いなるダンジョンをクリアし、偉大なる魔王と出会うだろう……」


 そして『賢者ゴブリン』は姿を変化させた。


 彼は息を吸い込み、叫ぶ。




『ヴゥオオオオオオオオオ!!』


『────ヴゥオ?』




 森の向こうから返答があった。


 予想通りだ。この『獣人の村』を襲うことは計画のうち。


 周囲にどんな魔物が棲んでいるかは、前もって調べてある。


『我の危機だ。力を貸してくれるだろう? 同胞諸君よ』


 彼はにやりと笑い、敵を迎え撃つ準備をはじめた。




────────────────────




『リタ(受信者:ナギ):報告ですご主人様! 魔物が近づいてきてます!」


 先行するリタから『意識共有マインドリンケージ・改』のメッセージが届いた。


 僕とセシルとリタは、逃げた『賢者ゴブリン』を追いかけてる。


 敵はもう獣人の姿はしていない。けど、足が速い。リタといい勝負だ。


 もしかしたら戦闘系のチートスキルを持ってるのかもしれない。




『ナギ(受信者:リタ):魔物の種類はわかる?』


『リタ(受信者:ナギ):たぶん「森オーク」ね。数は10と少し。動きはにぶいけど、耐久力があるから面倒な相手ね……』




『森オーク』


 森に住む豚人。集団での狩りを得意とし、ゴブリンと連携を取ることもある。


 ナワバリ意識が強く、入ってきた者には容赦しない。


 皮下脂肪が厚く、武器が通りにくい。耐久力もあるので戦闘は注意。




『リタ(受信者:ナギ):気をつけて……って、もう来た!?』


 木々の間から『森オーク』が飛び出してくる。


 錆びた剣を手に、リタに斬りかかる。けど──


『リタ:もっかい発動! 「察知瞬動アウェイキング・クイックリィ」!!』


 リタの身体が、しゅる、と、オークの剣を避けた。


『ヴォ?』


 オークが剣を振り下ろした時には、リタはもうそこにはいない。


「遅すぎっ!」


 がごんっ!


『ヴォオオオッ!?』


 一瞬で背後にまわったリタは、『森オーク』の後頭部を蹴り飛ばした。


『森オーク』はバウンドしながら地面を転がる。


『……ヴォオオオオ』


「……こいつらも『賢者ゴブリン』に操られてるのか?」


 僕は魔剣レギィを構えた。


『森オーク』は頭を振って起き上がろうとしてる。


 そういえばさっき、森の中で叫び声が聞こえてた。


 あれが『森オーク』を呼ぶ声だったのかもしれない。獣人の村は、魔物の生息地からは離れている。呼ばれでもしなければ、魔物がやってくることなんかない。


「ほんとにやっかいね……変化能力者って」


 リタが僕とセシルのところに戻ってくる。こっちの護衛に戻ってきてくれたのか。


 いつの間にか、僕たちは包囲されていた。


 森のあちこちから『森オーク』は集まってきてる。全員、問答無用で僕たちをにらみつけてる。何度か森の奥を見てるのは、あっちにまだ『賢者ゴブリン』がいるってことか。


「セシル。魔法の属性はまだ『風』のまま?」


「はい。ナギさま」


 セシルが言ったから、僕は彼女のステータスを開示した。




『風魔法』


レベル1:『空音爆サウンドブロゥ』『風の矢ウィンドアロー』『風撃球ウィンドボール


レベル2:『風の壁ウィンドウォール


レベル3:『風精召喚』




「属性を『炎』に戻しましょうか? ナギさま」


 セシルが僕の顔を見上げて、言った。


「『古代語 炎の矢』なら、オークさんたちを殺さずに道を開くこともできます」


「できるけど、この場は障害物が多いからなぁ」


『炎の矢』を連射しても、半分くらいは木に当たる。魔力がもったいないよな。


「『賢者ゴブリン』に逃げられると面倒だからね。ここは障害物無視の魔法で、全員まとめて無力化しよう」


 僕はセシルの顔をのぞき込む。


「セシル、確認だ。『灯り』の水バージョンが『水で相手の五感をふさぐ』ってことは、風バージョンは『風で相手の五感を塞ぐ』魔法ってことでいいんだよな」


「はい。ただ、塞ぐのは目じゃなくて耳になりますけど」


「わかった。セシルはそれを準備して。リタは『察知瞬動』で『森オーク』を突破して『賢者ゴブリン』を足止めして。ただし、獣耳は隠して」


「……獣耳を? 人間の姿になればいいのね?」


「うん。あとはこっちの準備ができたらメールするから、そしたら大急ぎで戻ってくること。いいね」


「わかりましたご主人様!」


 宣言して、リタが走り出す。


 僕たちを取り囲んだ『森オーク』は8体。一斉にリタに武器を向けるけど──


「だから遅いって言ってるの!」


『ぐぼぁ!?』


 リタは紙一重で攻撃を避け、『森オーク』のあごを蹴り上げる。


 肉がついていても、頭蓋骨ずがいこつへの衝撃は消し切れない。倒れた『森オーク』の身体を蹴ってリタは跳び、そのまま2体目にかかと落とし。あっさりと無力化して、森の向こうへ駆けていく。


