第24話 詐欺師と少女と、小説と。(2016お題:休日・本屋・ライター)
「で、どうする」
病院の向かいにありがちな花屋と果物屋。その並びにひさしを連ねた本屋の店先で、青年誌なんぞをパラパラめくりながら問いかけた。なら森田も背後をうかがいながら、付き合うような素振りで手近なグラビア雑誌を取ってみせる。
「そう焦るな」
美人局のトラックを警察へタレ込んだのは、俺たちだ。そこを拠点に奴らが数体の女性型アンドロイドを駆使して、男たちから金を巻き上げていることは半年前から知る事実でもあった。
購入した商品に、閲覧サイト履歴。カードのランクに生活圏。趣味嗜好を詰め込んだ個人データがうなるほど転がっているのが今の世の中だ。それをいただき加工して、基本データとアンドロイドへインストールするなどと、そりゃあ狙った獲物は外さないだろうと思えてならない。
うまいことやるもんだ。
思わずにはおれなかった。果てに脅すにせよ貢がせるにせよ、事実、奴らは短い間でかなりの金をかき集めている。元手に、さらなる闇アンドロイドの追加に乗り出したところで話はコッチの耳にも入ってきたというわけだった。
そんな奴らから通報してまで奪い取りたかったのは手法よりも、アンドロイドたちの方だろう。システムを都合することは容易かったが、使い込まれたアンドロイドこそ唯一無二で、それはこの手法に欠かせない特別な道具でもあった。
だが奴らをブタ箱へ放り込んだとして、方々に散ったアンドロイドの居場所だけが分からない。そこでそのアルゴリズムを予想して出没場所を言い当ててみせたのが、今ここでグラビア雑誌を呑気とめくっている森田だった。張り込んでいた病院前へちょうどとアンドロイドたちが現れた時は、ひどく興奮したものである。焦るのも当然だった。
「だがまあ、早いところ回収してやらないと自律が過ぎると後が厄介なことには、なるな」
こぼして森田が、たいして見てもいない雑誌を閉じた。ならこちらも手にしていた物を棚へと押し戻す。
「力ずく、は無理だろう?」
言っている間にも、アンドロイドたちはどこかへ移動してしまいそうだ。気が気でならない。顔へ森田が「知っているか」と振り返っていた。
「さしずめ、蛇の道は蛇ってところだ」
微かに笑んだその口へ煙草を挟み込む。火を点けひとつ、ふかしてみせた。その向こうでアンドロイドたちは病院から出てきた女子高生となにやら話し込んでいる。
「おら、ぼさっとするな。休日気分は終わりだぜ」
向かって森田は足を繰り出していった。
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