第43話「番外編その2『お姉ちゃんメイドの家族計画』」
今回は番外編です。
41話と42話の間(リタのスキルを再調整してから温泉に行くまで)に起きたできごとになります。
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お姉ちゃんメイドな
鳥の声を聞きながら目を覚まし、ベッドをきれいに整える。それから井戸で顔を洗い、部屋でいつものメイド服──に着替えようとして、昨日の戦いでそれが泥水まみれになってしまったことを思い出す。しょうがないので今日は、『庶民ギルド』のギルドマスター見習いをやっていた頃のワンピース。久しぶりに着ると、なんだか仮装してるみたいで落ち着かない。
『庶民ギルド』にいたのは、ほんの少し前のことなのに、なんだか前世のできごとみたい。
そうつぶやいて、アイネは鏡の前で首輪の金具を、ちりん、と鳴らす。
うん。これが今の自分。ご主人さまの──なぁくんの奴隷で、みんなの『お姉ちゃん』
うんうん。
鏡の前でうなずいて、髪を、きゅっ、と結んで気合いを入れる。
エプロンを着けたら、今日もご奉仕準備完了。
アイネは鼻歌まじりに部屋を出た。
「おはようございます、アイネさん」
「おはようなの、セシルちゃん」
台所に行くと、奴隷仲間のセシルが待っていた。
かまどに火を点けるのは、ちっちゃなセシルのお役目だ。積み上げた
お礼にアイネは、お湯が沸くまでセシルの髪をとかしてあげる。
これが、いつもの日課。
セシルの銀髪は上質の絹糸みたいで、触るととっても気持ちいい。小さい頃、弟のナイアスと一緒に、祖父から神話を聞かされたことがある。そこに出てくる妖精や女神って、こんな感じなのかもって思う。
「アイネさんはやさしいですね」
「そうなの?」
「だってわたし、魔族ですよ?」
アイネの奴隷仲間「セシルちゃん」は不思議そうにこっちを見てる。
「セシルちゃんは、アイネの仲間だよ?」
アイネは銀色の髪をとかしながら笑いかける。
そう言うとセシルちゃんは、くすぐったそうに笑ってくれる。
もうひとつ大事なこと。セシルちゃんはなぁくんの、大切な嫁候補。
ふたりが『魂約』したって聞いたときも、アイネはぜんぜんびっくりしなかった。だって、アイネにとって、なぁくんはそういう因果を越えたところにいるから。魔族のセシルちゃんと、不思議な少年のなぁくんはとってもお似合い。もちろん、リタさんとも。
セシルちゃんのさらさわ髪を撫でてると、幸せだって感じる。
ふんわりとした、やさしい時間。
髪をとかし終わると、セシルはアイネを見る。「いいの?」って聞いてるような、くりくりした瞳。アイネがうなずくと、セシルは鎖を解き放たれた子犬みたいに走り出す。
行く先は、ふたりのご主人様の部屋だ。
なぁくんを起こすのは、一日のはじまりの大切な儀式。
だからローテーションでやっている。
今日はセシルの番。明日はリタの番。アイネはお姉ちゃんだから3番目。
「さてと、朝ご飯を作らないと」
アイネは沸いたお湯に、刻んだ野菜を投入する。
別荘には朝の行商人がやってくるから、新鮮な卵が手に入るのが嬉しいところ。昨日はみんながんばったから、ふんぱつして塩漬け肉を多めに投入。卵はけちけちしない。おさいふを任されてるアイネとしては、みんなの健康と経済状態のバランスはしっかり考えてるつもり。
ことこと、ことこと。
いいにおい。
「おはようございます。リタさん!」
アイネが鍋をかき混ぜていると、廊下からセシルちゃんの声が聞こえてくる。
この家、本当に声の通りがいいの。うん、ほんとう。
「リタさん、昨日はナギさまとなかよしでしたねっ!」
「わぅっ!?」
「ちゃんとナギさまと『
「わぅ──────っ!」
風を切ってダッシュして、台所に飛び込んできたのは獣人のリタさん。
金色の耳と尻尾が、とっても綺麗な女の子。
アイネにとっては奴隷の先輩で、頼りになる人。アイネは前衛では戦えないから、なぁくんの命はリタさんにかかってる。いつも思う。アイネもリタさんみたいに働けたらなぁ、って。
でも今のリタさんは、顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにうつむいてる。
「おはようございますなの、リタさん」
「お、おはよう、アイネ」
リタさんは耳をぴくぴくさせて、額の汗をぬぐってアイネを見てる。
汗──あ、そういえば。
