第6話 ステップアップ
次の日。教習車の始業前点検をしながら今日子は島崎の到着を待っていた。
島崎は教育の前か後に必ず一本実車を運行することになっていた。今日は早朝便を走ってから今日子と合流する日だった。教官だからと言って教育だけやっていれば良いというわけにもいかない。宍道湖交通に人的余裕は無いのだ。
今日子はバスの後ろに回ってエンジンルームの点検をする。バスはリヤエンジンなので車体後部にエンジンが搭載されている。トラックと違いキャビンを上げて体を乗り出し、覗き込むようなことも必要無いので、衣服も汚れにくくその点では楽と言えた。
エンジンルームの扉を開けると、巨大なエンジンとそれを取り囲む網の目のように張り巡らされたパイプ類。大きなファンやベルト、冷却水のタンクなどが所狭しと詰まっていた。
「えーと……オイルは……良しと。ベルトは……」
「お疲れ様。高梨今日子さん」
声のする方へ顔を向けるとそこには事務服姿の女性が立っていた。確かこの人は……
「あ、おはようございます! 若月課長」
今日子は若月に挨拶し頭を下げた。
「あら、初日に軽く挨拶を交わした程度なのに覚えていてくれたなんて光栄ね」
確か幸枝と同年代くらいだとチラッと聞いたのだが、後ろで束ねた艶のあるロングの黒髪といい、多少肉付きは良くなったとはいえスタイルも良い。自分磨きを怠っていなかったのだろう。実際の年齢よりはるかに若く見えるし綺麗な人だった。
若月は縁なしの眼鏡を片手で位置を直す仕草をしながら今日子の足元から上に向けて視線を這わせた。
「その素直系熱血キラキラキャラで社内のオヤジ共のハートをガッチリ掴んでるらしいじゃないの……本当、油断ならない娘」
「? ? ?」
とりあえず今日子は笑顔で固まるしかなかった。
「フ……冗談よ。今日はね、総務として貴女に連絡事項があってそれを伝えに来ただけ」
「……な、なんでしょう?」
とりあえず刺激すると面倒なことになりそうだったので、今日子は笑顔を崩さず尋ねてみた。
「喜びなさい高梨今日子さん! かねてより懸案だった女子更衣室が増設され、貴女専用の個人ロッカーが出来たのよっ」
若月は片方の手を腰に当て、今日子を指差しながら微妙なポーズで言った。
「本当ですか? あ、ありがとうございます。便利が悪くて本当に困ってたんです」
今日子は本当に嬉しかったらしく、満面の笑顔で若月に深々と頭を下げた。
「勘違いしてはダメよ? 今まで不遇の扱いを受けてきた女性運転士や、狭い更衣室を押し合いへし合い使ってきた私の部下達みんなのためにしたことだから……貴女のためだけでは無いわ」
実は今日子のロッカーは運行課所属ということで、例のプレハブ小屋の休憩室の一角にあった。しかしこれがまたいったいどこで拾って来たのかと言わんばかりの代物で、周りは男ばかりだったし今日子も使うに使えない状況であった。
それを見かねた島崎が総務になんとかならないかと相談し、それを受けた若月が永嶋とかけあい、旧女子更衣室の隣にある物置として使っていた小部屋の使用許可を取りつけたのだった。
そして仕事の合間を見つけては総務課全員で片付けをし、出雲本社から使用していないロッカーを取り寄せ、やっと昨日晴れて新しい女子更衣室が完成したのである。
「それでも嬉しいです。ありがとうございました!」
「くっ……このキラキラした感じにうちのオヤジ共は騙されるのね。恐ろしい娘……」
若月は少し頬を赤くして今日子から視線を逸らした。どうやら照れているらしい。
「怒らすと怖いから逆らうんじゃねぇぞ~?」
背後からドスの効いた聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「き、教官!」
「し、島崎俊夫!」
ほぼ同時に二人揃って声をあげた。
