第73話「番外編その5『天然エルフと巫女、乙女心を鍛える』」
今回は番外編です。たまにはラフィリア視点のお話を。
イリスもラフィリアも、新しい生活に少しずつなじんできているようです……。
──────────────────
領主家の厨房は広く、いつも人が詰めている。
そこで朝食のパンを焼くのは、いつの間にかラフィリアの役目になっていた。
「あたしはイリスさまのお世話を任されたのです。全力でやるですよー」
そう言ってラフィリアは、形を整えたパンをトレーに載せた。
勤続30年の料理人は気のいい人で、パンを焼く時間に合わせて、釜を温めてくれる。
おじさんは言う。
「イリスさまはよく笑うようになったよ。これもラフィリアちゃんのおかげだな」
「いやぁそんな、照れるですねぇ」
「毒味役がいなくなって、温かい料理を食べられるようになったというのもあるけどなぁ。前は冷えた料理を、つまらなそうに食べてらっしゃったという話だよ」
「そうなんですか……。じゃあ、それもマスターのおかげ──」
パンの焼け具合をみながら、ラフィリアは思わず口を押さえた。
おじさんはいい人だけど口数が多い。こっちもうっかり、口を滑らせそうになる。
ラフィリアにもイリスにも秘密が多いから、注意しなければ。
「それにしても、エルフをメイドにするなんて、さすがラフィリアちゃんの主人は違うよな」
「海竜を説得してしまうくらいですからねぇ」
「祭りの形を変えちまったもんな」
「たまにいじわるなところがいいですよねぇ」
「まぁ、まだ小さいから、これからいろんな経験をしていくんだろうさ」
「むしろラフィリアにもっといろいろな経験をさせて欲しいですねぇ」
「……ラフィリアちゃんの
「……ええ、
「「………………はーっはっはっはっ」」
ふたりは顔を見合わせて笑った。
困ったときはこれに限る。
数年間の放浪生活の中で、ラフィリアが学んだ処世術だった。
話してるうちにパンが焼けたので、トレーに載せて部屋に運ぶことにする。
今日の朝食は焼きたてパンとボイルドエッグ。魚の酢漬けと果物だ。
酢漬けに使われている魚は「ソードフィッシュ」という高級魚。文字通り頭の部分が剣のような形をしている。身がしまっていておいしい。
果物は南方から届いたばかりのユグースカ(青リンゴ)。これを普通に
うきうきしながらラフィリアが廊下を歩いていると、向こうから背の高い男性がやってきた。
短く切りそろえた髪。整えられた髭。寝起きだというのにきっちりと着込んだ黒服はつやつやで、普通だったら威圧感ばりばりなのだけど、残念ながらラフィリアにそれは通じない。
強い目線をまっすぐに受けながら、ラフィリアが感じるのは「あー、領主さんですねぇ。イリスさまのパパですねぇ」──以上。
そもそも領主さんが厨房に用があるとは思えない。いまにも廊下の角を曲がってきたという格好も、なんだか作為的なものを感じる。
でもまぁ、それは向こうの都合だから関係ないし、早く部屋に戻らないとせっかくの朝食がさめてしまう。イリスさまが「おいしい」って言ってくれるのを楽しみなのに。以前は毒味役がついてたせいで、冷めた料理しか食べられなかったって話を聞いたあとではなおさらだ。
どうして領主さんはあたしの進路をふさぐんでしょう。めんどくさいひとですねぇ。
「こ、こほん。君は新入りのメイドの、ラフィリア=グレイスだったか」
「前置きはいらないですよぅ。なにが聞きたいんですか?」
急ぐので、ばっさりと切り込んでみる。
領主は無礼なエルフをにらみつけてくる。けれど、やっぱりなにも感じない。
これがマスターだったら、ちょっと視線を向けられただけでどきどきして、話しかけられたら「とろん」となって、にらみつけられたらぞくぞくするのに。やっぱりこの方はマスターほどの
「イリスさまかマスターの話を聞きたくて、ここで待っていたのでしょう?」
「そ、そんなことは……」
「どっちでもいいです。あたしは、イリスさまに温かい食事をお持ちしたいだけですから。雇い主さまの質問にはお答えします。でも、手早くお願いいたしますです」
「そ、そうか、では……今日は『海竜の勇者』さまのお宅へはいかないのかね?」
領主さまは目をそらして、こほん、と咳払いをして聞いた。
