第39話 悪の光

 「ここが…」


 何の防御の施されていない部屋。


 防衛システムで傷つけないために、部屋ごと隔離されたクリスタルが、壁の繊維

を貫通するほどの繊細な魔力の輝きを放つ。


 いつも遠くから眺めていた青い光。


 インターネットという必要以上に恥を見せびらかす概念を作り出した悪の光。


 綺麗だった。


 今まで見てきた属性の魔力よりも、発光する魔物よりも、街のネオンよりも。


 腰に下げた二丁のサブマシンガン。


 火属性の付与されたこの武器は、ロンドからもらった。万が一、自分たちが疑わ

れた時のための逃走用に。


 そして、スイッチ一つで爆発するリモート爆弾。


 これを、直径一メートルの結晶に設置するのが、ホムラの役目。


 足が竦んだ。


 これから自分が行おうとしていることが、この国にどれだけの影響を与えてしまう

のかを、考えてしまった。


 それでも、今さら怯える彼女に勇気を与えるのは、もちろん彼の存在。


 多くの人間に迷惑をかけることよりも、彼一人をがっかりさせる方が嫌だった。


 「こんなもの、壊したくらいで…」


 爆弾を、クリスタルに設置した。


 そして、爆風をまともに浴びないように、爆弾を設置した場所と反対側に回る。


 リモート爆弾のスイッチは、インターネットによる遠隔操作。


 「あんたの発するインターネットのせいで、壊れてしまえ」


 スイッチを押して、クリスタルを爆破した。


 それは、小規模の爆弾ごときであっさりと粉々に砕け散り、消滅した。


 クリスタルの破壊を合図に、機械が停止するような音が、外の部屋から聞こえ

た。


 外の部屋の、魔力の防衛システムと、実弾を放つ自動機銃が完全に停止した。


 こうなってしまえば、あとは脱出するだけだった。


 結局はインターネットで管理していた兵器も、監視カメラも、何もかもがガラク

タの警備だった。


 「ぎゃぁっ!」


 「ぐふぇ…」


 警備の人間に、二人見つかったが、彼らを殺して、証拠を隠滅した。サブマシンガ

ンは、特殊警備隊やタワーの職員に支給されるものだから、ホムラが殺したとは容

易に特定できない。


 防犯カメラも映らないから、証拠にならない。


 証人だけの目を忍び、見つけた人間を確実に殺し、タワーの裏口から逃げ出し、

街の公衆トイレで付着した返り血をできるだけ落とし、人通りの少ない道から家に

たどり着いた。


 街中に響くアラートに怯えながら、罪悪感を刺激されながら、真っすぐ帰った。


 「ロンド…」


 役目を果たし家に帰り付いたホムラは、まだ安心できなかった。


 時魔導士の魔法『短時間戻し』の上限、一年の時を戻した代償は大きい。


 大急ぎで駆けつけた旧タワーのヘリポート。


 意識を失った彼は、担架に乗せられ、そのまま救急車で病院に運ばれた。

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