第116話「番外編その12『魔剣レギィ、はじめてのお仕事適性相談』

今回は番外編です。

ナギがマジックアイテムのスキルを書き換えられるようになったことで、レギィも思うところがあるようです。

そんな彼女のお願いとは──?





──────────────────



「主さま。働きたいから仕事をおくれ」


「待って、落ち着いて話し合おう、レギィ」


 朝からレギィがとんでもないことを言い出した。


 今日1日つきあって欲しいって言うから、希望を聞いてみただけなんだけど。


「働きたいって、なんでいきなりそんなことを?」


「そろそろ我も、新しいスキルを身につけたいと思ってな」


「新たなスキルを?」


「我は異界の魔剣ゆえ、これまでスキルをインストールすることができなかったじゃろ?」


 そうだった。


 レギィは異界の魔剣で、僕たちとは違う生命体だ。


 そのせいで、今まで新しいスキルをインストールできなかったんだ。


「じゃが、主さまの『スキル干渉スキル』はさらに強くなった。ならば──」


「僕の『能力再構築スキル・ストラクチャーLV5』で、お前にスキルをあげられるか試してほしい、ってことか?」


「さよう」


 レギィはツインテールの髪をゆらして、うなずいた。


「主さまは秘宝『聖杖ノイエルート』さえも書き換えることができるようになった。となれば、我に新たなスキルを与えるくらいたやすいはず」


 それは僕も考えてた。


『能力再構築LV5』には、マジックアイテムに干渉する力がある。


 だったら、レギィに新しいスキルをインストールすることも、できるかもしれない。


「仕事をしたいのは、自分に合うスキルを知るためか?」


「うむ。我はちっちゃい。力もない。身体に合わないスキルを入れてもお金のムダじゃろ?」


「というより、お前にスキルを入れることそのものがチート行為だからな。身体に負担はかけたくないし……」


 レギィも僕の奴隷の一人だし、本体の魔剣だって大事な武器だからな。


 できるだけ無理なく入れられるスキルを選んだ方がいいよね。


「わかった。職業訓練をしよう」


「わーい。話のわかる主さまだいすきー」


 レギィはばんざいしながらくるくる回る。


 セリフは棒読みだったけど。


「しかし、よいのか? 自分で言うのもなんじゃが、我はスキルクリスタルなどインストールしたことがないゆえ、せっかくのお金が無駄になるかもしれぬぞ」


「人を育てるにはコストが必要だろ?」


「主さま……」


「というか、そういう実験って楽しそうだから、やろう、ぜひやろう」


「なんか複雑な気分じゃよ!?」


「大丈夫、無茶なことはしないから」


「ぬぬぬー」


 レギィは眉を寄せて、僕の膝に頭を乗せた。


「だって主さま、妙に楽しそうなんじゃもの」


「まぁね。武器の強化ってのは、ゲームでもお約束だから」


 僕はレギィの頭をなでた。


 レギィで成功すれば、他のマジックアイテムにもスキルをインストールできるようになるかもしれない。


「そうなったら「真・聖杖ノイエルート改アンリミテッドEX・ワールドブレイカー』とか作れそうだし」


「なんじゃその世界を終わらせそうな杖は!?」


「レギィに魔剣仲間とか、マジックアイテムの友だちがいれば話が早いんだけどな」


「無茶言うでない! 異界の魔剣にそんなもんおるかーい!」


 ぶんぶんぶんぶんっ!