「今日はいい天気なの」
「え? うん、そうね」
「洗濯物もよく乾きそうなの」
「……うん、そうね」
「だから、洗い物があったらえんりょしないで出してほしいの」
「あ、あらいもの?」
「うん。リタさんもなぁくんも、昨日は汗かいたでしょ? がんばってたもんね。だから、寝間着や下着はアイネに渡して。あとでベッドのシーツを替えに行くときに、お湯と布を持って行くから、それで身体を拭いてね。手の届かないところはアイネが拭いてあげるから──って、あれれ?」
「アイネの優しさが痛いよ──っ!」
リタさんは絶叫しながら、廊下へ飛び出していってしまった。
おかしいなぁ。なにか間違えたかなぁ。
アイネが首を傾げていたら、廊下からレティシアがやってきた。
まだ寝間着姿のレティシアは、青い髪を手で梳きながらあくびをしてる。
彼女はアイネの親友で、奴隷になったアイネを気遣って、こんなところまでつきあってくれた。立場が変わっても態度はちっとも変わらない。なぁくんにも、セシルちゃんにもリタさんにも信頼されてる。アイネの自慢の友達だ。
「リタさんがすごい勢いで飛び出して行きましたけど、なにかありましたの?」
「ううん? なんにもないよ?」
「そのまま庭の樹のてっぺんまで登ってふるふる震えてるのですけど?」
「きっとお洗濯物を干す準備をしてくれてるの」
ちょうど庭木と庭木の間に紐を渡して干そうと思ってたから。
さすがリタさん。気が利くの。
「ところで、わたくしはアイネにお話があるんですの」
「お話?」
かまどから鍋を下ろしながら、アイネは問い返す。
うん。スープはほぼ完成。あとはしばらく蒸らすだけ。
蒸らしたらぐるぐるかき混ぜて、と。
「……ナギさんですけど。セシルさんやリタさんと、ずいぶんなかよしになったみたいですわね」
「よくわかるね、レティシア」
「こ、この建物は音がよく通るのですわ」
真っ赤になって横を向くレティシア。なんでかな?
「それでわたくしも昨日はどきどきして眠れな──そんなことはどうでもいいんですわ! わたくしが心配してるのはアイネのことです!」
「アイネのこと?」
「アイネは、自分が出遅れているとは思わないんですの?」
「出遅れる? どうして?」
「セシルさんとリタさんは、なぁくんと『
「うん。さすがなぁくんだよね。伝説の儀式を成立させるなんて」
「このまま3人が限界を超えてなかよしになったら、子供ができるかもしれませんわ」
「うん。楽しみなの。きっとなぁくんに似て賢い子供になるの」
瞳をきらきらさせて答えるアイネに、レティシアは呆れたようなため息をついた。
「アイネは、本当にそれでいいと思ってますの?」
「うん、もちろん」
「でも、セシルさんとリタさんはパーティの重要な戦闘要員ですわよ。ふたりがクエストに出かけている間、子供の面倒は誰が見ますの?」
「もちろん、アイネがみるの」
「赤ちゃんの面倒を見るのは大変ですのよ」
「もちろん、アイネにおまかせなの。むしろご褒美なの」
「赤ちゃんにはミルクが必要ですわよ? おふたりが不在の間はどうしますの?」
「もちろん、アイネがあげ──」
からん
言いかけたアイネの手から、木製のお玉が落ちた。
床の上で転がり、乾いた音を立てる。
アイネの目から、光が消えた。
視界がぐらぐらと揺れ始める。
信じられなかった。こんなこと、あっていいはずがなかった。
まさか──まさか、まさか……。
みんなの「お姉ちゃん」である自分が、こんな単純なことを見落とすなんて──
アイネは、がくん、床に崩れ落ちる。
両手と膝をつき、わなわなと震えだす。白い額から、汗が流れ落ちる。自分の決定的な見落としに気づいたかのように、アイネは思わず胸を押さえる。
「……アイネは、おっぱいが、出ない…………の」
「やっと気づいたんですのね」
「どうしようレティシア! アイネ、なぁくんの赤ちゃんにミルクをあげられない!」
盲点だった。完全に、
アイネの計画は完璧なはずだった。弟のようななぁくんと、大切な奴隷仲間のセシルちゃんととリタさん。3人がなかよしになっていくのは問題ない。見ていてほほえましいくらい。
このまま3人がうまくいって、子供ができて、それをアイネが育てる。
それはまるで夢のような未来だった。
目が覚めたら子供たちを起こして、みんなのごはんを作って、クエストに行くみんなを見送る。その後は洗濯をして、服をつくろって、家の掃除をする。過ぎていく、なにげない一日。それは昔にアイネがなくしたもので、一番欲しいもの。