 さてと、僕も少しは仕事しないと。


『ヴォオオオオオオアアアア!!』


「発動! 『柔水剣術じゅうすいけんじゅつLV2』!」


 しゅるりん。


 魔剣レギィが『森オーク』の剣を受け止めた。


 レギィの『やってやるのじゃ!』って、楽しそうな声が響く。


 レベル2になった『柔水剣術』は受け流し能力が上がってる。前にヴェールの氷の剣を受け止めたときは、180度反転させて打ち返すことができた。


 オークの剣に同じことをすると──


 ぐるん。


『グガアアアアア!????』


 オークの身体が、半回転した。


『まぬけめー! 主さまに斬りかかろうなどとは400年早いわ! あっちいけいっ!』


 オークの剣を受け止めた状態で、魔剣レギィはさらに半回転。


 力を完全に受け流されたオークは、剣を振った勢いのまま仲間のオークに激突した。


『グガアアア!?』


「はいこれ。食べて」


 僕は重なって倒れたオークの口に干し肉を突っ込んだ。


 無意識にそれを飲み込んだオークに『生命交渉フード・ネゴシエーション』で語りかける。


「お前たちはどうして僕たちを襲った?」


『フザゲルナ! ウチのロードを襲ったのはギザマらダロウガ!!』


 怒られた。


 なるほど。『賢者ゴブリン』はオーク君主ロードに変身したのか。


 でもって、奴はまわりにいたオークに助けを求めた。僕たちはそれを追いかけていたから、敵認定されたわけだ。ナワバリ意識の強い『森オーク』たちは、反射的に救助に来たってことか。


 と、いうことは『賢者ゴブリン』の中の人は魔物の生態にも詳しいわけだ。何者なんだろうな。


『魔物は単純じゃからな。だまされるのも無理はなかろう』


「これは話してもわかってもらえそうにないなぁ」


 僕と魔剣のレギィはうなずきあう。


 というか、タチ悪いよね『賢者ゴブリン』。魔物や獣人を利用しまくってる。


 さっさと無力化して、あとは獣人さんたちに任せるのがよさそうだ。


『ナギ(受信者:リタ):リタ、そっちはどう?』


『リタ(受信者:ナギ):けんじゃごぶりん──あしどめ、ちゅう! こいつ──めんどくさい。オークはまとわりついてくるし……あーもぅっ!』


 木々の向こうで、リタが戦ってるのが見える。


 敵の足止めには成功してるみたいだ。ただ、他にもオークがいるから足止めが限界。『意識共有・改』のメッセージがつたなくなってるのはそのせいだ。


 こっちでも、オークの数を減らしておこう。


「発動! 『柔水剣術じゅうすいけんじゅつLV2』プラス『遅延闘技ディレイアーツLV2』──!!」


 しゅるりん。しゅるるりんっ!!


