第16話 理想と現実
現在、交通系ICカード決済の普及は鉄道だけでなくバスにも急速に進んでいる。その中でも大都市の主要バス会社はほぼ全て完了したと言っても良いのではないだろうか。
しかし、島根県はまだ依然としてプリペイド式のバスカードの支払い方法が一般的で、都市部の人が仕事や観光などで島根に来た時に、ICカードに対応していない旨を申し上げるとなんとも言えない顔で残念がられる。いずれは対応しなければならない日がやって来るとは思うのだが、それはもう少し先の話だろう。
そんな中――松江市は高齢者サービスの一環として、七十歳以上で高齢者証に貼り付けてある〝割引シール〟をバスカード使用前に提示していただくと、運賃を百円割引くサービスを実施していた。
「なんで割引シール見せてるのに割引きしてくれんの」
運賃箱の前で一人の高齢女性が今日子に文句を言っていた。
「と……言われましても……」
何度説明してもわかってもらえない乗客に今日子もほとほと困り果てていた。
「いい? お婆ちゃん。割引きはバスカード使ってもらわないと出来ないって何度も言ってるでしょ? カード使って割り引いた人数を機械に記録させて、きちんとしたデータを〝市〟に提出しないとうちらも補助金貰え無いんだわ」
本日の側乗指導員の福田が見かねて助け船を出す。だが老婆は引き下がらなかった。
「カードだろうが現金だろうがお金払うことには変わらん。オラはたまにしかバスに乗らんのにカードなんかいらん。カードの人だけ割引きなんて、こりゃ差別だわ」
福田は制帽を脱ぎ薄くなった頭にかいた汗をハンカチで拭う。
「いや、差別じゃないからね? そういう決まりなの。現金のお客さんまで割引きしてたらその日何人割引きしたのか、最後自分らわけわからなくなるでしょ?」
「あんたが帳面かなんかにつけとけばいい」
全く話にならない。
「勘弁してよぉ」
普通にしていても微笑んでいるように見える福田は運転士仲間から通称〝布袋さん〟と呼ばれていた。その布袋さんが泣いているように今日子には見えた。
「早くしろよ!」
後ろの方でサラリーマンの怒鳴り声が聞こえた。無理も無い。この停留所に停車してから既に三分が経つ。大勢の乗客で三分ならいざ知らず、一人のルールを理解してもらえない乗客に〝三分〟だ。
「とにかく! 現金でのお支払いには割引きは出来ませんから」
ついに少し強い口調で福田は言った。後ろからの怒鳴り声もあり、老婆はようやく観念したようだった。
「オラ百円が惜しくて言ったんじゃない。あんたらのその決まりがおかしいって言うとるんじゃ。まぁもうえーわい。後で苦情入れさせてもらうわ」
老婆は運賃箱に足りていなかった百円を投げ入れ、捨て台詞を吐いて降りて行った。車内になんとも言えない空気が流れる。
「お待たせして大変申し訳ありません。直ちに発車します。高梨さん、早く」
福田は待たされていた乗客に頭を下げ、今日子に発車を促した。そして今日子より低い小柄な体を隠すように屈み何やら電話をかけていた。きっと先ほどのことを会社に報告しているのだろう。
今日子は誰にも気づかれないように深くため息をつき、再びバスを発車させた。
今日子が側乗教育に入って十日が経とうとしていた。〝宍道玉湯線〟から松江営業所に到着したというのに、今日子はしばらく運転席から立てないでいた。
「だいぶ嫌になってきてるんじゃありませんか?」
福田が少し悲しそうな笑みを浮かべながら聞いてきた。
「いえ……そんなことは」
そうは言ってみたものの、この十日間で今日子の精神は随分すり減っていたのは事実だった。
まず〝時刻〟という縛りが出てきたことで、運転に焦りが生じるようになった。遅れが出るのはバスという乗り物の特性上仕方がないことなのだが、生真面目な今日子の性格上、運行表の時間通りに行けないことはかなりのストレスとなった。
