第14話 DNCE FIGHT(描写練習3)

テーマ 「走る」

最初から最後まで語り手を走らせてください。乗り物の利用は可です。

スピード感のある描写を練習します。





 甲高い炸裂音。

 来た。

 振り返ったそこ。

 四角四面の急行列車が同じ体積、大気を押しのけ、警笛、鳴らしホームへ迫る。だからといって、電車の箱乗りなんてものは聞いたこともない。すでに窓から半身を乗り出し、薄ら黒い奴らは見えていた。

「おら、いくぞッ!」

 駅の改札をくぐった時すでに、彼が先頭を切っていたのだから彼が僕らのリーダーだ。声は周囲をはばからぬほどと上がり、ぼくに、彼女に、眼鏡学生に、警官の足はそのときホームを強く蹴りつける。利用客らの間を縫う、線路めがけた前傾姿勢に待ったもクソもない。だからしてもらさず握る量販店の袋から、各自、鉛の塊さえ掴み出す。

 レールを軋ませ、巨体、連ねた列車はそこだ。

 乗り込む順など関係ない。横入りさながら列の頭へ飛び出した。僕らは腕を振り上げる。

 列車が眼前を塞ぐ直前。

 何事か、と周囲が凝視するそのただなか線路めがけ、鉄塊すべてを叩きつけた。

 爆発。

 だが酸素は消費しない。

 こいつはたんまり、時間を食う。

 悪いな。

 彼の口が動いた瞬間、わずかに上がった煙の後から、列車の轟音かき消し、高周波はピーィンと串刺した。映画ならここはひとつマシンガンショットで、僕ら被写体を360度、撮影だ。手間をかけても損はない。とたん景色のすべてが食われた時間に超低速、止まったように動きを変えた。いやむしろぼくらが超高速だ。味方につけてここでも彼が先頭を切る。今にも止まりそうな列車へ身軽と、飛び移った。遅れるなんて恥さらしは、あとのことがいただけない。僕らもたがわず食らいつく。そこから先、屋根へ上がる動きは誰もが獣のごとくしなやかで、追いかけ奴らも箱乗る窓から、蛇さながらに車体を舐めると這い上がった。

 一両の端と端。

 ぼくらはついに向かい合う。

 囁き声。

 違う。

 空から楽曲が流れていた。破裂した鉄塊に仕込まれていた火薬が、調合通り時と反応し始めた証拠だ。

「やだ、レディー・ガガ」

 彼女が眉を跳ね上げる。

「ビューティフル、ダーティ、リッチのイントロですね」

 ぼくは言い、

「2分、53秒だ」

 警官が告げた。

「ウルトラマン並みに短いっすねー」

 眼鏡学生が笑う。

 その通り。曲の終わりはつまり、反応の終了だ。時は元通りの速度へ戻る。

「やっぱりあんたらも、止まらねぇクチか」

 世界は緩く、彼は奴らへ言い放ち、奴らは卑屈と笑って返した。


We got a red light,pornographic,

the dance Fight,systematic,honey

but we go no money


 レディー・ガガが歌い出す。

 裏で高周波は鳴りやまず、ならそれは息を合わせたほどにもぴったりだ。

 互いは互いの体を目指す。

 車両の屋根から駆け出せば、フラッシュ・モブ。

 これからが僕らの本番、ってもんだ。

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