「いやぁ、すまんすまん。遅くなっちまった」
「おはようございます。今若月課長に新しいロッカーが出来たって連絡をいただいてたんです」
今日子が現在の状況を説明する。若月がわざわざ今日子のとこに来るなんてロッカーの件以外に無いと島崎も察しはついていたが、ここは敢えて知らなかった体で行くことにした。
「これはこれは……若月課長様直々にわざわざこんなむさ苦しいバスにお越し下さらずとも。構内放送でお呼びいただければ、直ちに馳せ参上つかまつりましたものを……」
島崎は仰々しく言っては見たものの、顔は思い切りニヤついていたのでふざけているのは明白だった。
「相変わらずね島崎俊夫! 高梨今日子さん? こんな男の指導は一日でも早くご卒業することをお勧めするわ。質の悪い運転士がまた増えてしまうものね」
若月も負けじとやり返す。いったいこの喧嘩はいつまで続くのだろうと今日子も心配になった矢先、島崎はいきなり姿勢を正し真顔で若月に頭を下げた。
「ま、まぁ冗談はさておいてだな……この度はうちのヒヨっ子のために随分骨を折ってくれたみたいですまなかったな。感謝する」
いきなりの島崎の感謝の言葉になんだか誇らしい気持ちになった今日子だったが、若月の方も今日子以上に心に突き刺さったらしく顔を真っ赤にして慌てふためいていた。
「そ、そんな頭なんて下げられたら嫌味のひとつも言えないじゃない。
い、一年前に松下早苗が入ってきた時は何かとタイミングが悪くて、なかなか上を説得出来なくて……少々生意気で気に入らないとこもある娘だけど、一年間不便な思いをさせたのは総務として責任感じてるんだから」
あらぬ方を向いて身体をくねくねさせながら若月は言った。
松下早苗――おそらくもう一人の女性運転士の先輩だろう。何度かすれ違ったことがあるのだが、まだ面と向かって挨拶は出来ていなかった。
「あぁ、松下か? あいつはそんなタマじゃねぇよ。誰も恨んじゃいねぇし、肝も据わってっからな。ダハハ!」
島崎は腕を組み豪快に笑って見せる。きっと若月に余計な心配はいらないと暗に言っているのだろう。
「な、ならいいんだけど……と、とにかく伝えましたからね?」
そう言うと若月は踵を返して歩いて行ったが、やがてしばらく行くと立ち止まり振り返る――
「あ、そうそう。高梨今日子さん」
「は、はい」
「困ったことがあったら何でも言ってきなさい。男ばかりの職場では何かと肩身の狭い思いもするだろうから。運転士はね、会社の〝顔〟なの。暗く沈んだ顔で接客されたら会社の看板に傷が付くわ。
……じゃあ、頑張りなさい」
先ほどとはうってかわって落ち着いた優しい顔つきで若月は今日子に言った。
「はい! ありがとうございます」
今日子は若月の背中に再度礼を言い見送る。その背後から――
「うちの新人が若いからってあんまし苛めんじゃねぇぞ~?」
「い、言ったわね? 島崎俊夫! あんたなんかセクハラで訴えてやるんだから。覚悟しときなさい!」
島崎の追い討ちに若月は地団駄を踏んで悔しがった。まるで「きぃ~っ」という擬音が聞こえて来そうなほどだった。
「ダハハハハ! からかい甲斐のあるやつ」
「……アハハ……地団駄踏む人初めて見た」
笑うしかない今日子だった。
「良し。じゃあ、悪ふざけはこれくらいにして始めるとするか!」
ふざけてたのは教官だけです。と喉元まで出かかったが今日子は黙っておくことにした。
「じゃあ今日から少しずつ実車を想定した動作を取り入れていくからな?」
「お、お願いします」
やや緊張した面持ちで今日子は気合いを入れ直す。先ほどまでの弛んだ空気がいつの間にか張り詰めたものへと変わっていた。
「ふむ。じゃあとりあえず監督席に座れ。口で説明するより体感した方が早い」
島崎は指示し、運転席に乗り込んだ。予想してなかった出だしだけに少々驚いた今日子だったが、島崎に続いて監督席に着席した。