アイネはなぁくんと姉弟みたいにしていられればいい。
『
うん、新しい。すてき。
だから今のままで十分幸せ。
みんなの「お姉ちゃん」として、のんびり生きていく、そのはずだったのに……。
「女の子は子供を作らないと、おっぱいは、出ないの…………」
「まったく、そんなことも気づかないなんて……友達ながら呆れますわ」
「で、でも、ミルクなら他の誰かにもらえば──」
「あら、みんなのお姉ちゃんともあろう者が、そんな大事なことを人任せですの?」
「はぅっ!」
「ああ、聞こえますわ。ナギさんの赤ちゃんがお腹を空かせて泣いている声が。耳が少しとがっているからセシルさんの子供ですわね。小さな喉を震わせていますわ。お腹がすいたよ。どうして目の前にいるメイドのお姉ちゃんは、ミルクをくれないんだろう。ぼくのことが好きじゃないのかなぁ。ぼくはお姉ちゃんのことが大好きなのに……どうして」
「やめてレティシア、やめてえええええええええ……」
アイネの耳にも赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる──ような気がした。
寒い夜。なぁくんとセシルさんとリタさんは、重要なクエストに出たまま帰らない。暖炉の前で泣いている小さな赤ちゃん。褐色の肌はセシル譲り。真っ赤な目をした、可愛い赤ちゃん。
その子が泣いているのに、アイネはミルクをあげることができない。はだけた胸はむなしく揺れるだけ。誰かにミルクをもらいに行こうにも、外は吹雪だ。イルガファは南の町なのに、アイネの妄想の中ではなぜか吹雪だ。赤ちゃんの泣き声がむなしくこだまする。アイネはそれを、ただ聞いていることしかできない──
「………………こんなことも気づかなかったなんて……」
アイネは両手で顔をおおった。
その肩を、レティシアの手が、ぽん、と叩いた。
「これでわかりましたわね。アイネ。あなたはほかの二人がなぁくんと仲良しになっていると、ただ喜んでいてはいけないのですわ」
顔を上げると、アイネの親友は不思議なくらい優しい目でこっちを見ていた。
「どうすればいい。どうすればいいの、レティシア!?」
「簡単なことですわ」
「……かんたん、なの?」
「セシルさんとリタさんと同じくらい。あなたもナギさんとなかよしになればいいのです」
言い聞かせるように人差し指を立てて、レティシアは続ける。
「そうですわ、2人がナギさんと子供を作るなら、その子どもたちにミルクをあげるためにも、アイネもなぁくんと子供を作らなければいけないのですわ!!」
ずどん
雷に撃たれたように、アイネの身体が震えた。
まるで霧に包まれていた視界が、ぱぁ、と晴れたみたいだった。
甘かった。
自分はなんて甘かったんだろう。
今の幸せに満足しているだけじゃだめだったんだ。
いつか生まれるであろうセシルとリタの子供のためにも、自分もなぁくんと子供を作らなければいけないんだ。それが、パーティの『お姉ちゃん』であるアイネの使命!
みんなのお姉ちゃんは、未来を見据えて準備しなければいけなかったんだ。
でも──
「アイネはなぁくんの『お姉ちゃん』なのに、そんなことしていいの?」
「お姉ちゃんだからこそ、なぁくんを導いてあげるべきでしょうね」
レティシアは言い聞かせるみたいに、アイネの耳元でささやく。
「ナギさんは『魂約』を実現させるほどのスキルを持っていますが、実際に子供を作った経験があるとは限りませんわ。そのへんは、みなさんを観察してきたわたくしには──いえ、言葉の
「はっ!」
盲点だった。
アイネは今やっと、自分の役目に気づいたような気がした。
『お姉ちゃんなのに』──じゃない。
『お姉ちゃんだからこそ』──だったんだ。
「それに、アイネが赤ちゃんにミルクをあげられるようになれば、セシルさんもリタさんも安心してクエストに行けるでしょう? そうすれば、みんなが幸せになれるのです!」
「レティシア! ありがとう!」
がし、と、アイネはレティシアの手を握った。
やっぱりレティシアは親友だ。アイネの「甘さ」に気づかせてくれた。
この身はなぁくんのお姉ちゃんとして捧げてる。みんなの赤ちゃんのために、アイネがなぁくんと子供を作るくらいなんでもない。
これはみんなのため。
すっごくうきうきしてるけどそれは別の話。どきどきしてわくわくして、ぞくぞくして心臓が破裂しそうだけどそれも別の話!
