第136話「とても危険な遺留品と、正義の貴族がくれた返信」
「おかえりなさい、なぁくん! みなさん!」
「「「ただいまーっ!!」」」
次の日。
僕たちは無事に、港町イルガファに到着した。
帰宅した僕、セシル、リタ、そしてカトラスを出迎えてくれたのは、メイド服姿のアイネだった。
まるで馬車が着く時間がわかっていたかのように、彼女は『はがねのモップ』を手に、屋敷の門を開けて待っててくれた。
イルガファに着くまでの間、僕とイリスは『
ちなみにイリスとラフィリアは、イルガファ領主家の屋敷にいる。
夜になったら抜け出して、僕たちと合流する予定だ。
「あなたが、カトラスちゃんなの?」
「は、はい。はじめましてであります!」
穏やかにほほえむアイネに、カトラスが深々とお辞儀をした。
これから一緒に暮らすことになるからか、緊張してるみたいだ。それに、カトラスはアイネとは初対面だから。
「……ありがとう、なぁくんの
でも、アイネはカトラスの手を取って、やさしくほほえんだ。
「アイネはずっとカトラスちゃんみたいな人が欲しかったの。防御力が高くて、なぁくんを側で守ってくれる人が」
「……え? え、え?」
温かすぎる歓迎に、カトラスは目を丸くしてる。
「で、でも、前衛には、最強のリタどのがいらっしゃるでありますよ?」
「うん。リタさんは強いの。すごくきれいで、なぁくんのことが大好きなの。スタイルもいいし、優しくて、とっても頼りになるの。獣人のまっすぐな忠誠はまぶしいくらいで、いつもなぁくんのことを目で追ってるの、わかるの。リタさんはアイネの自慢の奴隷仲間なの。リタさんがなぁくんの側にいてくれれば、アイネも安心なの」
アイネはおだやかな口調で、カトラスに語りかける。
ちなみにリタは僕の隣で真っ赤になってる。セシルは「まったくその通りです」ってうなずいてるけど。
「でも……リタさんには、敵を倒しに行ってもらわないといけないから……」
そうだった。
リタは前に出て敵と渡り合うのがメインの戦い方だ。
その間、僕の防御が手薄になる。アイネはそれを心配してたのか……。
「だから、なぁくんの護衛として、防御を専門にしてくれる人がいたらいいなぁ、って、アイネはずっと思ってたの。カトラスちゃんなら、それにふさわしいの。ありがとう、なぁくんの仲間になってくれて……カトラスちゃん」
アイネは我慢できなくなったのか、ぎゅ、とカトラスを抱きしめた。
「アイネどの……」
カトラスは突然の展開についていけないのか、びっくりしてる。
けど、その目には、涙が浮かんでいた。
アイネは間違いなくカトラスを大歓迎してくれてる。イリスもラフィリアも、たぶん、同じだ。
「いいんでありますか……? ボクは、ここにいても……みなさまのお仲間として、あるじどのの家にいても」
「今更なに言ってるんだよ、まったく」
こつん、と、僕はカトラスのおでこを突っついた。
そういえばカトラスは今まで、正体を隠して生きてきたんだっけ。彼女を騎士にしたい母親のせいで、同年代の友だちと遊ぶこともできなかった。
その願いからは解放されて僕たちのパーティの仲間になったけど、やっぱりまだ、いろいろと不安みたいだ。
「僕はカトラスがいること前提で部屋割りを決めちゃったんだから、いなくなったら困るんだってば。カトラスたちは僕にとっては大事な仲間で……その、家族みたいなものなんだから」
「あ、あるじどのぅ……」
カトラスは涙をこぶしでぬぐってっから、がちゃん、と、盾を構えた。
「このカトラス=ミュートラン、あるじどのの護衛として、全力でお仕えするであります。あるじどのの盾となり、すべての攻撃をまずボクが受け止めることをお約束するであります!!」
「それは僕のストレスがマッハで溜まるからやめてね」
「で、では、ボクはこのお屋敷の門番をつとめるであります!」
「えー」
「ボクではご不満でありますか!?」
「帰ってきたばっかりなんだから、少し休憩しようよ」
「それではボクの気が済まないであります。させてください、門番」