「父親として興味があるのだが、イリスと勇者さまの関係はどこまで……なのかね。子どもが出来る予定などはあるのか……?」
「と、いうことを領主さまに聞かれたのですよぅ」
イリスの部屋だった。
テーブルについてパンをちぎるイリスにお茶を煎れながら、ラフィリアは言った。
「とりあえず『ご本人に確認してみます』ってお答えしておきましたけど、ああいうときはなんと言えばいいですか?」
「ありのままを言っていただければいいでしょう」
イリスは顔をしかめて、卵をつけたパンを口に放り込んだ。
指についたパンくずを、真っ白な寝間着でぬぐう。髪はまだぼさぼさだけど、奴隷仲間のラフィリアの前でとりつくろうのはやめている。特に、ふたりっきりの時は。大切な友だちには隠し事はしない、というのはイリスのモットーだ。
「お父様に秘密にしたいのは、お兄ちゃんとの主従契約のことだけですから。そのほかに、イリスとお兄ちゃんの間で隠すことなんかないでしょうからね」
「わかりました。では正直に『キスが2回。一緒にお風呂に入ったのが1回』ですかねぇ」
「ぐぼぁっ!」
お茶を飲みかけていたイリスが口を押さえた。
「わ、わわっ。イリスさま。地上で溺死しないでください!」
ラフィリアがあわてて水の入ったカップを差し出す。
イリスはナプキンで口をぬぐいながら、恨めしそうに、
「だ、だ、誰のせいだと思っているのでしょうか? ししょう!」
「正直にっておっしゃいましたよぅ?」
「正直すぎます! それに……あのキスはスキルを使うためですからノーカウントです……。お兄ちゃんとのキスは、もうちょっといい雰囲気になってから……ちゃんと思い出に残るような……」
赤くなったほっぺたを押さえたイリスは、妄想を断ち切るように首を振った。
「とにかく! 師匠の率直なところは尊敬していますけど、もう少し乙女心を働かせてくださってもいいんじゃないでしょうか?」
「乙女心なら持ってますよ?」
「……本当ですか?」
「だって、イリスさまが毎晩書いてる (出してるとは言ってない)マスターへの手紙だって、あたしが添削してるんじゃないですか」
「だって……お兄ちゃんの心を動かすには想いを込めなきゃいけないでしょう。イリスは詩の心は持っていませんし。そこは師匠のポエムスキルのお力を」
「もう十分想いはこもっていますから、そろそろマスターに渡してもいいと思うんですけどねぇ」
「そういうところが乙女心がないって言っているのでしょう!?」
「そんなことはありません。イリスさまの心は、ちゃんとあたしはわかっているですよ」
「……たとえば?」
「お風呂でお背中を流してさしあげるとき、あたしの手をマスターの手だとイメージして熱い息をはいていることにちゃんと気づいて──」
「してませーんっ! してませんからーっ!」
イリスはあわあわと手を振る。
そして反射的に窓際へ。窓の外、森の向こうにナギの家が見える。この距離で話し声が聞こえるわけはないんだけど、聞かれたらと思うとイリスの顔が真っ赤になる。
思わず「むー」ってうなって、イリスはラフィリアの顔をにらみつける。
尊敬する師匠だけど、デリカシーのなさには困ってしまう。あと、自分より背が大きいのも、動くと胸元でおっきな果実がたゆんたゆんするのも見てて困ってしまう。
自分だってあれくらいあれば、「お兄ちゃん」への手紙を書いて隠して──書いて隠して、なんて無限ループを続ける必要なんかないのに。
「と、とにかく、師匠にはもう少し乙女心を鍛えていただきます」
「えー、なんでですかー」
「なんでもです。この本を読んで勉強してください」
イリスは本棚から、紐で綴じられた本を取り出した。
「ちかごろ流行の恋物語です。これを読めば、師匠も乙女心がわかると思います」
「『騎士王子ヘルマトカと、神聖姫フィリアルナ』ですか?」
「そうです。魔竜族に立ち向かう王子さまと、仕える運命を背負った姫君との悲恋です」
「はぁ。伝承によって選ばれた王子とか、いにしえの魔法によって祝福された姫君とか、現実味がないですねぇ」
「師匠ってエルフですよね!? 魔法に長けた種族ですよね!?」
「まぁ、でも、せっかくのおすすめですので、読んでみます」
「はい。ちなみにそれは第一巻の『魔軍襲来編』です。今は第12巻の『神剣覚醒編』まで出てます。一緒に読みましょう、師匠」
(2時間後)