 腕を振り回すレギィを抱えて、僕は膝の上に乗せた。


 レギィの本体は魔剣で、この身体は魔力で作った分身みたいなもの。


 力はないし、ちっちゃい。


 この身体で無理なくインストールできるスキルというと……難しいな。


「レギィは、どんなスキルが欲しいんだ?」


「そりゃもちろん戦闘スキルじゃよ! 我らは冒険者なのじゃから!」


 僕の膝の上で胸を反らして、レギィは言った。


 なるほど。


「わかった。じゃあレギィが戦闘向きかどうか試してみよう」






 そんなわけで、僕たちはギルドでクエストを受注した。






『ホーンラビット討伐


 森に住む、角の生えたウサギ『ホーンラビット』が狩りの邪魔をして困っています。


 討伐して、ついでに巣の場所も見つけてください。


 ホーンラビットはナワバリ意識が強いので、森でじっとしていればすぐに現れます。


 達成証明として、角を5本以上もってきてください。余分なものは買い取ります』





 今回のメンバーは僕とレギィ、ラフィリアの3人。


 森についた僕たちは、まずは地面にシートを敷いて、お弁当を広げた。


 時間は、昼前。


 木々がほどよく日陰を作っていて、すごしやすい。


「いい天気だねぇ」


「そうですねー」


 ぐでー、っ、と僕とラフィリアはシートの上にうつぶせに寝転がる。


 お弁当は、アイネが作ってくれたサンドイッチだ。


 焼き肉とあぶった魚が入ってて、いいにおいがする。


「保養地のバカンスってのはこうでなくっちゃなぁ」


「のんびりしますねぇ、マスター」


「やっぱり遺跡探索とか、ヒュドラ退治なんて、休暇中にやるもんじゃないよな」


「あたしたちは休み方が下手みたいですぅ。休暇を正しく過ごすために、厳しい修行を積む必要があるかもです」


「そういえば、ヒュドラの死体ってどうなったんだっけ?」


「マスターが落とした首がしばらく生きてたみたいで、冒険者さんたちが討伐兼レベル上げに使ってましたよぅ。お肉は業者さんが買い取って加工してました。このサンドイッチにも入ってるはずですよぅ」


「気がつかなかったよ。いい味だな」


「このにおいなら、まわりの生き物も寄ってきますよねぇ」


 もぐもぐ、かりかり。


 僕たちはお昼を食べ続ける。


 ぶんぶん、ぺちぺち。


 隣で風切り音がする。


 がりがり、こんごん。


 森の中は意外とさわがしい。




 僕とラフィリアがサンドイッチをかじる音──


 レギィが「ひのきのぼう」を振り回す音──


 ホーンラビットが結界バリヤーに激突する音──




「こういう休日もいいよな」


「のどかですものねぇ」


「のどかではないわー。我はいつまでこうしてればよいのじゃーっ!」


 ひのきのぼう(超初心者用)を振り回してたレギィが、悲鳴を上げた。


 まだ5分くらいしか経ってないけど、腕がふるふる震えてる。


「まったく、棒術スキルになど覚醒しないのじゃが! 『ホーンラビット』固いのじゃが!? ダメージ与えてるような気がせんのじゃが!?」


「やっぱりレギィは戦闘には向いてないか」


「いかん。もう限界じゃ……」


 ぺたん、と、レギィは膝をついた。


 前に倒れそうになるレギィを、僕は引っ張り寄せる。


 シートのまわりに・・・・・・・・張り巡らせた・・・・・・バリヤー・・・・の向こうには、ホーンラビットだらけだ。危ないからね。


「ラフィリア、『対魔結界LV1』はまだ保ちそう?」


「ぜんぜん大丈夫なのですー。ホーンラビットさん弱いですぅ。それにこのスキルは魔力効率がよいのですよ。マスター」


「対象をピンポイントに絞ってるからねー」


「『ぴくにっくしーと』に伏せてるだけの、簡単なお仕事なのですよぅ」





『対魔結界LV1』


『魔法陣』に『伏せて』『関連する魔物』から『身を守る』スキル




 魔法陣の上で伏せてる者の魔力を合算してバリヤーを張れる、4概念のチートスキルだ。


 バリヤーで防げるのは、魔法陣に書いてある魔物のみ。


 対象を限定してる分だけ堅く、魔力消費も少なくてすむすぐれものだ。


 今回はピクニックシート(元はシーツ)に『ホーンラビット』っぽい魔法陣を書いてある。





 僕たちは森のど真ん中にシートを敷いて寝転がってる。


 もちろん『対魔結界』でバリヤーを発動中。


 そして、そのまわりを大量の『ホーンラビット』に囲まれてる状態だった。


 たくさんいるなー。思いっきり威嚇いかくしてきてるなー。無茶苦茶怒ってるなー。


 白い毛皮の『ホーンラビット』は、真っ赤な目を見開いて、荒い息をはき出してる。


 今の僕たちは、ニンジン抱えてウサギ小屋に迷い込んだ飼育委員みたいだ。


『ホーンラビット』たちは、がっつんがっつん体当たりをぶつけてきてるけど、『対魔結界』のバリアーがそのすべてを防いでる。びくともしない。さすがは4概念チートスキル。堅い堅い。


「こんなに集まってくるとは思わなかったな……」


「20匹はいそうですねぇ。アイネさまのお弁当は、魔物でもほしがるんですねぇ」


「のんきなことゆっておらぬで、なんとかしておくれ……」


 はふー、って、レギィが僕の腕の中でため息をついた。


 レギィはバリヤーの内側から「ひのきのぼう」で敵をたたき続けてた。バリヤーは「ホーンラビットの攻撃を通さない」だけのものだから、内側からは通る。でも、レギィの攻撃は効かなかったみたいだ。


