第9話 花火(2013お題:花火)
屈める体。
背後のみぞおちをヒジでえぐる。そうしてくの字と曲がった体より先、地面へ伏せたなら、軽く地に沿わせた爪先で半回転。まごつく足を払ってやった。
これで二人目か。
だというのに性懲りもなく、まだいるらしい。立ち上がった瞬間、背を押されてつんのめる。踏み止まれば両脇を、くぐった腕に羽交い絞めされていた。だいたい抱きつかれて嬉しいのは美人と相場が決まっているもんだ。それがヒゲ面とくれば愛想すら振る気になれない。狙いすまして四人目も、前から果敢に飛び込んで来ている。
見据えて一つ、息を吸った。
地面を蹴りつけ、背後の野郎へ支えてやがれと体を預ける。
手が出せないなら飛び来る野郎へは足で十分だ。
蹴りつけたその顔面を足場に変えてさらに跳ね上がり、背後の輩を押し倒す。なら仰向けとなった何某の剥き出す腹は踏んでくれといわんばかりで有難く、お望み通りだ、釣りは結構とそこへかかとをねじこんだ。
まったくロクなことになりはしない。マストロヤンニのジャケットも、おろしたばかりが台無しだ。襟を正し、袖口をそろえなおすついでに息も整える。
声はそのとき、暗がりの向こうから聞こえていた。
「……やあ、久しぶり」
出番を見計らうなど、思い及べば目を凝らすより先、笑いしか出てこない。
「ああ、確かに久しぶりだな、緑のダンナ」
闇から一歩、そうして重たげな安全靴は姿を現す。連なり、たいそうな制服もまた見慣れた顔を乗せ、せり出してきた。
「まったく、メシの種にこんなとこまで遠征するとはね。やっぱり空飛ぶオサカナちゃんだよ」
馴れ馴れしいのは、そういう手だ。
「言うあんたこそ、ここぞで邪魔するのが典型的な、心底いけ好かない野郎だぜ」
会話に間はなく、
「お互い、お宝目当てなんだからしょうがないでしょ」
返してその身を、開いた両足の分だけ低く構えた。瞬間、呼吸が合うのは、それもこれも長い付き合いのせいだからか。過ってよせや、と心の中で吐き捨てる。代わりにこちらも応えてジャケットの裾を叩いて払った。
「なら、みあう分、派手にやるしかないようだな」
睨んだ先、ほくそ笑む顔はもう闘志と遊戯を混ぜ合わせている。
「そう、オサカナちゃんと僕とでドカンと一発、デカイ花火を、ね」
ブチ込むために握った拳は、力むあまりに血の気が失せていまや白い。
まったくお互い懲りない者同士だ。
笑い、無言で床を蹴る。
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