三章 新生活

 九月一日。

 かつては新学期の始まりだったこの日、奇しくも私たちの新生活も始まる。 

 部屋一杯の段ボールと共に。

「こんなに大変だったでしょ。ごめんね、我が儘言って」

 ともすれば、これは私が夏休みに残した宿題のようなものなのかもしれない。 

「いや、楽しそうな夏休みだったみたいで何よりだよ。後でゆっくり話聴かせてくれよ」

 誠治は文句の一つも言わない。本当に優しい人。

「まぁ、そのためにもコレを土日でどうにかしないとな」

 張り切るように、誠治は腕まくりをした。

 今日が土曜日で本当によかった。

 これを一人でどうにかするとか考えるだけで、絶望。

 そんな絶望的な準備を誠治にはさせたんだけど。

 ……なにかで、埋め合わしよう。

 

 新居は3LDKの社宅。

 家電や大きな家具は備え付けで、家賃も据え置きでかなり好条件。

 土日の丸二日をかけて、荷ほどきを終えたリビングは、それなりに生活できそうな雰囲気になった。

 寝室もまぁそれなり。

 私の部屋は……平日に頑張るしかなさそう。


 日曜日の夜。

「一応、なんとかなったな」

「お疲れ様」

「琴音も、お疲れ」

 リビングに誠治と向かい合って座り、缶ビールで乾杯をする。

 思えば、こうやって誠治とゆっくり過ごすのは久し振りだった。

 夏休みの思い出を話す。

 メールや電話だけでは伝えきれなかった、私の夏休みの話。

 スマホのフォルダを埋め尽くす程の私と母の写真。

 それを肴に誠治はビールを飲んで、時折相槌を打つ。

 一方の誠治は、引っ越し準備の苦労話とか、送別会の話をしてくれた。

 荷物の梱包が苦手とか、使う物を段ボールに入れちゃって、一回全部ひっくり返したとか。

 話すことは尽きなくて、気が付くと月曜日が直ぐそこに迫っていた。

 ふと、誠治が真面目な顔をする。

「付いてきてくれて、ありがとうな」 

 普段は、全くためらいなく感謝の言葉を言う彼が、少し照れたりするもんだから、私もなんだか恥ずかしくなる。

「こちらこそ、こんな私を選んでくれてありがとう」

 二人で照れ合って、笑い合う。

 まだ見慣れないこのリビングも、きっとそのうち慣れて、思い出になるのかもしれない。


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 新しい環境での生活の出だしはなかなか好調だった。

 社宅のご近所さんもいい人ばっかりで、ゴミ出しの仕方とか、安いスーバーの話とか、色々と教えて貰えるし、今のところはいい感じ。

 問題があるとすれば、これからの季節、雪が降ること。

「九州の方だったんでしょう? それなら、雪かき教えてあげないとね。力仕事だから、大変よ」

 とは、社宅で一番年長の藤井さん。

 お局様的役回りの女性で、なにかと面倒見がいい。あと恰幅もいい。

「そんなに細いと、これから色々と大変よ。たくさん食べないと」

 そう言っては、週に一回くらいのペースでランチに誘ってくれる。

 誠治の為にもこういう付き合いは大切にしないと。


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 平日の隙間を見付けて、自分の部屋を少しずつ形にしていく。

 実家で、物持ちがいい家系だと思ったけれど、それは私にも知らず知らず、受け継がれているようだった。

「どれを処分していいか、わからなかったから」

 誠治なりの気遣いで、前のアパートにあった私の荷物が全て入れられた段ボールは、それだけで、八箱にもなって、部屋を圧迫している。

 これで服と別って言うんだから、困る。

 荷解きと処分を同時にしながら、改めて自分の物持ちのよさに呆れた。

 誠治と同棲を始める時に、随分処分したような気がしていたけど、一緒に過ごした二年で増えたにしても多すぎる。

 中には、大学の教科書なんかも入ってた。

 二度と必要にはならないだろう、こんな物まで……呆れて、段ボールから取り出すと、本の隙間から一枚の紙が足下に落ちる。

 拾うと、それはメモ帳の切れ端だった。

『大川誠治』

 恐らく、私の文字で、それだけ書かれた紙。

 なんで、こんなメモを挟んだのか、全く思い出せない。

 まぁ、メモなんかしなくても誠治の名前を忘れる事はない今の私には不必要なものだった。


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 九月も半ばが近づく頃には新しい生活が板について、気温が落ち着いて来るのと一緒に八月の出来事が、まるで遠い夢か幻のように思えてくる。

 十年前がとても近くにあったあの夏が。

 ……もしかしたら、本当に夢だったのかもしれない。

 十年間逃げ続けた私を許すために、文ちゃんって亡霊を使った夢。

 そんなバカなことすら考えはじめたある日、実家から小包が届いた。

 開くと、ピンクの可愛い表紙が顔を出す。

 あの夏、確かに捨てたはずの日記帳がそこにあった。

 なんで?