 僕がこの状態で内側から攻撃し続けたら、剣術レベルがカンストしないかな……無理かな。


 まぁいいや。巣の位置は確認したし、片付けて帰ろう。


「じゃあ発動、『遅延闘技ディレイアーツ』(伏せたまま)」


「あたしもやるですよー。『竜種旋風』!(伏せたまま)」


 巨大化した魔剣レギィの黒い刃と竜巻が、森の魔物を吹っ飛ばした。







「……我に戦闘は無理。まったく向いてない……なんてことじゃ……」


 レギィは僕の背中でつぶやいてる。


 疲れたから本体に戻ったらしい。


「かっこよく主さまを助けることはできない……ああ、我はなんという……」


「いや、さっき魔剣で『ホーンラビット』吹っ飛ばしてただろ?」


「ぬぬーっ。主さまー。我は人の姿で主さまの役に立ちたいのじゃ! 乙女心をわかれー」


「わかりますよぅ、レギィさん」


 隣を歩くラフィリアが、魔剣の鞘に顔を近づける。


「マスターにかっこいいところをお見せするのは、奴隷のつとめですからねぇ」


「じゃろう?」


「あたしだって魔法を使うとき『りゅう』『しゅ』『せんぷぅ!』 って叫ぶか『りゅうしゅっ!』『せんぷーっ!』にするか『りゅうしゅせん』(溜め)『ぷっうっ──────っ!!』がいいか、いつも考えてますから!」


「一緒にするでないのじゃ! ぜんぜん違うのじゃ──っ!」


「最後の決めポーズを竜巻で敵が舞い上がるときにするか、地面に落ちたときにするかも重要な問題です。舞い上がるときならタイミングをあわせやすいですけど、その後することがないです。落ちてきたときならかっこいいですけど、敵が地面にたたきつけられた瞬間にポーズを取るのはすごく難しいです」


 ……だから『ホーンラビット』が落ちてきた時にぐるぐる回転して転んでたんだね、ラフィリア。


「なので、あたしにはレギィさんの気持ちがすごくよくわかるです」


「だから一緒にするなと言うておろーが。この天然従属性癖エルフ娘が!」


「ひどいですレギィさん! でももう1回言ってです!」


「怒ってるのか喜んでるのかどっちかにせい!」


 意外といいコンビだな。ラフィリアとレギィ。


 そんなことを話してるうちに冒険者ギルドに着いたので、僕らはクエストの報告と、素材の売却をすることにした。報酬、素材売却の金額を合わせると……コモンスキルくらいは買えるな。


「時間はあるから、別の職業訓練をやってみる? レギィ」


「そうじゃな。今度は商売系のスキルも欲しいところじゃな」


「あたしもちょうど、服を身に行きたかったのですよぅ」


 ラフィリアがうれしそうに、大きな胸をゆらして、ぴょん、とはねた。


「寝間着と、普段着をひとつ買うつもりなのです。古着でいいので、つくりのしっかりしたものを」


「もしかして、戦闘でぼろぼろになっちゃった、とか?」


「そうじゃないですー。あたし……その、体型がアンバランスですから、あんまり合うのがなくて、ですねぇ。胸でひっぱられて、丈が短くなっちゃうのです。それで……」


 そういうことか。ラフィリア、かなりの巨乳だからね。


 そっちに布地をひっぱられて、ミニスカート状態になっちゃうのか。


「だ、だから、丈が長くて、できれば膝まで隠せるものを──」




「…………待て、エルフ娘よ。お主の本性は、本当にそれを望んでおるのか?」




「レギィ?」


 気づくと、いつのまにか人型になったレギィが瞳を輝かせて、ラフィリアを見ていた。


「あまたの美姫びき寵姫ちょうきを見てきた我には、お主の本性がわかる。前に主さまにも言うたことがある『お主は逸材じゃ』と。お主の美しさは、見られることに価値がある。それを、丈が長い方がいい、じゃと? 膝まで隠せるじゃと? ふざけるでない!」


「あの、あの。レギィさぁん?」


「よーく考えよ。胸に手を当てて、よーく考えよ。お主は本当にそんなことを望んでおるのか?」


「え、えとえと」


「自分を飾る必要はないのじゃぞ? お主は本当はどうしたい?」


「あ、あたしは……あたしは……」


 ラフィリアの目が、とろん、となってきた。


「……ほんとは、マスターに、あたしの全部を見てもらえるような服が、いいのですぅ」


「じゃろう?」


「なんでしょうか、この説得力。レギィさんに言われるとその通りのような気がしますぅ……」


「何を隠そう、お主に支配されたいという望みがあると、主さまに伝えたのは我じゃ。魔剣として、長い年月を生きてきた我には、そういう力があるのじゃ。なんなら、我がお主の服を選んでやってもよいぞ?」