「この十日間お前がやって来たのは言っては悪いがただの〝運転〟だ。車両感覚に慣れてもらうためにやっていたに過ぎん。
今日からは乗客を乗せていることを想定した運転をやってもらう。一段階難易度が上がるから覚悟するように」
「は、はい」
今日子は固唾を飲んだ。
「今から教えることは今後何をするにしてもバスを運行する限り必ずしなければならない動作だ。時間をかけてでも体に覚えこませろ。
とりあえず構内を周回しながら教える。では行くぞ」
島崎の操る教習車がゆっくりと動き出す。
「先ずは昨日までお前がやっていた運転で一周する」
そう言うと島崎は松江営業所の敷地内を時速三十キロ程度、右回りで走りだした。
「減速」
島崎がブレーキを踏むと二人の体が前のめりになる。
「右折」
続いて右へハンドルを切る。体が遠心力で外側に引っ張られた。
「加速」
島崎がアクセルを踏み込むとガクンという揺れと共に頭が後方へ揺れる。
次の角も次の角も同じような運転でスタート地点へと戻った。
「停車」
勢い良くブレーキがかかる。体は前のめりになり、バスが完全に停車すると慣性が無くなった反動で勢い良く頭が後ろへ揺れた。
「次は今後習得してもらう運転だ」
島崎は再びスタートさせた。
「減速」
ブレーキは踏んでいるのだろうが先ほどより体が前のめりにならない。
「右折」
遠心力はほとんどかからず、まるで氷の上のを滑っているかのように一定速度でバスは曲がって行った。
「加速」
シフトチェンジのショックも全く無く、頭もほとんど動かずスムーズにバスは加速して行く。
残りの角も全て同じように通過し、やがてスタート地点へ……
「停車」
減速する勢いもあまり感じず、停車した瞬間のショックも無く静かにバスは停車した。
「違いがわかるか?」
島崎の問いに今日子はしばらく答えることが出来なかった。この十日間、丁寧を心がけて運転していたというのに、ここまで差があったなんて。
今日子の反応に返事は無くとも違いがハッキリとわかっているようなので、島崎は話を進めた。
「お前なりに十日間頑張って運転したのはわかるが、あくまであれは素人レベルだ。急にアクセルを踏む、急にクラッチを繋ぐ、勢いを残したままハンドルを切る、勢い良くブレーキを踏んでそのまま停車する……これでは乗客は車酔いして車内は汚物のオンパレードだ」
今日子は情けなさと共に頷いた。
「乗客に不快な思いを感じさせず、尚且つ安全な運転方法。それはカーブの手前では十分に減速し、シフトチェンジしてからハンドルを切る。
次にクラッチを繋ぎきる前にワンテンポ置く。
それからこれが一番大事だ。停車する瞬間はブレーキを戻すこと」
クラッチを繋ぐ瞬間にワンテンポ間を置くのはなんとなくわかる。初日に島崎が教えてくれた「アクセルとクラッチを真ん中で出会わせるイメージ」ということだと思う。もっと丁寧にやれということか……
「もう少し掘り下げて説明するぞ?」
今日子は何度も頷いてからメモ帳を取り出す。
「良し。まずカーブの手前での十分な減速。これは主に減速してから交差点で右左折する時のことだと思ってくれ。それなりに緩やかなカーブでこれをやると、スピードが死にすぎて却ってぎこちなくなる恐れがある。
では問題だ。交差点で右左折する時に減速し勢いがついたまま惰性で曲がろうとした時、車体は前から見てどうなってると思う?」
島崎はバインダーの長方形を、バスを前から見た時に見立てて今日子の前に差し出した。
「……えっと」
今日子は恐る恐るバインダーを手に取り、少し傾けて見せた。
「遠心力で車体が傾きます」
島崎はその解答に頷く。
「そうだな。スピードが速ければ速いほど傾く量も多くなるし、それは乗客の体も同じく大きく揺さぶられるってことだよな?」