加えて一般車両からの〝進行の妨げ〟が輪をかけて負担となっていたのである。例えば直線を走行中、脇の路地から乗用車が顔を出す。本来一般車同士であれば間違いなく出てこないようなタイミングでも、バス相手だと平気で飛び出してくるドライバーの何と多かったことか。
「危な――!」
急ブレーキが踏みたいのに乗客がいることで出来ない。そんな場面がもう何度あったろう。指導運転士からは『一般車両は飛び出してくるものと思っておいた方が良い』と口を揃えて言われたが、ゆっくり走ればそれだけ運行に遅れが生じる。
或いは停留所で乗降扱いをし、右ウインカーを出して発進の合図をする。本来後続の車両はこの時点でバスの発進を妨げてはならないことが〝道路交通法〟で定められている。なのに進路を譲ってくれる車両は稀だった。酷いとウインカーを出してバスが半分くらい本線に進入しているにもかかわらず、強引に外側から被せてきて行かせてくれないドライバーもいる。
教育中は良かった。別に譲ってもらわなくても車列が途切れるのを待っていれば良かったのだから。だが今は運行表通りに走らなければならず、悠長なことを言っていられない。
焦りが余裕やゆとりを削り取っていく。運転操作は荒くなるし確認すべきことが疎かになる。この状況を受け入れて尚、安全且つスムーズに運行するスキルは今の今日子には無かった。
それに加えて先ほどのような乗客である。出来ることなら要望を叶えてあげたいとは思うのだが、決まりは決まりである。きちんと説明すれば納得してくれるお客様がほとんどなのだが、たまにこうした事態に発展してしまうことがあるのだ。その度に時間が失われていく。結局先ほどの便も十三分も遅れが出てしまった。
「大型二種という最高ランクの運転免許を所持していながら、いざ路上に出てみると一番肩身の狭い想いをしている」
福田が不意にそんなことを言った。顔はうっすら笑っているのだが、その奥に苦悩の色が透けて見える。
「明らかに相手のドライバーが悪いのに、クラクションを鳴らそうものならすぐさま苦情の電話です。
時間に押されてるのにバス停から出られないから、少々強引に鼻先を突っ込んだら『バスが急に飛び出してきた』と言われます。
先ほどのお客さんもおそらく『乗務員に急に怒られた』とか言うかも知れません。
因果な商売です……本当にやりきれなくなる時があります」
今まさに今日子が苦悩していたことを福田は代弁してくれていた。こんなことベテランの福田からしてみれば日常茶飯事のことなのだろうに、こうして言ってくれるということは自分に気を使ってくれてるのだろうと今日子は感じた。
「すみません……」
それしか言えなかった。
「誰からも愛されるスーパー運転士になる……そう思っていたのに?」
福田が意地悪い質問をしてきた。〝スーパー〟とまではいかないけど、遠からず当たっている……少なくとも目標としてきた父は、そんな運転士だったはずだ。
初日に長谷川のバスに側乗した時の違和感──乗客は誰も自分達など見ていなかったし、長谷川も客を〝見て〟いなかったように感じた。そしてその違和感は日を追うごとに気のせいではなかったと思い知らされる。
運転が慣れるにつれ、色々と周りが見えてくるようになった。今日までお世話になった先輩運転士達みんなに言えることは、話すととても感じの良い人ばかりなのに、いざ乗務が始まると顔を隠すようにマスクをし、機械的で感情のこもってない声でアナウンスしていた。
運転は誰も今日子など足元にも及ばないくらい上手いのに、接客となると……そう、まるで心を閉ざしてるかのように見えた。そして誰もが疲れた顔をしていた。だからといって、大先輩らに『なんでそんなに愛想悪くしてるんですか?』とも言えず、今日子の胸の中で大きなしこりとなって残っていったのである。
乗客の方は乗客の方で、こちらの挨拶に対してリアクションを返してくれる人は全体の三割くらいしかおらず、ほとんどがこちらを見もせずに黙って降りて行った。乗務員などいないかのように。