 疑問が最初に浮かぶ。

 直ぐに母に電話をする。

 

『なんで、日記帳送ったの?』

『あら、大切な物でしょ』

『いらない物に入れてたよね?』

『間違って入れたんじゃなかったの? ゴミで出したら、親切な人が届けてくれたのよ』

『なに……それ』

『高校の頃の日記なんて、捨てるもんじゃないわよ。大切な思い出なんだから』

 

 明るく言う母の声に、まともに返事もできないまま、電話を切る。

 私の手に握られ、存在を主張する日記帳は、あの夏が夢ではなかったと教えていた。

 ピンクの可愛い表紙の日記帳。

 それがとても不吉なものに思えて、咄嗟に本棚の裏に隠した。

 まるで、見たくない物に蓋をするように。

 隠してから、なにを怖がっているのかと、少し馬鹿らしくなる。

 十年前のあの事件は、間違いなくトラウマだったとしても、あの日記に書いてあるのは、脳天気な高校生が楽しく夏を過ごした記録以外のなにものでもない。

 思い出したくないことは事実だけど、別に怖がる程の物じゃない。

 自分にそう言い聞かせて、日記帳を取り出し、適当なページを開く。

 

『六月十一日 雨

今日はイズイズがお休みだった。少し残念。

代わりにってわけでもないけど、放課後は文ちゃんと一緒に過ごした。

図書館なんて滅多に行かないけど、文ちゃんはよく行くみたい。

高瀬さんが図書委員で、貸し出しをしてた。

放課後の図書室は全然人が来なくって、そんなとこで本を読んだりしてるとちょーっとだけ頭が良くなった気分。

私たちと遊んでない時は文ちゃんがこういう放課後を送ってるんだと思って少し新鮮だった。』


 ほら、なんてことない。

 好きな人が休んで、仲のよかった友達と図書室に行った高校生の日常が書かれているだけ。

 思い返せば、確かにそんな日があったような気がする。

 気がするって言うか、日記に書いてあるんだから、確かにあったんだろうけど。

 外に雨が降る中、私と文ちゃんが並んで座って、本を読んでいる場面が浮かぶ。

 それに連なって、細かな部分が一気に思い出された。

 旧校舎にあった図書室は、経年劣化で黒茶色くなった板張りの床で、歩くと少し軋む。

 入り口に近い貸し出しカウンターの中では、高瀬さんが一人座っている。

 私たち以外に生徒はいない。

 暇なのか、高瀬さんも本を開いてそれを黙々と読んでいた。

「高瀬さんもこっちに来て読まない?」

 私が声をかける。

「……図書員だから」

 控えめな声で、高瀬さんは小さく首を振った。

「誰も来ないって」

 断る彼女の手を引いて、私は自分の隣に座らせた。

フラッシュバックのような記憶の奔流はそこで終わる。

 高瀬祥子。

 私が忘れていた、彼女の姿が、思い出の中にあった。

 彼女が、文ちゃんを……。

 頭を振って、暗くなりかけた気持ちを吹き飛ばす。

 やっぱり、あんまり読まない方がいいかもしれない。

 それでも、捨てる気にはなれなくて、本棚の裏へと隠した。


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「なぁ、琴音。今週末出掛けないか?」

 水曜日。

 誠治は帰ってくるなり言う。

「どこに?」

「ハイキングとかどうだ?」

「なんか久し振りって感じするね」

「だろ、こっちに来てから色々とバタバタだったけど、ようやく少し落ち着いて来たからさ」

「丁度三連休だし、いいね。久し振りに身体動かしたい気分」

「それじゃ、決まりだな」

 元々、私はインドア派で、誠治はアウトドア派。

 私たちの趣味は正反対と言ってもいいくらいだった。

 そんな中で、運動が苦手な私でも一緒に楽しめる趣味としてハイキングは私たちの定番デートの一つになった。


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 土曜日。

 いつの間にかできた私たちのルールの一つに、ハイキングに行く日は二人でお弁当を作ると言うものがある。

 いつもは冷凍食品で簡単に済ませるお弁当作りも、この日ばかりは一つ一つ手作りする。

「ここのキッチン、広くていいよな」

 卵焼きを綺麗に焼きながら誠治が言う。

「そうだね。前の所だと、二人で立つと狭かったから」

