第三章

第21話 兄妹(1)

 電話が終えた八尋が部屋に戻ると、夜空は障子戸を開けて窓ガラス越しに外を眺めていた。

 八尋に気づき振り向いた彼女が「お帰りなさい」と口にする。

「ただいま」と返すと、夜空が少しぼんやりとした様子を見せたので、「どうした」と訊ねる。

「何ですか」

 なぜか夜空に質問で返された。

「何ですか、って……ええと」

 昨日からよく見ている、感情が窺えない表情の夜空がいるだけだ。さっき感じたのは気のせいかもしれないと思い直し「ちょっと出かけてくるよ」と話を変えることにした。

「そうですか」と夜空が返す。興味があるのかないのかよくわからない反応だが、八尋は構わず事情を説明する。

「昨日保護した子供たちがいるんだけど、様子を見に行きたくてね。それと、その制服、昨日のままだろう。何か着替えを買ってくるよ。この屋敷は好きに使ってくれていいと狼が言っていたから、お言葉に甘えよう。好きに過ごしていてくれ。夕方までには戻るから。何か必要なものがあれば用意するけど、何かあるかな」

「……本をお願いできますか。物語ならなんでも構いません」

「それなら、狼から借りられないか聞いてみるよ」

「ありがとうございます」

 八尋はちょっと考えてから、「あいつも本が好きなんだ。今度、話してみると面白いかもしれない」と口にした。自分以外の人間とも交流したほうがいいと思ったのだ。

 夜空は目を伏せたまま「考えてみます」と言うだけだった。

 気分を害したのかどうかもわからない。失敗だったか。いやでも試行錯誤しなければ始まらないだろう。だが、いや、でも。

 八尋は一人悶々と考えながら、母屋を後にする。

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