第33話 光

 「あいつ、使ったみたいだな」


 違和感があった。


 弟は、あの魔法を使った。


 自分が数日前に発動された魔法を。


 北条ミカドから、何度も銃弾を浴びせられながらも、意識を失う直前に『あの魔

法』で何度も『蘇生』する。これで十回目だろうか。


 俺は、思った。


 弟も大概、異常だと。


 障害物を完全に破壊されて、平地と化した廃墟フィールド。逃げも隠れもできな

い場所で、北条ミカドを欺くには無理がある。諦めて正面戦闘をするしかない。


 あの少年は、才能がある上に、俺が育てた。射撃だけでなく、魔法、剣術、武

術、機動力、すべてが完成された学生だ。普通に闘っては、まず弟に勝ち目はない。多少のセンスがあっても、初見では捉えられない。



 そう、『初見』では。


だからあいつは、奇策に出た。正面戦闘で、銃弾のスピード、威力、軌道、そして

近接戦闘においても北条の細やかな癖を読み取るために、『何度も同じ時間軸に戻

る』。


そして。


 「あいつ…やべえ」


 「全部よけてやがる!」


 「リンっ…!」


 会場が、どよめいた。


 時間が何度も戻されていると知らずに、大歓声を上げた。




 『短期時間戻し』。


 指定した時間に戻す。戻せる範囲は一瞬から丸一年。代償として、指定した時間が

長いほど魔力、体力ともに負担がかかる。一分でも息が少し乱れるほどの負担を、

弟は十連続で味わう。興奮状態の今でも、充分に苦しんでいるだろう。


 この力は途中で解除可能だ。例えば、九時から七時に戻った場合、そこから二時

間が経過しなくとも自分の意志で、一瞬で九時に戻れる。


 一年前、俺は、あいつのために丸一年戻し、クリスタルを破壊した。




 「お前…!」


 再び、剣のリーチまで到達した僕は、次は短時間微加速で剣を振るう、ふりをす

る。


 九回目に戻った時に、彼は頭を防いだ。だから、一度フェイントを入れて、


 「せやぁぁぁぁ!!」


 腹を、切りつけた。


 「ぐあっ!」


 剣が浅く切り込んだ。


深いところに入る直前に、避けられた。これが、最強と謳われる男の実力。


「てめえ、ふざけんな!」


凄まじいスピードで僕に剣を振るう。


 しかし。


 「なにっ!」


 北条の手首を、純度の高い雷の魔力が締め付けた。


 「こんな時に、わたくしが何もできないと思いましたか! お兄様!」


 「ヒカリさんっ!」


 「今です!」


 彼女は、自分の命を懸けるほどの魔力を、自分の兄の一点に集中させて消滅し

た。


何度も撃たれて、切られた未来を変えることに成功した。


僕の魔力は、もう限界だ。『短期時間戻し』は、もう使えない。


だから、この一撃に全ての魔力をかける。


強敵に、とどめを刺す時に、頭の中をよぎる兄の言葉。




時魔導士は、時を支配する魔導士。


 ゆえに術者は、目の前の去り行かんとする刹那を見逃すな。




 「僕は、あんたを超える!!!」


 剣先だけに集中させた魔力。


 光のような速さで北条ミカドの首を捉えた。


 反応できなかった彼は、死亡したとみなされ、消滅した。

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