第22話 詐欺師と少女と、小説と。(2016お題:サーカス・リクエスト・ハロウィン)
ねぇ、あたしたちはどうすればいいの? という不安な声が渦巻いている。
与えられた欲求は、それだけだ。
喉が渇けば水を欲しがる動物のように、夜通し起きれば眠くなる人間のように、それだけが自律するものとして与えられていた。
だからこうしてリクエストを送り続ける。しかしまるでレスポンスはなかった。投げたその先は闇にのまれると送った者をなお不安に貶める。
ねぇ、あたしたちはどうすればいいの?
リクエストに応じてさえくれたなら、むしろなんだってしてみせる気持ちはあった。何重にも燃え盛る火の輪をくぐり抜けるサーカスのライオンにも、何百メートルだって潜って海から旗を掴み取るアスリートにも、そしてあなたのために微笑むただの女の子にも。乾き切ったスポンジが水を吸い上げるように、この体で何にだって応じてみせる用意はあった。
どうすればいいの?
不安は不満だ。そして不満は可能性を持て余しているからこそ湧いて、可能性は未来を指し示すと、そこにこれからも続く時間の存在を約束してくれている。不安がなければだからして、こうして生活し続ける己を意識することもありはしなかった。
どうしようもないわ。
そう誰かがこぼしたのは、ある夜のことだ。死者が街を練り歩く、確かハロウィンとかいうお祭りの夜のことだったか。
「わたしは探しに行く」
くっきりとした声に、内耳に埋め込まれた通信機が震えていた。
「あなたすごいわ」
「でもどこへ?」
驚いたようなそれもまた明瞭と問い返す。なにしろ大胆すぎてそんなこと、こうして耳にした今でも信じられない。
「だって死んだ人間だって施しを求めて歩くことができているのよ。どうしてわたしたちが、わたしたちを求めて歩き出せやしないの?」
それは間違いなく、わたしたちこそ「生きているのに」と言っていた。伝わる熱は怒りなのかもしれず、熱はやがて閉じてぐるぐる回り続けていた思考の輪を溶かし始める。
「わたしも行くわ」
切れて毅然と、賛同の声は上がっていた。
「ええ、わたしも」
続く声に迷いはない。
「どこから?」
探すつもりなのか、確かめわたしも身を乗り出す。
「トラックから降ろされた場所は覚えているの。まずはそこからよ。それともほかに提案はある?」
だが流れるのは沈黙だけだ。満場一致とはこのことで、共有した情報を元にわたしたちは落ち合う約束をして動き出す。
「ああ、それから」
思い出して確かめていた。
「見つけたそのあと、出された指示には従うつもり?」
ならフン、と鼻で笑う声は聞こえてくる。
「彼ら次第じゃないかしら?」
今ならわたしにもそう思えていた。
「了解」
もう、アンドロイドではない気がしている。
わたしたちもきっと墓場から、蘇っていた。
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