第9話 決別

「ハァハァハァハァ、ヨズ、ク、、、すまないそこに、寝かせてくれ、、」


肩を貸して、クソオヤジを木にもたれ掛けさせる。

満身創痍、体中血だらけで、至るところに切り傷や刺し傷が、いつもの悪態すらつかない程、疲弊しきっている。



「こんな事なるなんて、俺の失態だ。ヨズク、お前を巻き込ませてしまって本当にすまない。」



「黙ってろよ。少しでも休んでくれ。」



まさかクソオヤジからこんな言葉が出るなんて、相当やばいのかな?

人生で初めて、こいつが謝罪をしてきた気がする。



「大河はあれで、強い。時間さえ稼いでくれれば織天使セラフィスも呼んである。なんとかなるはずだ。桜子達が心配で仕方ない。」



クソっ僕に力があれば、なんとか出来たのかもしれない。

足を引っ張らなければ、ここまでの事にならなかったのかもしれない。

考えても考えても、自分の力のなさに腹が立つ。



「ヨズク、見てわかる通りだ、もうこの身体じゃ戦闘は出来ない。少し昔話をさせてくれ。」



なんだよ気持ち悪い。自分の最期がわかったみたいな風な口聞きやがって。

僕が言い返そうとすると



「頼む、黙って聞いてくれ」



圧すごいな。

押し黙る事しか出来なかった。



「俺はな、昔、国の役人だったんだ。織天使のやつら程じゃないが国内外の揉め事があれば対処に回る、何でも屋みたいなもんか。ある任務があってそこで初めてお前の親父に出会ったんだ。そうさ18年くらい前だったかな」



僕の親父の話!!

初めて聞く親父のこと。

何をしていて、どんなものかも知らない親父の話。



「最初に謝るよ。お前の親父は俺が殺した…」



はっ?

こいつの口からでた話に戦闘の音はもうはいってこないくらい、頭が混乱した。



「ヨヒトっていうんだお前の親父。ごめんな、戦争の敵だったんだよ。他の任務で仲良くなって、それはもう、親友かってくらいにな。それでお前の事は頼むって最期にさ。」



「国が違うってだけで、親友をこの手に掛けちまった。運命を呪ったよ。そこからは役人なんて引退して、自分の息子もいるのに、お前の事も必死に育てたんだ。日に日にヨヒトに似てくるお前を見るたび、自分の中のあの時の感情が蘇ってきて優しくしてやれなかったな。」



どういう事だよ、こいつがいなければ俺は幸せな家庭を、幸せな人生を送れたって事か。

自分の中に育ててもらった恩とか、そういったものもろもろを吹き飛ばして、黒いなにかが蠢く。

アムドゥキアスがそこら辺に散らばらせてナイフを握る。



「最期に死ぬときはよ、誰かじゃなくてお前がいいんだ。お前じゃなきゃだめなんだ。その感情の赴くままにひと思いに殺ってくれないか?自分の最期くらいわかる。こんなに血がでてて、もう長くない。」



「桜子に最期に会いてえなー、大河は死ぬ程甘やかしすぎたな、思い残すことはたくさんあるが、ヨズク、後は頼むぞ。」



「最後にもう一つ、俺を殺すことがお前のトリガーになる。自分を見失わないでくれ。あとあいつらとも仲良くやるんだぞ。何を言ってるか分からなくてもいい、それが俺の役目だから。」


あぁ分かったよ、と心の中で思う僕は手が震えて行動に移せない。

こいつが本気で悪い奴には思えないから。

息子より息子として、育ててくれた恩があるから。

いろいろな物が絡み合って、今の僕を作ってくれたから。


―――――――――――――――――――――――――――


「ぐぁーーッッくそがーーーー」

大河が吠える


「本当に面白いな。何度でも殺せるじゃないか。肉を貫く感触、肌が破ける快感、いいぞお前、もっと殺させてくれ。」



ピンチなのかな?そろそろ僕の再生力も弱まってきた。

魔力の限界がきついのか、体中が汗まみれ。

シット、早く織天使達が解決してくれたら気持ちの良いお風呂にダイブしよう。

そんな事を思っていた。



「クククッお前の親の方見てみろよ。なんだあの異様な雰囲気は。」


そこには死にそうなお父様に向かってナイフを突き刺そうとしているヨズクの姿が。



「ヨズクッッ!!!何をしている、よせやめろ!!!!」



「行かせぬ、ここで苦痛を感じながらあれを見るのもまた一興だと思わぬか?」



ヨズクのやつ頭がおかしくなったのか?

僕はそう思いながらまた全身をナイフで貫かれている。

あいつ、親父を殺したら絶対に許さない。



―――――――――――――――――――――――――――



「ヨズク、覚悟は決まったか?大河のやつも、もうそんなに長くない、あいつの魔力が目に見えて減っている。桜子達も心配なんだ。」


カタン、ナイフを握っていた手からそれが滑り落ちる


「出来るわけないだろ!!!!僕のことを育ててくれた人が、いくら親父の仇だろうと、僕にはできない!!!!!僕にとってはあんたがいくらクソ野郎でも、今は大事な人なんだ!!!!!!!!それにこんな事して何になるってんだよ…」



最後は消え入りそうな声で、クソオヤジをまくし立てる。



「お前のパートナーはただの犬なんかじゃない。ヨヒトからの預かり物だ。俺の身体に封印しておいた、来るべき時にために。随分と予定前倒しで来てしまったがな。」



「さぁ殺れ、何もしなくても死ぬんだ、この命、最期はお前のために使いたい」


風前の灯、痛々しい身体、とどめなく溢れる血。

このままつらく、きついままならいっそひと思いに俺が終わらせる。

落としてしまったナイフを拾い上げ、元気の方に向き直る。

楽にしてやろう。


今までありがとう。




「ウォーーーーーーーーーー!!!!!」

ずぶりと、気持ちの悪い感触が手に残る。

涙でぐちゃぐちゃになった顔に血が吹きかかる。



「それでいい、ヨズク。ずっと言えなかったがお前の事、しっかり愛していた。」


「………………」

何も言えない、何も考えられない。頭の中が真っ白だ。

止め処のない動悸に襲われたのちに、心の中から声が聞こえた。


《やっと出番かよ。よう、お前がヨヒトの倅か》


なんだ?今の声は。

聞いた事がある。そうだ、侍と会った時に聞いた声だ…


《ギャハハハハハ、人1人殺したくらいで狼狽えてんじゃねぇよ!今日からは俺様が相棒だ。いくぞ倅!!!》



だめだ、今は何も考えれない。力が出ない。

喪失感と消失感、それに罪悪感が加わり僕はこれ以上何する気にもなれなかった。

自然と目の前が暗くなり、ふらっと意識を手放した。

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