「う、う、う、うわああああああん。なんで、なんで王子ヘルマトカは、フィリアルナ姫の気持ちがわからないんですかぁ!? 『深淵のダンジョン』攻略についていきたいって言ってるんだから、連れて行ってあげればいいじゃないですか!!」
「そ、そうでしょう? どうしてここで『このダンジョン攻略が終わったら結婚しよう』なんでしょうね!? おかしいです! ともに生きてともに死ぬのが、恋人同士というものじゃないですか!」
「でも、姫を危険にさらしたくないって王子の気持ちもわかるんです」
「わかりますよね。でも、半年の間、王子の帰りを待ち続けた姫のけなげさがもぅ……」
「イリスさま、続きを貸してください」
「ごめんなさい。作者がはやり病で死んじゃったので未完なんです」
「そんなああああああっ!」
「ごめんなさい。このやりきれなさを師匠と共有したかったので……」
「「うわあああああああん」」
そんなわけで、この世界の恋物語をどっぷり堪能したふたりは──
なんかものたりなかったので、ナギの家に遊びに行くことにしたのだった。
「いらっしゃい、ふたりとも。お昼は食べてくだろ?」
「恐悦至極です王子様。平穏の地にありて、あなた様の帰りを待つしかないこの身にそのような厚遇をいただき、感謝の言葉しかありません。せめて、万の困難を越えていくあなたさまの手のひらにくちづけする名誉を、このあたしにお与えください」
「……はい?」
遊びに来たと思ったら変なこと言い出したよラフィリア。
ひざまづく、というか、玄関先で普通に土下座してるし。
「あの、イリス、これは?」
「ただいま師匠は乙女心を訓練をしてらっしゃいます」
イリスはラフィリアの後ろで、本を抱きしめてうなずいてる。
……なんか読んで影響されたな。ラフィリア、中二病だし。
ラフィリアは玄関先で地面に額をつけてる。大きな胸が床に押しつけられてかたちを変えて、後ろで結んだピンク色の髪が揺れている。エルフ耳は先っぽまで真っ赤になってるし……彼女の頭の中では、どんな物語が展開されてるんだろう。
「ラフィリアもイリスも、アイネがお昼を作ってるから一緒に……」
「はい。王子様の胸には、実の姉弟のように育った姫君がいらっしゃることは存じております。けれど、せめて、毎日会えなくてさみしいというあたしの思いも、受け止めて欲しいのです」
顔を上げたラフィリアが、本当にさみしそうな顔をしてこっちを見てる。
……いつもと違うな。
ラフィリアは天然でほわほわしてるから気づかなかったけど、イリスんちに常駐してるのはやっぱりさみしかったのかもしれない。
……うん。ご主人様としては、奴隷の気持ちをちょっとは考えてあげないといけないよな。
ここはひとつ、ラフィリアに付き合ってあげよう。
「王子様」
「王子じゃないけど、なに?」
「使命を果たすまえの刹那の時を、あたしと重ねていただくことはできますか?」
「むろんだ。姫よ」
合わせてみた。
こういう会話は、ゲームを作ってた時にさんざん考えてたからね。
「桜色の髪を持つ美しき姫よ。汝は己の価値を知らぬか?」
「いいえ。王子様。そのような言葉はあたしにはもったいないで──って、ますたああああああっ!?」
「私は汝に無理をさせていたのかもしれぬ。使命とはいえ、遠く離れた彼の地に汝を派遣してしまったこと、許されよ。だが、これから(4日後に出発予定)の旅路 (社員旅行)では、汝もまた我が周囲をかこむ姫君の一員として共にあらん。いずれ宿命の時が来て、私が大いなる戦いに向かうとしても、汝は今の記憶を抱えて待っていてくれることを望む。私がいつか消えてしまったとしても、汝の記憶に残るように」
「あわ、わわわわわあわわわ」
「お、お兄ちゃん…………すごい」
「我が周囲にある姫君を称して『告死姫』と呼ぶ。それは我に敵対する者に死を告げる最強の呼び名。汝は我が4人目の告死姫として、伝説に残るであろう。桜色の髪を持つ、魔法種族の姫よ。どうかその時まで、5人目の姫と共にありて、守ってあげて欲しい。それが我が与える祝福にして、汝が我のものであるという忠誠の証なり」
「さ、されど、あ、あたしわー」
「分かってくれるな、ラフィリア=グレイスよ。身も心もすでに、我の一部となりし汝であれば……」
「ま、ますたぁ。あ、あわわわわ……」
あれ? ラフィリアが震えてる?