 僕は次々と斬りかかってくるオークたちを、『柔水剣術』で受け流し、転がしていく。


 そして空振りのあと『遅延闘技』を解放。


『ゴガアアアアアアアッ!!』


 オーク3体をまとめて、鞘つきの一撃で吹っ飛ばす。


 敵は木に激突して動かなくなる。でも、きりがない。


「──セシルは?」


「『大いなる風の息吹よ──敵の五感を奪え──』


 振り返ると、セシルが胸に手を当て、風魔法を詠唱していた。


「『それは原初からあふれる振動。純粋なる叫び。我らの勝利と──その力を示すために!』」


 セシルが僕を見て、こくり、とうなずく。


 準備完了だ。


『ナギ(受信者:リタ):リタ、戻ってこい! 最速で!!』


「『リタ(受信者:ナギ):は──────いっ! ご主人さま────っ!!』」


 メッセージが届いたのと、リタが僕の胸に飛び込んできたのと、ほぼ同時だった。


『察知瞬動』の超加速で戻ってきたリタは、僕の手前で急ブレーキ。


 そのまま両手を広げて、僕に、ぎゅ、と抱きついてくる。


「……私はいつでも、ご主人様の、お望みの姿になるんだもん」


 リタは獣耳と尻尾を隠して、人間の姿に変わる。


 僕はリタを抱きしめて、その両耳を塞いだ。念のため、口を大きく開けといてもらう──って、肩を甘かみするのはやめなさい。口をふさいでたら意味ないんだから。


「今だ、セシル!!」


「はい、ナギさま!」


 セシルは宣言し、細い腕を宙に掲げた。


「発動『古代語魔法──空音爆サウンドブロゥ』!!」


 褐色の細い指のまわりで、風が渦巻いた。


 ちりり、と、鈴のような音が鳴る。


 そして、オークたちが僕たちに飛びかかってくる──直前、風が、爆ぜた。







 ──DOOOOOOOOGGOOOOOOOOONNN!!!!──






 森の木々すべてを揺らすほどの爆音が、周囲の空間に鳴り響いた。




『『『ヴォガアアアアアアアアアアアア(耳が、耳がアアアアアアアっ!!)!!!!!』』』



『森オーク』たちが絶叫する。




「────っ!!」



 リタは僕の腕の中で震えてる。


 人の姿になってもらったのは、その方が耳をふさぎやすいからだ。獣人状態だと耳も大きいから、音のダメージも増大する。だから僕はリタの両耳を腕で塞いで抱きしめる。


 僕とセシルは影響を受けてない。古代語版『灯り』と同じだ。


 セシルの風魔法『空音爆サウンド・ブロゥ』は、周囲に巨大な爆音を響かせる。僕の世界で言う『音響爆弾おんきょうばくだん』のようなものだ。『灯りライト』が光で、『濃霧フォグ』が水で相手の視界を塞ぐように、『空音爆』は空気で相手の聴覚を塞ぐ魔法だ。


 殺傷能力はない。あくまで、相手を無力化する魔法だから。


 僕は影響を受けないけど……すごい音が鳴ってるのはわかる。身体がびりびりと震えてる。


 こんなの『森オーク』だって耐えられない。


『……ヴォ……ボボ』


「あ、やっぱり」


 ごろん、と、『森オーク』の身体が、地面に転がった。


空音爆サウンド・ブロゥ』直撃を受けた『森オーク』は全員、スタンしてる。


 悪いことしたかな。


「セシル、あと一発。今度は通常版を準備して」


「『賢者ゴブリン』さん用ですね」


「うん。あいつがチートキャラなら、レジストしてる可能性があるからね」


 僕はリタを抱く腕をほどいた。


 リタは……やっぱりちょっと震えてる。大きな音が恐かったみたいだ。


 説明はしておいたんだけど。


「大丈夫。リタ? まだ戦える?」


 僕はリタの耳に顔を近づけて、言った。


「──?」


 リタはちょっとだけ赤い顔で、首をかしげてる。


 まずい。リタの耳がやられちゃったか?


「しっかりして、リタ! 聞こえる?」


 僕はリタの耳に口を近づけて、言った。


 リタはあいかわらず首をかしげるだけ。でも、首筋まで真っ赤になってる。


 あれ? ……もしかして。


「…………リタかわいい。自慢の奴隷どれいだよ。リタがいないと僕はだめなんだ。だから、返事して。お願いだから」


 ……ぼっ。


 リタの顔が真っ赤になった。


「聞こえてるんじゃねぇか」


「ご、ごめんなさい……その。ナギの息が耳にかかるのが気持ちよくて……」


 リタは恥ずかしそうに顔を伏せた。


 そのまま、僕にしがみついて、動かない。


「……どうした、リタ」


「……あの『賢者ゴブリン』と戦ってたせいかな? 少し、落ち着かなくて……あれれ?」


 リタが、ぎゅ、と僕の腕を掴んだ。


「あいつ、自分の本当の姿を偽ってるでしょ? 私も……この場所ではそうだから」


 リタは自分の、人間の耳に指で触れた。


 振り返って、獣人の村の方に視線を向ける。なんだか、さみしそうな顔だった。


「私は獣人の姿にも、人の姿にもなれる獣人だけど、この村ではそれは秘密にしてるでしょ? あの『賢者ゴブリン』と同じなのかな、って、そう思っちゃったの」


 そういうことか。


 リタは獣人と人間、両方の姿になれるせいで、獣人の家族から捨てられた。


 獣人の中には『獣人至上主義』の部族がいて、違うものを許さなかったから。


 だからトトリとルトリの村に来てから、リタは自分が特殊な獣人だってことを思い出して……不安定になってた。僕のところに『再構築』を頼みに来たり、今みたいに、さみしそうな顔になったり。