「30分門番、60分休憩なら。あと勤務地は門の内側で」
「…………どういう門番でありますか」
「いやなら却下で」
「しょ、しょうがないであります。なんだか仕事するような気がしないでありますが、このお屋敷の門番、つとめさせていただくであります!」
カトラスはうなずいて、閉じた門の内側で直立不動の姿勢。
うん。勤務時間は15分にしとこう。疲れそうだし。
「本当にたのもしいの、カトラスちゃん」
「ありがとうであります、アイネどの」
カトラスは無邪気な顔で、笑った。
「はんぱもので騎士のなりそこないのボクを、受け入れてくださって」
「ううん。そんなことないの。カトラスちゃんはいざという時に、パーティの切り札になるかもしれないの」
「いざという時、でありますか?」
「たとえば、リタさんがお休みしなきゃいけないとき」
「お休み? ああ、病気の時でありますな」
「そうなの。10ヶ月くらい、身体が重くなるときなの」
「あー、そうでありますな。病気が長引くことはあるものですからな」
「うん。だからリタさんが、そんなふうに身重なときは、カトラスちゃんがなぁくんを守って欲しいの」
「わかったであります!」
カトラスは、ぽん、と『バルァルの胸当て』でおおわれた胸を叩いた。
よかった。
さすがパーティのお姉ちゃん。うまくカトラスの緊張をほぐしてくれたみたいだ。
それで、リタはどうして両手で僕の耳をふさいでるのかな? 「恥ずかしい」……って、カトラスとアイネがわかりあってるいいシーンだと思うんだけど。カトラスはアーティファクトのおかげで防御力チートな上に、相手の行動を封じるスキル持ちだし、護衛として、アイネが言ってるみたいにリタの調子が悪いときに──
「わう──────っ!」
「わぁっ。ナギさま、リタさんが限界です。早くおうちに入りましょう!」
「う、うん」
そんなわけで、セシルとリタに左右から引っ張られるようにして、僕は久しぶりの自宅に戻ったのだった。
のんびりする前に、ひとつ、しなきゃいけないことがある。
それはかなりめんどくさいことで、対処に困ることなんだけど──
「『意識共有・改』でイリスちゃんが伝えた通りなの……これが、引退騎士ガルンガラさんが残していったものなの」
そう言ってアイネは、リビングの床に、ふたつのものを並べた。
ひとつは、古ぼけた羊皮紙。
もうひとつは、銀色の短剣。
この2つが、騎士ゴーストを操ってた奴──引退騎士ガルンガラが残していった、遺留品だ。
「『騎士ガルンガラに我が子を預ける──』か」
羊皮紙に書かれているのは、ほんの短い文章。その下に署名がある。ひとつは騎士ガルンガラのもの。もうひとつは頭文字だけのもの。ただ、頭文字の横には半円形のスタンプのようなものが押してある。
正確には、インクをつけたコインを押しつけたような跡だ。
「……この印は、王家のコイン、だよな」
「はい。カトラスさんに見せてもらったのと同じものです」
僕の隣でセシルが言った。
この場に同席しているのは、僕とアイネ、それとセシルの3人。
引退騎士の
もちろん、情報がまとまったら、みんなにも知らせるつもりだけど。
「ここに書かれている頭文字は──今の国王陛下の名前と、一致するの」
「……つまり、カトラスを王様から預かったのは、引退騎士ガルンガラだったってこと?」
「その可能性は、すごく高いと思うの」
嫌なめぐりあわせだ。
というか、本当にやばかったんだな、カトラス。
もしもその引退騎士が、騎士試験に関わっていたとしたら、カトラスが生い立ちを話した瞬間に正体がばれてた。運命ってものがあるとしたら、カトラスに対して意地悪すぎるだろ。
「このことは、僕からカトラスに話すよ」
ご主人様だからね。
引退騎士ガルンガラは、昨日のうちにどこかに逃亡してしまった。行方はまだわかってない。
だけど、イルガファ領主家としては事を表沙汰にしたくないみたいだ。
確かに次期領主の護衛をやっていた引退騎士が、金目のものを奪ってどこかに消えたなんて言えないないだろうな。大事な儀式を前に、縁起が悪すぎるから。