「多分誰もが最初は高梨さんのような気持ちで、前だけを見てスタートを切ったと思うんです。だけど日々を積み重ねるにつれ、自分がスーパーマンではないこと。良いお客さんばかりではないこと……そして誰も運転士のことなど気にもしていないことに気づくんです。私達の名前を覚えてもらえる時──それは苦情を入れられる時だけです」
気づき始めてはいたけど、知りたくなかったこと……聞きたくなかったことを福田は言った。今日子の今まで思い描いていた理想が、崩れて行く音が聞こえたような気がした。
夜の宍道湖。昼間の抜けるような〝青〟と違ってどこまでも漆黒の闇に包まれている。手前の方は温泉街の灯りが湖面に映り込みとても幻想的だったが、遥か向こうは空と水面の境界線すら見えず飲み込まれそうなほどの〝黒〟だった。
今日は早朝からの訓練だったので、わりと早い時間に終わることが出来た。と言っても日はとっくの前に沈んでしまっている。拘束時間が長いことに変わりはなかった。
福田に言われた言葉が忘れられなかった。まっすぐ家に帰る気にもなれず、今日子はただぼんやりと湖面を眺めていた。
「……お父さんの見せたかった景色ってこれ? バスマンて何……?」
島崎に話を聞いてもらおうと探してみたが見つからなかった。側乗訓練が始まって以降、すれ違うことはあってもまともに顔を合わせることがなく、もしかしたらわざと突き放されてるのではないかと薄々感じてはいた。
後ろで人の気配がして我に帰る――
「あれ~お姉さんこんなとこで一人で何やってんですかー?」
三人組の男……
「俺ら今からカラオケ行くんだけど一緒に行かね?」
今日子の一番嫌いなタイプの人種だった。自らは一切努力をしようとしないくせに、不平不満と幼稚な自尊心で〝楽〟を貪る人達……
「結構です……」
今日子は立ち上がり足早に立ち去ろうとした――が、腕を掴まれる。
「カラオケが嫌ならみんなでホテルでもいいんだけどなぁ」
吐き気がした――
「痛い! 放して」
まずい。本当に……どうする。声をあげても周りに人なんか――
「あーはい! 女性が男三人に絡まれてて……美術館の裏です……え? すぐに来れますか? お願いします! 三人の特徴ですか? はい、しっかり見てますので――」
後ろで電話で話す人影があった。どうやら警察へ通報してくれたらしい。警察署は歩いて五分の場所にある。助かった……
「……チッ」
リーダー格と思われる男が掴んでいた腕を離し闇へと消えて行った。残りの二人もそれに続く。辺りは再び静寂に包まれた。
「いや~……一か八か通報したふりだったんですが、引っかかってくれて良かった。お怪我は――」
暗闇から近づいてくる人影。街頭に照らされるとそこには見覚えのある顔が現れた。
「……す、須賀さん?」
「……高梨……さん?」
〝須賀大樹〟今日子が教習所に通っていた時の同期で四十になったばかりの男だった。松江の隣、境港市に住んでいるのだが、地元の方では大型二種を取り扱ってる教習所が無くこちらの方まで通って来ていた。
須賀は長らく勤めていた会社を人間関係のもつれから退職し、それを機に一度は諦めていたバスの運転士という仕事を目指そうと決意していた。
今日子と歳は随分離れてはいたが、同じ志を持つ者同士で話が合い、休憩時間などは良くこれからについて夢を語り合ったものだった。
結局、今日子が先に入所したのに後から入ってきた須賀が先に卒業してしまうという大失態をしでかしてしまい、教官や他の教習生に苦笑いされてしまうという恥ずかしい記憶も、ついこの間のことなのである。
タイミングは合わなかったが、バスの運転士をしていればいつかまた必ず会うことが出来るから……と、敢えて連絡先は交換せずに再会を誓い合った。それから全く会うことは無かったのだが、まさか松江で再会出来るとは本当に驚きだった。
「まずはお礼を言わせてください。ありがとうございました」
また連中が来るとも限らない。二人は少し場所を変えて話をしていた。