 誠治は料理が上手い。

 特に、今作ってる卵焼きなんて、どうやっても勝てる気がしないくらい。

「誠治の玉子焼きってどうやって作るの?」

「これは秘密だな」

「ケチ」

「だって、教えたら琴音が一人で作っちゃうだろ。俺は琴音と一緒に作りたいからさ」

 こんな感じで、話しながら、お弁当を作り終えて出発。


 誠治の運転で着いたそこは、山の中だった。

「あっ、ロープウェーだ」

 ゴンドラタイプのロープウェーが山の中を滑るように登っている。

 見慣れない乗り物に、テンションが上がっちゃう。

「あれに乗って上まで行くんだよ」

「へぇ、あんなに大きいの初めてかも」

 少し怖いけど。

「んじゃ行くか」


 軋む音が少し怖いゴンドラに揺られて山頂へ。

 ロープウェー乗り場の直ぐ近くには、売店を兼ねた休憩小屋があった。

 休日と言うこともあって、私たちの他にも沢山の観光客がいる。

 天気もいいし、ハイキング日和だ。

「久し振りだし、初心者コースの方に行くか」

 小屋の壁に貼られたルート案内の地図を見て、誠治が言う。

「そうだね」

 山頂はそれほど木々が茂っているわけではなく、背の低い草が生えている程度。

 道も砂利敷きで整備されていて、歩きやすかった。

 とは言っても、山頂だから空気が少し薄くって、勾配もそれなりにあるから、ただ歩くだけでも息が上がる。

「もう少しペース落とすか」

 私を気遣って、誠治は言葉の通りに歩みを緩めた。

「ごめんね」

「なにが?」

「物足りなくない?」

 運動が苦手な私と違って、誠治はスポーツマンだったから、一緒になにかをしようとすると、いつも私は足を引っ張る側になる。

「琴音と一緒に過ごすために来てるんだから、そんなの気にするなよ」

「ありがと」

「ってか、前もこんな話したよな」

 思い出したように誠治が言う。

「えーっと、最初のデートの時じゃない?」

「ああ、そうだったな」

 そう、付き合う前、初めてのデートもハイキングだった。

 いきなりアウトドアに誘われて、正直、彼とは合わないかもしれないと考えた事を覚えている。

「懐かしいな、あの時はまさか琴音と結婚する事になるとは思ってなかったよ」

「私も。タイプ合わないなぁって思ったもん」

 ゆっくりと歩くと、風景を楽しむ余裕も出てくる。

 足下に咲く、小さな紫色の花とか、山々の隙間から見える街の景色、隣を歩く誠治の顔。

「正直に言うとさ、あのデートに誘った時、次はないって思ってたんだ」

 その表情は、笑顔と困り顔の真ん中って感じだった。

「あっ、琴音が悪いとかじゃなくて、俺の問題なんだけどな」

 取り繕うように、誠治が手を振る。

「あの頃、ずっと落ち込んでた時期でさ、琴音を誘ったはいいけど本当にこんな事してていいのか、とか考えちゃってさ」

「誠治が?」

「俺だって悩むことくらいある。でも、一生懸命俺に着いてきてくれる琴音を見てたら、なんかいいのかも知れないって思えたんだよ」

「んーっと、よくわからない」

「俺もよくわからん」

「なにそれ」

「でも、誰かと一緒に歩くって、それだけでも、いいもんだと思ったんだ」

「ふーん」

 私と誠治は同じ大学の出身だった。

 記憶の中に薄らと、同じキャンパス内を歩く彼の姿を覚えている。身体の大きな彼は大学でも目立っていたから。

 でも、知り合ったのは、お互い社会人になってからだった。

 バーで偶然。

 出会いだけは、惰性のような私たちの結婚の中で唯一運命的な部分なのかもしれない。

「おっ、凄いぞ」

 不意に誠治が声を上げた。

 ずっと続いた上り坂の終わりが近い。

 身長が高い分、誠治が少しだけ早くその向こう側を見ることが出来る。

 ようやく登り切った、坂の終わり、その向こう、少し下った所に、湖が広がっていた。

 鏡のように澄んだ湖面に、青い空が映り込んで、空の上にいるような感覚になる。

「綺麗だね」

「ああ」

 言葉を失って、しばらく立ち止まる。

 この景色を誠治と見られて本当によかった。


 初心者用ハイキングコースはだいたい一時間半くらいで、休憩小屋に戻ってきた頃、丁度お昼時になっていた。

 休憩小屋は人で溢れてて、席を探すのも大変そう。

 