「なぁくんにお願いしてくるの! アイネもみんなと同じようにしてください、って!」
「はいはい。がんばりなさいな」
「お鍋を見てて! ありがとう、レティシア、大好き!」
スカートをつまみあげ、アイネはなぁくんの部屋に向かって走り出した。
「まったく、世話がやけますわ」
テーブルに頬杖をついて、レティシアはつぶやいた。
ご奉仕スピリットはいいけど、アイネはもう少し自分の気持ちに素直にならないと。
「……背中を押すのもけっこう大変ですわね。ほんとに」
レティシアは、ずっと一緒にはいられない。
イルガファの別荘をナギに引き渡したら、一度メテカルに戻らなければいけない。
レティシアも貴族のはしくれ。子爵家の人間だ。
家との縁をすっぱり切って冒険者になるにしても、それなりの手続きは必要なのだ。
その後は……まぁ、落ち着くまでナギのところに転がり込むのもありだろう。
ナギも嫌な顔はしないはず。理屈っぽい人だけど、根っこのところはお人好しだから。
そういうところ、信用してる。
そうじゃなかったらレティシアだって、親友のアイネを預けたりしない。
「がんばりなさいな、アイネ」
レティシアは床に転がる小さな札を見た。アイネが落としていった「ご奉仕ポイントチェックカード」だ。アイネがみんなのためにいいことをするたびに、丸がひとつ増えていく。これがカードいっぱいになったら『魂約』って言ってたっけ。
「おおっと、手がすべりましたわ」
レティシアは
「いやー失敗失敗、ですわ。アイネのことだから、怒ったりしないでしょう」
あとで代わりのものを作ってあげよう。同じ大きさの板いっぱいに、丸をたくさん書いて。
ポイントが貯まるまで待ってる必要なんかない。
欲しいものがあるなら、今すぐに手を伸ばさないといけないのだから。
「さて、と、アイネの子供の名前でも考えておきましょうか。男の子だったら『ナイアス』……でも、早くに死んだアイネの弟の名前は……ちょっと縁起が悪いでしょうか。ナギさんなら気にしなさそうですけど……女の子なら……そうですわね……」
うふふ、と、柔らかい笑みを浮かべながら、レティシアは妄想にひたるのだった。
「おはよう、アイネ」
「お、おはよーなの! な、な、なぁくんっ!」
ぽて
勢いよく走っていたアイネは、部屋から出てきたナギの胸にぶつかって止まった。
思わずまわりを見回す。
なぁくんを起こしにいったセシルはいない。
外から水音が聞こえるから、顔を洗ってるんだろう。
「あ、あのね。アイネは、ね」
近い近い。
薄い寝間着を通して、なぁくんの体温と汗のにおいがダイレクトに伝わってくる。
どきどきする。息がうまくできない。あれ、あれれ?
「あー、ごめんな、アイネ」
アイネがなにか言う前に、なぁくんが口を開いた。
困ったような顔で頭をかいて、アイネの肩から膝までのあたりを見てる。
「今日はギルドの時のワンピースだよね。メイド服、昨日の戦いでだめになっちゃった?」
そうだった。
昨日『黒い鎧』と戦ったとき、アイネは橋の下に隠れてやつらを迎え撃った。
川に飛び込んできたところを『汚水増加』で一掃したのだけど、そのときにアイネのメイド服は泥水まみれになってしまったのだ。しょうがないから今日は、庶民ギルド時代のワンピースを着てる。
なぁくん、気づいてくれたんだ。
「この町にメイド服は……売ってないか。ごめんな。イルガファに着いたら新しいのを買ってあげるから、しばらく我慢して」
「なぁくん……」
ほわ、ほわわ。
アイネの胸が温かくなっていく。ふわふわのほわほわ。
…………あれ?