「そう思います」
島崎はバインダーをもう一度立てて見せる。
「ということはカーブでも出来るだけ車体を傾けないようにするのが理想的ってことだ」
「あ!」
今日子が気づいたようなので島崎は大きく頷いた。
「そうだ。そうするためには残した勢い、惰性で曲がるのではなく、一旦スピードをほぼ殺しきってから軽くアクセルを踏んでゆっくり曲がるようにすること。
あくまで直角の交差点での話だが右折なら三番、左折なら二番或いは三番でシフトチェンジが済んでから、車体が傾かない程度のスピードで徐行して曲がるのが理想だ。
ただ、これも状況に合わせてだぞ? さっきも言ったがスピードを殺しすぎると停車しちまう。そのギリギリ手前程度の惰性は残しておくこと」
今日子は忘れないように必死でメモを取った。
「良し次だ。初日にクラッチを繋ぐ時は、踏み込むアクセルペダルと離すクラッチペダルを真ん中で出会わせるイメージでって教えたな?」
「はい。あれ以降常にそれを心がけでシフトチェンジしてます」
「うむ。イメージとしてはそうだが、厳密に言うと少し違う。もう少し突っ込んで説明するぞ?」
島崎は今日子の目の前に右手は握り拳、左手は開いて。それを肘から横一色線の水平にして見せた。
「いいか? かなりざっくり説明するが右手がエンジン側の歯車、左手がタイヤに駆動力を伝える変速機側の歯車だ。この二つの歯車が繋がることによってタイヤに駆動力が伝わり車は走ることが出来る」
島崎は左手で右手の握り拳を包み込むように繋げて右へ左へぐるぐる回すようにして見せる。今日子はなんとなく理解したようで小さく頷いたが、島崎の手から視線は離さない。
「クラッチを踏むと……この二つが離れる。クラッチを離すと……この二つが繋がる。踏むと、離れる。離すと、繋がる」
右手と左手を繋げたり離したりする。今日子は視線を右へ左へ慌ただしく動かした。
「但し、ここでひとつ問題があるんだ。エンジン側の歯車は物凄い勢いで回転しているのに、変速機側は最初は全く動いていない。これをいきなり繋げたらどうなると思う?」
「え? わ、わかりません」
今日子はばつが悪そうに肩をすくめる。島崎は両手を勢い良く重ねた。乾いた甲高い音が車内に響き渡る。
「無理やり繋ぎ合わせられると、勢い良く回っていたエンジン側の歯車に激しい付加がかかり、軽くてエンスト、最悪強い衝撃と共に破損する」
今日子は最悪の結果を想像して生唾を飲んだ。
「その時出ているスピードにもよるから一概には言えんが、最悪なのは高速走行している時に一気に二段くらいシフトを下げていきなり繋いだりすると大変なことになる。まぁバスでやることはまず無いがな。
だからその変速のショックを軽減するために〝半クラッチ〟というものがある」
「教習所で習いました」
「そうだな。半クラッチというのは歯車と歯車が完全に繋がる直前でクラッチを一定の高さで止め、エンジンの回転に変速機側を少しずつ回して馴染ませる行為のことだ」
「な、なんとなくわかります……」
今日子も理解しようと必死だが、そろそろパンクしそうだった。
「だから発進時はもちろんのこと、同じように二番から三番、三番から四番。もしくは逆に四番から三番、三番から二番の時もいきなり繋げるのではなく、馴染ませる〝間〟を与えなくてはならんのだ。
しかしそのクラッチを一旦止める位置は実は車によって違う。たまたまこの教習車が真ん中で繋がるようになってたから初日はそう指示しただけであって、低い位置で繋がるバスもあれば、高い位置で繋がるバスもある」
「……じゃあ一概に真ん中ではなかったんですね」
「そうだ。じゃあどうするか……初めてのバスに乗る時はクラッチがどこで繋がるのか走る前に高さを調べておくんだ。
