最終章 お姉さんと再会して真実を知る

第36話 全て

  そのキスは、熱く濃厚だった。


 口内をかき混ぜられるような舌使いに、抵抗する余地なく、ただされるがままに

自分の口を、心を彼女に預けた。


 炎のように熱く、燃え上がるような彼女のキス。


 まるで彼女特有の炎の力で生み出される灼熱で、身体中の水分が蒸発するようだ

った。


 僕は、確かに思った。


 時間が、止まってしまえばいいのに、と。




 「んっ、はぁ…」


 口が離れると、彼女は言った。


 「ねえ、私が本当に炎属性の魔導士だと思った?」


 「はぁ…はぁ…」


 返事が出来ないくらいに、息が苦しかった。興奮じゃない。何か毒を盛られたよ

うに苦しかった。


 「身体中に、口に、あと性器と肛門に毒魔法の粘液を塗ってもらったの。発熱作

用のある毒と、麻痺作用のある毒、どうかしら?」


 次は、僕の胴体に、下から上に舌を滑らせる。


 「うっ…」


 「へえ…。十四歳ってこんなに敏感なんだ。まあ、二人目だから毒の効き目も薄

くなるか」


 彼女は、ベッドの下、床に伸された兄さんの死体を一瞥する。


 「あなたのお兄さんも、あなたも、頑固で、物事を決めつけるところがあって、

女に弱かった。特殊警備隊隊長も、その弟も、ちょっと胸元開いて誘惑してあげた

ら、あとはチョロいわね。簡単に騙されてくれた」


 「っ…!」


 兄さんを馬鹿にするな、と言いたかったのに、声が出てくれなかった。


 「あなたたち時魔導士も、無属性の私からしたら敵じゃなかった。時魔導士は他

の術者が使った時魔法を感じ取ることはできても、それを無効にはできない」


 「はっ…!」


 次は、僕の下半身を指でなぞる。


 「無を操る私は、身に降りかかる魔法を無効化する。だから、毒魔導士の液体を

全身に塗りたくられても平気だった」


 彼女はニコリと笑う。


 「その毒魔導士は、あなたのお兄さんに、かつて蹴落とされた元特殊警備隊隊員。自分にとっての弱者には全く興味がなくて、覚えてなくて、無警戒で、その結果、そんな人間の力によって、彼はあっさり死んじゃった」


 僕の首を舐める。胸に薄桃色の毛先、下腹にふっくらとした乳房の感触が伝わる。


 「あなたもここで死ぬし、私はこのまま街の外へ逃げようかな。クリスタルのな

い、インターネットのない社会なら、どこへだって逃げられる。せっかくだから、全

部教えといてあげる」


 そして、断片的に事実を話した彼女は、ついに全てを明らかにした。

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