床に膝をついて、手を祈るかたちに組み合わせて、真っ赤な顔で僕を見上げてる。
そして、
「まいりましたマスター! あたしの完敗です!!」
「いつから勝負に!?」
「こ、これ以上は心臓が爆発しちゃうです。マスターのお言葉の力の前では、付け焼き刃の乙女心なんか歯が立たなかったのです……」
ラフィリアは胸を押さえながらつぶやいてる。
「ですが、これで勝ったと思うなです! あたしはイリスさまともっともーっと乙女心を鍛えて、いつかマスターをデレさせてみせます。こ、今回はあたしの負けです。だって……こんなになっちゃってます……」
そう言ってラフィリアは僕の手を掴んで……自分の左胸に押しつけた。
あんまり自然だったから、抵抗する暇もなかった。
どくん、どくん、ばくばくん
って、ラフィリアの心臓が壊れそうなくらいに高鳴ってた。
ラフィリアはその鼓動を僕に刻み込むみたいに、ふわり、と、自分の胸に僕の手を押し込んでから──
「この鼓動を覚えておいてください、マスター。いつかマスターをこんなふうにしてみせますから。『ラフィリアの事を考えるとどきどきするよー。眠れないよー』って、言わせてみせるです!」
そう言ったラフィリアは不敵に笑ってて、いつもとなんだか、違ってた。
ラフィリア、こんな顔もするんだ。
ただの天然エルフじゃないとは思ってたけど。
「というわけでイリスさま。本日は
「え、え、えーっ!? でも、お兄ちゃんとのごはんは……?」
「こんな状態じゃごはんは喉を通らないです。それに……マスターの視線が、なんだか恥ずかしいです。なんでかわからないですけど、もっと乙女心を鍛えなきゃいけない気がするんです」
「わかりました。師匠がそうおっしゃるなら」
イリスはぐっ、と拳を握りしめた。
わかっちゃったんだ……。仲良くなったなー、ふたりとも。
「というか、僕はあまり状況がわかってないんだけど。イリス?」
「師匠もイリスも、お兄ちゃんのおかげで、新しい自分を見つけたばっかりですから」
イリスは、いたずらっぽい顔をして笑ってる。
「自分の心とか、想いとか、そういうものをひとつひとつ確かめている最中なんです。ちょっと不安定になっても見逃してください。お兄ちゃん」
「……そういうことか」
僕もこの世界に来てすぐはそうだったっけ。
自分のスキルや、自分になにができてできないかを再確認してた。
ラフィリアは不幸体質から、イリスは巫女の使命から解放されたばっかりだから、同じように、新しい環境に自分を慣らしている最中なのかもしれない。それならしょうがないよね。
「というわけで、今日は帰ります」
そう言ってイリスは頭を下げた。
ラフィリアは恥ずかしがって、もう家の外に出ちゃってる。イリスの護衛任務があるから玄関先で待ってるけど、顔を真っ赤にして僕の方を見ようとしない。
新鮮な反応だった。
「あ、そうだ。お兄ちゃんにひとつお願いがあるのですけど、いいでしょうか?」
「いいよ。なに?」
「ちょっとイリスの背中をさすっていただけないでしょうか?」
「……なんで?」
「お風呂に入るときに……いえいえ、イリスの乙女心を高める儀式のようなもの、でしょうか」
いいけど。
イリスは僕に背中を向けて、緑色の髪を肩口まで持ち上げてる。
僕は手を伸ばして、イリスの背骨のあたりに触れた。細っ。下手に力を入れたら折れそうだ。指先だけでいいか。僕はイリスの背中を手の指でなでていく。肩のあたりから、腰の上までなでたところで、イリスが「ありがとうございました」って髪を下ろしたから、僕も手を放した。