 だけどそれは……


「ぜんぜん違うよ、リタ」


 僕はリタの桜色の目を見て、言った。


「『賢者ゴブリン』は人を利用するために姿を変えてる。でも、リタはそうじゃないだろ。初対面の人相手に、個人情報を守ってるだけだ。ぜんっぜん違う。ひとつも似てるところなんかない! それは僕が保証する」


「……でも、でもでも」


 リタは涙目で首を振る。


 僕はリタの型をつかんで、その顔をのぞき込む。


「我が奴隷リタ=メルフェウスよ。よく聞くがいい」


「……は、はい。ご主人様」


「汝の真の姿は、僕と、家族だけのものだ」


 僕はリタの髪をなでて、言った。


「人と獣人、両方の姿をでる権利は、ご主人様の僕だけにある。どんな姿のリタも、僕にとっては大事な家族で、仲間だ。それを敵である賢者ゴブリンと一緒にするなど、ありえない。むしろ、両方のリタをでるご主人様への侮辱ぶじょくだ。わかったか、リタ=メルフェウスよ!!」


「う、うん……うんっ!」


 リタが桜色の目を見開いた。


 涙をためて、何度もうなずいてる。


「ごめんなさいご主人様! わたし、私は……ナギの……」


 ぎゅ


 涙目のリタが抱きついてくる。


 僕はその髪をなでた。むちゃくちゃ照れくさいから、真横を向いたままだけど。セシルも、指をくわえてこっち見ないの。


 でも、僕もまだまだご主人様として修行が足りない。


 獣人の村に来ることでリタに影響があることくらい、考えるべきだったな。


「これが終わったら息くらい、いくらでも耳にかけてあげるから。さっさと片付けて帰ろう」


 僕はリタとセシルの手を引いて走り出す。


言質げんち取っちゃった……。ね、セシルちゃん」


 リタはセシルの方を見て、笑った。


「ごめんね。ご主人様をひとりじめしたら駄目よね。私、セシルちゃんの半分でいいから」


「耳に『ふーっ』ですよね。わたしは日付が変わるまでで、リタさんが朝まで……で、どうでしょう……?」


 なんだか不穏なセリフが聞こえてたけど。




────────────────────



「……う、うぅ」


『彼』は、木の根元にうずくまっていた。


 耳はまだ、聞こえない。


「なんだ……なんなのだ。今のは……」


 頭を振って立ち上がる。


 姿はまだ『オークロード』のままだ。


 まだ敵は残ってる。


 この先にも魔物がいる。もっと強力な者の姿に変わらなければ。もっともっと──


「まだ、次がある。あるのだから──」


「────わよ」


『彼』の耳が、かろうじて音を捉えた。


 ──敵!?


 即座に『彼』はスキルを起動。『変化能力』と並ぶもう一つのスキル『高速軌道』で逃げようとする。


 だが、間に合わなかった。


「真の姿を見せなさい『賢者ゴブリン』!!」



 気づくと、金色の髪の少女の姿が目の前にあり──




「発動『結界破壊エリア・ブレイカー』!!」




 彼女の拳が、『彼』の身体を吹き飛ばした。


「──ぐ、ががががががはぁっ!!」


『彼』は何度もバウンドしながら、地面を転がる。木に当たって、止まる。


 そして──『彼』を覆っていた『偽装』の姿が消えた。


『オークロード』が消え『賢者ゴブリン』が消え『黒い獣人』も消え去り──




 現れたのはこの世界の、冒険者の男性の姿だった。




「……この世界の人か?」




 声が聞こえた。


 気づくと目の前に、黒髪の少年が立っていた。


「『来訪者』じゃなかったのか……なんでこの世界の人が、魔物の真似を……?」


「丁重に扱ってもらおうか、庶民よ」


『彼』は言った。


「我はエルドルア=フォン=ガーゼル。元魔物使いにして──いずれ魔王と出会い、討ち果たす者である……はずだ」


 たどたどしい口調で、かすかな記憶をたどりながら。




──────────────────



今回使用した魔法


古代語魔法『空音爆サウンドブロゥ


セシルの魔法『灯り』の風バージョン。『灯り』が光で敵の視力を奪うように、『空音爆』は音で敵の聴覚を奪う。その音はまさに音響爆弾とも言えるもので、まともに喰らえば大抵の相手はスタンする。

ちなみに通常版の『空音爆』は音の球を飛ばすもので、炸裂すると大声で叫ぶくらいの音が出る。

こちらは速度も遅いため、命中率が悪くて使いづらい。


なお、音はセシルのアレンジで自由に変えられるので、迷子になった仲間に呼びかけたり、うっかり大声でご主人様に愛をささやいたりという使い方もできる。まわりはとても迷惑ですが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る