平熱

チタン

第1話

「ねぇ、そろそろ起きたら?」


 その声で目が覚める。

ハッと時計を見ようとしたけど、そうか、今日は土曜日だった。

 そんな様子を見て、君はまたソファの方へ戻っていった。

 

 君はなんだか素っ気ない。まあ毎日アツアツも疲れちゃうけど。

 いつからだろう、こうやって一緒にいるのが普通になったのは?


 むかしは映画や小説みたいな、燃えるような恋愛

に憧れたんだけど。いや、今だって少し憧れるんだけど。

 いつからだろう、夢みたいな望みを口に出さなくなったのは。


 なんとなくソファにいる君を見た。

 こちらに背中を向けて、きっと携帯ゲームか何かに夢中なんだろう。


 そんな君を見ていると、少しさっきの疑問が解けた気がした。

 そうだ、君といる「普通」が今は愛しいんだ。


 燃えるような恋じゃないけど、心がはやる微熱でもないけど。

 この「平熱」の温度が何より心地いいんだ。


 だから、きっともう燃えるような恋を望むことはないだろう。君といることが何より大切だから。

 

 どうしよう、もう少し寝ていようかな。でも、そろそろ君に怒られそうだ。

 今から顔を洗って着替えが済んだら、今日は君とどこかへ出かけようかな。

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平熱 チタン @buntaito

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