「セシルは、その引退騎士はゴーストに追いかけられてる、って考えてるんだよな」
「はい。ナギさま」
セシルは迷いなくうなずいた。
「フィーンさんが『バルァルの鎧』に介入して術を破っちゃいましたから、騎士ゴーストさんたちの怒りは術者に向けられたはずです。その引退騎士さんが召喚儀式の中心だったなら……取り
「カトラスがそれを聞いたらどう思うかな……」
昔、自分を引き取ってくれた人だから、助けに行きたいと思うか。
──そのへんは、彼女の意思に任せよう。
「問題は、もうひとつのアイテムの方か」
細かい文字が刻まれた、銀色の短剣。
これは古いカブトのかけらと一緒に、袋の中に入ってたそうだ。カブトはゴースト召喚に使われた痕跡があったそうだから、この短剣はそれに関わるものだろう。
そして、セシルの『鑑定』スキルによると、この短剣は魔力を介した通信機のようなものらしい。
引退騎士ガルンガラはこれを、仲間と連絡を取るのに使っていたんじゃないか、というのが、セシルの推測だった。
「黒騎士は言ってたな、儀式には、謎の魔法使いが絡んでいたって」
人のような、竜のようなものだ、とも言っていた。
これまでにも『来訪者』や貴族が、竜に関わるものや古代の遺物を狙って来てた。その裏には謎の『ギルドマスター』と『白いギルド』が絡んでた。そして奴らは『ブラックな仕事』を好んで、関わってきてる。
騎士ゴーストに騎士候補生を襲わせてた今回の事件になら、奴らが関わってる可能性は考えられる。それに、引退騎士ガルンガラが王家に関わりがあるとなれば、なおさらだ。
「この短剣を使えば、その謎の魔法使いに連絡を取ることができるのかな……」
「難しいかもしれません」
セシルは首を横に振った。
「これは儀式で繋がった者たちが、これを使ってメッセージを送ることができるようになるものです。起動するには、特別な呪文が必要になるはずです」
「僕たちには、これを起動できないってこと?」
「……はい。決められた儀式の内容がわからないと……ただ」
セシルは褐色の指先で、銀色の短剣に触れた。
「通信相手は、これと似たものを持っているはずです。その持ち主に近づけば、なにか反応があるかもしれません。たぶん……魔力を発するんじゃないかと思います」
「……これが古代の遺物なら、フィーンが支配できるんだけどな」
「……普通のマジックアイテムですからね」
まとめると、この短剣は魔法のアイテムで、特定の人間はこれで通信をすることができる。
短剣の形をしているのは、持ち主が騎士だからだろう。普段持ち歩いていても、おかしくないように。でも、かたちには特に意味がない。
そして、同種のアイテムを持っている持っている人間に近づけば、この短剣は魔力を発する。そしてセシルなら、その反応がわかる。
儀式に関わった騎士たちは、たぶん、儀式が破られたことに気づいてる。ガルンガラみたいにゴーストにとりつかれてる奴もいるかもしれない。だから、僕たちがそいつらと出会うことはたぶん、ない。
「もしも騎士以外で……たとえば、貴族でこの短剣に反応する者がいたら、そいつは『白いギルド』──あるいは『謎の魔法使い』に関わる者の可能性がある……か」
可能性だけで十分だ。少なくとも、対策は立てられるから。
近づかないことにするか──それとも、先手を打って、敵の動きを止めるか。
「少なくとも、この町には近づけたくないなぁ」
ここは、僕たちの家がある場所だ。海竜とも仲良くなったし、なによりイリスの故郷でもある。港町イルガファは守りたい。
本当にどうしようもなくなったり、町が僕たちを必要としなくなったときを除いて。
「なぁくん……考えてること、当ててもいい?」
「いいよ」
「港町イルガファの『次期領主おひろめパーティ』のときに、貴族さんたちが招待されてるよね? そこに『来訪者』か『白いギルド』の関係者がまざってるかも知れないって考えてる?」
「さすがお姉ちゃん」
僕が言うと、アイネはえっへん、って感じで胸を反らした。
セシルもそのへんは予想がついていたようで、まじめな顔でうなずいてる。
