第29話 詐欺師と少女と、小説と。(おまけ)

 最後までお読みいただきありがとうございました。

 お題連作短編にトライするのは、これが二度目となります。前回は各話、もう少し断絶していました。ここまでつなげることが出来たのは、以前より視点の操作がうまくできたからではないか、と振り返っています。


 たとえ行き当たりばったりのように見えても、それが読解するに困難極まる前衛作品でない限り、どの物語も全て定形を周到した親戚筋、血のつながった兄弟みたいなものであるというのが、物語の限界なのではないか、そんな風に感じています。

 つまり作品にある個体差は、既存の定形にどんなアイテムを詰め込むかで生まれるもので、その組み合わせが差異であるなら、逆に何を詰め込んでも物語そのものを成り立たせることはできるはずではないかというところから、この試みを行いました。

 結論は読者の皆様に判断いただくとして、完結できた今、私自身はその事実を体感できたかな、と感じています。

 ということで実験の締めくくりとして、過程(手順)を残します。合わせてご一読いただければ、執筆の臨場感もまた味わっていただけるのではないかと感じています。


第一話【繋ぐ 橋 夜空】

冒頭、あまり具体的に決めてしまうと後が固定されてしまうので、選択肢をなるべく多く残しておくためにも避けたく思う。だからして主人公も対峙する読者の立ち位置も明示しない。視点もぼかす。お題自体「夜空に橋をかけて繋がる」という幻想的イメージが強いので、そこにだけ乗ることにする。


第二話【温泉 十五夜 対価】

さすがに二話目も登場人物不在はキツい。が、なるべく誰視点の物語かは、まだ出したくない。「温泉」「十五夜」はセットで扱えそうだが「対価」はどうするよ。とりあえず親子で出して主人公がどちらなのかはぼやかす。死んだ父親を出すことで、イザとなれば「死人の語り」への逃げ道も残しておく。


第三話【老人 ファッション 寝坊】

ぅおいっ。老人出てきた。先に出した二人は役に立たないぢゃねか。「老人」が「寝坊」でまとめて無難にかたしておいて、問題は前回とのつながりなら、親子のじっちゃんに据えておくか。で最後、ちらっと前回の女の子をかませて処理。


第四話【招き猫 くるみ 黄金】

ひ~、人間にかかわるものじゃないじゃんっ。四人出したのに。(うち、一名死亡)「黄金」の「招き猫」は実在するからそれを使う。「くるみ」はどうする。あの四人とどう絡める。直接つなげないので、また登場人物を増やしたうえで「くるみ」を扱える設定をねじ込む。でもって困った時の「夢オチ」炸裂だ。しかし一度しか使えない必殺技だから、たいてい最後にかますわけなのだけど、早くもここでカードを切っていいのかオイラ。自分の首を絞めてないか。悩む。でも、やっちゃう~。


第五話【レモン 里親 喫茶店】

ぐはっ。病院という場面を出してすぐさま「喫茶店」かよっ。まだ宇宙船とかじゃないから同じ大気圏内、マシと思おう。ということで前回とつながりを持たせるなら、二人のうちのどちらかを利用するほかなく、どうやら前回「幸せ」について考えることになってしまっていたので、ここでもその流れのままに「幸せ」について書くことにする。「夢オチ」は大事な便利アイテム。一話限りの使い捨てにはしない、という前回との関連性で。


第六話【コロンブスの卵 人形 実行犯】

よかった。このまま「幸せ」について、なんて流れが固定してしまったらドえらいことになる。それはそれ専用で書け。「実行犯」を利用して場面転換しよう。思わず「コロンブスの卵」の意味をググる。どこに犯人がいるのか、どのような犯罪が行われているのか。考えると同時に、勢いで出してきた登場人物の整理もス。というか現地点、誰が実在していて誰が動けて、誰と誰が今、同じ場所にいるのか分からなくなりつつあるという。最後の一行で、次のハナシの方向だけを示して終わる。これなら絶対何が来てもつなげられる自信はある。