「いやいや、何はともあれ無事で良かった。まさか高梨さんだったとは……本当に驚きです」
背が高くガッチリしており、いざ喧嘩になれば負けなさそうなくらい威圧感のある体つきをしているのだが、本人はあまりそれを良しとしておらず、寧ろもっと華奢になりたいといつも言っていた。
見た目に似合わず礼儀正しく腰が低いのでそのギャップがまた感じが良く、今日子もまるで歳の離れた兄かのように、親しみを込めて接することが出来る人物であった。
「けど、どうして松江に? 境港におられるんですよね?」
率直に今日子は疑問をぶつける。須賀は少しいたずらっぽく笑って言った。
「調査ですよ、調査。今日はオフなのでライバルの宍道湖交通の運転士のレベルを確認しに」
「! ということはやっぱりバス乗っておられるんですね?」
今日子は嬉しくなった。同じ目標を抱いた者がぶれずにいてくれたことが。
「はい。ついこの間見習い期間が終わりまして、やっと一人立ち出来たんです。担当車も付けてもらえたんですよ」
須賀は本当に嬉しそうに言った。その笑顔を見て毎日が充実しているのが今日子にも伝わってきた。
「すごい! すごい! すごい! 須賀さんの夢が叶ったんですね……良かった。良かった本当に」
今日子は須賀の両手を取りぶんぶん振り回して喜んだ。そして涙ぐむ。
「ちょ……高梨さん。オーバーですよ。はは……けど、ありがとうございます。バスの運転士になって喜んでくれるのなんて高梨さんだけですよ」
少し寂しそうに須賀は言った。須賀の周りでも運転士の評判はブラックなのだろう。
「そ、それより高梨さんは? 服装から察するに宍道湖交通に入社出来たように見えるんですが……順調ですか?」
今ここで、須賀に自分の自慢話が出来たらどんなに素晴らしいだろうと今日子は思っていた。だが、理想と現実は違う。今日子は俯き、ポツリポツリと現在の自分の状況を須賀に話した。
「そうですか……わかりますよ。こっちも似たようなものです。やっぱりバスの後ろなんか走りたく無いんでしょうね。物凄く危ないタイミングで割込まれたりします。けど怒れませんしね……苦情も毎日のように入ってきます。けどその内容のほとんどが私達に非の無いようなものばかりなんです」
須賀は今日子の話を聞き、腕組みして頷いていた。
「先輩達も、なんだか諦めてるというか壁を作っているというか……お客さんはお客さんで、私達を動く自動改札機くらいにしか思って無さそうというか……須賀さんはこんなことで悩んだりしなかったんですか?」
今日子の問いかけに須賀はしばし黙りこんだ。
「……私が前の会社を辞めた理由。詳しく話したことがありましたっけ?」
今日子は首を振った。
「いえ、人間関係が悪くてくらいしか……」
公園のベンチ。須賀は頷き前を向いて話し出した。
「私のいた会社は廃棄物を運搬する小さな小さな会社でした。その会社に入る前になかなか仕事が見つからず、困っていたところを社長に拾ってもらったのが始まりでした。
一生懸命働きました。小さい会社でしたが、やがて認められいつの頃からか責任者を任せられるようになったんです」
「凄いじゃないですか」
今日子の率直な感想に須賀は苦笑いして首を振った。
「中小企業の中間管理職なんて雑用係みたいなものです。少ない役職手当てと引き替えにそれ以上の仕事を任せられます。
一番きつかったのは嫌われ役になることでした」
「嫌われ役……?」
まだ社会経験が片手間のスーパーのパートしかやったことが無い今日子には、いまいちピンとこなかった。
「組織というのはね。嫌われ役が一人いるとまとまりやすいんです。みんながその人を嫌うようになると……それ以外の人達が団結し、協力しやすい雰囲気が自然と出来上がるものなんですよ」
「嫌われたその人はどうなるんですか?」
一番気になるところだったが、須賀は答えずに続きを話した。