「あれ? 大川さんじゃないですか?」

 人混みの中で右往左往していると、ふと、近くから声がした。

 明らかに、こちらの方向に向かって掛けられた声に誠治が振り返る。

「あれ、関さん?」

 誠治の反応を待って、私も振り返った。

 後ろに居たのは、私より少し感じの若い女性。

 ハイキング用の格好をしているけど、なんとなくオシャレな雰囲気が全身から溢れている女性だった。

「こんな所で奇遇ですね」

 女性が、明るい声を上げる。

「関さんこそ、こういう所に来るイメージなかったけど」

「友達に誘われたんですよぉ、アウトドアとか苦手なんですけど」

「そっか、その友達は?」

「あっちの方で席取ってます」

「そっか、それじゃ、早く行ってあげた方がいい」

「あっ、もしかして、大川さんたちも今から食事ですか?」

 よく見ると、彼女の手には料理の乗ったトレーが握られていた。

「そうだけど」

「だったら、一緒に食べません?」

「いや、その友達に悪いよ。俺も妻と一緒に来てるから」

 そこで、彼女は初めて私に気付いたように視線をこちらへと向ける。

「あっ、奥さんなんですね。私、大川さんの同僚で関って言います」

 関と名乗った女性は、余所行きの笑顔をした。

「主人がいつもお世話になってます。妻の琴音です」

 その言葉を、まるで権利のように使う自分に少し驚く。

 正確にはまだ籍を入れてないから、妻じゃないんだけど。

「可愛い名前ですね。琴音さんも一緒に食べません?」

「えっ、と」

「ほら、今から席を探すのも大変ですし、少し広めに取ってますから二人くらい入りますよ」

 彼女は明るく、私と誠治を交互に見た。

「誠治がいいなら」

「それじゃ、お邪魔しようかな」

「やった。こっちです、着いてきて下さい」

 先導する彼女の後ろで、誠治が困ったような、申し訳なさそうな顔を向ける。

 別に、そんな申し訳なさそうにしなくていいのに。

 きっと、後から、ごめん、と言われるだろうと予想して、彼の優しさを改めて感じた。


「わぁ、お弁当凄いですね」

 彼女は、私が広げたお弁当を見て、少しだけわざとらしい歓声を上げる。

 関と名乗った彼女は、最初に抱いた印象よりは可愛げのある子だった。

 角席、端に誠治、その向かいに彼女の友達の女性。誠治の隣に私が座って、私の向かいに関さんが座っている。

「これ、琴音さんの手作りですか?」

「ううん。誠治と二人で。出掛けるときは二人で作るのが決まりなの」

「それ、すっごく素敵ですね」

 会話は関さんが中心となり、彼女の友達はそれを特に気にする様子も無く、適当に相槌を打っていた。

「職場での誠治ってどんな感じ?」

「すっごく、しっかりしてて頼りになりますよ」

「迷惑とか、かけてない?」

「むしろ、私が迷惑かけて、いっつもフォローして貰ってますよ」

 当たり障りのない会話をしばらくして、昼食が終わる。

「あっ、そうだ、琴音さん連絡先交換してくれませんか?」

 別れ際、彼女はそう言った。

「いい、けど」

「本当ですか! 私、あんまり友達居なくて、嬉しいです」

 友達の前で、そんなことを平然と言う彼女は、確かに友達が多いタイプではなさそう。

 私が言えた口ではないけれど。


 ロープウェーで駐車場に戻る頃には、歩いた分以上の疲れを感じていた。

「ごめんな」

 案の定なセリフを誠治が言う。

「全然いいよ」

 実際、殆ど気にしてはいなかった。

 出先で偶然会ってしまう同僚の気まずさとか、それを蔑ろにはできない微妙な面倒くささとか、私も経験がないわけじゃない。

 それに、

「あの子、結構いい子だったね」

 少なくとも、最初に感じた苦手なタイプという印象とは少し違った子だった。

「まぁ、良くも悪くも、明るい子ではあるな」

 歯切れ悪く誠治は言う。

「なにか、あったの?」

「いや、そういうわけじゃないけどな。……たぶん、俺の勘違いだ」

 バツが悪そうに、誠治は車に乗り込だ。

「そうやって誠治は直ぐ、はぐらかすんだから」

 誠治を追うように助手席に座って、彼を見る。

「安心しろ、本当になにかあったら、絶対琴音に言うから」

 その表情は少なくとも嘘を吐いているような感じではない。

「絶対だからね」

「ああ、絶対だ。琴音もなにかあったら直ぐに言えよ」

 誠治にそう言われて、何故か一瞬、本棚の裏に隠した日記帳の事が頭を過った。  

「うん」

「なんでも相談できる夫婦になろうな」

 車がゆっくり動き出す。

「そうだね」

 程よい疲れと、心地よい振動で、私の瞼が落ちるまで、そう時間は掛からなかった。

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