第七話【パラシュート 真実 カラオケ】

犯罪者はあっさり逮捕させておかないと、サスペンス、クライムものは理屈勝負だからここには向かない。場面転換させてくれてありがとう、で犯罪者へは合掌。見送ったそのあと始末をする。「真実」だけがモノではなく概念なので、やっぱり厄介。「パラシュート」「カラオケ」の二大レジャーをくっつけ押し付けてみると、無理難題が浮かび「かぐや姫」を連想したので、それで行くことにス。ここで出てきた二人は妙に気に入ったので、どこで炸裂するか分からないけど踏んでくれることを願って「○の慕情」「加山〇三」を地雷と埋め込んでおく。


第八話【サーカス リクエスト ハロウィン】

犯罪者が登場してから病院を離れ、どこか知らない土地へ舞台は移ってしまった訳だが、前半の親子らとこのまま泣き別れてしまうとオハナシに一貫性がなくなるので、軌道修正必要。話数的にもボチボチそっちと絡めて行かないと「クルミ症候群」だって設定したのに浮いたままで不自然だし。で「おじょうちゃんたち」を動かすことにするが、もう絶対「おじょうちゃんたち」は具体的に書いてやらない。一話以降、積もりに積もって情報量も増えてきてるので、今後の展開の足を引っ張らぬよう、削げるところは徹底的に削いで自由を保っておく。


第九話【初恋 灯台 雨】

ということで犯罪パートと、親子パートを接合させる、それがこの回の目的。このお題三つは一つの絵の中に納まるので、女の子の年齢を登場当初から一気に引き上げることで処理。犯罪者と親子が出会ったことでミッション完了。ラクでよかった。あ、でも次はまだ考えていない。無駄だし。笑。


第十話【休日 ライター 本屋】

正直、おじょうちゃんたちがボスを探して警察へ突撃、はダメでしょ。彼女らは「指示(コマンド)」が欲しいだけで、物理肉体はどっちでもいいからそこまでしそうな気がしない。ということは彼女らを動かすことは、出来ない。ので、またまた登場人物追加を要ス。短いのに次々人が出てくるなぁ。毛色の違う奴を出してかぶらないよう……、で悪を食うさらなる悪、閃いた。この二人は先の二人よりも「本気」らしいことで書き分けする。


第十一話【色 着物 パラダイス】

この辺りから、結末までの流れが出来る。ただしお題の影響でどう歪むかは分からない。嘘つきには嘘つきを。博士を書いていて途中から頭の中に、俳優の吉田鋼太郎さんがちらつく。いや、そうちしまえ! で「パーラ、ダーイス」でお題を処理。やりそうだ……。うん、書いていて楽しい。そして地雷、踏みました。ここで炸裂ス。


第十二話【勤労 夫婦 約束の場所】

吉田鋼太郎さんをイメージしてしまったので、頭の中を劇画が流れる。マジメに書いてもすでにトンデル設定なので、ここは西部劇をぶっこもうと、吉田からドラマ「ドクターX」を引っ張り出す。だからうん、楽しいなぁ。「約束の場所」は、この展開にはあまりにナイスなワードで助かった。乱闘描写は好きだけど、文字数からして端折るに決定。さあ、ラストへ向けてガンバロウ。


第十三話【カメラ 隣 妄想】

そう! やっぱり主人公は冒頭に登場した誰かでないとね。そんな冒頭にどうミラクル着地させるかで、まとまり具合は試される。そのためにも、あれだけ間口広くぼやかして出だしを書いたわけだし。ここでも「妄想」だけが概念ワード。しかしこれが、忘れていたことを思い出させてくれた。不思議なもんだね。どうしてつながるんだろうね。


第十四話【音 カフェ 後悔】

全てを回収して、閉じる。そして始まりへ還る。このとき物語は物語として、ひと塊、になる。このテンプレは強いなぁ。わたしが考えたのではなくおそらく、テンプレとお題の化学反応が、ここまで運んでくれた。なので自分で素材(お題)をそろえて書いてゆく時と違い、思いにもよらない場面が飛び出してきて面白い。どうせその組み合わせ違いの亜種量産が能力の限界なら、組み合わせ方のマンネリ脱却にはちょうどよい。ということで、ダブル夢オチみたいになったけど、こんな具合に仕上がりました。マル。

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お題連作短編集(2013・2016) N.river @nriver2

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