「お願いするです! レギィさん!」


「よしよし。エルフ娘よ、お前は主さまに全部を見てもらいたいと言ったな。それはいかぬ。脱がす楽しみをうばってはならぬ! 主さまががっかりするではないか……。

 そうじゃな。お主の胸を強調する服を着て、おなかは出すとしよう。白い肌が映えるように、色の濃い服がよいじゃろう。おっと、下着も大切じゃ。なるべく生地が薄いものがよいな。見えそうで見えない、それが大事だ。服の方じゃが、まず、かたちは──」


「はい、そこまで」


 ぱこん


 僕はレギィの頭にチョップ。軽くね。


 でもびっくりしたのか、レギィは頭をかかえてうずくまる。


「ラフィリアになにを着せるつもりだ。レギィ」


「なにって、このエルフ娘の本性をあらわすための服に決まっておろうが」


 決まってねぇだろ。


「我は今まで、王宮でさまざまな王妃、寵姫を見てきたからの。その者に似合う服などがわかるのじゃ。本性を押さえ込んだ少女が、服によって隠された性癖せいへきを表すのも見てきた。せっかくなので、このエルフ娘にそれを試そうかと。今よりさらに深いところに本性、あるかもしれんし。暴くの、楽しそうじゃし」


「変なもの暴こうとするんじゃねぇ」


 しかもレギィの言葉には、妙な説得力があるみたいだ。


 ラフィリアはその気になったのか、何度もうなずいてる。


「あたし、レギィさんの言うとおりの服をきた自分を想像してみたんですぅ。すごかったです。なんだか……なりたい自分にぴったりみたいで……」


「つまり、レギィにはそういうスキルがあるってことか?」


「スキルというほどのものではないよ。ちょっとした特技みたいなものじゃ」


 レギィはどや顔で胸を張ってる。


「誰にどんな服が似合うかを見抜く特技か……」


「うむ。隠れた属性を持つ者はな」


 レギィは腕組みをして言った。


「たとえば、今ちょうどギルドに入ってきた貴族のお嬢様には、胸と腰に布をまいただけの部屋着がよいじゃろうな。見た感じ、貴族の服を堅苦しく感じているご様子じゃ。

 噂によると、彼女は『天竜の代行者』の張り紙を見て気を失われたそうじゃ。つまりそういう巨大なものに屈服したい──身を任せてしまいたいという潜在的な願望に飲み込まれてしまったのであろう。

 ならば、捕食される獣のように、生まれたままに近い姿でいるのがよいのではないかと!」


「ふぇぇええん!?」


 ギルドの入り口から、悲鳴が聞こえた。


 従者を連れた貴族のお嬢様がいた。確か『霧の谷』で僕たちと戦った、カルミナ=リギルタ伯爵令嬢だっけ。あのとき、僕たちは天竜に化けて、彼女を撃退したんだよな。


 今の彼女はなぜか真っ赤な顔で、膝をこすりあわせて震えてるけど。


「……なに適当なこと言ってんだよ、レギィ」


「……適当ではないぞ。我にはわかる。あの娘は『霧の谷』で天竜に撃退されたとき、巨大なものに身をゆだねる快感に目覚めてしまったに違いない。あの反応じゃと、本人も気づいているようじゃ。あとは捕食される獣になりきって、野生を解放すればしあわせになれるじゃろう。ほぼ全裸で、獣のように休日を過ごすのがおすすめじゃ」


「……お前それ、人前で言うなよ。捕まるから」


 伯爵令嬢に聞こえないように、僕とレギィは声をひそめて話し合う。


「あ、あなた。なにを。私は、天竜が出現したという噂を聞いてここに……」


「失礼いたしましたカルミナさま。天竜に出会って気持ちよくなってしまうのは普通のことですじゃ。では!」


「失礼します。奴隷のたわごとなんで聞き流してください」


「どうもですぅ」


「待って! あなたたちはどうして私のことを……ねぇ! 人の内面をあばいてそのまま行かないで! 天竜に出会うにはどうすればいいの? 本当にあなたの言う姿でいれば私の中のこれはおさまるの!? ちょっと────────っ!?」