「本当にだらけた会社だったんです。トラックに乗るのに始業前点検はおろか洗車も満足に出来ない──いや、しようとしない会社だった。そんな時間があれば携帯でゲームしてた方がずっとマシって空気の会社だったんです。
その締めつけ役に私が暗に任命されました。時間が余ってるならちゃんと仕事しましょう! ってことあるごとに言いました。そしたら……どうなったと思います?」
今日子は握った拳を顎に当て考えてみた。
「──反発ですか」
「そうですね。『役職になったからって急に偉そうにするな』『洗車したらその分給料が上がるのか』『自分だって役が付く前は甘い汁吸ってきただろう』って……会議やミーティングで当たり前のことを言えば、口の立つ奴が屁理屈ばかり並べて一向に進まなかったりね」
須賀は思い出したみたいで少し苦しそうだった。
「責任者としての業務をありとあらゆる場面で妨害されました。とにかく私が提案したことは反対。指示をすれば舌打ちをされ……無視され、陰口を言われ……私だけ知らされずにみんなで飲み会をされたり──
頼みの綱の上層部も現場の前では良い顔ばかりするものだから、その疎外感と言ったらもう」
「ひどい……」
今日子はパート時代を思い出す──所謂〝お局〟と呼ばれるベテランパート社員に店長がやけにぺこぺこしていた場面を。
「結局精神が持ちませんでした。心療内科に通うようになっても治らなくて退職……それから一年間社会復帰出来なかった」
須賀の手が少し震えていた。
「はは……まだ完全じゃないみたいです。当たり前のこと、正しいことを言ってるのに足を引っ張られる……潰される。出る杭は打たれる……これはどこの会社に行ってもあることです。
たまたま私が嫌われ役を継続出来るほどのメンタルが無かっただけの話かも知れません」
「そんなこと!」
須賀は再び首を振る。
「だけど……だけどです。バスの中だけは違います。あの中だけは、自分が正しいと思ったことが出来る。同僚に足を引っ張られるなんてやりきれないことも起こりません。お客さんに何言われたって、それは仕事なんです。割り切れます」
「あ……」
須賀は見つけたのだ――
『何ですかそのバスマンて?』
『私も良くわからないんですけどね。バスを通じて自分の信じる道を貫くとか、運転士としての誇りを忘れないとか……そんなことじゃないかなって……もう、父はいませんから本当のところどんな意味だったのか知りようも無いんですけど』
『……じゃあ私は、私のバスマンを見つけます』
「見つけたんですね。羨ましい……」
今日子は呟いた。
「私もそりゃ現実とのギャップに悩みました。けど、けどね? 自分の信じた正しいことが出来るなら少々のこと苦にも思いません。あの地獄に比べたらなんてことありません。
お客さんが何も期待していないなら、無関心なら……いつか振り向かせてやります」
「!」
今日子は顔を上げ須賀を見た。笑っていた……手の震えも止まっていた。
「すみません。私と高梨さんでは置かれた状況も辿ってきた道のりも違うから……アドバイスらしいことが言えなくて」
今日子はベンチから立ち上がった。
「いえ、まだ全然トンネルの出口は見えないですけど、もう少し足掻いてみようと思います。
須賀さんはどん底を味わったから見つけることが出来たんですね……凄いです。本当に」
今日子は須賀に背を向けたまま言った。
「高梨さんもきっと見つかりますよ。どうか諦めて心を閉ざした運転士にだけはならないでくださいね? 同志がそれでは、あまりにも悲しいですから」
夜空を見上げる。星でも見えれば良かったのだろうが空は暗いままだった。でも須賀に会えたことに感謝しよう。一人だったらもっと闇に取りつかれていたかも知れない。少なくとも明日からまたバスに乗る元気は貰えたのだから。
「いつか私も須賀さんに自慢話したいです……自分のバスマンを」
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