シフトを二番へ入れる。アクセルは踏まずにそのままクラッチを徐々に上げて行く。するとどこかのポイントで車体が揺れだしエンストしそうになる。そこがそのギヤの繋がる高さだ。
そのほんの少し下……そこがシフトチェンジ時に一旦止めて〝間〟を与えるポイントだ」
「は、はい。二番に……入れ……て、クラッチを上げ……て調べ……二番?」
今日子はメモを取りながら率直な疑問に思いあたる。
「あ、あの前々から気になっていたんですが……どうしてバスは乗用車で言う一番、ローギアが二番なんですか」
「なんだ教習所で教わらなかったのか? 二番、セカンドがバスやトラックの通常時のローギア扱いになるわけだが、本当のローギアは乗客がぎゅうぎゅう詰めになった状態や最大積載量ギリギリの荷物を積んだ時……もっと発進時に力が欲しい時に使用するもんだ。
バスでは余り無いが、トラックで最大積載量いっぱいの荷物を積んで二番で坂道発進をするとまずエンストする。そんな時に滅多に使わないローギアの出番てわけだ。わかったか?」
「な、なるほど……わかりました」
ついでにそこもちゃんとメモを取るとこが今日子らしいなと島崎は苦笑いした。
「では、最後がブレーキの戻しだ。ある意味これが一番大事で難しいからな?」
島崎は再びバインダーを取り出した。今度は横向きにし、バスを横から見た体で話を進めた。
「ある程度でスピードが出ている状態で強めにブレーキを踏むと車体はどうなる?」
「? ……こ、こうですか?」
今日子はバスの後ろ側に当たる部分を少しだけ上げてみた。
「正解だ。車体は慣性の法則に従って前のめりになるよな。つまりブレーキの戻しとはこの慣性によって前に働く力を軽減させるテクニックってわけだ」
次に島崎は手首を甲側に反らすように曲げて足首に見立てる。
「ブレーキぎゅうっと踏む」
島崎は手首を押し込む。
「停車する直前に少しだけブレーキを弛める」
押し込んだ手首を少しだけ戻して見せた。
「それだけだ」
「……へ?」
また間抜け声選手権が開催されたら入賞しそうな声が今日子から発せられる。
「いや、だからこれだけ。もうそれ以上説明のしようが無い。強いて言うなら働く慣性の力と釣り合う同じ力でブレーキを緩めないと、強く踏めば停車した反動が来るし、弱いとなかなかバスが停まらない。ブレーキを踏んでいる最中に調度良い力加減の見当をつけてから行う。
このテクニックは停留所だろうが信号だろうが停車する時には必ず使う技だ。車内事故防止にも役立つ。雪道でもかなり重宝するから必ず習得するように。以上だ」
最後のひとつは余りに置いてけぼりな感じがして今日子は困惑する。もっと詳しく教えてください! と目で訴える。
「すまんな。俺の身体の感覚をお前に伝えることが出来れば良いんだが、こればっかりは身をもって覚えてもらうしかない。繰り返し繰り返し、とにかく反復練習だ。
だから今日のところはあまり気にするな。気にしすぎると却って運転に集中出来なくなって危ない。これは頭で考えてするようなことじゃない。身体が勝手に動くようになって初めて役立つものだ。とりあえず今は頭の片隅に置いておけ」
必須テクニックについて一通り島崎の説明を受けた今日子だが、正直なところ先が思いやられる気分だった。みんなこんなことを当たり前にやってるのかと思うと、身の程もわきまえず場違いな世界に足を踏み入れてしまったような気がして項垂れるしかなかった。
「あ、それと今日からうちの路線を走りながら練習するからな? 全路線片道およそ二百四十箇所……復路も合わせておよそ四百五十箇所停留所がある。全て場所と名前と形状を覚えるんだ。いいな?」
あまりにも当たり前のようにあっさりと言う島崎……今日子は持っていたメモ帳を落とした。
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