そういえば、なにかなぁくんにお願いがあったような。
まぁ、いいの。
忘れるってことはたいしたことじゃないの。
なぁくんに抱きついて、こうしているだけで、十分。
大事なことなら、きっとあとで思い出すから。なぁくんはそれを、くれるから。
アイネのご主人様は、そういう人だから。
「メイド服のことなんか気にしなくていいの!」
アイネは、ぽん、と胸を叩いた。
「アイネの家事スキルをなめたらだめだよ、なぁくん。多少の汚れなんか綺麗にしてしまうんだから。今日は天気もいいし、大洗濯大会をするの! 旅の汚れを全部洗い流すんだよ!」
「うん。僕も手伝う。家事はそこそこできるからね」
「ご主人様にそんなことをさせるわけにはいかないの!」
「いや、でもみんなが働いてるのにごろごろしてるのは落ち着かないし」
「では、洗濯物がちゃんとまっすぐ干せてるかどうかチェックだけお願いするの! みんなの服と下着とが、ちゃんと干せてるかどうか。セシルちゃんとリタさんのためにも、どんな色やかたちが好きかどうかも!」
「それかなり難易度高いよね!」
「まずはごはんを食べましょう! えいえいえおー!」
そんなわけで、ナギとアイネは台所に。
樹から降りてこないリタさんの分はサンドイッチを作って、みんなでスープとパンを食べた。
それが終わったらお洗濯。汚れてもいいように、みんなで下着姿になって、旅の間に溜まった洗濯物をじゃぶじゃぶ。樹の枝に
家の庭木にひるがえる、大量の洗濯物。
それをご主人様にチェックしてもらったあとは、お昼ご飯。
朝の残りをみんなで食べて、これからの予定を相談。なぁくんは明日になったら、この町の温泉に行くみたい。イリスさんに招待券をもらったらしい。アイネたちも誘われたけど、遠慮した。
明日になったらイルガファ領主家の兵団が来る。それからなら安全だけど、それはそれ。ご主人様の背後を守るのも奴隷のお役目だから。
ご主人様は残念がってる。優しい。大好き。
その顔を見てたら、さっき言い忘れたことを思い出した。でも、いいの。
みんな笑ってるから。
レティシアはアイネをちらちらみながら、呆れたような顔してるけど。
この時間が大切なの。お願いは機会をみてから……ね。
「さて、と、それじゃ僕の故郷の風習に付き合ってもらおうか」
ご飯を食べて洗い物を片づけたら『お昼寝の時間』
これはなぁくんの故郷の風習──というか、なぁくんがやりたかった風習みたい。
もしも『かいしゃ』を作ることになったら、絶対に導入するんだって言ってた。食後はお腹に血が集まって頭の回転が悪くなるから、1時間くらい昼寝をした方がいいんだ、って、一生懸命話してくれるけど、アイネにとってはみんなと一緒にごろごろできればそれでいい。
なぁくんはソファに、ごろり。セシルちゃんはその足下に横たわる。リタさんはなぁくんの手の近くで膝を抱えて丸くなり、レティシアは椅子に腰掛けて目を閉じてる。
アイネはみんなのお姉ちゃんだから、目を閉じるのは一番最後。
なぁくんがいるソファの近くで横になればいいんだけど、その前に──さっき思い出したことを、忘れないうちに伝えておかないと。
「……なぁくん」
アイネはなぁくんの耳元にささやく。起こさないように、小さな声で。
「いつか、アイネのおっぱいが出るようにして、ください……」
「……うん…………いいよ。それなんて魔法……?」
「家族の魔法……だよ、なぁくん」
ねぼけ半分のなぁくんの声を聞いて、アイネはうなずく。
うん。満足。
どきどきする胸を押さえて、アイネはソファの近くで横になる。なぜかセシルちゃんの長い耳がぴくぴく動いてて、リタさんの獣耳と尻尾もぶんぶん反応してる。みんな不思議な夢を見ているみたい。
アイネはずっと夢見心地。こんな毎日が、ずっと続けばいいな。
それじゃ、おやすみなさい、なぁくん。
楽しい夢を。
なぁくんと、たくさんの子供たちの『お姉ちゃん』になる、そんな夢を。
未来を。
お願いしますね。アイネのご主人さま……なぁくん。
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