 伯爵令嬢カルミナ=リギルタの声を聞きながら、僕たちはさっさと逃げ出したのだった。






「職業訓練の結果、レギィに合うスキルがわかったよ」


「まじか主さま!?」


 まじです。


 僕はラフィリアの方を見た。


 ラフィリアには、僕の言いたいことがわかったみたいだ。


 僕たちは顔を見合わせて、にやりと笑った。





「「レギィ(さん)に似合うスキルは──」」





『お着替え補助LV1』


『似合い』の『服』を『選ぶ』スキル





 これは自分で着替えられるようになった子供が、服を選べるようになるスキルだ。


 超初心者用だし、レギィの性質にも合ってるはず。


 レギィは魔剣として王妃や姫君を見ているうちに、その人に合う格好や服を選ぶ特技を身につけてた。でも、スキルとして覚醒はしてなかった。実際にその特技を使ったのも、僕たちが初めてだったらしいから。


 ってことは、その特性を伸ばすスキルをインストールすればいいよね。






 そして別荘に戻ったあと──


「じゃあ、行くよ、レギィ。発動『能力再構築スキル・ストラクチャーLV5』!」


「うむ!」


 僕は『能力再構築』を起動して、レギィの胸に手を当てる。


 魔力でレギィと繋がりながら、ゆっくりと、スキルクリスタルを押し込んでいく。


「……んっ。あ、んっ。だいじょうぶじゃ、続けよ……」


 レギィの小さな胸が、ぴくん、ぴくんと震えてる。


 しばらくレギィは、荒い呼吸を繰り返していたけど──


『お着替え補助LV1』のスキルクリスタルを、無事に受け入れた。


「…………主さま、しばらくこのままでいておくれ」


「やっぱりきついか?」


「きつくはないが、異物感があるのぅ。落ち着くまで、主さまの魔力でなじませて欲しい」


 そう言ってレギィは目を閉じた。


 そして、真っ白な手を僕の手に当てて、


「すまぬの。まだ……動かすのは無理じゃ」


「なじんでないし、初めてだからな。しょうがないよ」


「『再構築』はできそうにないのぅ。この身にスキルが完全に定着するまで、待っておくれ」


「無理にすることないって。今回のはただの実験なんだから」


 そういえば、気になってたことがあった。


 レギィ、当たり前みたいにスキルを受け入れたけど──


「どうしてお前、いきなりスキルをインストールしたいなんて言い出したんだ?」


「……んなもん決まっておろうが」


 レギィはなぜか、頬を真っ赤にして、横を向いた。


「主さまに『パーソナライズ』して欲しいからじゃよ」


「……いいのか? それやると、お前は僕専用になっちゃうけど?」


「んー。魔力の波長が合えば、主さまの子供にも使えるようになるじゃないかな? わかんないのじゃが」


「適当なこと言うな」


 ご主人様の方が困るわ。


「いいんじゃよ。我の長い旅も、主さまと、このへんてこパーティで落ち着いた感じじゃし。他の誰かに『おお、スライムを扱う魔剣かー』なんて言われるのもうっとうしいからのぅ」


 そう言ってレギィは、僕の方に頭を差し出した。


 なでろ、っていうことらしい。


「うむうむ。我も様々な王に秘宝として扱われてきたが『なでなでスキル』は主さまが一番じゃな! 我が永遠に仕えるに値する」


「魔剣の言うことじゃねぇよ」


「魔剣に似合うスキル探しをするご主人様に言われてものぅ」


 レギィは僕の膝の上で喉を鳴らして笑い、つられて僕もちょっとだけ笑った。


 それからレギィはまじめな顔になり。


「さて、と。試しにスキルを使ってみるとするのじゃ。主さまに似合う服を選ぶとしよう……そうじゃな、主さまは」


 レギィは僕の顔をじーっと見てから、


「今のままで別にいいかと」


「スキルの意味がねぇじゃねぇか」


「あと、常に魔剣を背負っているのがお似合いじゃ! 下着の時も! 風呂の時も!」


「無茶言うな。着替えられないし、身体も洗えないだろ!?」


「それと、奴隷娘どもはやはり家では下着姿が似合うと思うのじゃが、どうじゃろう!」


「どこまでがスキルでどこまでが趣味だ。言ってみろレギィ」


 結局、レギィの性格がこれだから『お着替え補助LV1』のスキルそのものにはあまり意味はなくて──


 そのうち本人の希望通り、再構築して『パーソナライズ』することになるんだろうけど──





 職業訓練の結果、レギィにスキルをインストールするのには、成功したのだった。





 そして、廊下からなにやら話し合ってる気配がするんだけど、レギィの奴隷コーディネート…………聞こえてないよね……?







番外編『魔剣レギィ、はじめてのお仕事適性相談』おしまい

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