「ただ、これは最悪の場合だけどね。パーティには他の貴族も来るんだ。そこでわざわざ騒ぎを起こすなんて、貴族にとってもリスクは大きすぎるだろ」
イリスからの情報によると、領主さんは『次期領主のおひろめパーティ』を開くそうだ。
港町イルガファは交通の要衝で、交易の町でもある。いろんな貴族や商人が商売や海運に関わってる。王家だって、辺境に補給物資を送るのに、イルガファの船を利用している。イルガファ領主家は辺境領主ってさげすまれているらしいけど、経済的な影響力は強いんだ。
だからパーティには多数の貴族が招待されていて、すでに参加表明してる貴族もたくさんいる。
探りを入れるなら、そこに潜り込むのが一番いい。
「セシル、確認だ」
「はい、ナギさま」
「もしもパーティに、この『通信アイテム』を持ってる貴族がいたとして、向こうが魔力の反応に気づく可能性は?」
「あります」
だろうね。一方的にこっちだけ情報を得るなんて、上手い話はないだろうから。
「ただ、かすかな魔力反応ですから、注意していないとわからないはずです。それと『鑑定』『魔力感知』のスキルが必要です」
「わかった。そのへんの対策は考えておこう」
問題は『次期領主おひろめパーティ』に、僕たちが忍び込めるかどうか。
イリスはその場には立ち会わない。彼女が参加するのは、次期領主ロイエルドの養子縁組の儀式だけだ。だから、僕たちがイリスの従者として付き添うって手は使えない。
そうなると、アイネとラフィリアをメイドとして潜入させるしかないけど……そうすると今度は、自由に動くことができなくなる。領主家のメイド扱いになってしまうから。
じゃあ──領主さんにお願いして、僕が誰かの従者に化けて入り混むのがベストか。
貴族の立ち振る舞いなんかわからないから、浮く可能性がある。「どの貴族の従者だ?」と聞かれたら応えられない。だから、この方法はできるだけ避けたかったんだけど。
「味方になってくれる貴族がいればいいんだけどな」
僕は言った。
「そうですね。わたしたちの事情を知っている方がいれば」
セシルは同意するようにうなずいた。
「それでいて正義感にあふれた人がいいの。他の貴族に利益を提供されても、びくともしないほどの誇りと、気品を持った人が」
アイネは誰かを思い浮かべているかのように、胸を押さえた。
そういえば、イルガファ領主家はいろいろな貴族に招待状を出したんだっけ。
でもって、この家はもともと『彼女』の持ち物だ。イルガファ領主家とはご近所さんで、縁もある。招待状を出していないはずがない。
「……ただ『彼女』を巻き込むのは、ちょっとな」
メテカルでの『庶民ギルド』の時は『彼女』の依頼だった。対偽魔族のときは、相手は来訪者だった。でも、もしかしたら、今回は貴族が相手になるかもしれない。そこに『彼女』を巻き込むのは気が引ける。僕たちは嫌になったら逃げ出せるけど『彼女』はそうじゃない。なんだかんだ言っても、貴族なんだからさ。
「ここは僕たちで解決する方法を考えよう。チートスキルを使ってもいいからさ」
「わかりました」「わかったの」
僕の言葉にセシルとアイネがうなずいたとき──
「失礼するのであります! あるじどのに、お手紙なのでありますっ!!」
ノックの音がした。
アイネがドアを開けると、外には小さな封筒を手にしたカトラスがいた。
「さきほど郵便馬車が来たのであります。で、これをあるじどのへ、と」
「手紙? 誰から?」
カトラスから封筒を受け取ると、そこには──
前に見せてもらったことがある『ミルフェ子爵家』の紋章が押されていた。
「レティシア?」
「レティシアさまですか!?」「レティシアなの!?」「え、え、え?」
素晴らしい食いつきっぷりを見せるセシルとアイネ、カトラスは意味がわかってないみたいだったから、僕は手短に説明する。僕たちにはもうひとり、パーティの仲間がいたこと。彼女がアイネのおさななじみだったこと。事情があって、一旦メテカルに戻ったことを。
「なるほど……アイネどののおさななじみなら、きっと素晴らしい方なのでしょうなぁ」
