第32話 弟

 そして、今回の闘いで現れた、古針ロンドの弟。


 時魔法を駆使して、大会初出場にして士官学校にも在籍しない一般人枠にも関わら

ず、数校から集まった成績優秀者たちを何人も倒し、どういう手段であれ、あの臥竜

フウカを倒した。



 「ムカつく…!」


 「ぜやぁぁぁぁぁ!」


 俺に向かってくる雷の剣士と炎の格闘家。


 距離を詰めれば勝てるとでも思ったか。


 俺は、銃を一旦腰にしまい、背中の剣を抜いた。


 そして、先に来た雷の剣士の剣に、俺の剣を振るう。


 「はっ!!」


 二つの雷の魔力が衝突し巻き上がる土煙。


 「カズキくん!」


 「クソ…」


 煙が晴れると、剣を砕かれた剣士の男は胸を切り裂かれ消滅した。


 「俺の方がいいスイングだったみたいだな」


 「やぁぁぁぁぁ!」


 炎の拳を纏った女が何度も俺に拳を突き出す。俺はかわしながら剣を鞘に納め、臨

戦態勢を取る。


 「妹が世話になってるな」


 「そりゃどーも! やあぁ!」


 彼女の回し蹴りをしゃがんで避ける。


 そしてすかさず、自分の足を上げて、雷を付与し、一気に振り下ろす。


 「ぐっ…!」


 頭に命中した女は致命傷とみなされ、パルスの外へ脱落した。


 「攻撃はまあまあ、防御は甘いな」


 「アカネさん! 次は僕が…!」


 「任せろ!」


 水魔導士が、バリアを解除して、こちらへ走り出す。


 「『召喚武装・水龍』!」


 魔力を消費して、右腕にダンジョンに出てくるようなボスの頭をした生き物を装着

する。


 「いっけえええ!!!」


 彼は、右腕を突き出すと、光線のような軌道の水を射出した。


 「…ふん」


 俺は、鼻で笑いながら雷の銃を手に持ち、弾丸を放った。


 少しだけ魔力をためたものを、一発。


 「ぐはぁ!!」


 一筋の雷は、水を突き抜けて男を貫き、消滅した。


 「力任せでその程度か。センスは悪くない、単純に努力不足だな」


 「あっ…」


 「くっ…」


 その場に立ち尽くす時魔導士と俺の妹。


 「次は誰だ?」


 大会で残っているのは、ここにいる三人。


 あと二人で、優勝。


 あの臥竜フウカがいなくなった今、優勝する確率は格段に上がった。


 年上たちの強力な魔力や、大量の人間を採用するチームを凌ぎ、一人で実力を

磨き、ほとんど一人で闘い抜いた俺の力が、俺を勝利へと導く。


 「わ、私が…」


 「おめーに何が出来んだよ! 魔法だけ達者の雑魚が!」


 「ヒカリさん!」


 妹はその場にへたり込んだ。


 こいつは小さいころから力で抑えつけ、実力差を分からせてやったから、俺と闘

うことすらできない。


 「お前…!」

 剣を構える時魔導士は、古針ロンドの存在も大きいせいか、正直がっかりだっ

た。


 回避や魔力のセンスはあるものの、お世辞にも巧みだとは言えない剣術に、貧弱

な筋力。正直、刹那セカイを含む仲間六人の中で最弱だ。


 そうだ、刹那セカイと言えば。


 「あっ、そうだ。知ってるか? 刹那セカイと言えば、虐待されてたんだよ

な?」


 「それがどうした…!?」


 少年は戸惑いながら、少しムッとする。


 「レベル30になるまで、叔父に監禁されて魔物を無理やり殺させられて、まる

で商品のように扱われて。覚えたての空間魔法で、何とか逃げ切ったんだろ? 毛

布だけ被ったままほとんど全裸で! 可哀そうだよなあ~、レアな魔法ってやつ

は」


 「…っ!」


 「お兄様…?」


 「っはははははは! だから魔物が怖かったんだろ!? 笑えるぜっ! ヒカ

リ、お前に泣きついて虐待の事情を話してた時、実はドアの前で聞いてたんだよな

ぁ~」


 「えっ…」



 そして俺は、刹那セカイが言った台詞を、ふざけた口調で言った。


 「わたしぃ、もう外に出られなーい! どうやって生きていったらいいのぉぉぉ

ん! ってなぁ」


 「お兄様…もうやめて…」


 「全裸で外に飛び出したらそんなに恥ずかしいか~。そういえば、監禁されてた

時は、尿も糞もたらしっぱなしだったんだよな。っはははははは!!! …なっ!?」


 小さく見える距離にいた古針リンは、いつの間にか俺の近くにいた。剣を当てら

れる間合いに、一瞬にして詰めていた。


 俺は、何とか剣を抜き、防ぐ。


 「セカイを、侮辱するな」


 古針リンは、怒りに震えていた。


 俺に向けられた怒りの眼差しは、古針ロンドの眼そのものだった。


 「お前…」


 俺は、ぶつかり合う剣を振り払い、再び距離をとる。


 「おもしれえ…。いいぜ、俺も全力で闘ってやるから、掛かって来い!!」


 俺は剣を地面に突き刺し、再び二丁の銃を取り出した。

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