「ありがとうございました。それではまた明日」
「うん。旅行の打ち合わせもあるから、明日な」
僕は手を振って、イリスとラフィリアを見送った。
なんというか、変な気分だった。
僕に思春期まっさかりの妹がいたら、こんな気分になるのかもしれない。
「やっぱりマスターはすごい方でした」
「はい。師匠に乙女心を自慢した自分が恥ずかしいです」
「マスターをときめかせるには、もっと乙女心を勉強する必要があるです」
「そこで、こんな本を準備いたしました」
「……『読むだけで好みの殿方を夢中にさせる本』?」
「しっ。いけません。これは他のメイドにワイロを渡して手に入れたものです。お父様に見つかったら取り上げられてしまいます」
「わかったです。では夜中、ふたりでこっそりと読むです」
「師匠は周囲の警戒をお願いします。みんなが寝静まったのを確認してから、ノックしてください。6回、3回、4回の順番です」
「わかったです。『お・に・い・ち・ゃ・ん』『イ・リ・ス』『だ・い・す・き』と覚えるです」
「人の心を読んではいけませんっ! 師匠ってば、もう……」
そんなわけで。
当初の目的をすっかり忘れたふたりは、ご主人様攻略のための新たな計画を練り始めるのだった。
そして翌朝。
昨日のように朝食のトレーを運ぶラフィリアの前に、領主さまが現れた。
「おはようございます領主さま」
「おはよう。それで、昨日の話だが」
「……昨日?」
「『イリス本人に確認してみる』と言っただろう?」
「?」
それは昨日、ナギとイリスの関係を聞かれた時に答えた言葉だった。
が、領主との会話の内容など『中二病ラブストーリー』『ナギの言葉』『読むだけで殿方を夢中にさせる本』でたっぷり上書きされたラフィリアの頭には、すでにかけらも残っていない。
本気で忘れてるラフィリアの表情に、領主が眉をつり上げる。
が、相手がナギの奴隷であることを思い出したのか、こほんと、咳払いを一回。気を取り直して、昨日の質問を繰り返す。
「ち、父親としての質問なのだが、海竜の勇者とイリスの関係は……いえ、彼を利用しようなどとは考えていない。ただ……子どもができるようであれば色々と使い道……いや、面倒を見なければいけないからね」
「あー、そのお話でしたか。それだったら……」
ナギとイリス。
ナギの、奴隷の心を一瞬でときめかせてしまう言葉。
イリスの乙女心。
そして『読むだけで殿方を夢中にさせる本』を読んで考えた攻略法。
すべてをかけあわせて出た言葉は──
「『この夏の海辺で水着の面積を8割減らせば勇者さまもイチコロ』ですよぅ」
「────────っ!?」
声にならない叫びと共に硬直した領主さまの脇を通り抜けて、ラフィリアはイリスの部屋へ。
今日もいろいろ予定があるのだ。
ごはんを食べて、イリスの身体を拭いてあげて、それからナギのおうちへ。
昨日の研究成果を試さなければ。
昨日の今日で、乙女心もかなりついたはず。今日こそ、マスターをときめかせるのです。
そんなわけで、イリスの部屋に着くころには、領主さまとの会話はすっかりラフィリアの中からは消えていて──
数日後、領主から差し入れされた大量の水着を前に、2人は頭を悩ませることになるのだった。
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