「もちろんなの。レティシアはすごく良い子。きっとカトラスちゃんも仲良くなれると思うの」
アイネは優しい目で封筒を見つめながら、つぶやいた。
「ナギさま、レティシアさまはなんて?」
瞳を輝かせるセシルの前で、僕は手紙を開けた。
えっと──
『ふ、ふふふふふ……わたくしを置いて旅行に出かけるとは、いい度胸ですわね、ナギさん!』
怒ってた。
『も、もちろん、パーティの「第2回しゃいんりょこう」は予定しているんですわよね? 次回はみんなの予定をすりあわせてから行うんですわよね!?』
うん……あとで第2回の予定を立てよう。
すぐにレティシアに手紙を書いて、行き先と日程の希望を聞いておこう。
レティシア、ぼっちが嫌いだもんな。悪いことしたなぁ……。
『それはさておき、わたくしがいまだ戻れていないのには、わけがありますの。実は、港町イルガファで行われる「次期領主のおひろめパーティ」に、子爵家名代として出席することになり、その準備に時間がかかっていましたの。
おそらく、この手紙が届くころには、わたくしもメテカルを出発しているはずですわ』
「レティシア、こっちに来るって」
「ほんとですか!?」「うれしいの。久しぶりにレティシアに会えるの!」「楽しみであります!」
『どうせナギさんのことだから、変な事件に巻き込まれているのでしょう?』
……レティシア、なんか変なスキル持ってたっけ?
防御用のスキルはあげたけどさ、直感用スキルはないよね?
『で・す・か・ら! それにわたくしの力が必要なら、遠慮なんかしないことですわ! わたくしもパーティの一員で、仲間なのですから。変に遠慮して仲間はずれにしたら許しませんわ。今度こそ泣きますわよ。ええ、泣きながら暴れますとも!』
おーい。レティシア。
ここだけすごく筆跡が乱れてるんだけど。ねぇ。どんだけ旅行のこと根に持ってるの。ねぇ……。
『わたくしの
ですので、ナギさんも、アイネも、わたくしをそのように扱うように。いいですわね。あと、言いたいことは山ほどあります。会ったら覚悟しておきなさい。
あなたの親友、レティシア=ミルフェ』
「……レティシアらしいな」
署名が子爵家令嬢じゃなくて『あなたの親友』になってるし。
さて、と。
「ご主人様として、みんなに告げる」
僕は手紙をアイネに渡して、言った。
「これより僕たちは『レティシア=ミルフェ歓迎クエスト』の準備に入る。それと平行して『白いギルド』探索クエストも行う。レティシアに協力を依頼するかどうかは、彼女が来てから決めよう。どっちにしても、親友を歓迎することに比べたら、たいした問題じゃない」
「はいっ!」「もちろんなの!」「了解であります!」
「セシルとアイネはこのことを他のみんなに伝えて。カトラスは残って」
もうひとつ、カトラス──それと、フィーンには伝えなきゃいけないことがある。
気は進まないけど、これもご主人様の役目だからね。
「は、はい」
カトラスは不思議そうな顔をしていたけど、素直にリビングの椅子に腰掛けた。
セシルはリタとレギィのところ、アイネはイリスとラフィリアのところへ向かうため、部屋を出た。
「……フィーンを呼んだほうが、いいでありますか?」
「話の流れによっては。でも、魔力で身体を作る必要はないよ」
「わかったであります。いざというときは──」
カトラスはスカートを軽く叩いて──それから、真っ赤になった。
両手で脚の付け根を押さえながら、ふるふると震え出す。でも、こらえた。
また下着になにか仕掛けたな……フィーン。
「話というのは、カトラスのお父さんのことだよ。国王陛下じゃないほうの」
「ボクを引き取ってくださった騎士の方でありますか?」
「うん。その人が誰なのか、わかったかもしれない」
僕は言った。
カトラスは真面目な顔で、僕を見た。
「そうでありますか……昔の家族の方、でありますな」
口調は拍子抜けするくらい、落ち着いてたけど。
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